エラリー・クイーン『国名シリーズ』の読む順番とおすすめについて

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さて、エラリークイーンの国名シリーズです。

その名の通りタイトルに国名の入った、『ローマ帽子の秘密』から『スペイン岬の秘密』までの9作品のことを国名シリーズと呼びます。

これも別に順番に読まずとも楽しめるシリーズなのですが、どうせなら刊行順に読みましょう、ってことで参考にしてください(*´ω`)

目次

1.『ローマ帽子の秘密』

オススメ度:★★★★

記念すべき、エラリークイーンのデビュー作。

ローマ劇場で、上演中に一人の悪徳弁護士が殺害された。

さらに被害者が殺される直前まで持っていたシルクハットが無くなっていた。

帽子はどこへ行ったのか。

なぜ犯人は帽子を持ち去ったのか。

論理的に推理を組み立てて、犯人を絞り込んでいく過程が最高。これぞクイーンの醍醐味です。

帽子が無くなった、という一見地味な謎をここまで魅力的に思わせるのが凄い。

犯人の意外性、最後の引っくり返しも十分。

クイーン親子のやり取りもユーモラスで楽しく、堅苦しくなく読みにくさを感じさせないのも嬉しいポイント。新訳版って素晴らしい。

 2.『フランス白粉の秘密』

オススメ度:★★★

デパートのショーウィンドウのベッドから死体が転がり出てきた。

犯人は指紋採取用の粉を使って念入りに自分の指紋を消したことがわかるが……。

一つ一つの手がかりを丁寧に開示し、論理的に推理を構築していく。

鮮やかな推理に「なるほど!」と唸る場面がいくつもあり、個人的にもかなり楽しめた作品。

あちこちに散らばったパズルのピースを丁寧に検証していき、カチッと合わさった時の快感は格別。

最後の最後でエラリーが関係者を前に推理を披露していく場面とかもう興奮が抑えきれません!

解決編に入ってから最後の一文までのスピード感も見事。

私の犯人予想は見事に外れた。

本気で読者への挑戦状に挑むなら、メモは必須です。

3.『オランダ靴の秘密』

オススメ度:★★★★

大病院の創設者である老婦人が、手術直前に絞殺された。

犯人の遺留品の靴は、敷革が靴の先に押し込まれていることから、犯人の特徴は足が靴より小さいことと思われるが。

これぞ素晴らしき論理パズル。推理小説のお手本のような作品です。

相変わらず緻密に構築されたトリックはさすが。誰が、なぜ、どうやって犯行を犯したのか、そのすべてが美しい。

決して派手な事件やトリックではないですが、これぞ謎解き!という良さを味わえます。

エラリーと同じ条件の手がかりを提示した上での「読者への挑戦状」なわけですが、まあ解けませんよね。

上質な犯人当てミステリが好きなら必読です。

4.『ギリシャ棺の秘密』

オススメ度:★★★★★

シリーズ最高傑作との呼び声も高い一作。

時系列的には一番最初で、大学を卒業したばかりのクイーンが初めて手がけた事件を描きます。

伝統あるハルキス画廊の創立者が亡くなり、遺言書を開封しようと金庫を開けたら遺言書がなくなっていた。

しかし遺言書は家のどこにもなく、ついにハルキスの遺体を入れた棺を探してみよう、ということになる。

だが、棺から発見されたのは遺言書ではなく、別の何者かの死体だった!

これもまた論理パズル好きにはたまらない作品です。ロジックを徹底的に追求した作品であり、その最高峰。ため息が出ます。

推理小説の一つの完成形と言ってもいいのではないでしょうか。それくらいに神がかっています。

伏線の張り方は可憐だし、物語としての面白さも増しています。

もちろんこれまでの国名シリーズも面白いのですが、この作品は桁が違います。読めばわかる。

5.『エジプト十字架の秘密』

オススメ度:★★★★★

これもまたシリーズ最高傑作の一つ。

T字型の交差点でT字型にはりつけにされた死体が発見され、殺された人物の住居のドアには、血でTの文字が書かれていた。

この事件にはエジプト十字架が関係しているのか。

捜査は難航し迷宮入りかと思われたが、半年後、新たにはりつけにされた首なし死体が発見され事件は再び動き出す。

読めばすぐにわかりますが、本書も他の国名シリーズに比べて群を抜いて面白いです。

500ページほどの長編ですが、終盤だけでなく中盤にもしっかり見所があって全く飽きさせない展開になっています。

特に中盤のパイプの推理と終盤のチェッカー(相手の駒を取り合うボードゲーム)の推理のシーンが最高。

第二の殺人で被害者はなぜ「赤いチェッカーの駒」を握っていたのか?という謎に対するエラリーの論理的推理が面白くて面白くて鼻血ものなんです。

普通の推理小説だったら最後のメインディッシュになってもおかしくない推理を贅沢に連発してきますからね。たまんないです。

それでいて最後の最後で、全ての謎をただひとつの手がかりで犯人特定に導く解決編は〈最高〉の一言。

かの有名な「ヨードチンキ(消毒液)の推理」をぜひ目にしてください。

6.『アメリカ銃の秘密』

オススメ度:★★★

ニューヨークの競技場〈ザ・コロシアム〉でおこなわれたロデオショウの公演。

興行中にロデオのスターであるバック・ホーンが射殺される。しかし現場近くにはホーンを撃った銃がどこにも見当たらない。

凶器はどこにいったのか?

面白いのは間違いなしなのですが、『ギリシャ棺の謎』『エジプト十字架の謎』に比べるとどうしても評価は落ちてしまう。

まあ銃の在り処も犯人もわからなかったんですけどねえ。

2万人の大観衆から犯人を絞り込んでいくロジックは見事。真相についてはアンフェアだという声もありますが、これは許容範囲かな。

どっちにしろ、この謎を解けるエラリーの頭脳はどうかしてる。

ぜひ銃の隠し場所を考えながら注意深く読んでみてください。

7.『シャム双子の秘密(シャム双生児の謎)』

オススメ度:★★★

旅行中のクイーン警視と息子のエラリーは、アメリカ北部のとある山中で山火事に遭遇。命からがら山頂にあった屋敷に辿り着く。

主人であるゼイヴィア博士の好意で泊まらせてもらえることになったが、翌朝、書斎で博士の射殺体が発見される。

博士は右手にちぎれたトランプを握っていた。

みんな大好きダイイングメッセージものであり、山火事の炎が迫る中でのクローズドサークルものでもあります。

サスペンス色が強く、国名シリーズとしては読者への挑戦状が挿入されていない異色作。

推理よりも山火事の方が気になってしまう。

そういう点では素直に胸を張って「オススメです!」とは言えないですねえ。

この作品でわかったのはエラリーも人間なんだな、ということ。ちょっとホッとしました。珍しく空回りばかりしてます。まあこんな状況なら仕方ないですが。

8.『チャイナ橙の謎(チャイナ蜜柑の秘密)』

オススメ度:★★★★

NYのチャンセラーホテル22階で、火掻き棒で殴り殺された男の死体が見つかった。

殺された男は身元不明。しかも死体の衣服が前後逆に着せられており、部屋の中も何もかも逆向きになっていた。

まず謎が魅力的ですよね。何もかも逆になった密室ですからね。これだけで興奮します。

なぜそうする必要があったのか?

そこからどのように犯人を導きだせるのか?

謎が謎を呼び、気になって最後まで一気読みしたのを覚えています。

あの為に全てを逆向きにするのはどう考えてもやりすぎだろうとも思えますが、しっかり納得できる説明をつけているのは流石ですね。

結局最後まで犯人はわからなかったし、まさかの人物が犯人で驚いたなあ。

9.『スペイン岬の謎(スペイン岬の秘密)』

オススメ度:★★★★

国名シリーズ第9弾にして最終作。

スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で裸の死体(マントのみ着用)が発見された。

偶然そこに訪れたエラリーは捜査に付き合わされることに。

被害者はなぜ裸になっていたのか?

これまでの集大成という感じのトリックは見事。これまでのシリーズをちゃんと読みこんでいるとニヤニヤしてしまう。

国名シリーズの中でも犯人は当てやすい方かもしれないですね。しかし犯人特定に到るまでの論理的推理はやっぱりさすが。

私が犯人を当てたのはただの直感です。

ストーリーもミステリの王道という感じで読み応えあり。再読してみると相変わらず伏線が憎らしい。

真相を想像してみるとシュールな絵面ですが、なんだかんだで私的国名シリーズベスト5には入るんじゃないかな。面白いです。

「謎」か「秘密」か

さてこの国名シリーズ、タイトルの最後が「謎」と「秘密」の2種類刊行されています。

創元推理文庫では『ローマ帽子の』で、角川文庫では『ローマ帽子の秘密』となっていますね。

はっきりいってこれは好みの問題なので、あまり気にしなくてもいいです(角川文庫の方が翻訳が良いと言われていますが)。

私の場合、翻訳は角川文庫が好きなのですが、表紙は創元推理文庫の方が好きなのでどっちも集めています。

ただし創元推理文庫の方は現在6作目の『アメリカ銃の謎』までしか新訳版が刊行されていません。

表紙を全部統一させたいのであれば角川文庫の「秘密」を集めると良いでしょう。こちらは全9巻翻訳されていますので。

ですが、本当にオススメなのは創元推理文庫と角川文庫をどっちも読むことです。

訳の違いを楽しむのはもちろん、クイーンは2度読んでやっと面白さがわかる的なところありますし。

お時間があればぜひ2種類読んでみて真の楽しさを味わってください(๑>◡<๑)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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