【2024最新版】最高に面白い文庫本小説おすすめ100選【読みやすい】

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さて、今回ご紹介させていただくのは、読み始めたら止まらない、最高に面白い超オススメの文庫本(小説)です。

ミステリー、ホラー、SF、ファンタジー、青春モノなど、ジャンルは問わず、とにかく「これは面白い!」「読んで良かった!」と思ったベストセラー名作小説をどどーんとご紹介していきます。

基本的にかなり読みやすい作品が多めなので、読書慣れしていない方でも存分に楽しんでいただけるでしょう。

ぜひ参考にしていただければ嬉しいです。

それでは行ってみましょー!(*゚▽゚)ノ

目次

1.辻村 深月『かがみの孤城』

いじめで不登校になってしまった主人公は、突然光りだした部屋の鏡をくぐり抜け、城のような不思議な建物にたどり着く。

そこには、同じような境遇の子供たちが7人、集められていた。

子供たちはどのように選ばれたのか、そしてこの場所はどこなのか。

今苦しんでいる子供たちに届けたい、優しいファンタジー

学校で居場所をなくし「かがみの孤城」に集められた不登校の中学生7人が、それぞれの秘めた願いを叶えるため、城に隠された伴を探していきます。

中学生の心の描写が繊細で、大人である作者が、なぜここまで書けるのかと思えるほどの表現。

特に、傷つき方、周りの無神経さ、子供にありがちな視野狭窄などがリアルに描かれています。

キャラクターの一人ひとりに心があるように感じ、余計に心が痛くなることでしょう。

序盤は子どもたちの「痛み」が心に迫ってくるため、読みすすめるのがキツいかも知れません。

しかし、読み進めていくと、それぞれのキャラクターの背景や巧みな心理描写、孤城の謎など、どんどん物語に引き込まれていきます。

そして話の終盤に差し掛かってくると、さまざまな謎が解けていき、あなたは心地よい感動に包まれながら、本を閉じることができるでしょう。

生きづらい世の中ですが「あなたを必要としてくれる人間は必ずいる」と、いま悩み苦しんでいる子供たちに伝えたい一冊。

読み終わった時、あなたは心が強くなった気がするはずです。

2018年の本屋大賞を受賞。

コミカライズもされており、その他にも数々の賞を受賞した、ベストセラー小説です。

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2.辻村 深月『スロウハイツの神様』

ファンによる小説を模倣した殺人事件を境に、筆を折った人気作家チヨダ・コーキ。

とある少女からの手紙によって復活を果たし10年後、男女7人のクリエイターと「スロウハイツ」で平和な日々を送っていた。

そこに一人の少女が現れたことで、共同生活は変化していく。

優しさと愛で溢れた壮大な物語

作品を集団自殺に模倣されてしまい、人殺しとまで言われた人気作家チヨダ・コーキ。

夢を追うクリエイターが共同生活を営むアパートを舞台に、さまざまな人間模様が展開されます。

辻村版「トキワ荘」とでもいうべき、青春ミステリー。優しさと愛で溢れた物語です。

前半は群像劇として、7人の登場人物が紹介されます。ところどころで今後の展開につながる伏線が張られているのがポイント。

後半は一転してさまざまな出来事が起きますが、どんな場面も、優しさやあたたかさを感じるストーリーです。

細かな伏線が回収され、一つに集約されていき、ラストで全てを持っていかれます。

全く予想できない展開に、あなたはしばらく放心状態となるでしょう。

物語は、決してお涙頂戴という展開ではなく、何気ないシーンでも愛おしくなり涙が出てきてしまうような、心温まるお話です。

辻村深月氏の2作目という初期の作品ですが、後の作品群につながるエッセンスが散りばめられた一冊。

ぜひ「かがみの孤城」の次に読んでみることをおすすめします。

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3.伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

衆人環視の中で首相が爆殺された。

過去にアイドルを助けたことで地元では有名な主人公が、首相殺しの犯人として全国に指名手配されてしまう。

巨大な陰謀に巻き込まれた主人公は、周りの人々の援助を受けながら、暴力もいとわない組織から必死に逃走する。

スピーディに展開する物語。人との信頼と絆を感じる一作

首相暗殺の濡れ衣をきせられてしまった男の、2日間に渡る逃走劇が描かれます。

首相公選制があると設定された、架空の日本が舞台です。

理不尽な設定で始まる物語は、スピーディに展開していきます。

読んでいるうちに、主人公と一緒に逃亡をしているような錯覚に陥るでしょう。

訳も分からぬまま犯人として追われる身になってしまう主人公ですが、両親をはじめ元同僚、学生時代の友人など、過去にお世話になった人々から、身の危険を顧みない手助けを受けます。

それぞれ営む生活があり、今はもう接点がなかったかつての仲間たちが、事件を期に絆をつなげていく。

これは「人とのつながりと信頼が、人間的生活にいちばん大事な要素」という、作者の考えの現れです。

また、この作品での警察は冷徹に徹しており、拳銃を発砲したり監視カメラを駆使したりと執拗に主人公を追い詰めるため、組織の怖さを感じます。

果たして主人公は、無事に逃げ切ることが出来るのでしょうか……。

作品は、2008年の本屋大賞、2009年版「このミステリーがすごい!」1位に輝き、2010年には堺雅人主演で実写映画化、2018年には韓国でも映画になった大人気作です。

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4.伊坂幸太郎『砂漠』

大学で出会った5人の男女が、未熟さに悩みながら手探りに前を進んでいこうとする青春小説。

大学生活を送る中、現実的・非現実的な出来事を通じて互いの絆を深め、それぞれ成長していく。

男女5人の豊かな個性。大学生活に戻りたくなってしまう青春小説

男女5人の大学生が主人公となる青春小説。

500ページの作品は、春夏秋冬+春という5章で構成されており、大学4年間の日常が描かれます。

ボウリングや合コン、麻雀などの大学生らしい日常をはじめ、通り魔犯との遭遇や超能力対決、空き巣など、少し非現実的な事件まで、さまざまな出来事を通じて成長していく物語です。

5人の大学生も、1人が超能力があることを除けば、どこにでもいそうな人物設定。

しかし、読み進めていくと、伊坂幸太郎氏の小説の特徴でもありますが、それぞれのキャラクターが立った、豊かな個性に魅力を感じていくことでしょう。

5人とも友達思いであり、読んでいて気持ちがよく、時に感動も覚えます。

特に、西嶋というキャラクターの個性が強烈で、圧倒的なアツさとカッコよさは見どころの一つです。

タイトルの「砂漠」とは、不条理な社会や諦めた未来などを表しています。

その前段階である大学というオアシスで、砂漠に雪を降らせるにはどうしたらいいのか、ぼんやりと考える5人。

これから社会に出ていく若い人たちの考え方やチャレンジ精神に、あなたは大きなパワーを貰うことでしょう。

学生時代のあの日々と同じように、いつまでも読んでいたい……、いま大学生の方、または社会人で大学生活を振り返りたい方におすすめする一冊です。

5.綾辻行人『十角館の殺人』

孤島の古びた洋館に集まった、ミステリーサークルの学生7人。

海外のミステリー作家の名前をあだ名で呼ぶ彼らは、犯人の罠にはまり、一人、また一人と殺されていく。

館シリーズ第一作。驚愕のトリックと独特の世界観

綾辻行人氏の通称「館シリーズ」第一作目にして、デビュー作。

クリスティの「そして誰もいなくなった」をモチーフにしており、おすすめの本格ミステリーものとして必ず名が挙がる名作です。

ミステリー史上としても、後に「綾辻以前」「綾辻以降」と呼ばれる様になるほど、新本格ミステリーのムーブメントを巻き起こしました。

作中では、登場人物が全員怪しく、どんなに注意深く読み進めても、最後まで真犯人を見破ることができないという見事な構成で、読み始めたら止まらなくなってしまいます。

「どんでん返しがすごい」「たった一行で全てがひっくり返る」と聞くと、嫌でもハードルが上がりますが、それを軽々と超えてくる衝撃のラスト。

あなたも思わず、文字通り声が出るほど驚愕してしまうことでしょう。

実写化は不可能とも言われる、小説ならではのトリックです。

30年以上前の作品ですが、古びることなく現代でも楽しめます。

何度も読んでも色あせない、とてもインパクトがある作品です。

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6.島田荘司『占星術殺人事件』

43年前に起きた事件の調査を依頼された、占星術師・御手洗潔。

奇しくも2.26事件と同日、画家が密室状態のアトリエで殺され、その後、6人の姉妹も体の一部を切り取られ惨殺される、という難事件。

御手洗は関係者が残した手記を頼りに、事件の真相に迫る。

御手洗潔シリーズ第一作。40年前の迷宮入り事件を紐解く

1981年に発表された、島田荘司氏のデビュー作。御手洗潔シリーズの第一作。

動乱の時代である昭和11年に起き迷宮入りした事件の真相を、43年後となる昭和54年、占星術師である御手洗が、助手役の石岡とともに探っていきます。

過去に起きた事件を、手記や記録をたどって推理していきますので、読者もほぼ同じ条件となり、御手洗と一緒になってトリックを暴いていくという感覚で読める作品です。

章の間には「読者への挑戦状」が挟まれますので、解答編に移る前にぜひ一考してみましょう。

ちなみに、最初の数ページは古い文体の手記になっており、非常に読みにくいので、そこで挫折しないようご注意ください。文章はすぐミステリー調に変わります。

2012年の週間文春「東西ミステリーベスト100」において、横溝正史の「獄門島」中井英夫の「虚無への供物」に次いで第3位を獲得。古典として名作入りを果たしています。

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7.市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』

試験飛行中の小型飛行船「ジェリーフィッシュ」において、開発メンバーの1人が変死体で発見された。

雪山に不時着した船内で、残りのメンバーも次々に殺されていく。刑事であるマリアと漣は、この墜落事件について捜査を開始する。

架空の科学設定を活かした、クローズドサークルもの

ミステリーとSFを融合させた、市川憂人氏のデビュー作。

パラレルワールドとなる、1980年の”U国”で、航空機の歴史を変えたクラゲ型の小型飛行船「ジェリーフィッシュ」が墜落、炎上し、全員死亡という事件に2人の刑事が捜査に乗り出します。

完全な閉鎖空間で起きた殺人事件。

登場人物も6人で、まさに「そして誰もいなくなった」という状態に。

架空となる飛行船の技術には詳細な科学設定があり、その世界観を活かしたトリックも見られます。

ジェリーフィッシュ船内の過去パートと、刑事が操作する地上パートが交互で展開され、間には犯人の独白も挿入され、次第に真実が明らかになっていきます。

トリックの鮮やかさと最後まで暴かれない犯人、そして鮮やかなラストシーンなど、最後まで楽しめる高品質なミステリーです。

登場人物の名前は全て横文字で、少し読みにくいかも知れませんが、先に進めていくとその違和感を忘れてしまうほどの面白さ。

刑事のコンビが交わす軽快な会話も、見どころです。

21世紀の「そして誰もいなくなった」とも評される当作品は、第26回鮎川哲也賞を受賞しています。

8.森博嗣『すべてがFになる』

那古野大学准教授の犀川創平と大学生の西之園萌絵は、少女時代から隔離されて生活を送る天才

博士「真賀田四季」にひと目会うために、孤島の研究所を訪れる。彼女の部屋で見たものは、ウェディングドレスに身を包んだ、手足のない死体だった。

この不可思議な密室殺人に、2人が挑む。

真賀田四季の圧倒的な存在感と、戦慄のラスト

森博嗣氏のデビュー作にして代表作。

理系ミステリーの金字塔と言われており、コンピューターの専門用語が飛び交うのが特徴です。

しかし、それを気にさせることなく、没頭して一気に読んでしまうストーリー。

特に、後半にかけての展開の速さには圧倒されます。

そして全てのトリックが明らかになり、タイトルの意味を知ったあなたは、きっと戦慄するでしょう。

また、主人公である2人の会話も楽しめる要素なのですが、やはり真賀田四季の強烈なキャラクターがこの作品の一番の見どころ。

彼女が口を開くときの独特の緊張感と、狂気のような天才ぶりを随所で発揮しており、作品中、圧倒的な存在です。

なお、1996年に発表された作品で、世の中はWindows95が発売されたばかり。

ようやく一般的にパソコンの普及が始まるという時代ですが、なんと文中に仮想現実(VR)に言及しているという、先進的な作品です。

今でこそ、現実的に捉えられるVRですが、当時はまさにSFの世界。

現在のVR事情を、不気味なほど正確に描写しているのは驚愕の一言です。

複数のドラマ化、アニメ化と、長く愛される作品にもなりました。

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9.有栖川有栖『スイス時計の謎』収録「スイス時計の謎」

犯罪学者・火村英生に呼び出され、殺人現場に赴いたアリスが見たものは、後頭部を殴られて殺害された高校時代の同級生だった。

遺体からは、高校時代の同窓会メンバーがお揃いで身に着けている、スイス製の腕時計が無くなっていた。

火村は、理論的な推理で犯人を追っていく。

同名短編集の表題作。華麗でロジカルな推理が見どころ

短編集「スイス時計の謎」に収録された、有栖川有栖氏の中編です。

同作者による「作家アリスシリーズ」の一つ。さらに、タイトルに国名を冠された作品は「国名シリーズ」と呼ばれており、こちらは7作目となります。

犯罪学者・火村英生が探偵役、推理作家・有栖川有栖(アリス)がワトソン役となり、難事件の解決に挑みます。

無くなった被害者の腕時計、割れたガラス片という事実から、火村がロジカルに事件の真相を明らかにしていく一連の流れが、とても華麗。いや華麗なんてものじゃない、神、です。

また、当作品はアリスの過去にも触れられており、過去の同シリーズ作品とは少し違った雰囲気を楽しめます。

有栖川有栖さんの国名シリーズは短編・長編を含めたくさんありますが、私はこの『スイス時計の謎』が最高傑作だと思っております。

2004年の第4回本格ミステリ大賞(小説部門)候補作品で、2012年に発表された「2001-2010新世紀本格短編オールベスト・ランキング」で2位に選出されるなど、ミステリーもので必ず名が挙がる一作。

ミステリ好きならば、ぜひお手にとってみてください。

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10.東野圭吾『白夜行』

大阪で1人の質屋が殺害された迷宮入りの事件。

被害者の息子・桐原亮司と、”容疑者”の娘・西本雪穂は、その後、それぞれ全く別々の道を歩んでいた。

しかし、その2人の周囲で数々の犯罪が発生。次々と犠牲者が発生していく。

間接的な表現で描かれる、太陽の下で生きることができない2人の物語

1999年に刊行されたミステリー小説で、東野圭吾氏の代表作。

太陽の下を生きることができず、白夜のような昼とも夜ともつかない日々を漂う、2人の主人公、雪穂と亮司の壮大な物語です。

1973年に起こった事件から1992年まで、19年に渡るストーリーですが、2人の視点では描かれておらず、伏線回収もありません。

心理描写はあえて排除されており、取り巻く周囲の人間の視点を通してその言動が表現されています。

しかし、それが2人の絆の深さをかえって感じさせるように、全てを語らないことで、読み手が色々と想像できる作品になっています。

文庫版では800ページを超える長い長い作品で、終始どろどろとした、人の心の闇が感じられる悲しい話が展開されますが、物語の緻密な構成さに、飽きるどころかどんどん作品世界にのめり込んでいくことでしょう。

2006年には山田孝之さん・綾瀬はるかさん主演でドラマ化され、2011年には堀北真希さん・高良健吾さんの主演で映画化。

作品自体も、2010年までに200万部を超える発行部数を誇っている大人気作品となっています。

11.東野圭吾『容疑者xの献身』

天才でありながら、不遇の日々を過ごす数学者の石神。

密かに想いを寄せている隣人の靖子とそのひとり娘が、前夫を殺害していたことを知ってしまい、完全犯罪を目指し隠蔽工作を買って出る。

石神の親友で理解者でもある、天才物理学者・湯川がこの謎に挑む。

究極の愛と、完成度の高いミステリー

東野圭吾氏による、ガリレオシリーズ初の長編。

天才数学者と物理学者による、熱い駆け引きが描かれています。

想いを寄せる女性が、犯罪を犯してしまったことを知ってしまった石神は、捜査の目が母娘に向かないよう、何重も計算された隠蔽工作を施していきます。

捜査員たちは何度も真相に迫った感になりますが、天才である石神のトリックにミスリードさせられているに過ぎません。

そこに、親友の「ガリレオ先生」湯川が立ちはだかります。

想いを寄せているとはいえ、挨拶を交わす程度の関係である母娘を、自分の知能をフルに利用して守っていく石神。

不器用だが美しい愛、そして美しいトリックに、感銘を覚えます。

トリックだけではなく、人間ドラマも見どころで、驚きの結末となるラストの数ページは、心臓をグッと掴まれるような感覚に陥るでしょう。

果たして、石神による捨て身の「献身」は、実を結ぶのでしょうか。

2008年には、福山雅治さん主演のテレビドラマ「ガリレオ」の劇場版として、同ドラマのキャストとスタッフにより映画化されました。

12.三津田信三『首無の如き祟るもの』

奥多摩にある、姫首村の旧家・秘守家に伝わる儀式で、長女の首なし死体が発見されるが、うやむやに処理されてしまう。

しかし10年後、儀式中にふたたび首なし死体が……。

閉鎖的で権力争いも見え隠れする村社会を舞台に、来訪した推理作家が謎に挑む。

旧習が残る田舎で起こる首なし死体事件。怒涛の展開とどんでん返し

三津田信三氏による、推理小説とホラー小説をあわせ持つ「刀城言耶シリーズ」の三作目にして、最高傑作とも言われる一冊です。

シリーズ物ですが、前作を読まれていなくても楽しむことができます。

終戦の前後、古い風習が残る田舎の旧家で、首なし死体事件が起こります。

呪われた一族と、呪いを回避するための儀式、そして跡継ぎの嫁選び。

推理小説にとって絶好の舞台で、物語は進行します。

最後の1ページまで頭をフル回転させないといけないほどの、作り込みと展開。

しかし一方で、すっきりとした情景が浮かぶような描写もされており、最後までスッと読めてしまうでしょう。

後半は、怒涛の展開とどんでん返しが用意されています。

「どんでん返しがある」と分かっていてもなお、ひっくり返りますので、目が離せません。

ミステリー好きの方は、出し尽くされたかと思われた「首切断トリック」に、新たな可能性を感じることでしょう。

物語の時代設定が昭和初期と、古い印象の作品ですが、発表は2007年。

横溝正史の小説のような雰囲気を感じる、600ページ超の長編です。

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13.郷内心瞳『拝み屋郷内 花嫁の家』

拝み屋を生業とする著者本人が語る、忌まわしき怪異譚。

花嫁が数年で亡くなってしまう旧家。

その数年で子どもを残し、何とか代々、血を繋げていた。

この家の花嫁から相談を受けた著者は、不可解な現象に悩まされていく。

最恐のホラー小説。深すぎる因縁と、おぞましい出来事

郷内心瞳氏による、拝み屋シリーズの第2作。

中編「花嫁の家」と「母様の家」の2篇が収録されています。

他のホラーとは一線を画すという、ホラー小説好きの間では「最恐」とも呼ばれる一冊。

前半は、拝み屋である著者に、次々と怪奇現象の相談が寄せられます。

この相談は、昭和になったり平成になったりと時間軸もバラバラで、一見、関係のない事象が連続して語られていくだけ、と思いきや……点と点がつながった時の衝撃は鳥肌モノです。

伏線もところどころに張られており、何度も読み返してみると、より関係性が浮かび上がり恐怖が増すことでしょう。決して1人、自宅で読んではいけません。

地味な仕事が多い拝み屋で、万に一つの「例外」。

著者がこの話を世に出そうとすると、なぜか不可解な妨害が入るという、いわくつきの「実話怪談」です。

はたしてフィクションなのか、ノンフィクションなのか……、いや、フィクションであることを、祈るのみです。

14.森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

京都の大学生である「先輩」と、同じクラブに所属する後輩の「黒髪の乙女」。

想いを寄せる先輩は、京都のいたるところで彼女の姿を追い求める。

奮闘する日々と、巻き込まれてしまう数々の騒動、そして摩訶不思議なラブストーリー。

先輩と黒髪の乙女が織りなす、摩訶不思議なラブストーリー

森見登美彦氏による、恋愛ファンタジー小説。

京都を舞台に、妖怪や神様が登場する不思議な世界観と、2人の大学生による恋物語です。

ファンタジー要素と現実との境が絶妙で、物語の世界に引き込まれる森見ワールドが特徴。

不可思議なエピソードが突拍子もなく起こっていきますが、光景が頭の中で浮かんでくる没入感が魅力です。

読んだあとは、きっと京都を旅したくなることでしょう。

「先輩」と、後輩である「黒髪の乙女」の視点が交互に入れ替わって進行する、春夏秋冬の4章から成るストーリー。

ある意味、理想のキャンパスライフとも言え、あなたも「こんな青春を送りたかった」と思ってしまうかも知れません。

また、物語の中心人物でヒロインでもある「黒髪の乙女」は、天真爛漫でたいへん魅力的なキャラクター。

彼女を追いかける「先輩」はもちろん、読んでいるあなたもきっと好きになってしまうことでしょう。

その先輩も、冴えない上に運も悪いため、つい応援したくなってしまいます。

その他の登場人物も個性的で癖があり、より一層、物語を引き立ててくれますよ。

第20回山本周五郎賞受賞作。2017にはアニメ映画化され、オタワ国際アニメーション映画祭長編部門グランプリを受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。

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15.森見 登美彦『四畳半神話大系』

理想とは程遠いキャンパスライフを送っている、さえない大学3回生の「私」。

できれば1回生に戻って、バラ色の大学生活をやり直したい……4つのパラレルワールドで繰り広げられる、面白おかしい青春ストーリー。

あの時あの選択をしていたら?4つの平行世界で展開される大学生活

京都が舞台となる、森見登美彦氏の青春小説。

主人公の「私」は、新入生の時に4つの中からサークル活動を選択しており、今のさえない大学生活は、その選択が間違っていたからなのだと思い込みます。

物語は、それぞれの選択に沿った4章立てで、平行世界が展開されていきます。

あなたも一度は「あの時、違う選択をしていれば」と後悔することがあるでしょう。

しかし、作中で進行する平行世界を通して、自分がどんな選択をしても出会えるべき人には会えている、無意味だと思っていたあの日々も実は有意義だったのだ……そう思い直すことができる一冊です。

何でもないような日常の出来事を、あえて堅苦しく表現する森見氏の文体は、クセになるでしょう。

猥談ですら、高尚に見えてきます。また、同氏の「夜は短し恋せよ乙女」と同様、自分も京都の四畳半に迷い込んだような、不思議な感覚に陥って、訪れてみたくなりますよ。

なお、こちらの作品も2010年、フジテレビの深夜枠「ノイタミナ」でアニメ化されています。

16.万城目 学『鴨川ホルモー』

2浪の末、京都大学に入学した安倍。

一人の女性に一目惚れしたことがきっかけで、謎の競技「ホルモー」に取り組むサークルに加入する。

京都の4大学間で1,000年の歴史を持つホルモーを通じて繰り広げられる、若き学生たちの青春物語。

謎の伝統競技「ホルモー」と、大学生たちによる青春ストーリー

万城目学氏のデビュー作。

京都の大学生が「ホルモー」と呼ばれる競技に取り組む、青春小説です。

ホルモーとは、オニを操ってチームで競う謎の競技。

自分のオニが全滅してしまった場合、大きな声で「ホルモー」と叫び辱めを受けなければなりません。

この訳の分からなさが、逆に新鮮と感じるでしょう。

まるでポケモンのような京都伝統の競技を通じて、笑いや涙、恋に友情など、学生らしい爽やかな青春が見られます。

ぶっ飛んだ設定が魅力の作品ですが、一方で主人公やチームメイトのキャラクターや関係性、そして甘酸っぱくほろ苦い青春感がしっかりと描かれており、この世界へ惹き込まれていきます。

読了後、あなたは「ホルモオオオォォォーッッ」と絶叫したくなるでしょう。

この独特の世界観は、同氏の後の作品からもその方向性が見て取れます。

2006年に発表されたこの作品は、2009年には実写映画化され、スピンオフ小説「ホルモー六景」も2012年に刊行されました。

17.澤村伊智『ぼぎわんが、来る』

幼い頃、謎の怪物「ぼぎわん」に遭遇した田原。

やがて結婚して一人娘を持った彼に、謎の訪問者が現れる。

それ以来、周囲で起こる不可思議な怪奇現象。ぼぎわんの再訪を察知した田原は、

家族を守るため、オカルトライターと女性霊媒師を頼る。

名前を呼ばれても決して答えてはいけない。巧みな構成が光る上質のホラー

澤村伊智氏によるデビュー作で、比嘉姉妹シリーズの一作目。現在5巻まで刊行されています。

作品は、3つのパートから成り、田原、その妻の香奈、そしてオカルトライター野崎の視点で進行していきます。

1章と2章は、妙にリアリティのある描写で、次に何が起こるのか分からず、恐怖と不安におののきながら読み進めることになるでしょう。

そして「ぼぎわん」と対峙する3章では、怒涛の展開を見せます。

理不尽に迫ってくる、正体不明の怪物がこの上なく恐ろしいですが、並行して何か違和感も覚えるはず。

その正体は、章ごとに変わる主人公の視点を通じて、明らかになっていきます。ホラーだけではなくミステリー要素もあり、家族をテーマとした人間ドラマも見られますよ。

また「ブログ」「イクメン」「SNS」など、現代の要素も上手く取り込んでおり、物語の世界を巧みに描いています。

第22回ホラー小説大賞を受賞した当作品を原作として、2018年には岡田准一さん主演で、映画「来る」が公開されています。

少し展開が異なるこちらも、ぜひご覧ください。

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18.澤村伊智『ずうのめ人形』

オカルト雑誌の編集者として働く藤間は、同僚から、不審な死を遂げたライターが遺した原稿を託される。

そこには、死をもたらす「ずうのめ人形」の都市伝説が記されていた。

そして、周囲では犠牲者が発生し、彼にも不気味な人形が現れるように……。

「リング」を彷彿とさせる、伝染していく呪い。前作を超える恐怖

澤村伊智氏による、比嘉姉妹シリーズの第2弾。

じりじりと間合いを詰めてくる人形と、命のタイムリミットという、前作「ぼぎわんが、来る」とは異なる方向性の怖い話が展開されます。

本作はさらに上を行き、なんと1行目から怖いです。

前作の登場人物である、比嘉姉妹や野崎が登場します。

序盤は、主人公たちが淡々と追い詰められていくのですが、これがシンプルに怖い。

中盤は、登場人物の生い立ちと、怪奇現象の経緯が交互に描かれ、謎は深まっていきます。

ホラー小説ですが前作同様、ミステリーやサスペンス、そして人間の闇といった要素もあり、意外な展開やどんでん返しが。

これが澤村作品の魅力でもありますね。

最後まで読まないと真相が分からず、視覚的な情報を上手く文章に落とし込んでいるとあって、読み始めると止まらなくなるはずです。

過去にヒットしたホラー作品などが随所で見られ、作者のホラー愛が感じられる作品です。

19.恒川光太郎『夜市』

人ならざる物によって運営される、不思議な市場「夜市」は、何でも売っているが、何かを買わないと帰ることができない。

幼きころ夜市に迷い込み、弟を売って野球の才能を手に入れた裕司は、罪悪感から弟を買い戻すため、再び夜市を訪れる。

うつくしく哀愁の漂う、不思議な雰囲気のホラー小説大賞作品

中編「夜市」と「風の古道」の2篇が収められています。

どちらも異世界に迷い込んでいき、そして共に失った人間を引きずっているお話です。

表題作では、弟と引き換えに得た才能で、野球部のエースとなった主人公でしたが、罪悪感で苦しむことになります。

そこに夜市が開かれるという情報が。裕司は、弟を取り戻すべく、再び夜市を訪れます。

日常的な描写で始まる物語は、たんたんとした文章で非日常の異世界へと誘います。

どろどろとした展開ではなく、やさしく悲しい、哀愁漂う雰囲気。

ホラーというよりは、どこか懐かしく感じるような、美しく切ないファンタジーといった印象です。

文体は非常に読みやすく、雰囲気に飲み込まれ、ついページをめくってしまいますよ。

あなたにとって、本当に大切なものは何でしょうか?また人生とは何なのか?

第12回ホラー小説大賞に輝いた作品ですが、いろいろと考えさせられる不思議な一冊です。

20.恒川 光太郎『秋の牢獄』

何度も繰り返される11月7日、水曜日。女子大生の藍は、この同じ一日を何度も過ごしていた。

同じ内容の講義、同じ会話をする友人……。

やがて、同じ現象に悩まされている仲間たちと出会い、交流を深めていくが、その仲間も一人、また一人と姿を消していく。

秋の夜長にぴったりな、唯一無二のファンタジー

「秋の牢獄」「神家没落」「幻は夜に成長する」の3篇が収録されています。

3篇とも、何かに囚われていたり、閉じ込められていたりするお話。

表題作は、いわゆるタイムリープもの。

同じ1日を何度も過ごす女子大生の藍は、同じ境遇にある仲間とつながっていきます。

しかし、その「リプレイヤー」を、次々とどこかへ消してしまう謎の人物、北風伯爵。

無限とも思える時間をひたすら繰り返す不安と恐怖が、丁寧に描写されています。

はたして藍は、11月8日を迎えることができるのでしょうか。

同氏の「夜市」と同様、文体も分かりやすくシンプルで、ノスタルジックな情景が目に浮かんできます。

また、無駄なことは語られず、読者の想像次第でいかようにも広がる世界観も魅力。

秋の夜長にぴったりな、大人のためのファンタジーとなっています。

21.貴志祐介『クリムゾンの迷宮』

火星の迷宮へようこそ――深紅色に染められた、謎の大地で目が冷める藤木。

所持品もなく、側には携帯ゲーム機が置かれていた。

状況が全く分からないまま、男女9人による命をかけたサバイバルゲームに突入する。

”火星”と銘打たれた、謎の峡谷で展開されるゼロサムゲーム

青春小説や探偵シリーズ、SFなど幅広いジャンルを手掛ける、貴志祐介氏の作品です。

まるでゲームの世界に入ったかのような、臨場感あふれる物語が展開されます。

前半は、訳が分からないまま放り出された世界での、サバイバルゲームから始まります。

しかし後半は一転、狩るか狩られるかのバトルロワイヤルに突入していき、疾走感ある展開に。

間違いなくページをめくる手が止まらなくなるでしょう。

また、サバイバル術などの専門的な知識が集積されており、現実離れした場面でも凄まじいリアリティが感じられます。

ただ、少々グロテスクな描写もあります。

怪物との距離が縮まっていく恐怖、話が通じない人間 に対する恐怖など、精神的なグロさですが、そういうのが苦手な人でも引き込まれていくでしょう。

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22.貴志祐介『天使の囀り』

新聞社が主催するアマゾン調査隊に参加したメンバーは、帰国後、次々と異常きわまりない方法で自殺していく。

現地で一体何があったのか。死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか。

かつてない恐怖が、いま始まる。

圧倒的な科学的知見に裏打ちされた、リアリティあふれるホラー

1998年に発表された、貴志祐介氏の作品。

20年前に発表された作品ですが、今もホラーファンから高い支持を集めています。

終末期医療に携わる精神科医の北島早苗には、死恐怖症である恋人・高梨がいます。

しかし彼は、アマゾン調査隊に参加してからは一転、人格が異様に変化。

以前は恐れていた 「死」に魅せられていき、最終的に自殺してしまいます。

他の参加メンバーも、謎の自殺を遂げていることを知った早苗は、恋人の死の謎を追っていく、 という展開で物語は進行します。

超常現象で片付けられるホラーではなく、圧倒的な科学的知見によってリアリティがあり、吐きそうなほどのグロテスクなシーンが連続。

ギリシャ神話や医学・生物学にも深い造詣が見られます。

しかし、被害者のおぞましい姿が描写されていても、そうなった経緯がきちんと裏打ちされており、怖いと思いながらもその正体が気になり、苦手な方でも思わず読み進めてしまうでしょう。

何が原因かが分からず、取り憑かれたように狂っていく様子は、読み手にとっても恐怖の一言。

寝る前に読んでしまうと、眠れなくなってしまいます。 中盤で、何となく自殺の原因が分かってくるのですが……そこでは終わりません。

読んで良かった、でも読まなきゃよかった、あなたもきっと、そんな感想を持つはずです。

23.今邑彩『よもつひらさか』

古事記の神話に、黄泉の国と現世の境目として登場する黄泉比良坂(よもつひらさか)。

一人で このなだらかな坂を歩くと、死者に出会うという言い伝えが……。

表題作の他、12篇が収められた 珠玉のホラー短編集。

シンプルな文体で構成される、濃厚な12本の短編

今邑彩氏による、12編からなるホラー短編集。

どの短編も30ページほどの長さですが、1つも外れはなく、同氏の傑作とも言われています。

表題作の「よもつひらさか」は、駆け落ちした娘が子どもを産んだと聞き、初老の男性は久しぶ りに会おうと、東京から小さな田舎町に訪れるという導入の短編。

目的地まで後少し、というところで立ちくらみした彼は、偶然通りがかった青年に助けられます。

向かう方向が同じということで、ゆるやかな坂を2人、歩いていきますが、青年は「この坂 は”よもつひらさか”と言い、黄泉につながっている坂である」と語りかけます。

最初は真剣に聞いていなかった男性でしたが、やがて違和感を抱くように……。 どこかノスタルジックな雰囲気を持つお話です。

他の短編も、シンプルな文体で読み手に状況を伝え、ラストの1行でゾッとさせられるものばかり。

ホラー系ミステリーとも呼べる作品が揃った、濃厚な一冊です。

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24.今村昌弘『屍人荘の殺人』

映画研究会の夏合宿に参加するため、葉村と明智はペンション紫湛荘を訪ねるが、想定外の事態 で閉じ込められてしまう。

一夜明け、惨殺死体で発見される部員が……。

2人は同行した探偵少女・ 剣崎とともに、この絶望的な状況を乗り越え、謎を解き明かしていく。

特殊設定を巧く活かした、今風で新しいミステリー

今村昌弘氏のデビュー作である本格ミステリー小説です。

生きるか死ぬかという極限の状況下で、連続して殺人事件が起こります。

大学の映画研究部が、ペンションで夏合宿を開催。

そこにミステリ愛好会のメンバーが参加し、 さらに今までいくつもの事件を解決したという探偵少女も同行。

そして、直前には脅迫状が届く という、ミステリー王道の流れで、物語は進んでいきます。

登場人物が多く、事件が起きるまで少々ページをめくっていく必要がありますが、事が起きてからはテンポよく展開していきますので、どんどん読みすすめることができるでしょう。

とある特殊設定を巧く活かしており、今風で新しく、枠にとらわれない衝撃的なミステリーです。

ここ数年のミステリー界隈でも、屈指の名作と言えるでしょう。

第27回鮎川哲也賞、第18回本格ミステリ大賞受賞など、新人としては異例となる、国内ミステ リーランキング4冠を達成。

2019年には神木隆之介さん主演で、映画化もされています。

25.平山夢明『ダイナー』

オオバカナコは、どこにでもいる普通の女性。

裏社会の仕事に関与したことをきっかけに監禁され、殺し屋が集まる会員制ダイナー「キャンティーン」のウェイトレスとなる。

そこで彼女は、シェフのボンベロや、殺し屋たちの人間模様に触れていく。

逃げ場のないバトルロワイヤルと、過酷な環境でたくましく生きるカナコ

ホラー作家をはじめ、映画監督や評論、ラジオなど幅広く活躍する、平山夢明氏の作品です。

ボンベロという謎の男が経営し、国内屈指の殺し屋が集う、殺し屋専門のダイナー。

そこで働く主人公のカナコには、次々と「最悪な状況」が降りかかります。

最初から逃げ場のないバトルロワイヤルが展開され、週刊少年コミックのようにサクサクと進む極上のエンターテインメント。

過酷な環境によってカナコもたくましく成長していきます。

魅力的なキャラクターが揃っていますが、暴力的な表現が多く、人を選ぶ作品でしょう。

特筆すべきは食事シーンで、料理がとても美味しそうに表現されており、どんな立場の人間にも、 食事は束の間の幸福をもたらすのだ、ということを感じさせます。

2019年には、監督・蜷川実花さん、主演・藤原竜也さんで「Diner ダイナー」のタイトルで実写映画化されています。

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26.飴村行『粘膜人間』

身長195cm、体重105kgという巨体の小学生・雷太。

彼の暴力を恐れた2人の兄は、弟の殺害を試みるが、全く歯が立たず失敗に終わる。

そこで2人は、村の外れに入るという「ある者たち」に 彼の殺害を依頼するのだが……。

異常性のフルコース。あなたの想像を軽く凌駕する、凄まじい世界観

飴村行氏による「粘膜シリーズ」の一冊。

同シリーズは、グロホラーの決定版として、一部のコアなファンには有名な作品です。

第15回日本ホラー小説大賞の長編賞を受賞した、衝撃の問題作でもあります。

その世界観はとても凄まじく、グロ描写は純度100%。

異常性のフルコース。 暴力とグロテスクたっぷりな、心理的な抵抗を感じる、とても凄惨なシーンが展開されます。

とにかく酷い、読み手の想像を遥かに凌駕するようなスプラッターが続いていきますが、話の筋はしっかりしており、言葉が悪いですが面白く読めてしまいます。

ただ、具合の悪い時は寝込みそうになりますので、読むのを控えた方が良いかもしれません。

間違いなく、人を選ぶことになるこの作品。

面白いと感じた方は、ぜひ次巻以降も手にとって見てください。

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27.乙一『暗いところで待ち合わせ』

殺人事件の容疑者として追われるアキヒロは、捜査から逃れるために、独り静かに暮すミチルの 家に逃げ込む。

目が見えず気付かないふりをするミチルに対し、アキヒロは危害を加えるどころか、彼女を助けるように――。

奇妙な同棲生活が始まる。

孤独な2人がアパートの一室でひっそりと紡ぐ、ハートウォームなストーリー

推理小説やホラー小説を手掛ける、乙一氏による作品。

交通事故が原因で、目がほとんど見えないミチルは、独り孤独に暮らしています。

そして、一方のアキヒロは職場の人間関係で悩んでおり、挙げ句、殺人事件の容疑者として追われる身となり、ミチルのアパートに逃げ込みます。

孤独な2人が、アパートの一室で徐々に距離を縮めていく。そんなお話です。

人と接するのが苦手な人というのは、少なからず存在します。

この作品ではそんな人たちの気持ちが、たくさん表現されており、共感される方も多いことでしょう。

物語の中では、対人関係が苦手な者同士がつながっていく様子が描かれ、人は一人では生きては いけないということを、改めて感じさせてくれます。

とにかく心がほっこりする物語ですので、ぜひお手にとってみてください。

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28.乙一『失はれる物語』

交通事故に遭った「私」は、目が覚めると漆黒の闇にいた。

全身不随となり、視覚や聴覚など五 感の全てを奪われていたのだ。

ピアニストの妻は、唯一残った皮膚感覚のある右腕を鍵盤に見立て、演奏することで意思の疎通を図るが――。

表題作を含め、珠玉の短編7篇。

何かを失った主人公たちが紡ぐ、切なくはかない短編集

若手ミステリー作家として定評のある乙一氏。

しかしこの作品は、彼の別の一面を見ることができる、切なくはかない短編集です。

表題作は、右腕の感覚以外を全て失った男が、右手をピアノ代わりに妻と交流するお話。

深い絶望の書き方がリアルに感じられ、ラストは切ない余韻が後を引くことでしょう。

どの短編も孤独の人が描かれており、そんな境遇の人たちの気持ちを理解し、寄り添うことがで きる極めて感受性の高い作家さんだと感じます。

また「失う」ことによって、何を考え何を信じるべきなのか、読んだ後、あなたもきっと考えさせられるでしょう。

他の短編として「Calling You」や「傷」など、外れのない短篇5篇に加え、怪作「ボクの賢いパンツくん」そして、書き下ろしの「ウソカノ」が収録されています。

29.西澤保彦『七回死んだ男』

「反復落し穴」によって、殺されては甦り、また殺されてしまう渕上零治郎老人。

この落し穴を唯一認識している孫の久太郎少年は、繰り返される時の中で、祖父を救うため、あらゆる手を尽くし奔走する。

7回死んでしまう老人を救うべく、孤軍奮闘する孫。新感覚のSFミステリー

西澤保彦氏による、タイムリープもののミステリー。

著者もあとがきで触れていますが「ミステリーとしては変化球」という作品です。

莫大な資産を持つ老人は、タイトルの通り作中、7回も死んでしまいます。

一方の、24時間が9回もループする「特異体質」である、孫で高校生の久太郎。

何とか祖父が死ないようにと、遺産目当てで見にくい争いを繰り広げる大人たちを尻目に、孤軍奮闘します。

あやしい人物に目星をつけ、事態を変えようとしますが犯人を取り違え、やっぱり事件は起こっ てしまう。

これを繰り返しながら、久太郎少年は真実へと近づいていきます。

ラストはアッと驚く展開が待っており、時間ループを活かしたトリックは見事の一言。

果たして少年探偵は、祖父を救うことができるのでしょうか。

30.近藤史恵『サクリファイス』

プロのロードレーサーとして、チームに帯同し各地を転戦する白石。

彼の仕事はエースの踏み台となり、勝利へ導くこと。

さまざまな出来事が起きる中、ヨーロッパ遠征において、彼は悲劇に遭遇してしまう。

自転車ロードレースと青春とサスペンス。

過酷な自転車ロードレースの世界で繰り広げられる、異色のミステリー

ベテランのミステリー作家、近藤史恵氏による作品。

「自転車小説」とくれば真っ先に名が挙がり、2008年のツール・ド・フランスでは、生中継で解説者が取り上げるなど、自転車関係者にも好評な一冊です。

作中では、団体戦でもあり個人戦でもある、過酷な自転車ロードレースが描かれます。

チームのエースを勝利に導くため、アシストに徹する選手。そのアシストを犠牲にしながら、勝っていかなければならない、エースの孤独。

人間ドラマが繰り広げられるロードレースの世界を表現しながら、誰が味方で、誰が敵なのかが 最後まで分からないというミステリーの要素が加わり、物語は展開していきます。

サクリファイスとは、犠牲や生贄という意味。

読み終わった時に、あなたはこのタイトルの意味がきっと分かるはずです。

なお、作者は自転車レースに出場したことがないばかりか、ロードバイクすら乗ったことがないということですが、そんなことは微塵も感じさせない、生々しい表現。

選手の激しい息づかいが、文章を通して伝わってきます。

第10回大藪春彦賞を受賞、第5回本屋大賞では第2位に輝いた当作品、続編に「エデン」がありますので続けてどうぞ。

31.荻原浩『明日の記憶』

広告代理店で営業部長を務め、重要な案件を担う50歳の主人公。

私生活では一人娘の結婚を控え、順風満帆な日々を送っていた。

しかし物忘れが激しくなり、受診した病院で若年性アルツハイマー病と診断されてしまう。

妻と話し合った彼は、病気と向き合う覚悟を決める。

渡辺謙が映画化を熱望した、悲しくも温かな物語

第18回山本周五郎賞を受賞した、萩原浩氏の作品です。2004年刊行。

病にかかった主人公が記憶を失っていく過程を、リアルに、そして淡々と描かれています。

物忘れは誰にでもあり、時に「あ、忘れてた」ということもあるでしょう。

ところが、若年性アルツハイマー病は「忘れていたこと」すら覚えておらず、記憶がごっそりと抜け落ちてしまいます。

治る見込みもなく、自分を見失ってしまう、想像を絶する恐怖。

ついに主人公は、自分の奥さんですら分からなくなってしまいます。

悲しくも、ほのかな光が見えるラストシーンは、涙なしでは見ることができません。

俳優の渡辺謙氏は、たまたま立ち寄ったハリウッドの本屋でこの作品を手に取り、原作者へ映画化を熱望。

2006年に実現した際には、自らも主演しています。

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32.中島らも『ガダラの豚』

超能力ブームで自書がベストセラーになった、テレビタレント教授・大生部多一郎。

しかし、8年前に娘がアフリカで事故死して以来、神経を病んでいた妻は、新興宗教に嵌ってしまう。

彼女を奪還すべく、大生部は奇術師とダッグを組み、教団に立ち向かう。

テレビの裏側や超能力、新興宗教、洗脳など、畳み掛けるようなエンターテイメント

作家、音楽家、広告プランナーなど、さまざまな肩書を持っていた、故・中島らもの代表作。

1990年前後が物語の舞台ですが、当時のテレビはオカルトブームも重なって、とても勢いがありました。

そんな当時の様子が、エネルギッシュに描かれています。

信者を集めるために、人々を洗脳して金を巻き上げていく、悪質な新興宗教。

彼らと対決し、そのトリックを暴いていく過程は爽快です。

地下鉄サリン事件の前に刊行された作品とあって、新興宗教を警戒する姿勢がよく表されています。

当時は、統一教会やオウムなど、世間を騒がせる事件が多発していました。

作中、残酷な場面や下品な要素も見られますが、全体的にユーモアが漂っており、中島氏の”らしさ”を感じることができます。

三部作で構成されており、次巻はアフリカに舞台を移し、呪術をテーマに続いていきます。

33.我孫子武丸『殺戮にいたる病』

東京の繁華街で、サイコ・キラーが出現した。犯人の名前は蒲生稔。

「永遠の愛をつかみたい」と願う彼は、次々に陵辱と惨殺を繰り返していく。

果たしてどんな結末が、彼を待ち受けているのか。

衝撃のサイコ・ホラー。

衝撃のホラー。残酷なシーンの先に待つ、強烈などんでん返し

サウンドノベルゲーム「かまいたちの夜」で有名な、我孫子武丸氏の作品です。1992年初出。

物語は、蒲生稔が警察に踏み込まれて逮捕される「エピローグ」から始まります。

その後は、陵辱と惨殺を繰り返す稔、息子の異常な行動を知りながら見て見ぬ振りをする母親、妻を亡くした元刑事という3者の視点で、交互に描かれていきます。

彼が起こす事件はとても残酷で、性的な要素、グロテスクな表現も見られ、気分が悪くなってしまうかも知れません。

しかし、最後の最後でひっくり返り、ところどころの小さな違和感が全て繋がります。

思わず声が出てしまうというラストを目指して、ぜひ読み進めてみてください。

34.石田衣良『4TEEN』

東京の下町、月島。中学2年生の同級生であるナオト、ダイ、ジュン、テツローの4人は、今日も自転車でこの街を駆け抜ける。

みんな悩みは持っているけど、皆と一緒ならどこにでもいける気がする――。

14歳の少年たちを描いた、爽やかな青春ストーリー。

さまざまな悩みと向き合う14歳の4人。ノスタルジックな物語

「池袋ウエストゲートパーク」でデビューした、石田衣良氏の作品。

14歳の少年4人による青春物語です。連作の短編8つで構成されています。

仲間の1人が患う早老症をはじめ、拒食症やいじめ、妊娠、不倫、不登校、ジェンダー、親の死など、重い内容を取り扱いながらも、作品はユーモラスに、爽やかに描かれています。

大人と子どもの狭間である14歳が抱く、複雑な感情。

年頃の子どもを持つ大人が読めば、きっとあの懐かしき情景がまざまざと浮かんでくるはず。

性などの際どい内容もありますが、どこか清潔感のあるような文体で、湿った感じではないのは、作者の力量によるところでしょう。

2003年、作者は当作品で直木賞を受賞。続編に、2年後を描いた「6TEEN」があります。

35.横溝正史『獄門島』

終戦から1年後、戦友の訃報を知らせるために、故郷である瀬戸内海の孤島、獄門島を訪れる金田一耕助。

彼は今際の際に「俺が島に戻らなければ妹3人が殺される」という言葉を残していた。

遺書を携えた金田一は、島で見立て殺人に遭遇する。

金田一耕助が遭遇する見立て殺人。国内推理小説史上に輝く金字塔

「金田一耕助シリーズ」で有名な、横溝正史の長編推理小説です。

初版の発行は、戦後間もない1948年。俳句使った見立て殺人が描かれています。

引き揚げ船の中で果てた戦友との約束を果たすべく、金田一耕助は彼の故郷、獄門島を訪れます。そこで遭遇する殺人事件。

物語は「誰も彼もみんな怪しい」と思わされながら、進行していきます。

事件の背後にある人の感情、哀しき想い、そして恐ろしさを丹念に描いており、時代を超えて現代人の心をも捉えています。

また、犯人とその動機、探偵の姿勢や立ち位置など、あらゆる面で後世の作品に多大な影響を与えました。

映画化は1949年と1977年の2回、さらに1977年から2016年までに5回のテレビドラマが制作されています。

週刊文春の「東西ミステリーベスト100」で第一位に選出された、国内の推理小説史上に輝く金字塔です。

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36.横山秀夫『クライマーズ・ハイ』

同僚と谷川岳の衝立岩を登攀する予定だった、地元新聞記者の悠木。

しかし、直前に「ジャンボが消えた」という一報が入る。

墜落事故を受けて全権デスクに任命された彼は、次々と起こる事象に対して、重大な決断に迫られていく。

圧倒的なリアリティと溢れ出る熱量。日航事故を取材する記者を描く

航空機史上最悪の事故となった日航ジャンボ機墜落事故を題材に、それを報道する地元新聞社の内幕を描いた小説です。

作者の横山秀夫氏は当時、群馬の新聞記者でした。

事故を取材するため、御巣鷹山に2ヵ月間、毎日登りつめており、この体験をベースに、物語はフィクションとして構成されます。

部下の死をきっかけに管理職への昇進を拒む、新聞記者の悠木は、墜落事故の全権デスクを命ぜられます。

凄惨な事故現場と、取材における地方紙の戦い。社内のパワーバランスや、家族との関係性。

それらの人間関係と対峙する、彼の葛藤と苦悩が丹念に描写されています。

17年前の未曾有の出来事を振り返りながら、果たせなかった友との約束「谷川岳の衝立岩登攀」を、友の息子と果たしていく悠木。

岩場を登っていく途上で、彼はある真実に気付いていくのです。

溢れ出る熱量と、圧倒的なリアリティを感じる当作品は、2003年の週刊文春ミステリーベストテンでは第1位に選ばれ、2004年の本屋大賞でも第2位を受賞。

2005年にはNHKでテレビドラマ化、さらに2008年には堤真一氏主演で映画化されました。

37.住野よる『君の膵臓をたべたい』

病院で「共病文庫」と題された本を拾う主人公。

それはクラスメイトの山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。

日記を読んだ主人公は、彼女が膵臓の病気によって、余命がいくばくもないことを知る。

人生の1日1日を、その瞬間を、そして人を大切にしていこうと思える一冊

小説投稿サイト「小説家になろう」に、当作品を投稿したことがきっかけでデビューした、住野よる氏による作品です。

冒頭、ヒロインの死を悼むお葬式のシーンで、幕が開ける物語。

時を戻し、性格が正反対の2人が、秘密を共有しながら過ごす日々から、その別れまでが描かれていきます。

主人公の目線で語られており、話のメインは彼の心の描写。読み手はとても感情移入がしやすいでしょう。

また、周囲と積極的に関わらず、自分の殻に閉じこもっていた主人公が、余命1年の山内桜良と仲良くなっていくにつれ、その生き方を変えていくところも見どころ。

その桜良は、クラスで一番の人気者でもあるヒロイン。病気と戦いながらもいつも明るく振る舞っており、非常に魅力的なキャラクターです。

主人公が相手にどのように思われているのかは、会話中、名前の代わりに「【 】くん」と、その関係性が表されています。

この独特の表現がとても印象的で、想像力をかきたてられます。

単純なお涙ちょうだい的なお話ではなく、人生とは?生き方とは?という、深いテーマに踏み込んだ作品です。

38.小野不由美『月の影 影の海』

平凡な女子高生である陽子は、ケイキと名乗る男に異世界へ連れ去られてしまう。

男とはぐれ一人さまよう彼女は、出会う人間に裏切られ、異形の獣に追われる。

なぜ異界に来なければならなかったのか――彼女は、次々と押し寄せる苦難を乗り越え、生きて帰還する決意を固める。

陽子を待ち受ける過酷な運命。十二国記シリーズ最初の物語

小野不由美氏の代表作、「十二国記」シリーズと呼ばれるファンタジー小説。

主人公の陽子は、何も分からないまま、男に連れられ異世界に飛び込みます。

しかし、男ともはぐれてしまい一人に。

言葉以外、何一つ分からない世界で、追われる身となります。

陽子のたどる運命はとても過酷で、自分の倫理観や文化が否定され、誰も信用できなくなり、心も荒んでいきます。

しかし、それでもなお「生きる」ことに執着する彼女の姿は、あなたの心を打つでしょう。

当初は何も分からない「異界」ですが、少しづつ様子が明らかになっていきます。この世界感の作り込みも圧巻です。

これから陽子には、どんな運命が待ち受けているのでしょうか。

先が気になり、どんどん読み進めてしまうシリーズです。

39.小野不由美『屍鬼』

周囲から隔離され、土葬の習慣も残る1300人ほどの小さな山村。

ある日、村人の死体が3体、発見される。

村でただ1人の医者、尾崎は不信感を抱くが、村人たちにより何事もなかったようにされ、通常の死として扱われた。

しかしその後、他の村人たちも相次いで死んでいく。

村に忍び寄る、目に見えない不気味な恐怖。村人たちと屍鬼の戦い

1998年に発表されたこの作品は、文庫にして全5巻大作です。

「村は死によって包囲されている」という書き出しで始まる物語。

山奥の閉鎖的な村で、3人の村人が死体で発見され、それを皮切りに次々と死んでいく村人たち。

原因不明で人が死んでいくという、目に見えない不気味な違和感。

現在のコロナ禍を彷彿とさせるような恐怖が、じわりじわりと忍び寄ってきます。

序盤は、非常に多くの人物が登場しますが、話が進むにつれて誰が誰なのか、読み手もだんだんと分かるように。

日本特有の閉鎖的な村の空気感や、そこに住む人間の習性がリアルに表現されており、実際に村社会にいるかような感覚に囚われます。

事態が動き出す後半は一転、収束に向かい怒涛の展開に。

長いストーリーですが、要らないエピソードは一つもなく、あなたもきっと一気に読んでしまうでしょう。

なお、作者はあとがきで、当作品はスティーブン・キングの「呪われた町」へのオマージュだと明かしています。

40.上橋菜穂子『精霊の守り人』

30歳の女用心棒バルサは、ふとしたきっかけで新ヨゴ皇国の第二皇子であるチャグムを助ける。

彼の母親の依頼によって、バルサはチャグムを守り奮闘していく。

百戦錬磨の女用心棒と、勝ち気でまっすぐな少年が紡ぐ物語。

広大なファンタジー世界観と、バルサとチャグムが織りなす深い人間ドラマ

人類学者の上橋菜穂子氏による、守り人シリーズ第一巻。傑作ファンタジー巨編です。

児童文学として出版されましたが、大人にもファンが存在し、シリーズは幅広い支持を得ています。

伝説として語り継がれていた、「水の精霊」の卵を身に宿す皇子のチャグムと、その用心棒を引き受ける女性、バルサの物語。

自分の運命に翻弄されながらも、さまざまな仲間と出会い、成長していく幼きチャグム。

そして、彼を命がけで守りながら、間接的な優しさを垣間見せる、歴戦のバルサ。2人の関係は目が離せません。

また、読み進める内にいろいろと判明してくる世界観は、読む人をどんどん物語に引き込んでいきます。

あなたもきっと、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。

異世界ファンタジーである当シリーズは、外伝やガイドブックを含めると全14巻に。

2016年より3年に渡って、NHKの手で実写ドラマ化され、ロトの紋章で有名な藤原カムイ氏によって、漫画版も発行されています。

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41.佐藤多佳子『一瞬の風になれ』

高校に進学し、サッカーから陸上に転向した神谷新二は、幼なじみでもある天才ランナー・一之瀬連と、一緒の部活に入った。

400mにかける神谷は、親友の背中を必死に追いかける。

瑞々しく描かれる、青春陸上ストーリー。

友の背中を追いかけ、悩み葛藤する主人公。青春スポーツ小説

佐藤多佳子氏が2006年に書き下ろした、全3巻の作品です。

サッカー選手の夢を諦めた高校生の神谷が、今度は陸上で成長していく物語。

同じタイミングで、親友の一ノ瀬も陸上を再開します。

共にリレーのメンバーに選ばれる2人。

才能ある彼を一生懸命、追いかけていくというストーリーです。

筆者の取材も入念に行われ、県大会からインターハイまでの過程について、さまざまな選手の活 動や指導者の様子が描かれており、リアリティに溢れています。

スポーツ部活が好きだった人、まだ現役の人は、どても楽しく読めるでしょう。主人公の悩みや 葛藤にも共感できるはず。

果たして、神谷は一ノ瀬を超えられるのでしょうか。

2007年には本屋大賞と、吉川英治文学新人賞を受賞。 2008年には、フジテレビで実写ドラマ化も実現しています。

42.恩田 陸『夜のピクニック』

北高の伝統行事である「歩行祭」。

全校生徒が夜を徹して80キロを歩くイベントだ。

3年間、誰にも言えなかった秘密を精算するべく、高校最後のイベントに臨む甲田貴子。

親友たちと思い出 や夢を語りながら、彼女だけは人知れず、決意で胸を焦がしていた――。

多感な時期、一晩を通して語り明かす高校生たち。永遠の青春小説

恩田陸氏の長編青春小説です。 作者の母校で行われるイベントをモデルにした、高校生が一泊二日を歩き通す物語。

小さな題材で、取り立てて大きな事件が起きるわけでもありませんが、ページはどんどん進みます。

夜だからか、いつもと違って見える友を前に、独りで抱えてきた葛藤や自己嫌悪を反芻してい く。

人生の転換点を迎える高校生が、とてもリアルに描かれています。

ありがちな恋愛ものではなく、あくまでも青春小説なのがポイント。

現役高校生にぴったりの一冊ですが、社会人の皆さんにもおすすめできる作品です。

第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞を受賞。 同作者の短編集「図書室の海」には、物語の前日譚が収録されています。

43.恩田 陸『蜜蜂と遠雷』

家にピアノがない養蜂家の息子・風間塵。

母の死でピアノが弾けなくなった天才少女・栄伝亜夜。

家庭を持つ社会人・高島明石。

優勝候補と言われる名門音楽院所属・マサル。

ピアノコンクールで それぞれが出会い切磋琢磨する、青春群像小説。

音楽を文字で描写する、驚異的な表現力。史上初となる2度目の本屋大賞受賞作

恩田陸氏による、若きピアニストたちの群像劇です。

ピアノコンクールを舞台に、さまざまな天才や異才たちによる人間模様が描かれます。

作中では曲の描写が巧みで、ぜひ聴いてみたいと思わせる、楽曲たち。

あなたの脳内でも、文章によって演奏が始まり、その音色が鮮明に再生されることでしょう。

登場人物のキャラクター魅力的で、ドラマチックな展開もあって、とても読みやすい構成です。

音楽コンクールの流れをすべて小説化する試みは非常に難航し、作者によると、2009年に書き始めるまでに、実に5年の歳月がかかったそうです。

2017年には、第156回直木賞と第14回本屋大賞を受賞。

このダブル受賞と、同作家2度目の本屋大賞は、史上初となる快挙でした。

44.有川 浩『図書館戦争』

公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制する「メディア良化法」。

同法のもと、あらゆる創作物は良化特務機関による検閲を受けていた。

この弾圧に対抗するのが「図書館」。

全国初の女性図書特殊部隊に配属された主人公は、困難な戦いに対峙し、成長していく。

行き過ぎた検閲を行う良化特務機関と、それに立ち向かう図書隊員たち

有川浩氏による「図書館シリーズ」の第1巻。

シリーズは同作の他、「図書館内乱」「図書館危機」「図書館革命」の全4巻で構成されます。

「メディア良化法」が施行された世界において、全てのメディアが検閲対象となる中、図書館は「図書館法」を根拠として武力を用いながら本や表現の自由を守っていく様子が描かれます。

幼き日に、大好きな本を検閲から守ってくれた図書隊員に憧れる主人公・笠原郁。

自ら志願して図書隊へ入隊した彼女は、鬼上官のもとで過酷な訓練をこなします。

その努力が認められ、全国初の女性図書特殊部隊員となった郁は、上官と共に、さらなる困難に立ち向かっていくというストーリーです。

そのタイトルとは裏腹に、アクションによるスリルや恋愛も繰り広げられ、楽しめます。

真っ直ぐな主人公と、不器用な上官とのやり取りもクスリと笑え、見どころの1つでしょう。

ベストセラーとなり、作者の代表作となった当作品。

2008年には、攻殻機動隊や劇場版パトレイバーで有名なスタジオ、Production I.Gによってアニメ化されました。

45.相沢 沙呼『マツリカ・マトリョシカ』

学校近くに住む謎の美女・マツリカに命じられ、学校の怪談を調査する高校2年生の柴山祐希。

彼はある日、怪談「開かずの扉の胡蝶さん」を知る。

彼が開かずの扉を開けると、制服を着せられ たトルソーが転がっていた。

犯人に疑われた柴山は、過去と今の密室に挑む。

シリーズ初の長編は本格密室ミステリーと、強烈な個性の美女・マツリカ

相沢沙呼氏による「マツリカ・シリーズ」の3作目にして、初めての長編。

独創性あふれるトリックを擁した、本格的な密室ミステリーです。

暗くさえない男子高校生の柴山と、Sな性格で強烈な探偵役・マツリカなど、実に個性的なキャラ クターが登場する、青春小説の側面もあります。

校内に伝わる怪談「開かずの扉」と、美術準備室で発生した「密室殺トルソー事件」に、柴山と マツリカが挑みます。

人が死なない事件ですが、丸1冊かけた本格的な密室ミステリーが堪能できます。

2年前の女子生徒が襲われた事件と、今回の事件が重なり、推理を展開していくと、反比例 して強固になっていく謎。

シリーズ最高のカタルシスが、あなたを待っています。

ラストの解決編は、本格ミステリーファンは必読です。

46.沢木 耕太郎『深夜特急』

仕事を全て放り出し、インドのデリーからロンドンまで、乗り合いバスで行く。

そう思い立った 26歳の「私」だが、立ち寄った香港では長居をしてしまい、マカオでは博打に魅せられる。

1年 に渡る、成り行き任せのユーラシア放浪が今、幕を開ける。

スマホでは感じることができない、現地の雰囲気。バックパッカーのバイブル。

1970年代前半、当時26歳だった沢木耕太郎氏による、全6巻の旅行記。

インドのデリーからイギリスのロンドンまでをバスでいく――予定だったのが、途中に立ち寄っ た香港とマカオのシーンで、第1巻は終わります。

皆が憧れる、ハードボイルド風で行きあたりばったりの一人貧乏旅。

旅先において出会う人々との邂逅が、とてもリアルに表現されており、さまざま風景の描写と相 まって、とても魅力的に映ります。

タイトルには「精神的に自由になる」という意味があり、移動手段はあくまでも、電車ではなくバスです。

当作品は80~90年代において、バックパッカーのバイブル的な紀行誌であり、当時の個人旅行ブ ームの一翼を担いました。

あなたも旅に出たくなる、そんな一冊です。

47.奥田 英朗『イン・ザ・プール』

伊良部総合病院の地下にある精神科には、水泳依存症、陰茎強直症、携帯電話依存症、強迫神経症など、さまざまな症状で悩む患者が訪れる。

精神科医の伊良部は、彼らの診断を通じて、前代未聞の体験に遭遇していく。

さまざまな精神病で悩む患者と、ぶっ飛んだ言動で解決してしまう精神科医

奥田英朗氏による、短編集です。

さまざまな精神病を持つ患者が訪れる、精神科医が描かれています。

世の中には、いろんな要因で精神を病む方々がいますが、そんな人達を一般的な方法ではなく、 最終的には本人がスッキリと納得するような形で、治療してしまう精神科医・伊良部。

患者に負けず劣らず破天荒な伊良部は、時に医者の常識を超えて暴走し、患者の方が我に返ることも。

自由過ぎる発言や行動が、かえって結果的にいい方向へと転がっていきます。

この言動、どこまで計算しているのかは分からず、とにかくめちゃくちゃなのですが、患者のこと は絶対に否定はしません。

患者側も、第一印象は悪かった伊良部に対し、最後には晴れ晴れとしていくのです。

思わず吹き出してしまう、安定の面白さ。

真面目過ぎる方が読むと、少し肩の荷が下りるかも知れません。

48.星新一『ボッコちゃん』

近未来のバーで働く、女性型アンドロイド「ボッコちゃん」。

彼女に惹かれる男性客の、絶望的 な恋を描く表題作をはじめ、「おーい でてこーい」「殺し屋ですのよ」など、珠玉のショートショート50篇。

秀逸なショートショート自選50篇。短編のバラエティセット

日本SFのパイオニア、星新一氏によるショートショート集。

昭和48年刊行。 本書には、さまざまなジャンルの短編が50つ、収録されています。

1つの作品は5ページ程度のものが多く、どれも時代を感じさせない秀逸な短編ばかり。

ブラックなもの、フフッと笑えるもの、しんみりと寂しいものなど、短い文体の中に物語のエッ センスがギュッと凝縮されています。

まさに、お菓子のバラエティセット、といったところです。

小学校の教科書に掲載されたものもあり、子ども向けかと思いがち。

しかし、大人が読んでも考えさせられ、楽しむことができます。

活字慣れされていない方にも、読書の習慣化に向けておすすめの一冊です。

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49.星新一『午後の恐竜』

現代社会に突然現れた恐竜。

蜃気楼か、幻影か、はたまたテレビの撮影か。

地球の運命を描く表 題作のほか、さまざまな事象の「終焉」を描く、ショートショート11篇。

さまざまな「終わり」を描く、珠玉のショートショート11篇

星新一氏による、昭和52年発行のショートショート集。

風刺とブラックユーモアが効いた、若干長めのショートショートが収められています。

さまざまな「終わり」が描かれた作品が多く、未開の文明が終わりゆく「エデン改造計画」から スタートした短編集は、複雑化した社会の中で自らハマグリとなって閉じこもる「狂的体質」でラストを迎えます。

また表題作『午後の恐竜』は星氏の最高傑作とも言える1篇です。

オチが分かったと思い読み進めても、最後にアッと言わされるのが、星新一氏の短編。

氏の作品は中毒性もあって、1つ手に取ると他の本も読みたくなります。

この短編集が気に入ったら、当サイトで紹介する他の短編集もぜひ手に取ってみてください。

50.梨木 香歩『西の魔女が死んだ』

おばあちゃんが危篤だと知らされた、主人公まい。

2年前に不登校となったまいは、おばあちゃんと2人で暮らしていた。

一緒に過ごした日々は、「魔女」になるための修行。

ふとしたきっかけの確執が解けぬまま別れたまいは、後悔を抱きながらおばあちゃんのもとに駆けつける。

幸せに生きるヒントが散りばめられた、優しさあふれる物語

1994年に刊行された、梨木香歩氏のデビュー作。

本作の主人公「まい」は、イギリス人と日本人のクオーター。

クラスから孤立して不登校となってしまったまいは、おばあちゃんの住む田舎で療養します。

一方のおばあちゃんは、まいの母方の祖母で、イギリス人の魔女。

まいに魔女になるための修行をさせます。その内容は「自分のことは自分で決めること」でした。

大好きなおばあちゃんの優しさに触れながら、成長していく主人公がとても愛おしく感じます。

幸せに生きるためのヒントがいくつも書かれており、自分で決めることの他、健康に生きるこ と、直感や妄想に囚われないことなど、物語を通して、本当に大切なことを温かく、そして優しく教えてくれる。そんな一冊です。

日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞をそれぞれ受賞。

その後のまいの物語である、「渡りの一日」も併録されています。

51.宮下 奈都『羊と鋼の森』

高校2年生の外村はある日の放課後、体育館のグランドピアノが調律されているところを偶然目にする。

これに魅せられた外村は、生まれ育った北海道を離れ、調律師を目指し専門学校で学んでいく。

厳しい世界に挑む主人公と、それを優しく見守る登場人物たち

宮下奈都氏による、2015年発行の作品です。

著者は「師がいて、そこに弟子入りする男の子の話を書きたかった」と話しています。

この作品では、主人公が音楽を通して、人としても成長する過程が描かれています。

また、一人の人間の内面や精神の描写を、見事なまでに緻密に描ききっており、ピアノが佇む上質な世界観と、とてもきれいで美しい文体も特徴です。

ピアノの調律師は職人的な職業ということもあり、厳しい世界に挑む主人公。そんな彼を、優しい人たちが支えます。

最初はとても冷たい印象だった、先輩の調律師にしても終盤で、実際はあたたかく見守っていたのだと気付かされるシーンがあります。

穏やかで、優しい気持ちになれる一冊となるでしょう。

やりたいことが見つからない、将来が見えない高校生に、ぜひ読んでもらいたい作品です。

さらに、調律師だけではなく、全ての製作者や表現者へのエールとなる本でもあります。

あなたも、気持ちが沈んでしまっている時に、とても元気づけられるはず。

本屋大賞を受賞した当作品は、映画化もされており、それがきっかけで手に取る方も多くおられます。

52.谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』

「ただの人間には興味ありません」高校入学早々、突飛な自己紹介をした涼宮ハルヒ。

彼女は普通の人キョンをはじめ、本物の宇宙人、未来人、超能力者を巻き込み、新クラブ「SOS団」を結成する。非日常系学園ストーリー。

エキセントリックな女子高校生とSOS団の面々が繰り広げる、非日常的な学園物語

谷川流氏のデビュー作で、第8回スニーカー大賞受賞作品。

近年のライトノベルの流れを変えた特異点であり、この当時のサブカル界において、知っていて当たり前とも言える一作です。

SF、学園モノ、ボーイミーツガールなど、数々の要素が妥協なくまとまっており、今読んでも普及の名作。

また、ネットの世界にも多大な影響を与えており「SOS団」「長門は俺の嫁」「禁則事項です」など、定型文の原点が分かります。

横暴な涼宮ハルヒをはじめ、付き合いのいい性格のキョン、寡黙な長門有希、あざとい朝比奈みくるなど、とても魅力あふれるキャラクターがそろっており、文章も強烈なパワーがあるのですが、なぜか素直にスラスラと読めてしまう、不思議な雰囲気があります。

2003年に当作品が第1巻として発行され、2020年には新刊の12巻が発売。

前作からは9年半、間が空きましたが、長く続く人気シリーズ。

2005年度「このライトノベルがすごい!」の作品部門で第1位を獲得。

文庫本の発行数は、シリーズトータルで2,000万部を突破しています。

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53.上遠野 浩平『ブギーポップは笑わない』

ある高校で起きている生徒の連続失踪事件と、謎の人物「口笛を吹きながら人を殺す」と噂される「ブギーポップ」。

複雑に入り組んだ物語は、時間の流れを自由に入れ替えながら、一点に向かって集約していく。

死神ブギーポップを軸にした、20年以上続く長編シリーズの第一作

上遠野浩平による、ライトノベルシリーズ作品。

第4回電撃ゲーム小説大賞を受賞した、著者のデビュー作です。

1998年の発表以降、ライトノベル業界全体に大きな影響を与え、「ブギーポップ以降・ブギーポップ以前」という言葉も生まれました。

西尾維新氏、時雨沢恵一氏、奈須きのこ氏、佐藤友哉氏など、多くの作家がこの作品に影響を受けています。

不気味な死神ブギーポップを軸にした長編シリーズですが、作品それぞれにはほとんど話の繋がりはなく、連作のような形となっています。

この第1作目は、ブギーポップと呼ばれる謎の存在と、学校で発生するさまざまな事件を、複数の視点で時系列を巧みに入れ替えながら描かれるという群像劇。

一見、訳がわからなくなりそうな構成ですが、破綻はしておらず、キャラクターもみんな個性的で、とても印象に残ります。

独特の雰囲気を持っており、とても続きが気になる作品です。2019年には、2度目のアニメ化となりました。

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54.小川洋子『博士の愛した数式』

記憶を80分しか保持できず、この世で最も愛しているのは素数という、数学者の主人公。

64歳の彼と、身の回りを世話する若い家政婦、そして息子の「ルート」が織りなす、心のふれあいと美しい数式。

数式と人との出会いが美しい、切なく優しい物語

小川洋子氏が2004年に発表した、第1回本屋大賞受賞作品。

小川氏は別の作品で、純文学の新人に与えられる芥川賞も受賞しており、大衆文学の本屋大賞でも評価を受けた事実から、凄まじい文才が見て取れます。

交通事故の後遺症で記憶が80分しか持たないという、絶望的な状況にある博士。

しかし彼は、それを悲観せず「いま」を生きています。

褒めたり感謝したりする際は、とても大袈裟に表現しつつ、決して怒ることはしません。

たしなめる時も、その目的は子供や他人を守るためであり、自分を守ることではないところに、多くの方が感銘を受けることでしょう。

また、博士は数学者であり、数学の話も出てきます。しかし、数学が苦手な方も、博士が「この数式はなんて美しいんだ」と言うと、だんだん美しく思えてくるはず。

とても不思議な雰囲気で、数式のみならず、人との出会いも美しいと思える作品です。

さらに、彼の10歳になる息子「ルート」の成長も、作品の見どころ。

博士とルートとの、お互いを思いやる気持ちが穏やかに表現されており、とても感銘を受けますよ。

博士は70年代の記憶は強く残っており、黄金期の阪神タイガースの話がところどころ語られます。

野球好きな方にも、ぜひ手にとって欲しい一冊です。

55.岡嶋 二人『クラインの壺』

ゲームブックのシナリオ大賞に応募した主人公。

落選した原作は、ヴァーチャルリアリティ・システム「クライン2」に採用される。

原作者として完成したゲームを、もう一人の美女とモニターするが、彼女は失踪してしまう。

リアルとバーチャルが入り交じる恐怖。未来を予見した一作

岡島二人というコンビの作家による、1989年の作品です。

30年前の当時は、ファミコン全盛という時代でした。

しかし本作品は、近年やっと一般化した「VR」がテーマとなっており、まずその先見性に驚かされることになります。

そして、バーチャルの世界が進化した結果、どちらが現実か分からなくなってしまうという、ちょっと怖い話が展開されていきます。

この作品、論理に伱のない様式美が魅力であり、SF系の「世にも奇妙な物語」の話が好きな人には、特におすすめできるでしょう。

一方で、固定電話や公衆電話が、物語上において重要な役割を持っており、当時の雰囲気を知らないと感覚が分からないのが難点。

しかし、それをおいてもドキドキする展開に、どんどん惹き込まれていきます。

読んでいるあなた自身の現実感すら、きっと無くなってしまうほどの面白さです。

作者は2人の作家によるペンネームですが、残念ながらこの作品をもってコンビは解消しました。

なお、当作品は1996年、中山忍、佐藤藍子のダブルヒロインでドラマ化。

NHKのジュニアドラマシリーズとして、全10話が放映されました。

56.井上夢人『ラバー・ソウル』

誰が見ても醜い顔を持つ、鈴木誠。

彼と社会と繋ぐものは、洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけ。

ある日、偶然出会ったモデルに惹かれた彼は、彼女に近づく男を次々と排除していく。

ストーカー視点で進む物語と、衝撃のラスト

井上夢人氏による、570ページに及ぶ大作です。

化け物のような容姿の男が、モデルの女性をストーキングするという話で、そのストーカー行為は、本人や友人など、多くの視点から描かれていきます。

ストーリーは練りに練られており、タイトルと同名のビートルズのアルバムが、作品にも活かされています。

最初の方は、ストーカーの一方的な独白を、ただ聞かされているだけかと感じますが、最終章でガラッと印象が変わり、思わず最初から読み直してしまうでしょう。

ラスト数十ページで今まで見てきた景色が一変し、表と裏が見事にひっくり返る一作。

そのどんでん返しを、あなたもぜひ体感してみてください。

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57.舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』

ディスコ・ウェンズデイは、迷子専門の探偵。

都内で6歳の山岸梢と暮らしていたが、ある日、彼の目前で梢の体に17歳の少女が「侵入」し、人類史上最大の事件の扉が開く。

日本三大奇書に堂々と肩を並べる、究極のエンターテイメント

舞城王太郎氏が描く、圧倒的濃密SFミステリー。

あらすじを紹介するのも、作品そのものを説明するのも、とても難しい一作となります。

日本三大奇書の1つである「ドグラマグラ」のように、堂々巡りするストーリー。

そこに「黒死館殺人事件」のような複雑怪奇さが、これでもかと詰めこまれます。

さらに「虚無への供物」のごとく、メタフィクションで衝撃を食らう。そんな作品です。

SFの展開を見せたかと思いきや、いつのまにか十数名の名探偵たちが集まって推理合戦に。

はては世界や宇宙、心や時間を飛び越え、二転三転する、予想外のその先をいくストーリーに、本当に収拾がつくのかと、読者が心配してしまうほど。

しかし、読み終わるころには、物語は整然と収束していくのです。

もはや何と言っていいのか分からないが、ただただ面白かった……そんな感想を抱いてしまう当作品を、あなたもぜひ味わってください。

58.高田大介『図書館の魔女』

王宮の命により「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる、少年キリヒト。

史上最古の図書館に暮らし、人々から恐れられる魔女は、声を発することができない、若き少女だった。

魅力的な主人公とヒロインが織り成す、超弩級の異世界ファンタジー

高田大介氏による、全4巻、2,000ページに及ぶファンタジー大作。

ファンタジーではあるのですが、剣と魔法といったオーソドックスなものではありません。

逆に、非現実的な要素を否定するようなシーンも登場します。

そんな不思議な世界観は徹底的に練られており、驚くほどきれいな文体で表現されています。

難しい言い回しも多々見られますが、スラスラと読める印象です。

序盤はゆっくりと進行しますが、主人公が図書館にたどり着いてからは、一気にお話が展開されていきます。

タイトルにも「魔女」とついていますが、魔法的なものは登場せず、政治がメインの物語。

そして、主人公のキリヒトと、ヒロインのマツリカのキャラクターがとても魅力的。

その他の登場人物も個性が際立っており、いつまでもこの世界に浸っていたい、読み終わりたくないと思えるほどの作品です。

2013年刊行、第45回メフィスト賞受賞作。続編に「図書館の魔女 烏の伝言」があります。

59.成田 名璃子『東京すみっこごはん』

女子高生の楓は、ふとしたことからいじめに遭い、一人寂しく日々を過ごしていた。

両親もおらず居場所がなくなった彼女は、ある日、商店街の脇道に佇む奇妙な雰囲気の食堂を見つける。

年代も性別も国籍も異なる人々が集まる、癒やしの場所「すみっこごはん」

2011年、第18回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞しデビューした、成田名璃子氏の作品。

大都会の東京の片隅に佇む、不思議な共同台所。

そこで、世代も国籍も異なる人々が、一冊のレシピノートでつながる、その場限りの縁が描かれています。

その日、集まった人でくじ引きをして料理担当を決め、できたご飯を一緒に食べる「すみっこごはん」には、一見普通ですが、実は他人には言えないようなギリギリの事情を抱えている人たちが集まってきます。

ほんわかするようなエピソードばかりではなく、婚活で虚しくなり疲れ切った女性や、留学してきたが生きがいを見失ってしまった異国の男性など、その気持ちがとてもリアルに表現されており、痛いほど共感してしまいます。

そんな人たちが「すみっこごはん」に立ち寄ったことで、少しだけ道が開けてくる様子に、あなたも心が楽になることでしょう。

人と人のつながりの大切さを思い出させてくれる、心があたたまる素敵な物語です。

60.誉田 哲也『武士道シックスティーン』

中学から剣道をはじめ、楽しさ優先で勝敗は固執しない性格の早苗。

3歳から剣道をはじめ、勝敗がすべての剣道エリート、香織。

対象的な2人の女子高生は、剣道を通して深くつながっていく。

2人の女子高生が、剣道でぶつかり合いながら成長していく青春ストーリー

誉田哲也氏による、2007年の作品。

剣道に青春をかける、性格が全く異なる2人の女子高生の姿が描かれます。

日本舞踊をやめ、早苗は中学から剣道をはじめます。一方の香織は、3歳から剣道一筋。

2人は中学最後の市民大会で戦いますが、早苗が香織に勝ってしまいます。

その後、一緒の高校に進学。

香織は破れた悔しさを忘れられずにいましたが、一方の早苗はすっかり忘れています。

「柔」の早苗と「剛」の香織。互いが互いを分かりたいと願うのですが、しかし分からなくて反発し合う。そんな心情が交互に描かれつつ、物語は進んでいきます。

特に、ストイックでこんな高校生っているのかと、少し冷めて見てしまうキャラクターの香織ですが、後半の「なぜ戦うのか?」と葛藤していく姿に人間味を感じることでしょう。

青春って素晴らしい。そう感じることができる一冊です。

シリーズは続編として「武士道セブンティーン」「武士道エイティーン」「武士道ジェネレーション」が展開されています。 ぜひ続けてどうぞ。

61.米澤穂信『満願』

人を殺めた後、静かに刑期を終えた妻。明かされる本当の動機に、思わず身震いをしてしまう。

――そんな表題作をはじめ、6つの奇妙な事件が収められた、ミステリー短編集。

一番怖いのは”人間”だと改めて感じる、6つの短編

「古典部シリーズ」で有名な、米澤穂信氏による短編集。

しかし、こちらの作風は全く異なり、人間の残酷かつ醜い部分が集約されているかのような雰囲気。重厚で多種多様な6篇が収録されています。

表題作の「満願」は、司法試験勉強時代での下宿先の奥さんを弁護をする、弁護士のお話。驚愕のラストまで、目が離せない展開です。

秘境にある、自殺者が絶えない温泉宿が舞台の「死人宿」は、とても興味を惹く設定が見どころ。

毎年のごとく若い人たちが亡くなっていく峠と、そばにあるドライブインの関係が気になる「関守」は、”世にも奇妙な物語”風のお話です。

その他、「夜警」「柘榴」「万灯」など、非常に趣向に凝った、上質のミステリーが収録されています。

作品は全て暗い雰囲気が漂いますが、なぜかワクワクしながら読み進めてしまう中毒性があります。

すごい変人や狂人はいっさい登場せず、日常的に存在しそうな人間たちが織りなす物語。

そこが、より怖さが引き立つポイントでしょう。

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62、米澤穂信『氷菓』

神山高校に入学した折木奉太郎は「何事にも関わらない」がモットー。

姉の命令でしぶしぶ古典部に入部すると、そこには名家のお嬢様・千反田えるの姿があった。2人は、学園のさまざまな謎に首を突っ込んでいくが……。

古典部シリーズ第一作。アニメ化や実写映画化もされた、ライト青春ミステリー

後に「古典部シリーズ」と呼ばれることになる、軽いタッチのライトミステリーです。

シリーズ第一作であり、米澤穂信氏のデビュー作となります。

面倒なことをなるべく回避する省エネ主義の折木と、「わたし、気になります」とすぐに関心を持ってしまう千反田が、あとから入部した福部と漫研の伊原とともに学校で起きた謎を解いていきます。

ラノベ風の文体で非常に読みやすく、また主人公の驚異的な洞察力や想像力も見どころ。

物語では、タイトルの「氷菓」という名前の文集、そして33年前に学園で起きた事件の秘密に迫っていきます。

最終的に、謎は解き明かされ「氷菓」の意味も判明するのですが、予想の遥か上をいく真相に、あなたもきっと鳥肌が立つことでしょう。

2012年のアニメ化や、2017年の実写映画化、そして現在も続く漫画化と、メディアミックスで展開される人気シリーズとなりました。

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63.小林 泰三『玩具修理者』

誤って弟を死なせてしまった、主人公の私。

その死を隠すため、何でも治してくれるという「玩具修理者」に弟の”修理”を依頼する。

弟は元通りとなり、一件落着かと思いきや――。

日本ホラー小説対象で大絶賛の表題作と、描き下ろしの1篇

「玩具修理者」と「酔歩する男」の2篇からなる一冊。小林泰三氏のデビュー作です。

壊れたものを何でも修理してくれる、「ようぐそうとほうとふ」という玩具修理者。

この修理者が発する「くとひゅーるひゅー」「ぬわいえいるれいとほうてぃーぷ」など、発する言葉がひらがなで書かれており、とても不気味な雰囲気が漂います。

短い作品ですが、面白さがギュッと凝縮されており、最後の数行には、純粋に驚かされることでしょう。

一方の「酔歩する男」は、2人の男が、愛する女性が自殺したことをきっかけに、過去へ遡っていくのだが――というお話で、また違ったテイストの恐怖感。

あなたも、ページをめくる手がきっと止まらなくなるはずです。

全ての選考委員の圧倒的支持を得て、第2回日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞しています。

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64.高畑京一郎『タイム・リープ  あしたはきのう』

平凡な女子高校生の鹿島翔香は、ある日、昨日の記憶が無くなっていることに気が付く。

自分の日記を見返すと、自分の筆跡で身に覚えのない記述が――。

彼女に起こる謎の時間移動現象「タイム・リープ」とは。

よく練られ伏線回収も見事な、史上最強のタイムトラベルミステリー

前作で電撃大賞を獲った、高畑京一郎氏による2作目の作品。

主人公の翔香はある朝、月曜日だと思って行った学校で、今日が火曜日だという事実に気が付きます。

月曜日の記憶が全くなく、混乱する彼女。

そして自分の筆跡で「若松くんに相談しなさい」と書かれている日記を発見し、彼に相談します。

若松くんは、今まで接点が全くない、校内トップクラスの秀才。

彼は半信半疑ながら、彼女の記憶を分析し、謎めいた時間移動現象「タイム・リープ」を導き出します。

緻密なプロットでロジカルに進行する物語。

タイム・リープとの整合性も一切、破綻することなく大量の伏線を見事に回収していきます。

あなたも、この美しいとしか表現できない、タイムトラベルミステリーを堪能ください。

頭脳明晰で男気があり、女性にも優しいという、イケメンすぎる相棒の若松くんにも注目です。

65.太田 愛『幻夏』

川辺の流木に奇妙な印を残し、忽然と姿を消した12歳の同級生。

23年後、刑事となった相馬は、担当した少女失踪事件の現場で、同じ印を発見する。

あの夏の真実は?そして、今から何が起きようとしているのか――。

冤罪がテーマのサスペンス。ノスタルジックな描写も

テレビドラマ「相棒」の脚本で知られる、太田愛氏による作品。

小さな興信所に寄せられる、23年前に失踪した少年「尚」の捜索依頼から、物語は幕を開けます。

そして、昔の冤罪事件と失踪が、今起こっている事件へとつながっていきます。

最初に明かされた事実が、ストーリーが進むに従い、次第に意味合いが変わってくるのが圧巻です。

また、本作のテーマは「冤罪」。

至高のサスペンスとともに、日本の司法のあり方など、とても考えさせられる作品でもあります。

さらに作中では、相馬が少年時代、尚やその弟の拓と過ごした、幻のような輝かしい夏休みが描かれます。

大したことでは無いのに、小さな冒険のように感じられた、数々の出来事。

あなたも、あの懐かしい日々を思い出し、ノスタルジックな気分に浸ることになるでしょう。

読み進めていくと、実はシリーズ物の2作目ということに気付きます。

第一弾は「犯罪者」という作品です。

物語は全くの別物ですが、本作の登場人物のやり取りで、この作品を踏まえた部分がありますので、こちらもぜひ、読んでみてください。

66.京極夏彦『魍魎の匣』

昭和27年、夜中の中央線で一人の女学生がホームから落ち電車に轢かれる。

匣の館に運び込まれる瀕死の彼女。しかし、忽然と姿を消してしまう――。

世間を騒がせるバラバラ殺人事件、そして怪しげな新興宗教の噂とは。

百鬼夜行シリーズ最高傑作とも言われる、妖怪談義と憑き物落とし

本作は、京極夏彦氏の「百鬼夜行シリーズ」第2作目となります。

同シリーズは、古本屋「京極堂」を営む陰陽師・中禅寺秋彦が、難事件を解決していくという物語。

当作品では、柚木加菜子という美少女が、駅のホームで人身事故に遭ったところから始まり、その後も次々と事件が起こっていきます。

また、1,000ページにも渡る長編で、膨大な情報量と緻密なストーリーで構成されており、圧巻です。

物語では一見、超常現象があったように見えますが、実は現実的にきちんと説明できることしか起きていないという点が非常に面白く、見どころでしょう。

2007年に実写映画化され、2008年にはアニメにもなっており、アニメ版は、漫画家の「CLAMP」がキャラクター原案を担当して話題となりました。

67.高見 広春『バトル・ロワイアル』

1997年の大東亜共和国。

修学旅行のバスごと無人島に拉致された、城岩中学校3年B組の七原秋也ら生徒42人は、政府主催の殺人プログラムに強制参加させられる。

生還できるのは一人のみで、そのためには他の全員を殺害しなくてはならない――。

発表当時に日本中で話題となった、説明不要のデスゲームノベル。

高見広春氏のデビュー作にして、唯一の発表作品。

1997年に発表されたこの作品は、第5回日本ホラー小説大賞の最終選考まで残りますが、その残

虐な内容に批判が集まり、落選してしまいました。

しかし、これがかえって話題となり、出版後は100万部を超える大ヒットとなります。

その内容は、政府主催の”プログラム”によって、中学のクラスメイト同士が殺し合うという、当時としては衝撃的な題材。

しかし作中では、極限状態における生徒一人ひとりの苦悩や葛藤が、バックボーンからプロットを含めて細かく描写されており、こちらがメインテーマです。

人間の強さと弱さ、そして信じることの難しさ、さらには人生とは何か?そんなことを考えさせられる一冊です。

2000年には映画化もされますが、こちらでも国会に取り上げられるほどの問題に発展した結果、「R-15」指定を受けることになりました。

68.伊藤計劃『ハーモニー』

21世紀の後半、後に「大災禍」と呼ばれる世界規模の混乱を経て、高度な福祉厚生社会を築き上げた人類。

病気が存在せず、一見やさしさや思いやりに満ちた「ユートピア」を憂い、3人の少女は自殺を図る。

13年後、この世界を憎む霧慧トァンは、再び「地獄」に身を投じる。

ユートピアは人間にとって本当に幸せなのか?考えさせられるSF作品

SF作家、伊藤計劃氏による2作目の一冊。

小型のデバイスを身体に埋め込むことによって、ほぼ病気にならない代わりに、各個人の行動がすべて監視の上、管理されているという世界観で、物語は展開していきます。

科学によって、人類に幸福をもたらしたはずの社会。そこに潜在する矛盾が表現されています。

人間にとって「幸福」とは何か、そして「苦悩」とは何か。

完成されたユートピアにおいて、その世界を憎悪する少女の姿から、実は我々が向かっている未

来はディストピアなのかと、非常に考えさせられる内容です。

作中、プログラム言語のような記述が散見されますが、ラストにオチが用意されていますので、意識して読まれるといいでしょう。

そして、作中には明示されていませんが、作者の前作「虐殺器官」の後の世界が描かれています

残念ながら、作者の伊藤氏はデビュー2年後の2009年、34歳で死去されてしまいました。

しかし、死後も影響を与え続け、2015年には映画化も果たしています。

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69.筒井康隆『時をかける少女』

クラスメイトの男子2人と仲良くする女子高生。

ある日、故障した自転車で交通事故に巻き込まれそうになった瞬間、彼女はタイムリープしてしまい――。

細田守監督の映画で有名な、ほのかな恋とタイムリープの物語

筒井康隆氏による、1967年刊行のラブロマンス・タイムトラベラーもの。

表題作が非常に有名ですが、実は短編。

表題作は、映画やアニメなど、これまでいくつも映像化されてきました。

約50年前に描かれたとは思えないほどの新鮮さで、短い中に面白さが凝縮されています。

少し切ないですが、希望を残したラストは見逃せません。

70.田中芳樹『銀河英雄伝説 1 黎明編』

銀河系に一大王朝を築いた帝国と、民主主義の自由惑星同盟が繰り広げる、飽くなき闘争。

帝国の天才「ラインハルト」と、同盟の”不敗の魔術師”「ヤン・ウェンリー」が相まみえる。

壮大な宇宙叙事詩がいま、始まる。

日本SFの古典にして大傑作。壮大なスケールのスペースオペラ

田中芳樹氏による、SF大巨編。

日本のSFを語るにあたって、絶対に外すことができない名作です。

1982年に刊行された当作品は、ベストセラーかつロングセラーとなり、第一巻は20年目で100万部を突破しています。

舞台は遠い未来。

銀河帝国と、民主主義の自由惑星同盟による、宇宙の覇権争いの中で、前者のラインハルト・フォン・ローエングラムと、後者のヤン・ウェンリーの2人を軸に、スペースオペラが展開されます。

第1巻となる本作では、アスターテ会戦、イゼルローン攻略作戦、アムリッツァ会戦の3つの大戦闘が、惜しげもなく収録。

作中では、両者のイデオロギーをはじめ政治闘争やその腐敗、登場人物や繰り広げられる宇宙船の戦闘など、本当にあった歴史のような流れで、話が進んでいきます。

群像劇のような側面もあり、2人の英雄の他にも、キルヒアイスやユリアンなど、個性あふれる、とても魅力的なキャラクターが次々と登場します。

これから両英雄は、どのように相まみえていくのでしょうか。ぜひご覧ください。

71.多崎礼『煌夜祭』

冬至の夜。

仮面をつけて正体を隠し、古今東西の物語を口伝する”語り部”が、どこからともなく集まってくる。

今年も始まる「煌夜祭」。廃墟の中で、語り部の2人が紡ぐ物語。

短いお話が積み重なって1つの物語に集約される、完成度の高いファンタジー

多崎礼氏による、大人のためのファンタジー小説。

冬至の夜、語り部が夜通し語り合うという煌夜祭において、集まった2人の話を中心に、物語は進んでいきます。

語り部2人の話によって、だんだんと舞台の島、そして魔物の歴史が形成されていきます。

読み手がそれに惹き込まれながら、次第に仮面の2人の招待が気になってくるという構成です。

魔物と人、昼と夜、語り部、錬金術師、そして魔女と不遇の王子。交互で語られる、1つ1つの物語は、最後に糸を紡ぐように繋がっていき、まさに圧巻。

これが、作者のデビュー作とは思えないほどの完成度です。

切なく哀しい壮大な物語を、あなたも堪能してみませんか。

72.宮部みゆき『火車』

担当した事件で傷を負って休職中の刑事、本間俊介。

遠縁の男性から、自分の婚約者である関根彰子を探してほしいと依頼を受ける。

彼女は徹底的に痕跡を消し、自らの意思で失踪していた。

なぜ彼女は、姿を消さなければならなかったのか――。

多重債務者の悲惨な人生が明らかになっていく、ミステリーの傑作

宮部みゆき氏による、ミステリー小説です。1998年発刊。

山本周五郎賞に輝いた傑作で、2011年にはテレビドラマ化されています。

今や仮想通貨やキャッシュレス決済など、当たり前になっていますが、当時表面化していた「カードローン」や「自己破産」の問題をテーマとした物語。

休職中の刑事が、遠縁となる男性から婚約者の捜索を依頼され、行方不明となった女性を追いかけていきます。

捜査の過程で次第に明らかになる、彼女の真実。

そして、住宅ローンやカードローンを抱える多重債務者の、悲惨な現実。

600ページある長編ですが、どんどんと引き込まれていきます。

多くを語らず、読者にその後の展開を想像させるラストシーンも秀逸です。

時代背景は古くなってはいるものの、今も色褪せない、クレジットカードの怖さを伝える作品。

学校では教えてくれないお金の教育として、子どもにもぜひ読ませたい一冊です。

73.殊能将之『ハサミ男』

2003年の東京。

別々に殺害された2人の女子高生の喉には、ハサミが深く刺さっていた。

マスコミより「ハサミ男」と名付けられた彼は、3人目の犠牲者を探していく中、彼と全く同じ手口で殺害された死体を発見する。

先を越された彼は、誰の仕業なのか調査を開始する。

殺人事件の犯人が自分の模倣犯を追っていくという、新しい展開の作品

1999年に当作品で第13回メフィスト賞を受賞した、殊能将之氏のデビュー作。

2005年には、豊川悦司、麻生久美子主演で映画化されたこの作品は、連続美少女殺人事件を起こした主人公の「ハサミ男」が、自らの模倣事件に巻き込まれるという、新しい展開の物語。

事件が起こった後は、ハサミ男と警察の視点が、交互に描かれていきます。

内容は悲惨な事件なのですが、文体とハサミ男の不思議なキャラクターが影響して、思わず読みながらミートパイを食べたくなるような、呑気な雰囲気。

一方で、作中のあらゆるところに、注意深く伏線がはられており、ラストもしっかりとどんでん返しが起こります。

違和感と思う部分を感じ取りながら、作者に挑戦するのもいいでしょう。

なお、覆面作家として活動されていた作者の殊能将之氏は、残念ながら2013年に亡くなっています。

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74.倉知淳『星降り山荘の殺人』

中規模広告代理店で働く杉下和夫は、上司と揉めたことをきっかけに、芸能部に左遷される。

そこでマネージャー見習いとして担当したのが、スターウォッチャーの星園詩郎だった。

2人は仕事で山荘に訪れるが、翌朝、他殺死体が発見される。

予備知識なしで読むべき、衝撃のミステリー作品

倉知淳氏の、本格ミステリー作品。500ページの大作です。

ミステリーに限らず、予備知識を入れずに読み進めるべき作品は存在します。

当作品も、まさにその1つ。レビューも読まない方がいいかも知れません。

雪の山荘で殺人事件が発生し、名探偵が推理して真実にたどり着き解決するという、王道のクローズドミステリー・・・題名や扉絵を見ると、そんな印象を受けるでしょう。

登場人物も少なく、舞台も山荘のみ。

しかし――ここで明かしてしまうと本書の楽しみが半減してしまいますが、読み進めていくと、

この作品ならではの個性を、きっと感じてくるはずです。

そして、ラスト40ページのどんでん返しは圧巻の一言。

ぜひ、頭を真っ白にして、当作品の脳天がしびれるほどの衝撃を体感してください。

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75.野尻抱介『南極点のピアピア動画』

月に彗星が衝突したことで、携わっていた月面探査計画が頓挫し、恋人にも逃げられてしまった大学院生の蓮見省一。

すべてを失った彼は、ピアピア動画でボーカロイドに彼女への想いを歌わせていた。

しかし、衝突によるジェット気流で、宇宙に有人飛行できることを発見する。

ニコニコ動画、ボーカロイドなど、古き良きネット文化を感じる作品

ハードSFで名を馳せる、野尻抱介氏による作品。

本作は、国内最大級の動画サイトである「ピアピア動画」と、人気のボーカロイド「小隅レイ」を橋渡し役として展開される、理系のオタク達が夢と野望を叶えていくお話です。

宇宙開発から深海探査、そして異星人とのファーストコンタクトを題材にした、短編の連作集となっています。

ストーリーの序盤は、ピアピア動画を利用した、大人のハードな遊びという感じで展開していきますが、だんだんとスケールアップし、いつしか世界を巻き込む一大プロジェクトに。

2012年発刊とあって、当時盛り上がっていた「ニコニコ動画」など、この時代の古き良きネット文化の要素が散りばめられています。

癖の強い作品ですが、星雲賞作家によるSFの名作ですので、ぜひ読んでみてください。

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76.三浦しをん『舟を編む』

言葉への鋭いセンスを買われて、辞書編集部に引き抜かれた、出版社の営業部員、馬締光也。

彼は編集部のメンバーと新しい辞書『大渡海』の完成に向け奔走する。

辞書づくりに情熱を傾ける、個性豊かな同僚たち。そして彼は、運命の人と出会う――。

辞書の編纂がテーマ。とても熱量あふれる物語

辞書を編纂するという仕事という、とても珍しいテーマの作品です。

個性的なスタッフが集まり、新しい国語辞典を制作していく過程が描かれています。

言葉という大海に溺れず進んでいける舟ということで、辞書づくりを「舟を編む」と表現。

辞書を編纂する仕事が、途方も無い作業だということを、タイトルは示しています。

また、登場人物もキャラクターが濃く、言葉に対する熱量も相まって、思わず胸が熱くなってしまうお話です。

作品の主人公は、あくまでも馬締光也ですが、同僚の編集部員たちの物語とも言えます。

読み終わる頃には、あなたも辞書を手にしたくなるでしょう。

何か目標に向かって努力されている方、恋をしたいと思っている方におすすめの作品です。

77.小松左京 『果てしなき流れの果てに』

無限に砂が流れるという不思議な砂時計が、なぜか中世代の地層から発見された。

理論物理学研究所の野々村は砂時計の見つかった古墳に赴くが、帰還後、次々と変死、行方不明、意識不明となる関係者たち。

それは、時空を超えた壮大な物語の始まりに過ぎなかった――。

とてつもなく壮大なスケールで展開する傑作

「日本沈没」で有名な、小松左京氏による長編SF。

1960年代の作品ですが、いまだ色褪せない傑作です。

恐竜がいる時代から未来の果ての果てまで、時間軸と宇宙空間をダイナミックに使うという、小松左京氏にしか描けない、予想をはるかに超えるスケール。

とにかく時間や空間をとてつもない距離で自由に行き来するため、話についていくのは大変ですが、点と点がつながるように、少しずつ判明していく事実に、とてもワクワクさせられます。

まるで、壮大な宇宙旅行をした気分を味わえますよ。

ラストは、野々村が果てしない流れの果てにたどり着いたところで幕を下ろします。

一体、どんな景色が読者を待っているのでしょうか。

78.司馬 遼太郎『竜馬がゆく』

幕末の土佐藩に生まれた坂本龍馬。

弱気で泣き虫、かつ学問も剣術もからっきしダメな彼だったが、江戸で修行を積み、一流の剣士となる。

黒船襲来をきっかけに勤王党に入り、攘夷思想を持つが、思想的乖離が決定的となり、脱藩して自由に活動を始める。

一般的な戦後の竜馬像をつくりあげた、司馬遼太郎氏の歴史小説

明治維新を先導した、坂本龍馬が主人公の長編歴史小説。

1962年に発表された、司馬遼太郎氏の代表作で、全8巻が刊行されています。

今日における竜馬のイメージは、この作品で確立されたといっても過言ではないほど、世間に大きな影響を与えました。

第一巻は、幼年期から20代前半頃までの坂本龍馬が描かれ、近江屋事件で暗殺されてしまうまでを、8巻に渡って語られていきます。

激動の幕末や、坂本龍馬その人に興味がある方には、ぜひ手にとっていただきたい名作です。

なお、たいへん素晴らしい作品ですが、司馬氏による創作で、史実とは異なる描写もあります。あくまでも娯楽小説として楽しみましょう。

何度もテレビドラマ化されており、’65年版、’68年版、’82年版、’97年版、’04年版が存在します。

79.アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』

イギリスの「兵隊島」に招待される、8人の男女。

しかし、2人の召使いはいたものの、招待主の夫妻は姿を表さず、送られた招待状もニセ物だと判明する。

不安のなか始まった晩餐で、告発される彼らの罪。その直後より、1人、また1人と、不審な死を遂げていく。

クローズド・サークル+見立て殺人。ミステリーの古典的原点

クリスティの作品の中でも特に評価が高く、ミステリーの金字塔となっている作品。

絶海の孤島が舞台で、クローズド・サークルの代表として、よく名前が挙がります。

また、見立て殺人の代表的な作品としても、以後のミステリー作品に多大な影響を与えています。

物語では、島の館に集まった10人が、童謡の歌詞に沿って、1人ずつ殺されていきます。

そして、タイトルの通り「誰もいなくなる」という、人が減っていく緊張感がたまりません。

トリックはシンプルですが、登場人物の過去を絡めながら、疑心暗鬼になっていく10人。

この心理描写が素晴らしく、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。

また、ラストで明かされる犯人と、その動機が衝撃的です。

読了後は、綾辻行人さんの『十角館の殺人』など、当作品から着想を得て執筆された数々のオマージュ作品についても、合わせて読んでみるといいでしょう。

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80.アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』

イギリスの片田舎にある屋敷で、家政婦の葬儀がしめやかに行われていた。

彼女は、伴のかかった屋敷の階段から落ちて死んでいるところを発見され、不慮の事故死として処理される。

その息子、ロバートは自分が母親を殺したのではと噂されたため、名探偵に捜査を依頼する。

構想から執筆まで15年。二重三重の驚きに満ちたミステリー

2016年にイギリスで刊行された、アンソニー・ホロヴィッツ氏の推理小説です。

作中作となる「カササギ殺人事件」を巡って、編集者のスーザンが一人奮闘するという物語。

上下巻の2巻構成で、その下巻では上巻からの流れが一気に変わりますので、頭が大混乱することでしょう。

ミステリーの中にミステリーが組み込まれており、内側の物語が外側の物語とつながっていく過程が非常に面白く、今までにない斬新な手法が使われています。

1作品で2度美味しい、そんなお得な作品です。

作者は「これまで誰もやっていないことに挑戦したかった」と語っており、アガサ・クリスティへのオマージュも込めて、構想から執筆まで15年かかっているという力作。

このミステリーがすごい!、週刊文春ミステリーベスト10、本格ミステリ・ベスト10、ミステリが読みたい!の各賞における、海外部門4冠を達成し、2019年本屋大賞の翻訳小説部門1位など、日本でも非常に高く評価されました。

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81.エラリイ・クイーン『エジプト十字架の秘密』

ウェストバージニアの片田舎で、T字路にあるT字型の道標に磔にされた、首なし死体が発見される。

迷宮入りするかに見えた事件は、6ヶ月後、T字型のトーテムポールに磔にされた首なし遺体が発見され、大きな展開を迎えていく。

読者への挑戦状を確立した、エラリー・クイーン氏の最高傑作

アメリカの推理作家、エラリー・クイーン氏の推理小説です。1932年刊行。

タイトルに国名が入った、同氏の「国名シリーズ」として有名で、他に8つの作品が存在します。

この作品は500ページほどの長編で、シリーズ最高傑作と言われています。

他の推理小説なら、メインに持ってくるようなトリックが、贅沢に連発されていきます。

これが読者を飽きさせず、中だるみしやすい中盤も夢中になって読み進めることができるでしょう。

また、推理小説において、真相が語られる前に読者に対して示される「読者への挑戦状」は、エラリー・クイーン氏が確立した手法です。

もちろん、この作品にも提示されますので、ぜひ作者に挑戦してみてください。

なお、国名シリーズとしては5作目ですが、この作品だけでも十分に楽しめます。

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82.エラリイ・クイーン『Xの悲劇』

満員列車の中で、ニコチン液に浸した針を凶器とした殺人事件が発生する。

捜査の過程で1人の容疑者が逮捕され裁判にかけられるが、無罪放免となる。

しかし彼も、釈放後に乗り合わせた列車の中で射殺されてしまう。

その左手は、中指と人差し指で「X」の形を作っていた。

魅力的なキャラクター、ドルリー・レーンが活躍する不朽の名作

エラリー・クイーン氏による、1932年刊行の長編推理小説。

「エラリー・クイーン」とは2人の作家による合作時のペンネームであり、彼らの作品には同名の探偵が登場します。

一方で、「ドルリー・レーン」という名探偵が登場するシリーズも存在し、この作品はその第一作目となります。

このドルリー・レーンは、50代の元俳優で、聴覚がありませんが読唇術で会話は成り立ち、変装が得意という異色の探偵。

このキャラクターが非常に格好良く、作品の見どころの1つになっています。

また、舞台は1930年代のニューヨークですが、古臭さは全く感じることはなく、違和感なく読み進めることができ、想像を遥かに超える真相も用意されており、間違いなく傑作でしょう。

「悲劇シリーズ」4部作の1つとなる当作品は、単体でも楽しめます。

しかし、ドルリー・レーンの時系列をたどることができるため、X、Y、Z、そしてレーン最後の事件と、順番に読み進めるといいでしょう。

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83.コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』

19世紀のロンドンに登場した名探偵、シャーロック・ホームズは、次々と巻き起こる奇怪な事件を見事に解決していく。

その彼の活躍を、忠実なる助手のワトソンが綴る。

世界で一番有名な名探偵、シャーロック・ホームズの活躍を描く、初の短編集

イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイル氏による、シャーロック・ホームズシリーズの短編集です。

長編小説である「緋色の研究」「四つの署名」に続く作品で、1892年に刊行されています。

19世紀末に描かれた推理小説の古典ですが、今読んでも色褪せない、ミステリーの教科書のような面白さを味わうことができます。

どの短編も、依頼人が事件を持ち込み、それをホームズが解決していくという、まさに推理小説における鉄板の流れ。

また、全てホームズによってスッキリと解決されますので、爽快な読了感があります。

見どころは、ホームズの優れた洞察力でしょう。

依頼人を一目見るなり、職業や身体能力、近況などをピタリと言い当ててしまうのです。

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84.ロバート・A. ハインライン『夏への扉』

親友マイルズと会社を興した、天才発明家のダン。

しかし、秘書で婚約者のベルと共謀され、会社を追われてしまう。

さらにダンはベルに麻薬を注射され、コールドスリープとなった。

30年後に目覚めた彼は、自分を慕ってくれていた心優しいマイルズの義理の娘を追う。

猫好きによる猫好きのためのSF小説。タイムパラドックスがテーマ

世界SF作家におけるビッグスリーの1人とも言われる、ロバート・A・ハインライン氏による、1956年の作品です。

本作はタイムトラベル、タイムパラドックスがテーマで、当時における1970年、そして2000年の近未来が描かれており、半世紀に渡って世界中で名作として愛されてきました。

驚くべきは、その近未来でのシーンで、1970年には現代の「ルンバ」のようなロボット掃除機が、そして2000年にはKindleのような読書用デバイスが、それぞれ登場します。

この1950年代で想像された、オリジナリティあふれる近未来ガジェットの鮮やかな描写が、見どころの1つです。

また、作者が冒頭に「世のすべての猫好きにこの本を捧げる」と書いていることからも分かるとおり、本作は別名「猫SF」とも言われています。

ダンの愛猫である「ピート」とのユーモアあふれるやり取りなど、猫好きな方は思わずクスッとさせられてしまう、そんなシーンがいくつもあります。

その他、SFファンだけではなく、ジュブナイルものや恋愛ものが好きな方にも、おすすめの一冊です。

なお、本作を原作とした映画「夏への扉―キミのいる未来へ―」が、2021年に公開。

映画の主題歌「サプライズ」は、LiSA氏が描き下ろしています。

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85.ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』

月面調査隊は、月で人の遺体が発見する。

驚くことに、その遺体は5万年前の人間のものだった。

チャーリーと名付けられたその遺体の構造は、現代人とほぼ変わらないことが判明する。

果たして彼は何者で、どこからきたのだろうか――。科学者たちが、その謎に挑む。

月面で発見された5万年前の遺体の謎に挑む、SFミステリー

1977年に刊行された、ジェイムズ・P・ホーガン氏のデビュー作。

月で見つかった死体の謎を解明するという、SFミステリーと呼べる一冊です。

遺体の前には、あらゆるジャンルのスペシャリストが集結し、調査が繰り広げられます。

彼らによる白熱した議論、紆余曲折する解釈、新しい発見によるどんでん返しなど、謎が謎を呼ぶ展開に、あなたもワクワクしながら読み進めることでしょう。

難しい科学的な理論も出てくるので、少し読みづらい箇所もあるかも知れませんが、それを差し置いても、本格的なハードSFを味わうことができますよ。

なお、続編として「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」「内なる宇宙」「Mission to Minerva(未訳)」が存在し、シリーズは「巨人たちの星シリーズ」と呼ばれています。

86.アーサー C クラーク『幼年期の終り』

米ソによる宇宙開発競争が激化した20世紀後半、突如として世界の主要都市の上空に巨大な宇宙船が出現する。

地球を自分たちの支配下に置くと宣言した彼らは、特に支配するような素振りは見せず、自分たちの科学力を授けていく。

あらゆる苦悩から開放された人類だったが――。

圧倒的なスケールで語られる、異星人とのファーストコンタクト

イギリスのSF作家、アーサー・C・クラーク氏の長編小説です。1952年の刊行。

異星人とのファーストコンタクトがテーマの物語は、冒頭からインパクトのあるシーンが広がります。

異星人が乗る宇宙船の襲来から始まり、数十年の単位で進んでいく物語の時間。

視点もどんどん変わっていきます。

人類には干渉するものの、侵略は支配はせず、姿を表さない異星人。

この「オーバーロード」と呼ばれる、彼らの目的は、一体何なのか?

70年近く前の作品とは思えないほど、むしろ新鮮にすら感じてしまうスケールとストーリーに、あなたはきっと唸ってしまうでしょう。

広大な宇宙からすれば、人間はとてもちっぽけな存在だという事実を、浮き彫りにさせる作品ですよ。

SFファンであれば、必ず読んでおきたい一冊です。

87.フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

第三次世界大戦によって、放射能灰に汚染された地球では、生きた動物を所持していることがステータスとなっていた。

人工の電気羊しか持たないリックは、本物の生きた羊を手に入れるため、逃亡して懸賞金がかかる火星のアンドロイド8人を狙い、決死の狩りを始める。

人間とアンドロイドの違いとは?映画「ブレードランナー」の原作小説

フィリップ・K・ディック氏による、1968年発表のSF小説。

本作は、本物の人間とアンドロイドとの区別や、両者の関係性がテーマとなります。

舞台は世界大戦によって荒廃し、生物が貴重となった世界。

昆虫一匹にしても、法律で厳重に保護されている一方で、科学技術は発展を遂げ、自分が機械だと判別できないほどのアンドロイドが存在していました。

そして、電気羊を飼う賞金稼ぎの主人公・リックは、本物の羊を持てるような経済力を手に入れるため、逃亡アンドロイド狩りを引き受けます。

しかし、アンドロイドを追って処分していく中で、あまりにも人間的なアンドロイドと遭遇した主人公は「人間とは何か?」「人間とAI(アンドロイド)の違いは何なんだろうか?」といった疑問を持っていくのです。

特徴的なタイトルは、この主人公の素朴な疑問をそのまま表しています。

1982年公開のSF映画「ブレードランナー」の原作となった、直球のSF作品。

読み進めていくと、あなたも「人間性」について、考えさせられることになるでしょう。

著:フィリップ・K・ディック, 著:浅倉 久志, イラスト:カバーデザイン:土井宏明(ポジトロン), 翻訳:浅倉久志
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88.ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』

優しい性格の青年チャーリイは知的障害を持っており、賢くなって周囲の友だちと同じになりたいと願っていた。

パン屋で働きながら、知的障害者向けの学習クラスに通うチャーリイ。

担任に勧められて脳手術の臨床試験を受け、驚異的なIQを手に入れるのだが――。

アルジャーノンとチャーリイ。幸せとは何かを考えされられる一冊

1959年に中編小説として発表された当作品は、1966年に長編小説として再構成され、アメリカのSFの賞で最も重要な賞である「ネビュラ賞」を受賞しています。

作品は、主人公・チャーリイ・ゴードンの視点による一人称で書かれ、序盤はひらがなだらけで構成されていますが、彼の知能の変化によって、文体も変わっていきます。

ここに、翻訳者の並ならぬ努力を感じます。

重度の知的障害から天才になることで、知らなくてもいいことまでも知ってしまうチャーリイ。

読者は、作品を通して「知識があるだけでは愚か」で「実は、知識を持つ前も人間だった」ことに気付かされます。

そして「幸せとは何か」を、真剣に考えされられる作品となっています。

タイトルの「アルジャーノン」とは、彼と同じ手術を受けたハツカネズミを指します。

全てを読み終わった後、改めてタイトルを見ると、思いがこみ上げてくることでしょう。

なお、海外にて映画化4回、日本でもテレビドラマ化が2回、なされており、直近では2015年に山下智久さん主演、栗山千明さん助演で制作されています。

89.ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』

ドイツ・ハンブルクに住む鉱物学教授のオット―は、骨董店で見つけた古書から、ルーン文字で書かれたメモを発見する。

暗号解読に成功した彼は、甥のアクセルと共に、そこに書かれていた「地底への入り口」を目指し、アイスランドへ旅立つ。

江戸時代に書かれた、未知で危険な地底世界を旅する冒険譚

「海底二万里」で有名なSFの父、ジュール・ヴェルヌ氏の初期の作品。1864年発表。

ドイツの鉱物学教授が、アイスランドにある火山の火口から地底世界を旅する様子を、甥のアクセルの視点で描かれた物語です。

作品の序盤、地底の入り口を目指して、迷いながらひたすら歩くという展開なのに、なぜかドキドキしてしまうような面白さ。

150年以上前につくられた作品で科学描写に誤りもありますが、物語にはリアル性があり、実際にスリルあふれる冒険をしているかのような気分を味わえます。

また、強引に意思を貫き通す教授と、しぶしぶ付き合わされる甥、そして途中で雇われ一緒に地底に降りる、ガイドのハンスが見せる強さも、この作品の見どころの一つでしょう。

アメリカで4度も映画化された本作品は、今も色褪せない、SFファン必見の一冊です。

90.ウイリアム・アイリッシュ『幻の女』

外に愛する女性を持ち、妻のマーセラに離婚を申し出るスコット。

しかし話し合いを拒否された彼は、家を飛び出した先のバーで”幻の女”と出会い、一時を過ごす。

深夜、家に戻ると妻が絞殺されていた。

その場で逮捕されたスコットは、妻殺しの罪で死刑を宣告されてしまう――。

百人いたら百人が満足する、古典名作ミステリー

アメリカの推理小説作家、コーネル・ウールリッチ氏が「ウィリアム・アイリッシュ」名義で1942年に出版した、ミステリー小説です。

全23章で構成される作品では、各賞のタイトルが「死刑執行前○日」など、裁判の結果、死刑となったことから、物語の進行に合わせてカウントダウンするように構成されています。

犯人の意外さや複雑なトリックがあるわけではなく、死刑執行までに冤罪のスコットを救うことができるかどうか、また証人を見つけては失っていくという緊迫感やドキドキハラハラ感を楽しめる作品です。

美しくおしゃれな文体も、見どころでしょう。

文藝春秋「東西ミステリーベスト100」の1985年版で2位、2012年版で4位など、数々のミステリー関係のランキングで評価される本作品は、かの江戸川乱歩も終戦後からあらゆる手を尽くして原書を入手したという逸話もある名作です。

91.ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイクガイド』

ある日、宇宙船団が飛来し、「銀河ハイウェイ建設工事の立ち退き期限が過ぎたので、工事を開始する」と人類へ一方的に通告。

地球を破壊してしまう。生き残った地球人のアーサーは、仲間とともに宇宙を放浪していく――。

ブリティッシュジョーク満載の、振り切れた宇宙SFシリーズ

イギリスの脚本家、ダグラス・アダムスによるSF作品。

1978年のラジオドラマでスタートしたシリーズは、同氏によって、翌年より小説版も執筆されていきました。

映像化も果たしたこの作品は、最初から最後まで、とにかく破天荒な展開が続いていきます。

しかし、読み進めていくと慣れてしまうのが怖いところ。

この振り切れ具合が、長い年月が経過しても色褪せない要因なのでしょう。

最近のSF作品と言われても、何の違和感もありません。

作中では地球が木っ端微塵にされ、その後も我々の常識を超えた内容が盛りだくさん。

数ある宇宙ものSF作品の中でも、特に尖った存在でしょう。

銀河ヒッチハイク・ガイドシリーズは、計6作から構成され、正篇3作のほか、続篇が2作と外伝1つが存在します。

イギリスの国営放送、BBCによってテレビドラマにもなり、2005年には映画化。

日本でも同年、公開されています。

92.オグ・マンディーノ『十二番目の天使』

世界第3位のコンピュータソフト会社において、最高経営責任者に就任した主人公。

幸せの絶頂にあった彼だったが、その2週間後、妻子を交通事故で亡くしてしまう。

打ちひしがれ、自殺も考えた彼に、親友はリトルリーグ「十二番目の天使」の監督就任を依頼する。

身構えていても泣いてしまう、生きる勇気をもらえる一冊

世界で一番多くの読者を持つ自己啓発書作家といわれる、オグ・マンディーノ氏による小説。

物語は、愛する家族を築き、仕事でも成功した主人公のジョンが、突然家族を亡くし、生きる意味を見失ってしまったところから始まります。

そして、人生のどん底にいる彼は、引き受けたリトルリーグの監督を通じて、1人の少年と出会うのです。

見どころは、野球は下手だが必死に練習するこの少年、ティモシーとの交流でしょう。

何をやってもなかなか結果が出ない彼ですが、決して腐らず「毎日少しずつ自分は良くなっている」「絶対にあきらめない」と、前向きな言動で自身を鼓舞し続けます。

この少年との出会いによって、ジョンの人生は再び動き出していくのです。

また情景描写が豊富で、中学・高校時代に、部活に打ち込んでいた方は懐かしくも感じられるでしょう。

編集者ですら、編集中に泣いてしまうという作品。

野球が全くわからない方でも読みやすいため、社会に揉まれて心が乾いてしまった方に、ぜひおすすめする1冊です。

小さなエンジェルから、「生きる気力」をもらってください。

93.ミヒャエル・エンデ『モモ』

円形劇場の廃墟に住みついた、不思議な少女モモ。

町の人は、粗末な身なりをした彼女に話を聞いてもらうことで、幸せな気持ちになっていた。

しかし、世界中の余分な時間を盗む「灰色の男たち」の出現によって、町中の人は次第に心の余裕を無くしていく。

余裕のない現代社会に対する警鐘。社会人が読むべき一冊

「はてしない物語」で有名なミヒャエル・エンデ氏が、1973年に発表した作品。

時間がテーマとなっており、「時間の大切さ」そして「豊かに生きる」ことの大切さを考えさせられる、児童文学書です。

作中では、現代人が思わず口にしてしまう「忙しい」「時間がない」などの言葉を、町の人たちもつぶやき、そして時間泥棒によって時間が奪われていきます。

そんな時間泥棒「灰色の男たち」に、モモは対峙していくのです。

多忙な日常を送っているあなたも、きっとこの町の人たちにご自身を重ね合わせ、思わずモモの活躍を応援してしまうことでしょう。

このスリルある展開を通して、作者のエンデ氏は、時間に追われる現代社会に対して、警鐘を鳴らしています。

読んでいく内に、スマホもネットもなく、時間がゆっくりと進んでいた一昔の生活が、いかに贅沢だったのか、あなたも思い知るはずです。

94.ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』

いじめられっ子で居場所もない、少年バスチアン。

ある日、たまたま一冊の本「はてしない物語」と出会う。

彼は、本の中の世界「ファンタージエン」に入り込み、旅を通じて本当の自分を探していく。

日本と関わりが深いエンデ氏による、愛することの尊さを教える本

ミヒャエル・エンデ氏は、児童文学という枠を超えて、現代社会のさまざまな問題点を訴え続けた、ドイツの作家です。

映画「ネバーエンディング・ストーリー」の原作として有名な当作品は、「モモ」と並び、エンデ氏の代表作と言われています。

さして取り柄もない上に、母親を亡くして父親とも確執があり、居場所がない、少年バスチアン。

彼は、いじめから逃げた先にあった本「はてしない物語」の中で、さまざまな場所を訪れ、いろんな人とふれあい、そして大切な友との出会いを通じて、「愛とは何か」を少しづつ理解していきます。

作品は、かなりのボリュームですが非常に読みやすく、一気に最後まで進んでしまうでしょう。

映画を見た方でも、もう一度読んでみると、新たな発見や物語の奥深さに、思わず鳥肌が立つはずです。

児童文学ですが、エンデ氏が作品に込めた深いメッセージを、社会人のあなたこそ、見つけ出してください。

なおエンデ氏は後に、当作品の翻訳者である佐藤真理子氏と結婚。

また、長野県信濃町の「黒姫童話館」には、本人寄贈の作品資料が世界で唯一、展示されています。

95.スティーヴン・キング『IT』

小さな町に暮らす、7人の子どもたち。

それぞれ問題を抱える彼らは、居場所のない子供たちが集まる「ルーザーズ・クラブ」で交流していた。

そこに、奇怪なピエロ、ペニーワイズが現れる。

「IT―それ」と呼ばれた彼は、子どもたちをどん底の恐怖に突き落としていく。

はみだしクラブの少年少女7人が、”それ”に立ち向かう青春小説

映画原作「スタンド・バイ・ミー」で有名な、スティーブン・キング氏による一冊。

文庫で4冊のボリュームとなる長編小説は、1990年、2017年に映画化されました。

そして、2019年には、続編となる「IT/イット THE END ”それ”が見えたら、終わり。」が公開されています。

ティーンエイジャーの描き方が、とても秀逸なキング氏。

この作品も、子どもが抱く恐怖や、親への疑問などがとてもリアルに表現されており、かつ丁寧に描かれています。

コンプレックスを持つ「はみだしクラブ」の11歳の少年少女たち。

彼らは、友人のため、いなくなった家族のため、そして何より自分自身のために、見えない敵である「ITーそれ」を倒すべく、立ち上がります。

少年少女たちは、それぞれ学校や家庭で問題を抱えており、どこにも居場所がありません。

そんな7人が、団結してITに立ち向かっていく姿は、スタンド・バイ・ミーを彷彿とさせます。

読んでいると、夜中にトイレに行くのが怖くなってしまうシーンも。

しかし、どちらかというとホラー小説ではなく、ノスタルジックな青春小説です。

子供時代の懐かしさや切なさに、あなたも読了後、思わずホロリとしてしまうことでしょう。

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96.マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』

夏休暇をすごすため、港町パラークシを訪れた政府高官の息子ドローヴは、少女ブラウンアイズとの再開を果たす。

戦争の影が忍び寄る中で、愛を深めていく2人。

少年にとって忘れることの出来ない、ひと夏の青春を描く。

恋愛を通して少年の成長を描く、SF青春ラブストーリー

1975年に執筆された、青春SF小説。

SFと青春、そしてミステリーかつどんでん返しと、さまざまな要素が入った作品ですが、決して複雑に絡み合っているわけではなく、スッキリとまとまっています。

隣国との戦争中でありながら、父の権威によって恩恵を受ける主人公のドローヴ。

夏には別荘地に家族旅行ができるほど裕福な家庭にいる彼は、そんな両親に反発し、その庇護から抜け出したいと願っています。

一方で旅先となる別荘地には、昨年出会った少女、ブラウンアイズが住んでおり、彼女との再開に淡い期待を寄せていました。

物語の始まりでは「少年」だったものの、恋愛を通して大人になっていくドローヴ。

地球とは違う異星が舞台と、SF要素もありますが、作品では一貫して少年の成長が描かれます。

また、高待遇である政府高官の息子と、社会的に下層である家の娘という身分の差もあり、社会を取り巻く理不尽さも表現。

そして、ラストシーンを迎えましたら、もう一度タイトルを確認してください。

きっと、鳥肌が立つはずです。

日本では1980年に一度刊行されましたが、長らく絶版になっていました。

しかし、熱烈なファンの声による後押しもあり、ついに2008年、復刊。

約30年の時を経て、新訳、再版されました。

続編として「パラークシの記憶」もありますので、こちらもぜひどうぞ。

97.ジョージ・オーウェル 『1984』

1950年代に起きた核戦争を経て、3つの大国に分割された世界。

その1つ、オセアニアは独裁者が支配する全体主義国家であり、市民は常時、党の監視下に置かれていた。

1984年、ある新聞記事を見つけた主人公は、絶対的存在だった党に疑問を覚えていく。

70年経過してもなお、多方面に影響を与え続ける歴史的名作

ジョージ・オーウェル氏によって、1949年に発表された作品。

しかし、当作品で描かれた世界観は、むしろこれからの未来を想像させる内容となっています。

絶対的な党の支配をはじめ、都合よく改ざんされる歴史、ずっと市民を監視するテレスクリーン、いたる所に設置される監視用マイク、反党思想を監視する思考警察などがはびこる、気が詰まるディストピア。

主人公は、この絶対的統治に疑問を抱き、体制の転覆が目的として設立された「ブラザー連合」に興味を頂いています。

そして、党員の美女と親しくなり、ふたりは隠れ家で逢瀬を重ね、自由なひとときを過ごしますが、そこには絶望的な罠が仕掛けられていたのです。

全体主義が支配する、近未来社会の恐怖を描いた当作品は、欧米を中心に20世紀の名作として読まれ継がれてきました。

ところが、2017年1月、突如としてAmazonのベストセラーランキングのトップに上昇。

これは、元米大統領のトランプ氏が就任式の聴衆を誇張して発表したことが、小説に登場する「真実省」を彷彿とさせると話題になったためです。

2002年には「史上最高の文学100」に選出されており、70年経った今も、多くの人々に多大な影響を与え続けています。

なお、日本では2009年、村上春樹氏が「1Q84」を発表。

「1984」をベースにしたこの作品は、近未来ではなく、近過去が描かれます。

98.ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』

16歳の誕生日、両親から小型宇宙船をプレゼントされた少女、コーティー・キャス。

彼女は連邦基地の監視を潜り抜け、両親に内緒で宇宙へと飛び出す。

しかし、冷凍睡眠から目が冷めた彼女の頭の中には、エイリアンが住み着いていた――。

女性SF作家による、泣ける表題作と中編2篇

ペンネームとしてジェイムズ・ティプトリー・ジュニアを使っていた、女性SF作家による作品。

アメリカの雑誌、「ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション」に1985年、発表されました。

両親に内緒で宇宙に飛び出した少女、コーティーの脳内に、寄生型宇宙人であるイーアが入り込みます。

そして少女と異星人による冒険と友情、そして「たった一つの冴えたやりかた」を見つけるまでが、最初は明るく、そしてラストは重く綴られています。

作品には、そんな表題作の他、2つの中編が収録されています。

なお、彼女は当作品の和訳版が発表された1987年、アルツハイマーが悪化した夫を射殺した後、自らも手を繋ぎつつ、頭を撃ち抜いて自殺。

かねてから2人で決めていたといいます。

当時71歳だった彼女もまた、心臓病が悪化していました。

そんな彼女の心情が、強く込められた作品だと言えるでしょう。

99.シャーリィ ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』

家族が皆殺しにされた屋敷に住み続ける、生き残りの姉妹。

村人に忌み嫌われた彼女たちは、外界との接点も最小限に止め、静かに暮らしていた。

そこに、従兄であるチャールズが来訪したことをきっかけに、閉ざされた美しい世界が、大きな変化を迎えていく――。

解説で”本の形をした怪物”と評された、おぞましき傑作

ホラージャンルで有名な、シャーリィ・ジャクスンによる一冊。

しかし、当作品はスプラッター的な表現は一切なく、まさに「人間ほど怖いものはない」ことを知らしめる、上質のホラーです。

大きな屋敷に閉じ籠もり、静かに住み続けるメリキャットと姉のコンスタンス。

屋敷では、彼女たちの家族が何者かに毒殺される事件が起きており、村人はそれはコンスタンスの仕業だと噂し、蔑まれています。

そんな姉を、妹で18歳のメリキャットが、必死に守っていくのですが――。

最初から最後までどことなく不穏な空気が流れる、閉ざされた作品世界。

物語は、年齢の割に幼さを感じる、メリキャットの視点で展開していきます。

また、村人たちの妬みを含んだ悪意には、こちらの心もえぐられてしまいます。

ただ、純粋な残酷さを持つ主人公をはじめ、屋敷の一行も健全な人はひとりもいません。

解説を担当した桜庭一樹氏は、本書について「本の形をした怪物である」と綴っています。
狂った視点で語られる、不快な現実。

おぞましいのにページをめくる手が止まらないという傑作を、あなたもぜひ堪能ください。

100.レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

「本」を禁じる世界において、それを焼き払う仕事に就く焚書官、モンターグ。

人々は小型ラジオや大画面テレビを通して、与えられている情報を無条件に受け入れていた。

しかし、ふとしたきっかけで「本」を手にしたモンターグは、自分の仕事に疑問を覚えていく。

記録すること、自分で思考することの大切さを訴えかけるSF作品

1953年に発表された、アメリカの小説家、レイ・ブラッドベリによる作品。

本が禁制品となってしまった、ディストピアが舞台のSF小説です。

この世界では、テレビやラジオによってもたらされる、映像や音声など、感覚的な情報しか存在が許されず、漫画以外の本の所持は禁止。

本は見つかり次第、「ファイアマン」によって焼却処分され、所有者は逮捕されてしまいます。

模範的なファイアマンだった、主人公のモンターグ。

妻も与えられる情報の快楽に溺れているという状況の中で、自由な思想を持つ女性や、本とともに焼死してしまう老女との出会いをきっかけに、彼は密かに本を読み始めます。

その行為がやがて、彼の人生を大きく変えていくのです。

作品を通して、思考力を奪う全体主義の恐怖だけではなく、効率化を追求したことで自ら考えることを放棄してしまう人々への皮肉、そして、GAFAやSNSの情報に踊らされる現代人への警鐘が表現されています。

1966年に一度、映画化された作品でしたが、新たに「ミスト」で有名なフランク・ダラボン監督によって映画化が企画、進行中です。

権力に絡め取られず、思考することで得られる真の自由とは何か。

そんな価値観を、この作品から得てみませんか。

おわりに

以上、最高に面白い文庫本(小説)でした。

気になる作品があればぜひお手に取ってみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました!

それでは、良い読書ライフを!(*・ω・)ノ

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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