今回は、ぜひ読んでおきたい日本国内SF小説、海外SF小説の超おすすめ作品をご紹介いたします!
SFというのはやはり小説の中でも外せない人気のジャンルですね。
私も当然SFは大好きでして、これまでにかなりの作品を読んできました。そして数々の面白い作品と出会い、これはもっと多くの人に読んでほしい!とも思ってきました。
そんなわけで今回は『一度は読んでおきたいおすすめ国内・海外SF小説』を厳選しました。
SFファン誰もが認める名作や、一度は読むべき定番の作品など、とりあえずこれを読んでおけば間違いない!という作品ばかりです。
「面白いSF作品を読みたいけれど、たくさんありすぎてどれを読めばいいかわからない」、そんな方の参考にしていただければとても嬉しいです(●´∀`●)
1.ロバート A ハインライン『夏への扉』
タイムトラベル小説の不朽の名作、SF小説の古典文学。説明不要の海外SFの代表作です。
「オススメのSF小説を10作品教えてください」という質問を100人に聞いたら、おそらく99人はこの作品の名をあげるのではないか、というくらい素晴らしい作品。
本当に大事なモノは誰にも奪えないのだと学ばせてくれる名作。
私も大好きで今まで何回読んだかわからないくらい読んでいます。夏になると必ず読みたくなるんですよねえ。
コールドスリープやタイムマシンなど王道SFらしい要素はありますが、人を信じること、どんな状況でも不断の努力で必ず道が拓けると信じること、といった大切なことがテーマになっているように思えます。
読み進めていく上で散りばめられていた伏線が、終盤に近付いていくにつれて繋がっていく。こういう展開はやっぱり最高。
何度転ぼうが、どんな困難があろうが、それに立ち向かっていく主人公に勇気を貰える永遠の名作です。
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。
2.ロバート・A. ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』
1967年ヒューゴー賞長編小説部門受賞に輝いたハイライン渾身の長編SF小説。
地球政府の植民地とされる月が独立宣言を行うことでこのSF小説は始まります。
月世界のほとんどの管理を一気に担っている自我を持つコンピューターのマイクとコンピューター技術者の「おれ」、またその仲間たちが月の独立をかけて地球政府と激しい戦いを繰り広げます。
一体どんな結末が待っているのか…!?
ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨篇
何といってもこの小説の面白さは、機械と人間との掛け合いです。
この交わらない関係のマイクと「おれ」のユーモア溢れる会話が癖になります。
大真面目に話すコンピューター・マイクの無機質なのにどこかあたたかい愛らしいキャラクターに惹かれる人も多いはず。
パソコンがまだ当たり前でない時代にこれだけのSFストーリーを考えるハイラインのセンスが輝く一作です。
本当に想像でしかありえない世界「SFを越えるSF」ですね。
SFが好きな人もそうでない方もぜひおすすめしたい一作となっております。
3.ロバート・A. ハインライン『人形つかい』
アメリカのアイオワ州に未確認飛行物体が墜落し、調査に赴いた捜査官6人が行方不明になりました。
秘密捜査官の主人公たちは代わりに現地に向かいますが、アイオワ州の住民が皆、宇宙からやってきた寄生生物に取りつかれたことを知ります。
人類は宇宙人の侵略をとめることができるのか
宇宙人に操られるようになった人類が、彼らの支配から逃れるために戦う物語です。
国家レベルの大規模な宇宙人と人間の争いであり、お互いの知恵の争いでもあるところがポイントです。
対処法がなかなか見つからず、いかに宿主の人間を生かして寄生生物を殺すか、不屈の主人公が奮闘する様子は見ていてハラハラさせられます。
また、宇宙人であるナメクジ寄生生物の生態の不気味さがより一層物語を面白くしています。
「上半身裸計画」など馬鹿馬鹿しい作戦もありシリアスと笑いの緩急はとても見事。
オーソドックスなSFでありアクション要素も含むので、一冊で二倍楽しめます。
4.ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』
とりあえずこの作品を読まなければ始まらない、というくらい定番のおすすめSFです。
月面で発見された宇宙服をに包まれた死体。
その死体はなんと死後5万年経過しているという。そんなバカな。ありえない。この死体が意味するものは何なのか。
読者に「SF」の意味について問いかけるような作品
1977年に書かれた作品ですが、今の時代でもめちゃめちゃ楽しめる。どうしたらこんな構成が思い浮かぶのでしょう。
月で発見された死体と木星の衛星で発見された宇宙船。 それらを巡ってテンポよく進んでいく話にドキドキが止まりません。
ミステリ風の手法を用いながら、次々発見されるデータを元に、現代科学と言語学の力で彼らの出自を明らかにしていく過程が素晴らしい。
前半はちょっとに読みにくいかもしれませんが、後半になるにつれて謎解きがメインになってきてどんどん引き込まれていきます。
海外SFの超傑作。必読です。
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。
5.ジェイムズ・P・ホーガン『ガニメデの優しい巨人』
世界的に有名なSF小説「星を継ぐもの」のジェイムズ・P・ホーガンが送る2作目。
3作目の「巨人たちの星」が最終作となり、3部作構成で全てを読んで完結するという長編SF小説です。
全ての作品にありとあらゆる憶測や伏線を残し、ひとつひとつ解決し、また疑問が生まれる。
そんな推理小説のようなストーリーがぐっと心を引きつけます!
『星を継ぐもの』を読んだらすぐにこの作品を!
前作の「星を継ぐもの」では2028年、木星で見つけた一体の異星人の死体から異星人の存在が明らかとなりました。
そして本作ではその異星人ガニメアンたちと対面し、「異星人と地球人との関係」という宇宙スケールの謎を解明していくストーリーとなっています。
8フィートあり大柄なのに心優しいガニメアンに心温まる一幕もありつつ、しっかりと謎の伏線回収も抜かりない流石としか言えない一作。
一作でもかなり読み応えのあるSF小説なのに「次も読みたい!止まらなくなる!」という声が多数!ホーガンの独自の世界に心奪われること間違いなしです。
6.ブライアン W.オールディス『地球の長い午後』
月の引力によって地球の自転が遅れ、反面を太陽に向けたまま公転するようになった結果、植物が生態系の頂点に立った、という設定のSF小説。
個性的な動物的植物が多数登場!
この植物がやばいんです。
植物たちは巨大化しただけでなく狂暴化、肉食化して、人間がちょっと行動するとあっという間に飲み込んでしまう。恐ろしい。
変わった姿の植物がたくさん出てくるので想像力が掻き立てられます。
でもこの植物が占領している世界ってすごく魅力的なんですよねえ。正直ワクワクしっぱなしでした。
サバイバルSFであり、架空の植物や動物たちの生態を生き生きと描いたファンタジックな面もあり。
遠未来で作者が自由に想像力を炸裂させ、奇想天外な世界を描く。
これが次第にクセになる中毒性のある作品で、ファンタジーでもあり、冒険物語でもある。さらにはエンターテイメントとして純粋に楽しむのも良いですね。
約300ページに詰め込まれた濃厚すぎる世界観には圧巻の一言です。
7.フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
タイトルがすごく有名ですので、読んだことがないけどタイトルは聞いたことがあると言う方も多いのではないでしょうか。
映画「ブレードランナー」の原作で、フィリップ・K・ディックといえば、まず思い浮かぶのがこの作品でしょう。
面白いSF小説を読みたい、とする人々がまず手に取る入門書
大きな戦争で荒廃した地球。生物が次々と絶滅していく中で、生きた本物の生物を買うのが地球に残された人類の最高のステータス。
そんな中、植民計画のために火星で奴隷として働いていた8人のアンドロイドが逃亡し、地球に逃げ込む事態が起こり……。
アンドロイドを狩るバウンディハンターのリックを通して「人間とは何か」「生命とは」「アンドロイドと何が違うのか」と読者に訴えかけ深く考えさせられる作品です。
長く続いた戦争のため、放射能灰に汚染され廃墟と化した地球。生き残ったものの中には異星に安住の地を求めるものも多い。そのため異星での植民計画が重要視されるが、過酷で危険を伴う労働は、もっぱらアンドロイドを用いて行われている。
8.フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』
火星に行く夢を見続ける主人公が、火星旅行という夢を叶えるためにリコール社を訪れる表題作「トータル・リコール」をはじめ、映画の原作となった物語を複数含めた全10編を収録した短編集です。
いまだ色褪せない完成度の高いSF集
多数の近未来SFに影響を与えた一冊。
ディックの作品は発想が面白く、どの短編も長編にして欲しいと思えるようなアイディアに溢れていました。
展開も凝っていて、二転三転と変化していく状況には怖さすら感じますね。
表題作の「トータル・リコール」では、主人公が記憶操作をされ、記憶に残っている出来事が実際に経験したものなのか否かを問われます。
短い話が多いですが、一貫して「人間を構成するものは何か?」という問いが隠されており、それぞれの物語の結末は捉え方次第で変わるようです。
登場人物の心理的表現がとても巧みであり、のめり込んで読んでしまうこと間違いなし。
映画化されるのも納得の短編ばかりが収録されています。
9.ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 『たったひとつの冴えたやりかた』
表題作のほかに加え、「グッドナイト、スイートハーツ」「衝突」の3篇からなる作品集。
孤独な宇宙空間での異種族とのコミュニケーションというテーマが全体を通して提示されています。
短編集ということでかなり読みやすいですし、短い物語とはいえ読み応えも十分。
宇宙への夢が広がる、傑作SF
どの作品も最初は明るめの雰囲気なのですが、話が進むにつれて展開はどんどん重くなっていきます。
そうした中で登場人物たちの信念と勇気には心を打たれることでしょう。
特にタイトルになっているたったひとつの冴えたやりかたは、ラストの衝撃にしばらく唖然。
表題作は名作の呼び声高いのも納得の凄さで、タイトルの”たったひとつの冴えたやりかた”とは何か、を知った時の衝撃といったら……。
異種族間のファーストコンタクトを描いた「衝突」もまたスリリングなキャラクターたちの葛藤が魅力的。
初恋の女性との再会や冒険活劇をSFの上に描いた「グッドナイト、スイートハーツ」も後味爽やかな素敵な物語です。
つまりはどれも面白いってこと。ぜひ読んでみて!
やった!これでようやく宇宙に行ける!16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造し、連邦基地のチェックもすり抜けて、そばかす娘コーティーはあこがれの星空へ飛びたった。
だが冷凍睡眠から覚めた彼女を、意外な驚きが待っていた。
10.アイザック・アシモフ『われはロボット』
アシモフの初期のロボットSFとして有名なこの作品。
かの有名な「ロボット工学三原則」が示されており、ロボットSFを作り出した作品とも言える貴重な一作となっています。
9つのロボット関連の短編集から構成されており、そのすべてを読むことで人間とロボットの歴史が分かるという内容になっています。
ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史
「ロボット工学三原則」に反するロボット事件を、ロボット心理学者であるスーザン・キャルヴィンが解明していくというストーリーです。
一見難しそうに思う本作ですが、分かりやすく読みやすい作品であることが特徴的。
スピード感のあるストーリーが読者の目を止めさせません。
出てくるロボットそれぞれにもキャラクター性があり、それもまたこの作品の見どころ。
ドンパチと戦うようなSFものとは違った謎解きストーリーのような落ち着いた雰囲気も読みやすさの一つです。
SFが苦手だなと感じている方も楽しむことの出来る一作であるので、ぜひお手にとってみてください。
11.アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』
「ロボット工学三原則」の盲点を突いたSFミステリーの代表作。
ロボット工学三原則とは、作家アイザック・アシモフのSF小説で提示されたロボットが絶対に従わなければならない原則のこと。
「ロボット工学三原則」の盲点とは?
①「人間へ危害を加えてはならない」
②「人間の命令には従わなければならない。しかしその命令が①に反する場合はダメ」
③「①と②に反しない限り、ロボットは自分を守らなければならない」
というのが「ロボット工学三原則」です。
そんな原則がある世界で、刑事ベイリがロボットとコンビを組んで殺人事件に挑みます。
ミステリーなのですが、そこにSF要素がうまい具合に絡んでくるので「一粒で二度美味しい」読書体験ができます。しかもそれぞれの要素が薄まることありません。
この設定ならではのミステリーが実に面白く、SFとミステリーのマッチングが絶妙でどちらとして読んでも楽しめます。
1953年にアメリカのSF雑誌「ギャラクシー」に連載され、1954年に刊行された。 アシモフ最初のロボット長編であり代表作のひとつ。
12.アイザック・アシモフ『はだかの太陽』
地球でドーム状の鋼鉄都市で暮らす人類、そして、地球を支配し他の惑星に宇宙国家を築くスペーサーと呼ばれる人類。
主人公であるベイリとダニエルは、植民地国家のソラリアで起きた殺人事件を捜査します。
SF界の巨匠、アシモスが描く論理的で鮮やかなトリック
発達したロボットが働くことによって人同士の接触が全くない国ソラリア。
そこで起きた殺人事件の犯人としてはロボットが疑われています。
しかしロボットはロボット三原則により人を傷つけることができません。
ならば犯人は人間なのでしょうか?
他人と接触する嫌悪感を超えてでも殺したい理由があったのでしょうか?
それともどこかに矛盾があるのでしょうか?
ソラリアの特殊な文化を活かした素晴らしい結末、読了後の満足感、SFとして文句なしに面白い一冊です。
タイトル「はだかの太陽」の意味、そして最後の強烈な一文があなたの心に残るでしょう。
13.『フレドリック・ブラウンSF短編全集1』
「未来世界から来た男」で有名な短編SFの名手フレドリック・ブラウンの短編全集。
全4巻があり、傑作SF短編小説を年代別に網羅できる全集となっています。
この第1巻には1941~44年に発表された初期作品の12編が収録。
短編の魔術師による傑作集
ドイツから亡命した博士が開発した宇宙ロケットにネズミを乗せ月へ…その後、行方不明になってしまい知的生命体に言語や知恵を与えてもらったネズミが人間からの独立を宣言し…、
という「星ねずみ」ような、少し変わった奇抜なファンタジック要素の多いストーリーや、しっかりとオチのある歯切れの良さが人気の特徴。
そのため、面白可笑しく読める作品も多いです。
短編・中編でありながら展開も多彩で、飽きがこない短編SF小説となっていて、SFに馴染みのない人にもスッと入り込めてしまう評価も高い1冊です。
嬉しいことに、このシリーズは4巻まで発売されています。どれも素晴らしい作品集となっているので、1巻を気に入ったらぜひ全部読んでみてください。後悔はしませんよ!
14.オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』
天才すぎる少年・エンダーの成長を描く古典的SF小説の名作。
わずか6歳にしてその才能を認められ、地球を侵略する「バガー」に対抗すべく設立されたバトルスクールに仕官することになった主人公エンダー。
同僚との確執などがありながらも、「ゲーム」と呼ばれる戦闘訓練で確実にその才能を開花させていきます。
映画を見た方もぜひ原作を
海外SF小説の中でも非常に読みやすい部類です。
無駄なくテンポの良いストーリー展開はページをめくる手を止めさせてくれません。
主人公の天才少年が活躍するヒーローものかと思いきや、結果は大活躍でも心境はひたすらに陰鬱で、スカッとするような部分はほとんどありません。
にも関わらずとんでもなく面白いのは、設定やエピソードなどが練られた素晴らしい作品だからでしょう。
映画化もされ有名ですが、映画を観た方も観てない方もぜ原作を読んでみてください。個人的な感想ですが、映画より数倍面白いです。
地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。容赦なく人々を殺戮し、地球人の呼びかけにまったく答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃に備え、優秀な艦隊指揮官を育成すべく、バトル・スクールは設立された。
15.オースン スコット カード『死者の代弁者』
オースン・スコット・カードの代表作である「エンダーゲーム」から始まる「エンダーシリーズ」の2作目となる作品です。
この作品を読む前に前作である「エンダーゲーム」を読むことで作品の楽しみ方が変わる事間違いなしです。
SFなのに、その中に描かれるヒューマンドラマに胸を打たれる人も多いはず。
「エンダーのゲーム」を序章にしてしまえるほどの大傑作
本作では前作での辛い過去を背負った主人公エンダーが3000年の時を経て、再び知的生物との謎に挑む。
本作の舞台となるのはシタニア星。
そしてそこに住む異生物学者たちの身に降りかかる「死」そして第二の知的生物となる「ピギー」との関係性の謎に迫る。その先に合った答えとは…。
価値観・生き方が違う2つの種族の共存にフォーカスが当てられている本作は、現代の世界にも共通するものがあると評価されています。
終結部分の謎が解ける爽快感・ハッピーエンド感といった後味のよさもこの作品の魅力です。
16.カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』
主人公である大富豪マラカイ・コンスタントは、「過去・未来が見える」という神のような力を持つラムファードの予言により翻弄され、動かされる。
一方で、また地球を牛耳るラムフォードも何者かに知らぬ間に動かされている。人類の運命は誰によって動かされているのか…?
アメリカの最高傑作SF小説のひとつ
自分の意志で動いていたはずが第三者によって仕組まれた動きであった。
しかし、人々は幸せにあたかも自分自身が自分の生きる道を選択し、自由に生きているかのように過ごしている。
「自由意志」をテーマに自分たちは何のために生きているのか。ということを考えさせられる一作。
とてつもなく不思議な世界観に飲み込まれるこれこそが「タイタンの妖女」の醍醐味!
社会への皮肉を込めたこの作品ですが、それを感じさせないくらい文章が綺麗で、まるで詩を読んでいるかのようなヴォネガットの世界に入り込んでみてください。
17.アーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』
ジブリ「ゲド戦記」の原作者が描くSF超大作。
ウラスとアナレスという双子惑星が舞台。
ウラス社会から独立を果たした一部の人々が、アナレスへと移住し2つの世界が出来る。
それぞれの世界には全く異なった社会環境が浸透していた。
ウラスは資本主義が発達した社会、一方のアナレスでは無政府主義の完全自由なアナーキズムを理念とした社会。どちらが悪くて、正しいのか?
2つの世界を体感した主人公シェヴェックの答えとは…?
ヒューゴー賞ネビュラ賞両賞受賞の栄誉に輝く傑作巨篇
一般的に思い浮かぶような「SF」の世界を覆す、「所有主義」を題材にし、政治的なメッセージなども盛り込まれた考えさせられる一作です。
主人公の経験が小説となり語られますが、トリッキーな構成も面白さを引き立たせます。
主人公シェヴェックによって過去と未来が交互に語られるのです。
その中でウラスとアナレスの社会がどんなものであったのかが詳細に描かれています。その細やかさが読者の想像をぐっと掻き立てます。
淡々と語られ複雑に絡み合う2つの世界に引き込まれること間違いなし!
18.アーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』
SF・ファンタジー作品において評価の高い作品が選出される「ヒューゴー賞」と「ネビュラ賞」2つの賞を総なめにしたこの作品。
地球人のゲイリー・アイは「エクーメン」という人類居住惑星の連合への加盟を説得すべく「冬」と呼ばれる惑星ゲセンに降り立つ。
進化したゲセン人はなんと両性具有となっていたーー。
ジェンダーについて考えさせられる名作
ゲイリー・アイはエクーメンへの加盟を説得するべく奮闘するが様々な壁が立ちはだかる。
その中でゲセン人との信頼が生まれ、異世界での冒険はクライマックスへと進んでいく。
このクライマックスのドキドキ感や切なさに魅力を感じる人も多く、最高の見どころとなっています。
またこの作品の凄さはそこだけではありません。
1960年というまだ「ジェンダーレス」という言葉も明るみに出ない時代に「両性具有の人類」をキャラクターに取り上げたメッセージは素晴らしいの一言。
はまたその自分にはない考えをもつ地球人と、ゲセン人との友情・愛が描かれている現在の人類にも必要な考え方を教えてくれる一作となっています。
19.ダン・シモンズ『ハイペリオン』
想像力を刺激されるストーリーに驚かされること間違いなしの一作です。
「打ちのめされるほど」と表現する人もいる程の破壊力。これこそがこの作品の特徴です。
「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」の2作からなるシリーズ作品の1冊目。
SF好きにはたまらない、最高の体験ができる
1冊目の「ハイペリオン」は「時間の墓標」へ向かう巡礼者7人がそれぞれに巡礼行に行くまでの経緯など、自分自身の物語を語るという構成になっています。これが面白いところなんですよね。
各編がホラーや恋愛など様々なジャンルの物語で短編としても成立しており、その全てを読み進めることで全体像が明らかとなります。そして同時に深まる謎。
この独特な「入れ子構造」こそが読者をやみつきにする要因となっています!
そして「ハイペリオン」だけでなく、続編を読み進めることにより、至る所に散りばめられた伏線をしっかりと回収し、謎を解いてくれる。
読めば読むほどダン・シモンズの謎解きSF小説の世界に引き込まれていくでしょう。
20.ジョージ・オーウェル『一九八四年』
村上春樹の1Q84からこの作品を知った人も多く、ここ数年で話題となっているこの作品。
人間の生き方とは?を深く考えるきっかけとなる一作です。
時は1984年の超大国オセアニア。そこでは一党独裁によって個人の思考が徹底的に管理・統括されている。
全体主義の世界に住む人の悲劇の暮らしが、主人公ウィンストン・スミスの生涯により語られています。
二十世紀世界文学の最高傑作
この作品は今だからこそ読むべき作品として多くの声が挙がっています。
高度な情報化社会が実現した先にある、実現させてはならない未来として認識すべき情景がそこには広がっています。
SF小説としてはかなり異色の世界観をもつストーリー構成。しかし、今の世界との接点がしっかりとそこには存在している。
何が悪いのか。何が正義なのか。誰が間違っているのか。誰が正しいのか。人権の守られている私たちにとっては深すぎるほどの内容かもしれません。
しかし「生きる」ということにおいて一度読むべき作品のひとつです。
21.ウィリアム ギブスン 『ニューロマンサー』
1980年代に成立したSFのサブジャンルであるサイバーパンクを確立した作品とも言われている本作。
主人公は電脳世界に直接没入し秘密を盗み出す天才ハッカー・ケイス。過去の依頼主との契約違反によりその能力が奪われてしまう。
その能力を戻す交換条件として危険な依頼に踏み込むこに。
その依頼を裏で動かしていたのは「ウィンターミュート」というAIだった。
主人公はその裏に隠れる思惑とAIの力に翻弄されながらも様々ノルマをクリアしていく。
その結末にあるものは…。
読者を魅了する衝撃のサイバーパンクSF
なんといっても電脳世界の描写に息をのみます。イメージをしっかりと文章化し、映像で思い浮かんできそうなほどの表現力に病みつきになります。
作品独自の専門用語や登場人物に読みづらさを感じる人もいるようですが、それすらも読み解いていく楽しさとも言えます。
あとになって徐々に分かってくるSFの世界その不思議さに、何度も読み返したくなる作品です。
22.ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』
ラジオドラマからスタートした本作は、小説でもベストセラーとなり35か国語に翻訳され、世界で1600万部が売れたと言われる超人気作品です。
このSF小説は「地球の破壊」から始まります。地球にある宇宙船が飛来し「銀河ハイウェイ建設工事の立ち退き時期が過ぎた…」という理由から工事という形で地球を破壊してしまいます。
その中で、生き残った地球人の主人公・アーサーと残る仲間とともに宇宙の様々な星を放浪旅を行っていくというお話です。
途方もなくばかばかしいSFコメディ大傑作
本作の面白さはSFではあまりないコメディ要素を惜しみなく使っているという点にあります。
SFというと独特な重々しい雰囲気を持たず、気軽に読むことが出来るというのも圧倒的人気の秘密かもしれません。
しかし、そんなコメディ要素が多いこの作品内でもやはりSF小説の気持ちは忘れない。
様々な部分に伏線が張られており、SF小説としても評価は高いです。
堅苦しい古風なSF小説は苦手…という方にこそ一度読んでみてほしいです。
23.ジョン スコルジー『老人と宇宙』
ジョン・スコルジーの出世作としても知られる「老人と宇宙(そら)」4部作の1作目!
SF小説としても絶大な人気があり、また涙あり・笑いありのストーリー展開に心惹かれる人も多い作品です。
とにかく読みやすい、SF初心者も楽しめる一作
主人公のジョン・ペリーは75歳の誕生日にある軍隊に入隊を決意する。
その軍隊は、地球に二度と戻れないという条件で75歳以上の男女の入隊しか認めないという特殊な「コロニー防衛軍」というもの。
そこでは超テクノロジーによって肉体改造なども行われ、完璧な戦士へとなり異星人との宇宙戦争の様子が描かれていきます。
ただのSF小説としての楽しみ方だけではなく、愛や喪失感・希望といった人間の感情をしっかりと描いたニューマンストーリーとしての読み方もできるこの作品。
主人公の軍人としての第2の人生を描くサクセスストーリーでありながら、SFとして様々異星人と戦う終始めまぐるしく変わるストーリーにドキドキがとまらないはず。
読めば読むほど目の離せない一作となっています。
24.ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』
ロバート・F・ヤングの名作を詰め込んだ傑作SF短編集と呼ばれる本作。
44歳の中年男性の主人公マークは、2週間の休暇を妻の用事により一人で過ごすことになる。
そして山小屋近くの丘で、21歳のたんぽぽ色の髪をした女性と出会う。
その女性はなんと未来から来たというのだが……その女性は一体誰なのか?また何のためにここに来たのか?
甘く切なく美しいヤング傑作選
時空を超えたラブロマンス小説、永遠の名作である「たんぽぽ娘」を含む全13編が収録されています。
「たんぽぽ娘」は『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場した事でも有名になり、読んだ方も多いのではないでしょうか。
他の12編に関してもあたたかい雰囲気のものが多く、何度も読み返したくなるような一作となっています。
詩のように流れていく美しい言葉たちと、SFとはかけ離れたようなロマンチックなストーリーに癒されてみるのはいかがでしょうか。
25.リチャード・モーガン『オルタード・カーボン』
NETFLIXのオリジナル作品としてドラマ化されたことでも名を有名にした本作。
時は27世紀、人の心はデジタル化され、スタックという小さなメモリーに記録され、体を入れ替える事で永遠に生き続けられる世界となっています。
そんな世界で元兵士のエンヴォイは犯罪に加担したことでスタックのみを収容されていました。
エンヴォイは刑期をなかばにして、バンクロフトという男のクローンの肉体により目覚めます。
バンクロフトは数日前に自殺したことになっていますが、誰かに殺されたのだ、というのです。
そしてエンヴォイは、バンクロフトの死の謎を調査することになるのですが……?
言わずと知れた、アクションSFの超大作
上下巻と分かれる長編SF小説となっており、展開が遅く感じる人もいるようです。
ですが、様々な伏線が繋がり、後半の盛大なSF要素とアクションのかっこよさに唖然とさせられること間違いなしです。
ワイルドでハードボイルドな空気感に定評のある本作は、大人のSF小説としてとても人気があります。
26.マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』
あなたはこの小説の衝撃のラストにどんな顔をするのでしょうか。読む人全員を驚かせたラストを読むべき一作です。
ある惑星で恋に落ちる少年・ドローヴと少女・ブラウンアイズ。
順調にお互いの愛を育む中で、情勢はどんどんと悪い方向へと進んでいきます。
SF史上屈指の青春恋愛小説
世の中の裏側、議会の陰謀、悪化する戦時下での暮らし。
様々な方面に悪化する情勢の中で、2人の甘い恋の結末は急展開を迎えていきます…。
そしてラストにあるどんでん返しにきっと驚かれることでしょう。
しかしそれに負けず劣らず、この少年少女2人の甘い青春ラブストーリーが見どころのひとつです。
大人になって読み返すと甘酸っぱい二人の恋にドキドキした気持ちを思い出すでしょう。
初めから最後まで伏線ばかりの本作。最後を読めばもう一度初めから読み返したくなる一作です。
1周読んだ後、2周目がより楽しめるそんな作品になっています。
少しでも気になったらぜひ読んでみてください。後悔はさせません。
27.ネヴィル シュート『渚にて 人類最後の日』
これまでに2度の映画化でも話題となった名作である本作。
壮絶な運命のストーリーに対し、穏やかな日常を切り取った物語ではないかと思わせてしまうような作中の空気感。
この何とも言えないアンバランスさがこの作品の一番の特徴とも言えるでしょう。
SF好きならば読まなければならない古典
物語は第三次世界大戦ソ連対中国の核戦争により北半球の人類が滅亡するところから始まります。
南半球にも徐々に放射能の影響が迫る中、オーストラリアに住む主人公タワーズとその家族、仲間たち。それぞれの最後の日までの生き様が描かれます。
日々「死」に一歩一歩近づいていることを理解しながら、毎日を自分たちらしく生きる登場人物たち。
一人の人間としての尊厳を持った凛とした姿に心を打たれます。
壮絶なストーリーを描いたこの作品を最後まで読んだ時、悲壮感よりも人間の強さを感じられる。そんな不思議な感覚に落ちていきます。
自分ならどんな最後を選ぶのだろう…と自分自身の生き方を考えさせられる一作です。
28.ハーラン・エリスン『世界の中心で愛を叫んだけもの』
誰もが認める名作SF短編集。
短編なのに一つ一つの読み応えが凄く、まるで長編を読んだ読後感があります。
全般的に暴力的でクセの強い作品が多い
表題作はアニメ「エヴァンゲリオン」の最終話のタイトルに使われた事でも有名ですね。
初めて読んだときは全然理解できなかったけど、何度か繰り返し読んで内容が頭に入ってくると、その魅力にじわじわとハマってしまいました。
全般的に暴力的でクセの強い作品が多い印象で、そのため読むのが少ししんどいのもありますが、基本的にはエンタテイメント性にあふれておりグイグイ楽しめます。
訳が分からなかったり、衝撃的だったり、はたまた純粋におもしろかったり。
とにかく様々な意味で破天荒で魅力的な作品集ですね。
もちろん表題作以外にも面白い作品は多々あって、私は「星ぼしへの脱出」「少年と犬」がかなり好み。
米SF界きっての鬼才ハーラン・エリスンのウルトラヴァイオレンスの世界
29.グレッグ・イーガン『順列都市』
人格や記憶をコンピューターにスキャンできる世界、という設定だけでワクワク。
壮大な物語だしボリューム満点だし、ちょっとSF小説に慣れていないと難しいかもしれません。
長編5つぐらいのアイデアが詰め込まれた壮大なSF
「ぜひお気軽に!」という感じにはおすすめできないですが、実際とんでもなく面白い物語です。
世界観もアイデアもストーリーもどれをとっても面白い。というか凄い。
細部は難解で理解出来ないのに、それでも面白いって思わせる圧倒的なパワーを感じます。
いろんな読みどころ、読み方があると思いますが、仮想現実内の人格を「コピー」として、その存在を突き詰めていることや時間の概念についての表現が面白かったですねえ。
私は初めて読んだとき「よくわかんなかったけど面白い」という感想でした。それでまた数年後に読んで「これはとんでもなく面白いぞ」と変化していったわけです。
何回も読むって大事ね。
記憶や人格などの情報をコンピュータに“ダウンロード”することが可能となった21世紀なかば、ソフトウェア化された意識、“コピー”になった富豪たちは、コンピュータが止まらないかぎり死なない存在として、世界を支配していた。
30.グレッグ イーガン『ビット・プレイヤー』
目が覚めたら、外には空が見え、下からは日光が照りつける不思議な洞窟の中にいた表題作「ビット・プレイヤー」をはじめ、数々のSF賞を受賞してきた作者が描く6つの短編を収録した短編集です。
圧倒的な遠未来を味わえる最強の短編集
表題作の「ビットプレイヤー」は、メタ的な冒険を通して、この世界に住む忘れられた人間たちには人権はあるのか?という問題に切り込んでいます。
また、収録されている話の中でも「七色覚」という7原色まで捉えることができる人間の話は、未来に起きてしまう可能性があるため、自分ならどうするだろうと思考しながら読むことができます。
科学の発達や人間の進化に伴い、どうやって生きていくかと常に問いかけてくるような一冊。
現実的に考えさせられることが多く、人間の孤独や心情には思わず共感してしまいます。
全編を通じて遠未来を強烈に体感させられる話が多く、非常に面白いです。
31.ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『愛はさだめ、さだめは死』
自身のライフサイクルの中にある理性と本能により葛藤する異性生物の人生を描いた表題作を含む、全12編を集めたティプトリーの傑作中短編集です。
表題作のほかにも「接続された女」「男たちの知らない女」などアメリカSF界で注目を集め続けたティプトリーならではの世界観を知ることが出来る一冊となっています。
現代SFの頂点をきわめた華麗なる傑作短編集
1編ごとにSF感の強いものからフェミニズムを主張するメッセージ性のあるようなものまで、様々な題材を描くこのティプトリーの短編集は、1冊では到底感じることのできないような様々な感情が押し寄せてくるはずです。
その中で、古典作品ならではの読み取りづらさを感じる文章に分かりづらいと感じる人もいるようです。
一方で、読んだ後しっかりと自分の中に落とし込んでみると様々な世界が見えてきます。
とらえどころのなさが追えば追うほど癖になるそんな作品となっています。
わざわざ読み解く必要もなく、胸にとどめておくのもひとつの楽しみ方かもしれません。
32.マーサ・ウェルズ『マーダーボット・ダイアリー』
本作は上下巻に渡り、短編4編で綴られるSFアクション小説。
遠い未来人類が創ったAI搭載の人型警備ロボット「弊機」が主人公となり、日記のように主人公が生活を語ることで物語が進んでいきます。
過去、故障により多くの人間を殺した経歴のある「弊機」。
過去を繰り返さぬよう自らを縛る統制モジュールをハッキングし、自由になるがその後も人間を守るプログラムどおりに様々な危険を乗り越えていく…。
ユーモアに溢れ、一気読みできる読みやすさ
コミュニケーションが苦手だけど「弊機」なりに人間との距離を近づけるそんな不器用で愛くるしいキャラクターに惹かれる人も多いようです。
何と言ってもアクション・ハッキングの戦闘描写がすごいんです!
4編の中にも様々なパターンの戦闘描写があり、分かりやすく想像力が掻き立てられる本作。
SFアクションが好きな人にはもってこいの一作となっています。
一方で、ストーリーに関しては分かりやすく優しい内容となっているため、SF小説初心者の方でも楽しく読むことができます。
33.アルカジイ ストルガツキー『ストーカー』
日本では漫画・アニメにもなり有名な「夢世界ピクニック」というSF小説の元ネタだとされる本作には、SF小説とは少し違った、お宝探し・冒険ファンタジーのような面白さを持ち合わせています。
ある地域で多くの住民を犠牲にした「ゾーン」と呼ばれる危険区域でストーリーは展開されていきます。
不気味すぎる世界観が魅力
「ゾーン」にはどんな願いも叶う「部屋」が存在するという。その部屋を求めて人々は「ゾーン」へと挑戦していきます。
「ゾーン」への案内人とされるのが「ストーカー」という人々。「ストーカー」である主人公のアレクサンドルが「ゾーン」の謎に迫る…という物語。
「ゾーン」での一歩先には何が待っているか分からない、不思議な現象の描写にはしっかりとSF要素が練りこまれているものの、冒頭に述べたようなファンタジーのような世界を彷彿とさせるような物語性にも心を奪われます。
今まで体験したことのない不思議な世界に入り込んでしまうこと間違いなしです。
34.デレク クンスケン 『量子魔術師』
魔術師と呼ばれる天才詐欺師べリサリウスが、小さな国家から難解な依頼を受けることで物語は始まります。
その難解な依頼を遂行すべく、必要な特殊技能をもつ仲間たちを集め準備を進めていきます。
作戦には様々な問題が起こります。次々に起こる問題をどのように解決していくのか…!?
世紀のコンゲームに挑む傑作宇宙アクションSF
特別悪党集団が暴れまわるストーリーになっており、「オーシャンズ11」や「インセプション」などのアクションファンは読むべき一冊です。
600ページにわたる長編小説ではあるものの、悪者なのになぜか応援してしまうような、一癖も二癖もある仲間たちの軽快なやりとりやドキドキワクワクさせられるストーリー展開で次々と読んでしまう面白さを体感します!
そしてなんといっても文章の読みやすさが手を止められない大きな理由です。
後半の作戦決行中のたたみかけるような勢いのある文章には、満足感をさらにアップさせる力があります。またファンも多いセリフのかっこよさにも注目!
興味を持った人は手に取って損のない1冊です。
35.ガレス・L・パウエル『ウォーシップ・ガール』
2018年度の英国SF協会受賞作として選出された本作にはSFの魅力がぎっしりと盛り込まれています。三部作にわたって描かれるうちの第一部です。
宇宙船のAIである「トラブルドッグ」は元々、軍用として使用されていたが戦後軍を退きます。
その後は人命救助団体として新しい仲間たちと人命救助にあたる。
ある時、ある星でSOS信号を受け救助へと向かう「トラブルドッグ」たちは、銀河全体の命運をかけた大事件に巻き込まれていく…。
英国SF協会賞長編部門受賞の傑作宇宙SF
事件が登場人物のそれぞれの視点から語られることにより、様々な感じ方ができ、飽きないストーリー展開となっています。
そんななかでも、大規模に展開されるSF描写がなんとも言えない一作となっており、上質なSF小説と定評のある作品です。
また、この作品の見どころともいえるのは主人公「トラブルドック」の愛来意キャラクター性。読み終わればたちまちファンになってしまう人続出。
三部作にわたる作品を読まなければ気が済まなくなる!そんな第一部としては素晴らしい一作です。
36.ピーター・ワッツ『6600万年の革命』
作品名から滲み出るSF感!
ユニークな設定の本作に、SF好きはドはまり間違いなしです!
舞台はワームホールゲート網建設のために銀河を周回する「エリフォラ」という巨大宇宙船。
「エリフォラ」にはある秘密が隠されている…「エリフォラ」にいる人間はこの建設のためだけに用意された改造人間であり特別な教育を施されています。
そして必要に応じて昏睡状態から目覚めさせられるのです。宇宙船内のAIにより操られる人間たち。
この秘密を知ってしまった乗組員の主人公「サンデイ」は反乱の道へと進んでいきます。
人間とAIの戦いの先に待っているのは……?
最強のハード宇宙SF
ハードなSFが好きな方には少し物足りなさの残る人間的描写の多いSF小説と評価されていることも多い本作。
一方でSFに少し苦手意識のある人にもすいすいと読めてしまうような、柔らかさのある文章表現が魅力の一つとなっています
「SF小説」というジャンルだけでなく「物語」にしっかりと浸ってしまうような独特な世界観に圧倒されることでしょう。
37.メアリ・ロビネット・コワル 『宇宙【そら】へ』
本作は「レディ・アストロノート」という超長編シリーズ作品の一編となっています。
またネビュラ賞・ヒューゴー賞などの米国主要SF文学賞を総なめにした恐ろしい作品でもあります。
1952年、巨大隕石が突如、ワシントンD.C.近海に落下した。衝撃波と津波によりアメリカ東海岸は壊滅する。
宇宙開発SFの最高峰
その災害により壊滅状態になってしまったアメリカ東海岸から物語は始まります。
人類の生存機器に立ち向かうべく、主人公エルマは宇宙開発へと歩を進める。
しかし立ちはだかる女性差別の壁。
その中でも自分の力で宇宙開発へと挑むエルマのサクセスストーリーとなっています。
宇宙開発というSFジャンルはしっかりとありつつも、現代の社会問題を問うようなメッセージ性に胸を打たれる人も多い本作。
現代でも大きく取り上げられている女性差別・人種差別などの問題に真正面から向き合い、乗り越えていくそんな主人公の強さに勇気をもらう人も多くいます。
ドンパチとしたSFシーンはなく淡泊な印象を受ける方もいるようですが、ありそうでないリアルなSFを描いている部分も魅力のひとつです。
38.陳 楸帆『荒潮』
「近未来SF小説の頂点」ともいわれるほどの陳 楸帆の長編SF小説です。
世界のゴミ捨て場として機能する中国南東部のシリコン島で、ごみの中から資源を見つけ収入とする「ゴミ人」と呼ばれる最下層市民の女性・米米(ミーミー)が主人公となっています。
この島と女性の環境は陳開宗という男が島に訪れてからどんどんと変化を遂げていきます。
中国SFの超新星によるデビュー長篇
独特なストーリー設定とその世界感に引き込まれてしまうこと間違いなしの一作です。
なんといっても情景描写が素晴らしいです。まるで映画を見ているかのように展開が鮮明に想像できるような描写表現は圧巻。
さらにその素晴らしい描写に加えてスピード感のあるストーリー展開に読めば読むほど手が止まらなくなります。
懸命に働く米米の儚い恋心や衝撃的なラストなど、登場人物ひとりにとってもころころと展開のかわり先がどうなるのかわからない、それがこの作品の一番の魅力でしょう。
39.ユーン・ハ・リー『ナインフォックスの覚醒』
2016年に刊行され、ローカス賞第一長篇部門を受賞した実力作です。
数学と暦に基づいて、通常の物理法則を超越する科学体系(暦法)からできた星間専制国家「六連合」の要衝である巨大都市・尖針砦での反乱によりストーリーは始まります。
そこで鎮圧を命じられたのが「六連合」の女性軍人でもあり数学の天才ともされる「ケル・チェリス」。
チェリスは反乱鎮圧のため「六連合」の元司令官でもありとてつもない虐殺経験を過去に持つ「シュオス・ジェダオ」の精神を身に宿すことになりますが…。
2017年ローカス賞受賞、ヒューゴー賞・ネビュラ賞候補の本格宇宙SF
ひとつの体で戦うチェリスとジェダオのユニークな主人公ふたりのバディが作品の魅力をぐっと引き立てています。
後半になれば、反乱の鎮圧という目的の中で「六連合」という国の在り方にまで目を向け本格的な宇宙SFの中にしっかりと考えさせるような政治的背景を魅せていく。
そんな展開の作り方も本作の楽しみどころのひとつです。
本格SF故に専門用語が多く、読みづらさを感じる人もいるようですが、理解するほど世界観に吸い込まれる上級者向けSF小説とも言えます。
40.アレン・スティール『キャプテン・フューチャー最初の事件』
あの「キャプテン・フューチャーの死」の著者が正典をかなり入念に読み込み完成した完全リブート作品!
既存作品を知っている人も知らない人も楽しめる新感覚SF作品となっています。
キャプテン・フューチャーの名で有名なカーティス・ニュートンと3人の仲間であるフューチャーメンが最初の事件に挑みます。
これこそ21世紀のスペース・オペラ!
ある事件をきっかけに復讐心へと炎を燃やすカーティス・ニュートンという男。
その事件の裏に隠される社会の醜さとは…カーティス・ニュートンは過去を乗り越え、どんな風にキャプテン・フューチャーになっていくのか!?
古き良き宇宙SFの世界を描く本作。典型的なヒーローの姿にわくわくすること間違いなし!
リブート作品の良さでもレトロ感を程よく残し、世界観を崩しすぎていないということも本作の大きな魅力の一つとなっています。
また、成長した主人公が今後もどのような成長を遂げるのか、続編に期待!という好評の声も多い作品となっています。
41.ラリイ・ニーヴン『無常の月 ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン』
ハードSFの巨匠が書き下ろした味わい深いSF小説を全7編収録する日本オリジナル傑作集です。
トップバッターの「帝国の遺物」では、異生物学者と海賊との出会いから物語は始まります。
特殊な世界観が生み出す不思議な空気感に引き込まれていき、短編とは思えないほどのSF要素も盛りだくさん。
キャラクター性・ストーリーすべてを踏まえてもトップバッターとして素晴らしい作品です。
ハードSFの巨匠ラリィ・ニーブンのベスト短編集
そしてタイトルにもなっている「無常の月」。
こちらでは静かに情緒豊かにSF小説を楽しむことができる作品となっています。
太陽の異常な光を反射し輝く月をみるフリーライターとそのガールフレンド。
月が沈み、太陽が昇る時、その異常は彼らに降りかかります。
夜が明ける数時間後に自分たちはどうなってしまうのか!?そんな終末的な状況を情緒豊かに描き上げた一作です。
他の4編に関しても言えることは何と言ってもキャラクター・ストーリーの面白さが評価されるものとなっています。
SF小説の入門としても読みやすく入り込みやすい作品となっていますので、SF小説に興味があればぜひ読んでみてください。
42.ケイト・ウィリヘルム 『鳥の歌いまは絶え』
近未来、放射線汚染により生殖能力を失った人類はクローン人間を作り出します。
その数は徐々に増え、王国を作り、クローンでない人間を排除する。
人類滅亡を防ぐために誕生したクローン、しかし個性を失った彼らは次第に滅亡に向かっていく……。
集団か個か、どちらが幸せなのかに迫る
ディストピアSFの代表格となる物語です。
人類存続を目指して作られたクローンは、似通った存在のため異常なほどに心が通じ合っています。
強い共感覚を持ち無個性の集団として発展するクローンと、個々として生きる既存の人間との争い。この作品の中では集団と個の対比や葛藤が描かれています。
皆がお互いの気持ちを知り、孤独もなく、争いもない共同体は、理想像のようにも思えます。しかしそれでは生き物として存続することは出来ません。
この物語の中で、クローンは個性や独立性がない集団として最後には滅んでいきます。
滅亡を防ぐために生み出されたクローンが原因で、人類が再び滅亡の危機に陥る様子はとても皮肉です。
集団による安心と個による独立、どちらが良い社会なのか。昔から議論され続けてきた問題ですが、この物語を読むことで、より一層考えさせられます。
43.ウィリアム・ギブスン『クローム襲撃』
サイバーパンクSFの金字塔、ウイリアム・ギブスンが書く、短編SF集です。
表題の『クローム襲撃』は二人組のハッカーの物語で、この二人組はが電脳空間上のクロームと呼ばれるターゲットを狙い、その内部にある莫大な資金を奪い取ろうとします。
他のSFにはないかっこよさと疾走感
数多くあるSF集の中でも、文章にここまで疾走感があるものははなかなかありません。作者の文体の癖は強いですが、その分ハマると癖になります。
各話のアイディアやオチもとても秀逸です。
表題の『クローム襲撃』では、主人公二人組は最終的に目標は達成しましたが、本当にほしいものは手に入らない、というなんとも言えない寂しさが表現されています。
痛烈な読後感を味わえる話が多く、とても心に残ります。
サイバーパンクSFならではの、独特な世界感を楽しめる一冊です。
作者の描くハイテクな未来や荒廃的な世界に酔いしれてみませんか。難解な展開や表現が散見しますが、SF好きなら一読に値します。
44.レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
本を持つことが罪になるこの世界では、昇火士と呼ばれる本を焼き尽くす仕事があります。
華氏451度、それは紙が燃え始める温度。
主人公であり昇火士である主人公は自らの仕事に誇りを持っていましたが、ある少女とある本に出会うことで彼の人生が大きく変わっていきます。
ネットが普及した今こそ読みたい傑作
この物語の世界では、本を持つことが禁止され代わりに多くの娯楽で溢れています。
その娯楽はほとんどが刹那的なものであり、人々は読書を通じて熟考する機会を奪われています。
これは、ネットが発達した現代とも重なるのではないでしょうか。
現代人はネット上の多くの娯楽を受動的に楽しんでいます。
現代において本は禁じられていません、しかし我々は、自ら本を燃やしているのではないでしょうか。
読み進めるにつれそんな疑問を胸に抱くこの物語、書かれたのは何十年も前ですが改めて読みなおす価値はあると思います。
45.『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』
貧富の差により三層に分割された北京で冒険する男、始皇帝が300万人の軍隊を用いた人間計算機で円周率を計算、遺伝子を改造した鼠を倒すための隊の闇など、7人の作家による13作品をまとめた中国SFです。
SFの凄さを再認識する、粒揃いの物語たち
この本は、中国で生まれ子供の時にアメリカに移住した作家ケン・リュウが、中国SFを世界に紹介するために編纂したアンソロジーです。
中国の長い歴史における文学的に豊かな厚みを感じます。
特に表題である「折りたたみ北京」は短編にするにはもったいないほど世界観が作り込まれており、洗練された面白さがあります。
見たことのない世界に招待してくれるのがSFの醍醐味であり魅力。
この短編集を読むだけで、ありとあらゆる世界を堪能することができます。
質の高い設定が多く、読み応えのある良作ばかりです。
SFが好きな人だけでなく苦手な人にも読んでほしい一冊です。
46.H・G・ウェルズ 『タイム・マシン』
著名な科学者である主人公はタイムマシンを開発します。
自分自身を実験台として未来に移動した主人公が見たのは、温厚で裕福な人種であるイーロイと、地下でイーロイのために働き、時にはイーロイを食するモーロックとの対立でした。
社会風刺を含んだ初期のSF小説
80万年後に飛んだ主人公が見たかった未来は一体何なのでしょうか?
イーロイは裕福が故に進化が止まり、知能が落ち、支配していたはずのモーロックの家畜になっています。
モーロックは貧困が故に知恵をつけ、常に力をつけ進化をしています。
現代でも裕福層と貧困層の差は大きな問題です。
では、このまま進化を続けるとしたら私たちはどちら側になってしまうのでしょうか。
イーロイとモーロック、どちらの要素も現代人類の中に存在しており、決して人ごととは思えません。
この作品には、向上心がない人間は堕落するという警鐘が含まれているのです。
1895年に執筆されたとは思えないほどの、現代に通ずる着想に驚かされる一作です。
47.アンディ ウィアー『火星の人』
有人火星探査機のクルーであるマーク・ワトニーは火星を離脱する際に一人取り残されました。
何もない火星に取り残されたマークは、持ち前の知識と技術、そして残された物資と食料を駆使してなんとか生き延びようとします。
いかに悲観的な状況でも、前向きに生きる男
マークは火星に一人取り残されるという絶体絶命な状況でも諦めません。
一つの困難を解決してもすぐに次の困難が訪れるというストーリー構成。
なのに楽しく読めるのはマークの常に前向きな性格のおかげでしょう。
彼の知識量や応用力にも驚きますが、絶望的な状況下でもユーモアで乗り越えていく姿には読んでいる身としてとてもワクワクさせられます。
手際良く問題に対処していく様子はある種の痛快さまで感じます。
読んだ後には、自分が問題に直面した時も「マークならどうするだろうか」と思わず考えてしまうほど。
爽快感たっぷりで気持ちよく読むことができ、SF初心者にこそ読んでほしい傑作です。
48.ジーン ウルフ『書架の探偵』
主人公は推理作家のクローンであり、図書館の書架に住んでいます。
そこへ兄を亡くした令嬢が訪れ、主人公の著作が兄の死の真相であると言い主人公を連れ出しました。
主人公は自らの記憶を頼りに、調査を進めていきます。
SFであり、ハードボイルドであり、ミステリーである
クローンである主人公は、コピー元の作家の知識を蓄えている本、「蔵者」として図書館に置かれています。
蔵者は貸し出しが可能で人気がない蔵者は焼却処分をされる、というなんともディストピア感の溢れる世界観。
あくまでも人間として扱われないクローンは、ある日美しい女性に駆り出されて彼女の家族の死の真相を解き明かすことになります。
クローンが淡々と事件の推理をしていくのかと思いきや、散りばめられたSF設定がうまく囮に使われており、非常に凝ったミステリー小説です。
ハードボイルド小説としての要素もふんだんに盛り込まれており、終盤にたたみかけるような展開にはきっとあなたも度肝を抜かれます。
49.ケン リュウ『紙の動物園』
ケンリュウによるSF小説の短編集。
母親の作った折り紙の動物が生きている表題作「紙の動物園」をはじめ、宇宙船の乗組員が地球に小惑星が迫る日々を思い返した「もののあはれ」、妖狐の娘と妖怪退治師を描く「良い狩りを」など全部で15つの短編が収録されています。
胸を抉る話にあふれた、繊細なSF短編集
懐かしさを感じる御伽話と科学技術が融合したような、大人向けの短編集です。
全ての作品の完成度が高く、短い話でも非常に読み応えがあります。
表題作の「紙の動物園」は主人公の母親の気持ちを考えると胸が苦しくなる一方で、「自分は、母親についてどこまで知っているだろう?」と自問自答したくなるような展開が待ち受けています。
作者の持つ、SF小説なのに未来ではなく過去を語ることができる技術には脱帽させられます。
どの話もアイディアがすごく、着眼点が見事なものばかり。
読了後は切ないような残酷なような優しいような、独特なの世界観に浸ることのできる唯一無二の良作です。
50.ジェイムズ・P・ホーガン『造物主(ライフメーカー)の掟』
自動工場宇宙船が故障し、土星の衛星タイタンに着陸しました。
乗組員であるロボットが衛星の資源を使って製品を作る予定でしたが、ロボットたちは独自の進化をしていきます。
タイタンで文明社会を築いた機械、そこを訪れたのは自称超能力者を始めた人間たちでした。
インチキペテン師たちの勧善懲悪物語
機械を生物と呼び、植物や動物、人間を非生物と呼ぶ地球とは正反対の世界、ロボットが知性を持つようになり文明社会を築くまでの過程がとても面白いです。
非現実的な世界のように見えますが、説得力のある文章とこだわった設定のおかげで実在しそうだと錯覚すら覚えます。
主人公のインチキ超能力者が持ち前の知識と頭脳、そして科学技術を用いて問題を解決していく様は実に痛快です。
宗教問題も絡んでいて、無知と狂信を批判しているのも物語を面白くしている要因のひとつ。
機械たちが中世のような世界を生きているという違和感、超能力者が科学技術を利用すると言う矛盾、色々と逆転した中で華麗に悪を成敗していく爽快さは他の物語では味わえません。
51.ジェイムズ・P・ホーガン『造物主(ライフメーカー)の選択』
「造物主の掟」の続編。
人類との関わりを通じて進化したロボットたちには大きな謎が残されていました。
ロボットの創造主は一体誰なのか? その謎を解き明かすために再び自称超能力者が動き始めます。
帰ってきたインチキ超能力者と知的機械たち
前作では滅びたと言われていた造物主が登場します。
この一族はとても口が悪く、自分の利益のために相手をとことん攻撃します。
そんな彼らと彼らの開発した人工知能がロボットの世界を侵略しようとするのですが、そこに立ちはだかるのが前作にも出てきたインチキ超能力者です。
前作と同様、この超能力者が科学技術を駆使して活躍する姿は読んでいてとても愉快な気分になります。
造物主と霊能力者はお互い口が立つのでそこの争いも見どころの一つ。
テンポの良い展開と予想外の結末はきっとあなたを驚かせてくれます。
前作とともにぜひ一気に読んでもらいたい作品です。
52.ジェイムズ・P・ホーガン『未来からのホットライン』
主人公と友人は、物理学者の祖父に招かれイギリスに向かいます。
そこにあったのは祖父が開発したというタイムマシン。
未来から大災害が起こると言う警告を受けて、三人は阻止するために動き始めます。
3回のみ使えるタイムマシン、あなたはいつ使うか?
この話で出てくるタイムマシンは、一般的に出てくるようなあらゆる時代に行けるものではなく「時間を遡ってメッセージを送る装置」というものです。
この装置によるタイムパラドックスを解決しながら世界を救う、よくある物語にも見えますが実は全く違うのです。
実はこの装置は3回しか使えないという制限がついています。
様々な困難や障害に立ち向かう中で、最後の3回目をいつ使うのか。
この物語の核になる部分ですが、この3回目の使い方が実に見事で感服せざるを得ません。
登場人物にはそれぞれ得意分野があり、それに絡んだ活躍も面白さの一つです。
少し難解ではありますが、古典SFとしての傑作でありタイムパラドックスを味わうには最適な一冊です。
53.ジョン・ウィンダム『トリフィド時代 (食人植物の恐怖)』
地球が緑色の大流星群を通過した翌日、流星を見た人が全員視力を失ってしまいました。
流星を見ずに済んだ人たちが文明を担うようになった時代、トリフィドと呼ばれる動く植物が人間たちを襲い始めます。
人類を滅ぼすのは家畜か、疫病か、それとも
この物語では良質の植物油を取るために家畜化されていた歩く肉食植物が、巨大化して逆襲するかのように盲目になった人間を襲います。
さらには謎の疫病も発生して人類は絶滅へと向かいます。
現代の人間にとって家畜か必要不可欠ですし、さらにはコロナウイルスの大流行、古い作品ながらこの物語は今読んでもなお痛切に感じるのではないでしょうか。
人類が壊れていく中で、最終的には盲目になった人間と目が見える人間の争いになります。
これは、巨大生物がはびころうと疫病が蔓延しようと、結局は人間が人間を滅ぼしていくという警告のような意味すら感じます。
ただのパニックものではなく人間同士の心理戦も強調されていて、先の展開が気になりついつい読み進めてしまうこと間違いなしです。
54.アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ! 』
SF史上に名を残すほどに異様なパワーがみなぎる作品。これほどまでにテンポの良い海外SFも珍しいです。
漂流する宇宙船に取り残されていたガリヴァー・フォイルが救助信号を無視されたので復讐する話。
SFってこういうものだ、というのを再認識させてくれる一冊
テレポーテーションや共感覚などのSFらしい要素もてんこ盛りで、特に「共感覚」のシーンが面白すぎます。
ジョウント(テレポート)するのに、飛べる距離に個人差があったり発着場があったりして、設定の作り込みも恐ろしい。
加速装置の発動が脳波ではなく奥歯に仕込んだスイッチ、というアナログ感も良いですね。
じっくりと世界観を噛み締めながら読む、というより「うぉおおおおおお!」と勢いで読む感じ。最後の超展開も最高です。
ジョウントと呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ!
55.レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金(きん)の林檎』
宇宙船が、冷えてしまった地球のために太陽から火を持ち帰ろうとする表題作「太陽の黄金の林檎」をはじめ、SF界の巨匠レイ・ブラッドベリが描く壮大な物語を全22編掲載した短編集です。
幻想的な不思議と美しい文章で満たされた一冊
全ての文が美しく、情景やその世界の空気感が鮮明に思い浮かびます。
ここまで物語に入り込めるような文章はそうそうないのではないでしょうか?
SF小説という枠だけでなく、おとぎ話のような、神話のような綺麗さまで感じることができます。
人間の奇妙な面が話を構成していき、喜怒哀楽についても丁寧に描かれています。
ただの短編集ではなく、一話一話読み進めるごとに不思議な面白さが出るように構成されていて、ぜひ一気に読んでほしい一冊です。
全22編で、短編集の中でも非常に多くの物語を収録しています。
ショートショートのような短い話もあり、文章を読むのが苦手な人にも読みやすい短編集だと言えるでしょう。
56.アーサー C クラーク 『宇宙のランデヴー』
リアルかつハードなSF作品で名を残したアーサー・C・クラークのシリーズ作品のひとつです。
時は西暦2130年宇宙監視計画スペースガードが謎の物体を発見します。
その物体はラーマと名付けられ、人工の建造物であることが明らかとなった。
そこで宇宙船エンデヴァーがラーマの探査へと向かいます。
多くの作品の原点となった古き良き傑作
エンデヴァー号の調査隊によるラーマの探索の様子が描かれる「未知との遭遇」がテーマとなっているSF作品。
この作品の魅力は「読者の想像力」を刺激し、駆り立てるような文章であると言えるでしょう。
その中でも作中最後の1文に心を惹かれる人も多いとされる本作。
ラーマ内の探査の情景が壮大に描写されており、読者を一緒に冒険の世界へ連れて行ってしまうような表現方法。
探査内で起こる様々な驚異にさらに作中の世界に引きずり込まれること間違いなしです。
スケールの大きさについていけない!という声もありますが、SF好き・冒険好きにはたまらない知的好奇心をくすぐる一作となっています。
57.アーサー C クラーク『幼年期の終わり』
SF史上の傑作と名の高い本作は、かの有名な日本純文学作家である三島由紀夫でさえも「随一の傑作と読んで憚らない」と評価するほどのSF作品です。
「人類の進化」がテーマとされる本作は、人類では敵わないほどの超文明の異星人・オーバーロードによって地球が核戦争寸前状態から救われるところから始まります。
そこからオーバーロードは地球を完全に管理し、進化へと導いてく。
SFの底力を感じさせるのに最適な一冊
地球人は何のために進化を遂げたのか?オーバーロードはなぜ進化へと導いたのか?
それぞれが自身の生き方を理解し、それに従って進んでいきます。
作品のメッセージにも捉えられるようなこのストーリーに胸を打たれる人も多いのではないでしょうか。
また古典SFと言われる本作がここまで評されるのには「SFの描写」に理由があるとされています。
古典SF小説とは思わせないテクノロジー描写はスケールの大きさ・描写の美しさ何をとっても技術の塊と言っても過言ではありません!
58.アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』
宇宙船ディスカバリー号のコンピューターである、ハル9000が突如人類に反乱を起こしました。
人類で唯一の生存者ボーマンは、一体どこに行って何に出会い、何に変貌してしまうのでしょうか。
緊迫した世界のもとで、謎について考える
文章を読んでいて伝わってくる、壮大な光景に引き込まれます。
機械の反逆がなぜ起きたのか、何百年も前にできた物体はなぜそこにあるのか、この物語の中には謎が非常に多く、それらを考えるだけでも楽しめます。
宇宙物では珍しい、静かに脅威や恐怖が訪れる展開にはついお見事と言ってしまいたくなるほど。
全てをコンピューターに託す危うさは現代社会にも通ずるところがあります。
また、オチもとても秀逸で、読み方により様々な解釈ができます。
途中に散りばめられた伏線が宇宙という巨大なスケールのもとで上手に使われていて、名作と呼べる一冊です。
59.アーサー・C・クラーク『都市と星』
はるか未来の人類は、人類を完全に管理する都市、ダイアスパーへの永住を決めました。
人類は皆この都市から出ることを恐れますが、アルヴィンだけが外に出ることを望んでいました。そんな彼がついに外の世界へ出て、都市の秘密に迫っていきます。
あなたは完璧な世界でも探究心を持つことができるか
ダイアスパーという都市の人類は、1000年間生きた後にデータバンクに入り、ある程度時間が経過すると新しい人生を歩みます。
ここに住む人類が恐れるのが「変化」。
変化を恐れるのは人間の本質ですが、あまりにも変化を求めずに生きると停滞し、いずれは滅びます。
そんな世界の中、唯一外の世界に興味を持つアルヴィン、彼は冒険を通して成長していきます。
彼の行動や思考には、いつの時代も知的探究心を持った人間が未来を開拓するのだというメッセージが込められているようにも感じます。
ものすごく壮大なテーマなのに、自らの価値観にも訴えてくるような物語です。
また、アルヴィンが発見していく世界の真実は予想のつかないことばかりで、何度も展開が変わるので飽きずに読み続けることができます。
60.デニス E テイラー『シンギュラリティ・トラップ』
舞台は22世紀、人類は地球温暖化が進み環境悪化に苦しんでいた。
技術者である主人公は、一攫千金のために宇宙船に乗り込む。
一行は目当ての小惑星を発見しますが、彼らはある悲劇に襲われます。
現代の地球が辿り着きそうな近未来
宇宙にある未知の惑星を探索する人々を描いた大長編SFです。
宇宙空間特有の恐怖や深刻さがありますが、主人公にユーモアがあり非常に前向きなので楽しく読むことができます。
展開にリアリティがあるのも本書の特徴の一つ。
感染症についても描かれていて、全体的に今の世界の延長戦のような雰囲気もあり、登場人物の置かれた状況がどうしても他人事とは思えません。
結末も良く練られており、少し明るさを感じるような何とも言えない読後感が心地良いです。
派手さはありませんが、ストーリーはわかりやすくシンプル、でも読み応えのある傑作。SF初心者の方にもおすすめしたい面白さがあります。
61.アーサー・コナン・ドイル『失われた世界』
あるアメリカ人がアマゾン川の流域で死亡します。
彼の遺品から見つかったのは古代の生物が描かれているスケッチブック。
古生物学者の主人公は、生存しているかもしれない古代の生物を求めてアマゾン川へ探検に向かいます。
空想と科学を結集させた、最高の冒険小説
主人公である、破天荒なチャレンジャー教授がアマゾン川を突き進む冒険譚です。
ジュラシックパークの如く、恐竜がたくさん出てくるので読みすすめるにつれてワクワクします。
フィクションとはいえリアリティがとことん追求いるのも特徴的。
主人公と同行する教授や記者は、あくまでも科学的、論理的思考で目の前の出来事に立ち向かっていきます。
そのせいか、恐竜や猿人、さらには奇妙な生物といった非現実的な生物を相手にしているのに、どこか説得力を感じるのです。
また、未知の生き物を相手にしたアクションにとても迫力があるので、まるで映画を見ているような臨場感を楽しめます。
最後は少し悲しいような、それとも幸福のような結末を迎え、程よい余韻を味わうことができます。
62.N・K・ジェミシン『第五の季節』
超大陸スティルネスでは、数百年ごとに「第五の季節」と呼ばれる天変地異が起こりその度に文明は崩壊してきました。
オロジェンという災害を抑え込む能力を持って生まれた主人公は、天変地異を前にして、仇である夫を追う旅を始めます。
3人の物語は一つにつながっていく
この物語には3人の主人公がいます。失った子を探す旅をする母、親に見捨てられた少女、能力の高い者との子を宿す使命を持った女性、この3人の視点で物語が進む展開は圧巻です。
3人の視点が少しずつ絡まり、伏線が徐々に明かされていく面白さ。
芯を持った女性は美しいとひしひし感じます。
ここまで複雑で、なのにドキドキしながら読み進めてしまうような話が他にあるでしょうか?
大地を操る能力者がいる世界なので、能力者同士の壮大な戦いを楽しむこともできます。
登場人物はみんな他の追随を許さぬ力を持つのに、人間が皆抱えるような悩みや不安を抱えていて、つい親近感を覚えてしまいます。
三部作の第一作、あなたもぜひこの物語の魅力に触れてみてください。
63.ジョージ・R・R・マーティン 『ナイトフライヤー』
宇宙にいる生命に出会うために、9人の研究者を乗せて旅を続ける宇宙船ナイトフライヤーを描いた表題作「ナイトフライヤー」をはじめ、SFファンタジー界を代表する作者の全6編を収録した短編集です。
ホラーSFの最高峰、人間の恐ろしさも
SFだけでなくホラー要素もあり様々な面から楽しむことができます。
特に表題作である「ナイトフライヤー」は屈指の宇宙規模ホラーSFであり、宇宙船に次々と襲いかかる怪奇現象や迫り来る恐怖には思わず息を呑んでしまいます。
お互いが疑心暗鬼になってしまうような人間同士の心理的な怖さもあり、まさに予測不可能な展開。
個々の物語は独立していますが、奥に隠された共通のテーマを仄かに感じます。
全体を通して孤立した人物を描くのが上手く、最後まで読ませる魅力が詰まっています。
収録されている短編全てが傑作であるといっても過言ではありません。
ホラーSFに抵抗がなければ是非読んでほしい一冊です。
64.カート・ヴォネガット・ジュニア『猫のゆりかご』
専制政治に支配される島に住む主人公は、とある禁断の宗教の教徒になります。
そこからはじまり、奇妙で個性的な人物たちが主人公の周りに現れ、世界が終末を迎えた日を鮮やかに彩っていきます。
クスッと笑える地球滅亡物語
なんといっても、主人公のジョーナの人間味あふれる言葉や振る舞いがとても心地良いです。
まるで上品な詩を読んでいるかのような気分になるこの一冊。
名前のついた登場人物は数十人以上、この人たちが過ごす日々を通じて、世界は緩やかに終末へと向かっていきます。
登場人物は皆嘘つきで、結末がどうなるのか全く予想のつかない構成。ハラハラドキドキ緊張感を持って読むことができるでしょう。
皮肉や風刺表現が多いですが不思議と嫌いになれない、むしろ好んでしまうようなユーモアが見え隠れしています。
ユーモアで滅亡という虚しさを吹き飛ばそうとしているような健気さすら感じますね。
まさしくこの小説でしか味わえない独特な雰囲気といえるでしょう。
65.スタニスワフ・レム『ソラリス』
意思を持った海に表面を覆われた惑星「ソラリス」の解明のため、主人公はステーションに派遣されます。
しかしそこでは、海による現象のせいで研究員たちが変わり果てた姿で存在していました。
知的生命体である海に翻弄される人々の葛藤
ソラリスの海は明らかに理性を持っていますが、意思疎通を図ることはできません。
ソラリスの海から一方的に与えられる現象、それに翻弄される人間、はたして海が悪いのか、それとも人間が悪いのか…。
人間を主体に他の惑星生物と対話を目指す姿は、愚かともとることができます。
緻密に描かれたソラリスの研究史も含め、考え始めるとまるで自分も海の底にいるような気分になります。
SF小説の中に恋愛やホラー要素もあり、思考実験のような不気味さすら感じる始末。
14章ごとに完結する惑星ソラリスの短編集ともとれ、一つの物語にここまで要素が練り込まれているのはとても珍しいです。
66.ダニエル アレンソン『地球防衛戦線1: スカム襲来』
異星種族の襲来により人類は6割以上殺され絶滅の危機に陥ります。
異星種族と人類が消耗戦を行う中、18歳になった主人公は人類防衛軍に徴収され、戦いの場へと向かうために過酷な訓練へと身を投じることに。
様々な困難に耐える若者の美しい姿たるや
異星種族を倒すために、若者が徴兵を受けて理不尽な訓練を受けます。
若者の中には復讐を原動力にして頑張る者、恨みがあっても戦いたくないと考える者と様々です。
彼らの心情の変化や、味方のために、地球のために懸命に訓練に臨む姿を見ているととても心が打たれます。
この本はシリーズの最初であり、若者たちが実際に異星種族相手に戦うことはありません。
それでもなお読ませる魅力があり、登場人物の成長に引き込まれていきます。
彼らがこれから戦いに身を投じるのかと思うと、まるで親のように期待半分不安半分といった気持ちでいっぱいになります。
きっとあなたも、この物語を読んだ後には早く次の話を読みたいと思うでしょう。
67.テッド チャン『あなたの人生の物語』
言語学者である主人公は、地球にやってきたエイリアンとのコンタクトを担当します。
地球と全く異なる言語を理解するにつれ運命が変わっていく主人公を描く表題作をはじめとした、全8編の短編集です。
科学的嗜好を元にした、本物のハードSF
映画化もされた表題作は、エイリアンとの接触を踏まえて言語学者が新たな高みへと向かいます。
主人公から強く感じるのは自分の選択に責任を負うという気持ち。
確定した未来を知った上で、二人称で語りかける主人公の強さが浮き彫りになっています。
どの話も面白く、宗教、知能、社会情勢…、全てにおいて徹底的に理論のアイディアが込められています。
切り口の多彩さ、美しさには思わずため息が溢れます。
話を読むにつれてこちらの思考もクリアになり、考えが無限大に広がっていくような錯覚を感じるほど。
作者のものの捉え方に始終感銘を受ける短編集です。
自分の視野や思考の解像度を高めたい人は、ぜひ手にとってみてください。
68.テッド チャン 『息吹』
人間がだれもいない世界で、世界の秘密を探究する科学者を描いた表題作「息吹」、タイムトラベルについて科学的にあり得る論を描いた「商人と錬金術師の門」をはじめとした、全9編の短編集です。
人間の心情、意思、そして美しさ
感情の変化について美しく描かれた作品集です。自分の持つ記憶や意思はどこまで確信が持てるものなのか、未来を知るとどう反応するのか、人間の考え方や存在意義について問うてくるような文章です。
ただのSFではなく、人間の在り方についても深く切り込んでいます。
また子供について述べているのも印象的で、未来に残していく重要性に改めて気付かされます。
全てのテーマが多彩であり、我々が本当に読むべきだと実感させられる一冊。
そして、この本から何を感じとり何を見出すかは千差万別。
どんな捉え方をするにしろ、確実にあなたの感情は揺さぶられますし、この本に出会えて良かったと思うこと間違いなしです。
69.パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』
近未来、石油がなくなりエネルギー構造が変化したバンコクが舞台。
遺伝子組み換え動物を使いエネルギーを生み出す工場を経営する主人公は、アンドロイドの少女に出会います。その出会いは世界の運命を大きく変えていきます。
ねじまき少女エミコの行動から目が離せない
生き物の物理運動からエネルギーを取り出すことに依存した近未来。
人工生命体である少女は、人間から消費されることを当たり前とは思いつつも、心のどこかで生き物としての存在意義を求めています。
そんな彼女がタイにて様々な人間と行動を共にして彼らの顛末を見届けていく、そして自分で選択をし、結末に導いていく。
この姿を生物と言わずになんと言いましょうか。
誰も想像できない彼女の行動によって、世界は少しずつ変化をしていきます。
彼女の成長する姿に共感を覚えつつも、どこか退廃したなすすべのない世界を楽しむことのできる一冊です。
念入りに構築された世界観に入り込むことができます。
70.劉 慈欣『三体』
父を惨殺された女性科学者である主人公は、謎の軍事組織にスカウトをされます。
そこでは人類の運命を握るプロジェクトが進行していました。
数十年後、世界的な科学者が次々自殺する中、ある学術団体の関与が疑われます。
壮大なスケールのもと描かれる大作SF
現実的な面と非現実的な面のバランスがちょうど良く、設定に没入して読むことができます。
疾走感がすごく、何が起きているのかと不安になる主人公の気持ちに完全に共感しながら最後まで読むことができます。
伏線や展開の広がり方がとても壮大であり、読了後はすぐに続きを読みたい気持ちが溢れるはず。
想像のつかない理屈がまかり通る「三体世界」の表現も痛烈で、荒唐無稽な世界なのになぜか容易に想像できます。
これも作者の卓越稀なる文章力のおかげでしょう。
この話の中では「虫けら」という言葉が象徴的に使われており、人類の未来を表すかのような部分は美しさすら感じます。
71.星新一『ようこそ地球さん』
人類の未来にある悲しみや喜びを、時には涙しながら、時には笑いながら、時には馬鹿にしながら描き上げたショートショートを、奇想天外で卓越なアイデアを取り混ぜた42編を収録した作品集です。
無限のアイデア、自由自在の起承転結
どこか懐かしいけど、どこか新しくも感じる不思議なショートショートの詰め合わせ集です。
作者の星新一はショートショートの神様とも呼ばれ、どの話もオチが素晴らしいのですがオチに至るまでの展開もとても面白いです。
わかりやすいテーマから難しいテーマまで、ここまで綺麗な起承転結になっているのはさすがとしか言えません。
読み終えた後も、時間が経つと再度読み返したくなるような魅力。
誰もがこの作者の世界にのめり込んでしまうでしょう。
読みやすい文章で、読書が苦手な人にも読み進めやすい短編集だと思います。
昔の作品ながら今の時代に通ずる内容も多く、作者の才能を体感するのにもってこいの一冊と言えるでしょう。
星新一さんはたくさんのショートショートを世に送り出していますが、この『ようこそ地球さん』はよりSFチックな作品が多く収録されています。
72.長谷 敏司『My Humanity』
疑似神経制御言語と個人の文化的背景の関わりを描く「地には豊穣」、小児性愛の治療が悲劇を生む「allo,toi,toi」、長篇『BEATLESS』のスピンオフ「Hollow Vision」、自己増殖ナノマシンと研究者を描いた「父たちの時間」を収録した短編集です。
暗い未来と前向きな人間の対比が恐ろしく美しい
「父たちの時間」は、日本でも未だ問題になっている原子力発電所を思い浮かべるような構成で、決して他人事ではないと緊張感を持って読み進めることができます。
科学技術が人間の想像を超える脅威を奮う設定には、考えさせられることが多いのではないでしょうか。
タイトルの「Humanity」は直訳すると「人間性」。
その名に違わず、人間の過ちや、恐怖を前にしたときの思考、行動に対して鋭く切り込んでいます。
読み終えたあとはつい深刻に考えてしまいますが、それだけ強く物語にのめり込めるとも言えます。
決して明るい内容ではありませんが、深い思考に対して不思議な心地よさを感じる一冊です。
73.長谷 敏司『BEATLESS』
今から100年が経過した未来の話、人類の存在意義は一人の17歳の少年に委ねられました。
主人公と「AI美少女」が出会うとき、いったい何が起こるのでしょうか。新しいボーイミーツガール物語がはじまります。
100年後の世界はこうなのかもしれない
主人公は一見普通の男子高校生とされていますが、実際は誰よりも優しく、他人を正面から受け止めることができる稀有な人間です。
そんな主人公が「AI」の少女と出会うことにより、人間本来の心や価値観を再確認していく、また、私たち読者にそれらについて問うてくるような構成になっています。
「ヒト」と「モノ」である二人の関係があまりにも自然で、100年後にはこれが当たり前なのではないかと思ってしまうほど。
アニメ化もされた作品なので、一見ライトノベルのように感じるかもしれませんが中身はしっかりとしたハードSFです。
硬派なSFが好きな方にも手を取っていただきたい作品です。
74.長谷敏司『あなたのための物語』
2083年、研究者である主人公は神経制御言語ITPを開発しました。
主人公はITPに含まれる仮想人格に小説を執筆させ、創造性を兼ねるという証明を試みます。
しかしある日、主人公の余命が残り半年だと判明し……。
読み終わった後、タイトルの意味を知る物語
この物語には死がつきまといます。主人公は日に日に死に向かっていきますし、仮想人格はそんな主人公の死に寄り添います。
死から目を逸らすため、死の恐怖を和らげるために、仮想人格は主人公のために働き、支えるのです。
読む人によっては、ここまで科学技術が発達してもなお、人類は死に怯えるのかと絶望するかもしれません。
しかしこの恐怖がこの物語の最大の特徴でもあり、魅力でもあります。
いつの間にか主人公に共感し、同調し、一体化する。他人事とは思えなくなる。
そういった視点で読むことができる数少ない物語だと思います。
あなたもこの物語を通じて一度、死について考えてはみませんか。
75.伊藤 計劃『虐殺器官』
テロ対策に世界が注目する時代、米軍大尉である主人公は、テロの混乱の陰にしばしば名前が上がる謎の男「ジョン・ポール」を追うためにチェコへと向かいました。
彼の目的を調べるうちに、主人公は殺戮を起こす「虐殺器官」に辿り着きます。
作者の描く壮大な世界観に唸らされる一冊
この物語は、とにかく壮大です。作者の持つ知識、情報、構成力、なにもかもが桁外れに大きく、そして深い。
そしてテーマはタイトルにもある通り、テロによる「虐殺」です。
よっぽどひどい人の死に際が描かれているのかと思いきや、死の瞬間はとても静かです。
この静かさが余計に現実味を感じさせて、読んでいる最中に戦争が急に身近なものへと変化します。
作者の緻密な仕掛けや描写に上手い!と唸りつつも、主人公のこれからに同情してしまうような悲しさもあり、読んでいると喜怒哀楽を総動員させられるような気持ちになります。
まるで映画を見たかのような読後感、間違いなくSF最高峰の一冊です。
76.伊藤計劃『ハーモニー』
21世紀後半、大災禍と呼ばれる混乱を経て人類はユートピアを作りました。
しかしそこは見せかけの優しさがあるだけでした。
主人公を含む少女3人はそんなユートピアに抵抗をするために餓死を選択、しかし主人公は死ぬ事ができませんでした。
主人公の苦しさに共感する物語
この世界では何もかも管理されるのが当たり前で、建て前の倫理観が重視されています。
主人公は、個人的な事情や感情で行動するので異端のように見えます。
しかし、主人公の考えは我々の世界では普通であり、息苦しい世界でもがく姿には共感すら覚えました。
もしかしたら見せかけの優しさを押し付ける世界に、どこか未来の日本的な要素を感じ、より一層主人公に感情移入をしてしまうのでしょう。
また、伏線の張り巡らされ方もとてもうまく、文中に散りばめられたプログラミング言語のようなものの意味には驚かされます。
伏線を含めた結末があまりにも素晴らしく、気持ちの良い読後感を得る事ができます。
まさにタイトル通り「ハーモニー」を感じる事ができるでしょう。
77.伴名 練 『なめらかな世界と、その敵』
複数の並行世界を行き来する少女の青春を描いた表題作、脳科学を題材にしたもの、ソ連とアメリカの高度人工知能が戦いあう歴史物語など全6編を収録した、想像豊かな短編集です。
感情を元にしたSFの傑作集
この短編集は、とにかく作者のアイデアが素晴らしいです。
数々のSF物語の基盤から、人間の心情の変化や人間関係についてを繊細に、深く掘り下げて表現されています。
その描写は美しく、可憐で、時には容赦がありません。
読者の感情をぐちゃぐちゃに揺さぶってくるような作品ばかりが収録されています。
作者のSFへの愛がどストレートに伝わってきて、こちらまで楽しくなってきます。
6つの短編は全て異なった表現技法が使われていて、ひとつひとつに新しい面白さがあります。
物語に入り込みたい、世界観にどっぷりと浸りたい人にはぴったりの一冊と言えます。
質の高いSF短編を読みたいと思うなら、この本を手に取ってみると良いでしょう。
78.野尻 抱介『南極点のピアピア動画』
主人公は、日本の月探査計画に関わっていた大学院生。
彗星が月面に衝突したせいで計画は終了し、主人公は彼女に振られます。
主人公は彼女への愛をボーカロイドに歌わせ、ピアピア動画にアップするのでした。
ネットのノリが世界を変える
一見ライトノベルのように感じますが、立派な王道SFです。
流行りに乗って、とんとん拍子にうまく行き、気づかないうちに予想もつかない方向へと向かっていく。
そういったドキドキ感がとても巧妙に表現されています。
関係のないような話が並ぶ中、最後の話で全てがつながり、そのまま最後まで駆け抜けていく疾走感が最高に気持ち良いです。
まさしく短編連作の最高峰。少し先の未来、希望あふれる世界について描かれているので前向きな気持ちで楽しく読む事ができるのもこの作品の特徴です。
ハードSF要素もあり、恋愛要素もあり、そして明るいネットの民の姿もあり。
こんな未来になれば良いなと望まずにはいられない楽しいSF小説です。
79.飛 浩隆『象られた力』
なぜか消失してしまった惑星の言語体系に隠された、見えない図形の解明を依頼された男の災厄を描く表題作をはじめ、作者の初期の中編を全4編を収録した傑作集です。
美しく、煌めくような情景描写
中編集と侮るなかれ、とても濃密でしっかりと練られた物語ばかりが収録されています。
文章力、表現力、ともに高いレベルにあり、世界観にしっかりと入り込む事ができます。
何度も繰り返し読みたくなるような話ばかり。
特に表題の「象られた力」は内容のあまりの深さに圧倒されます。
百合洋と呼ばれる地球化が進められた惑星の描写はとても美しく、惹き込まれるような魅力があります。
まるで目の前に惑星があるかのような錯覚すら覚えます。
味わったことのないような読書体験をして見たい方、絵画のような美麗な情景を思い浮かべたい方、ぜひこの本を手に取ってみてください。
全てのSF好きにお勧めしたい一冊です。
80.飛 浩隆『自生の夢』
言葉だけを使い73人を殺した稀代の大殺人者は、ある怪物を滅ぼすだけのためにこの世へと召喚される表題作を含めた、独特の文体を持つ作者が描いた物語を収録した屈指の短編集です。
文章でしか表現できない華麗な世界
美しも迫り来るような文章で、文字を眺めるだけでこの世界にトリップした感覚を味わえます。
まるでこの物語全てが作者の生み出した概念そのものの様。
昔懐かしい異世界ファンタジーゲームの内容を、今まさに起きるかもしれないと勘違いさせられながら進めていくような新しい体験ができます。
VRを見ているような、視覚だけでなく五感全てに訴えかけてくる物語。
あり得ないとわかっていても、その前提すら覆されます。
SFが好きでない人にも読んでほしい美麗な物語たち。
この作者特有の世界観が詰まっており、時間を忘れてのめり込んでしまうこと間違いなしです。
81.飛 浩隆『グラン・ヴァカンス』
仮想リゾートの中にある南欧の港町を模した「夏の区会」では、1000年前から人間の訪問が途絶えAIだけが過ごしていました。
しかしある日、雲の大群が街を襲い、AIの戦いが始まります。
読まないとわからない、不思議な感情に包まれる物語
放置される区画で生きるAIたちは、繰り返される夏の中をただ懸命に生きています。
そんな世界を無情にも壊しにくる蜘蛛たち。
AIが次々と殺されていき、残酷であり苦しい描写が多いのですが、AIたちの心理描写があまりにも繊細なため何処か神話のような綺麗さをも感じます。
救いのない物語なのに、読んだ後は不思議と爽快感すら覚えてしまいます。
AIであるにもかかわらず自我を持ち、独立した人格を持つ登場人物たち。
理不尽に殺戮される姿を見ると、ひどい、悲しい、楽しい、面白い、そう言った安易な言葉で表せない様な感情は湧き上がってきます。
この感覚は決して文章化することが出来ず、読んだ人にしかわからないものなのでしょう。
82.野崎まど『know』
2081年、人間の脳に電子葉の移植が義務化された世界。
主人公は情報長で働いていて、ある日情報素子の中に行方不明の上司が残した暗号を発見します。
その暗号の先に待っていたのは一人の少女でした。
少女が「知る」を追いかけるファンタジーSF
この物語ではこの先私たち人類が遭遇するであろう展開が描かれています。
高度に発達する人類は、脳の処理の一部を機械に外部化させて、知ることにより興味を覚えるようになる、体感したいようなしたくないような未来の姿がここにはあります。
きっとタイトルも、知りたいというの人間の欲求を表しているのでしょう。
人類の最終形態に行きつく過程を非常に面白く書いています。
ハードSFというよりも、ファンタジー要素が強く爽やかな未来物語を読みたい方にぴったりなこの物語。
少女が目的を果たすまでの展開がとても楽しく、刺激的に表現されています。
読んだ後は必ずこの少女のことが忘れられなくなるはずです。
83.広瀬正『マイナス・ゼロ』
東京空襲の最中、主人公は死に向かう先生から「18年後にここにきてほしい」と頼まれました。
約束の日、主人公が目にしたのは先生が密かに開発したタイムマシンでした。
古典的名作、日本SFの金字塔
通常、タイムトラベルをモチーフとした物語は、タイムマシンを使って解決したいことがある、タイムマシンによって幸せを手にいれたいと思っている、といった目的を主人公が持っています。
しかしこの物語の主人公にはそういった目的がありません。
受動的な性格であり、自分が陥った望んでいない状況下でもなんとかなるさと受け入れています。
また、受け入れつつも楽しみ始めるその姿はとても魅力的です。
諦めやすく、すぐに切り替える事ができる主人公の性格には憧れすら感じます。
時より混じるユーモアもとても面白く、この物語に花を添えます。
昔の物語なのですが、古臭さを感じない現代にも通じる楽しさがあり、タイムスリップSFとして非常にお勧めです。
84.貴志祐介『新世界より』
1000年後の日本にある神栖、そこは注連縄に囲まれた街で、子供たちは日々念動力を練習しています。
しかしある日注連縄の外に出てしまいます。そこで子供たちは隠された先史文明について知ることになります。
緻密に練り上げられた展開には圧巻の一言
上中下の3部作であり、長くてとっつきにくく感じるかもしれません。
しかし一度手に取ったら最後、気がついたら最後まで読み終えている事でしょう。
特に後半の疾走感は見事と言わざるをえません。
主人公の子供たちは可愛く無邪気、そして好奇心旺盛です。
そんな子供たちを待ち受ける現実はあまりにも重く、暗く、残酷。
その対比がこの作品の魅力であり、そして緊張感を持って読む事ができる理由になっています。
主軸となる話の面白さはもちろん、脇役や細部に至るまで不気味なほどに作り込まれています。
謎が謎を生み出していくような練られたストーリーに、ハマってしまう事間違いなしの一冊です。
85.有川浩『図書館戦争』
公序良俗を見出し人権を侵害する表現を取り締まる「メディア良化法」が成立され、メディア良化委員会と図書館は争いを続けていました。
主人公の笠原郁は憧れの図書館特殊部隊に配属されます。
読書の自由+王道ラブコメディ】
表現の自由について考えさせられる作品です。
本は検閲され自由に買うこともできなくなる、一見荒唐無稽な設定のようにも思いますが、実際そんな世界になったらどうしようという気持ちにさせられます。
そしてなにより、主人公笠原郁と上官堂上との掛け合いがコミカルで面白いです。
読書の自由の制限という重いテーマなのに、気負わず楽しめます。
ラブコメディの要素が強く、登場人物の個性が立っていてくすりと笑いながら読むことができます。
本自体は分厚いですが、展開はスムーズで内容もわかりやすく、読書が苦手な方でも気軽に入り込めるのではないでしょうか。
86.柴田 勝家『アメリカン・ブッダ』
近未来、大混乱したアメリカにブッタを侵攻するインディアンが現れ救済を施していく表題作をはじめ、民俗学とSF設定を華麗に交わらせていく作者が描く短編を6篇収録した名作集です。
宗教によって人類は救われるのか否か
SFに民俗学を絡めているということだけあって、全ての作品が独特であり、良い味を出しています。
特に表題の「アメリカン・ブッダ」は、現実の世界と仮想世界にそれぞれ主人公がいて、理想の世界を語りかけてきます。
理想の世界、ぞれは人類が長年望み続けた死後の天国。
しかしそこに、宗教が深く絡みついてきて人類は苦悩の道へ進んでしまいます。
これはどこか皮肉めいた話で、作者はきっと今の世界に警鐘を鳴らしているんだと痛感させられます。
人類は人類である限り、どんな存在になってもどこに行っても何を与えられても満足しないという、強烈な皮肉。
救いがないように見えるのに、読了後は何故か救われたような気持ちになります。
そういった方法で表現するのかという驚きもある一冊。ぜひ手に取ってみてください。
87.籘真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』
ある病の蔓延により、感染者は男女別自治区に隔離されていました。
彼らは人工妖精と暮らしており、その一体である揚羽は死んだ妖精の心を読む事ができます。
揚羽はその能力を活かして、人間とともに連続殺人犯を追います。
人工生物との共生、人類は何を見るか
この舞台の物語は、感染症により歪に変化した日本です。
感染者は自治区で暮らし、生涯の伴侶として人工妖精とともに過ごします。
殺人犯を追う揚羽は非常に人間らしく、彼女が様々な人物と会話する姿には微笑ましさすら覚えます。
しかしそれとは正反対に、猟奇的で残酷な殺人の描写、人が狂う恐ろしさを表現する文章。
この対比が非常に魅力的で、この物語により一層深みを与えています。
話の内容も重厚感があり、最終的には人類の未来、人工妖精の未来にまで飛躍していきます。
笑いあり、涙あり、絶望あり、結末までの展開がきちんと練られているので、読んだ後には暗闇の中から希望の光を見たような爽やかさを感じるでしょう。
88.桜坂 洋『オールユーニードイズキル』
コトイウシという島の激戦区、寄せ集めの舞台で敗北覚悟に戦う主人公は、敵に銃で撃たれた瞬間瞬間、前日に戻されました。
死ぬたびに前日に戻る、そんなループを158回繰り返した時、主人公はとある女性と再会します。
ハリウッドで映画化された最強の成長物語
実はこの物語はハリウッド映画の原作に選ばれています。それだけの面白さを持った作品です。
よくあるタイムリープものかと思いきや、その内容はまるでゲームかのよう。
毎日毎日殺されては昨日に戻り、主人公はなぜ戻るのかもわからないまま殺されないためだけに鍛えていく、そして徐々に強くなる。
その姿が戦闘ゲームの主人公のように見えるのです。
自分の行動が強くなる手段として正しいかわからないまま、がむしゃらに努力をする主人公の姿を見ていると自分も頑張ろうという気持ちにさえなります。
継続した努力は確実に成長へとつながる、そんなメッセージを発しているのです。
この物語は非常に読みやすく、主人公の成長ものとしての完成度がとても高いです。
漫画を好きな方にもとっつきやすく、ぜひ手に取ってもらいたい一冊です。
89..高畑 京一郎『タイムリープ あしたはきのう』
女子高生の主人公はある日、前日の記憶を失います。
彼女は日記を見ると、そこには学年一の秀才に相談しなさい、と書かれていました。半信半疑のまま相談すると、彼女に関する驚愕の事実が判明します。
恋愛青春SFの最高峰
突然タイムトラベルを起こすようになった少女が、同じ高校の男子生徒とともに解決策を導いていきます。
SF小説であり、学園もの、恋愛ものでもある。
そういった全ての要素を余す事なく描きききった素晴らしい作品です。
SFの設定と恋愛の設定、お互いがお互いを引き立て合い圧巻の結末まで導いてくれます。
恐ろしくなるほど練られた展開と伏線のおかげで、最後まで緊張感を持ったまま読む事ができます。
タイムトラベルについての説明も面白く、主人公と同様にメモを片手に持ち書きながら読み進めるとより一層楽しめるはずです。
最後まで読んだ後は、きっとまた最初から読み返したくなること間違いなし、おすすめの物語です。
90.藤井 太洋『オービタル・クラウド』
主人公は流れ星の発生を予告するサイトを運営していますが、ある日イランが打ち上げたロケットが高度をあげていることに気づきます。
データを解析するうちに、主人公は世界的なテロ計画に巻き込まれていきます。
作者の知識量と構成力に圧倒される
イランが発射したロケットの発見からはじまり、予想もつかない方向に進んでいきます。
宇宙をテーマにした物語なので、ひどく壮大なスケールで描かれています。
淡々とした文から繰り出される高度で科学的な説明、そして緊張感だらけの展開、どこをどうとっても面白いです。
作者の知識量が凄まじく、その知識に基づいた未来に関する記述には思わず息を呑むほど。
今の世界からは想像もつかないような未来への旅にあなたを連れて行ってくれます。
結末に至るまで多くの伏線や話題転換をするのにもかかわらず最後には鮮やかにまとまるのも大変美しいです。
人間同士の駆け引きややり取りも愉快であり、あなたをより一層この物語に惹きつけるでしょう。
91.『スタートボタンを押してください』
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、星雲賞などSF界の様々な賞を総なめにしてきた豪華な作者たちが執筆した、オリジナルSFアンソロジー集です。収録されている話は全て書籍初収録です。
ゲームSF短編集、切り口の多さたるや
ここに収録されている物語は、全てゲームをテーマにしています。
ある程度のゲームへの知識は必要ですが、基本的なことさえ知っていれば楽しめます。
ゲームを全面的に押し出しているわけでもないので、ゲーム好きじゃなくてもとっつきやすいでしょう。
SF小説界では超有名な作者が集っているということで、どの物語もアイデアが素晴らしく独特の切り口で描かれています。
各々の作者の個性も光り、ゲームだけをテーマによくぞここまで面白い作品が作れるなというのが正直な感想。
傑作選の名に間違いはなく、自分好みの話が必ず見つかるはずです。
一話一話のクオリティが高く、かなりお得で読み応えのある一冊といえます。
92.草野 原々『最後にして最初のアイドル』
一人の少女がトップアイドルになるまでの道のりを描いた表題作をはじめ、オタク文化における感情豊かな短編SFが3篇収録された傑作集です。
見たことのない新感覚ハイテンションSF
この短編集はアイドルやソシャゲ、声優といった「今時のオタク文化」を題材にしています。
よくあるライトノベルのような点かと思いきや、想像のつかない展開で読者の感情をぐちゃぐちゃにぶっ飛ばしてきます。
少しでもオタク文化に理解のある人はぜ一度読んでみてください。
文章の緩急の付け方が巧みであり、心地の良い疾走感とともにいつの間にか読み終わっていることでしょう。
読み始めたら最後、あまりの面白さと内容の濃さに辞めどきを失ってしまいます。
SF要素もきちんとあり、ハイテンションSFとして新しい世界を見せてくれますそんなとんでもない中毒性のある作品。
一度読むだけの価値は十分にあります。
93.林 譲治『星系出雲の兵站』
人類により植民星にされた五星系文明。その中の中心星である出雲は、人類の管轄外に発見された衛星への介入を決定します。
しかしそこにいたのは対話のできない異星人でした。
静かに進む、宇宙戦争物語
この物語では兵站の重要性について繰り返し解かれます。
星同士の戦争においても兵站は重要、戦争の表面だけでなく裏面の政治周りの話がメインです。
対話のできない異星人相手に戦争でもコミュニケーションでもどうやり合うのか、を楽しむことができます。
戦争をコミュニケーションの一環と捉えているのが面白く、新感覚の宇宙戦争物語。
一見ファンタジーもののように見えますが、戦争や宇宙の設定、説明がとてもリアルで現実に起きそうだと思わされるほど。
実際、宇宙人と戦争をするとしてもまずは駆け引きから始まるのかもしれません。
予想外の展開も多く最後まで飽きさせない構成、ハードSFとして圧巻の一冊です。
94.小松 左京『果しなき流れの果に』
6000年前の地層から、いくら落ちても砂が減らない不思議な砂時計が発見されました。
四次元の世界を生み出す砂時計、そして関係する人々は次々と不信な死を遂げていきます。
半世紀経っても色褪せない、日本SF史上最高傑作とも呼べる一冊
50年以上前に出版された日本SFの金字塔とも呼ばれる作品です。
永遠に砂が落ち続ける砂時計が古代の地層から見つかるロマンから始まり、タイムマシンやパラレルワールドへの展開。
最終的には宇宙規模の話にまで膨らみ、感動の結末を迎えます。
砂時計の描く時間、人間の意識、壮大な宇宙、あらゆる軸を目まぐるしく駆け回っていきます。
情報量が多く頭の中が宇宙でいっぱいになりますが、この作者は情景を表現するのが巧く、想像のつかないような光景でも何故かイメージする事ができるのです。
一度読んで感動、そしてすぐに読み返したくなるような伏線の数々。
数多くのSFファンがトップクラスに面白いと推薦する名作です。
95.小松 左京『ゴルディアスの結び目』
あるものに取り憑かれ、病院の寝台に縛り付けられた少女の謎に迫る表題作をはじめ、日本のSF御三家と称される作者が描く、人類の旅をテーマにした短編傑作集です。
時代を超えて読み継がれる
全部で4篇の短編が収録されています。
それぞれの話に旅に関するテーマがあり、一連で見るとどこか繋がっているようにも見えます。
この短編が描かれたのは約50年前。
人類の旅、とりわけ人類の宇宙への挑戦が強く表現されています。人類は宇宙へと向かう事が可能なのでしょうか。
宇宙について理解することは可能でしょうか。宇宙について理解した時、人類の心情はどう変化するのでしょうか。
人間の思考が宇宙にどう影響を受けるのか、そして逆に宇宙にどう影響を与えるのか、そんな純粋な疑問に対して、深く、そして丁寧に答えてくれるような一冊です。
本書を通じて、作者の描く圧巻の宇宙に是非浸ってみてください。
96.小川一水『時砂の王』
もののけに襲われた邪馬台国の女王卑弥呼を救った男は2300年後の世界から来た人間でした。
2300年後に地球は滅亡しており、地球の存続を救うためにやってきたと男は語ります。
SF初心者におすすめしたい王道ストーリー
SF小説としては短いページ数の中に、濃密な展開と設定が盛り込まれています。
理解の難しい世界観ではないのに、とても奥行きのある物語、SF初心者にも読みやすいのではないでしょうか。
タイムトラベルものに触れたことのない人はまずこの物語を読むと良いと思います。
卑弥呼のリーダーとしてのあり方、避けられない地球滅亡を前にした時の振る舞い、参考になることがたくさんあります。
きっと人間の感情の強さや奥深さにとりこになってしまうでしょう。
古代、そして未来の光景が目の前に見えるかのような文章、登場人物の勇ましい振る舞い、そしてテンポの良いやりとり、この物語を構成する全てに心を動かされること間違いなしです。
97.小川一水『老ヴォールの惑星』
ホットジュピターに住む知的生命体を描いた表題作、偵察機の墜落により惑星「パラーザ」の海に放り出された男の生涯「漂った男」、など全4篇の短編を収録した短編集です。
科学技術で絶望に陥る人間の葛藤
今現在の地球にはない発展した科学技術について説明しています。
科学技術をきっかけにして人間が厳しい状況に陥ったらどうするのか、ということについて深く考えた短編集です。
結末は決して救いがあるものではなく、どちらかというと絶望的。
誰かが悪いわけではない、だからこそ誰も救われない。
胸を締め付けられるような展開が多く、普通のSF小説を読み飽きた人にとっては新鮮で楽しめると思います。
難解な文章を用いて、共通したテーマ「人間の順応」について描いていきます。
そう、難解。難解な文章なのに、何故か読みやすくイメージをしやすい、この本を読んでいるとそんな不思議な体験ができます。
98.小川 一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』
6000年後の世界、人類は宇宙に展開し巨大ガス惑星では年型宇宙船に住む人々が漁をして暮らしていました。
漁師である主人公はある日家出少女と出会い、周りが驚くような漁の成果をあげます。
男尊女卑の中で女性二人が輝く物語
この宇宙船では漁は男女の夫婦が行うものと定められています。
狭い世界の中で女性の扱いが低くなり、男尊女卑、結婚至上主義といった古い形の社会に逆行してしまった空間。
その中で主人公の女性が家出少女と出会い、今暮らしている社会がいかに不自由で不平等であるか知る物語です。
昔に執筆された物語なのに、現代社会に通ずるジェンダー問題を取り上げています。
女性同士という異例の組み合わせで漁の成果を上げていく二人には、爽快さや痛快さを感じます。
二人のキャラクターが良く、お互いの気持ちの揺れ動き方がとても繊細に描かれています。
結末も綺麗にまとめられており、二人のその後を読んでみたいと思える一冊です。
99.芝村 裕吏『統計外事態』
2041年、地方では過疎化が進み、統計分析官の主人公は静岡の廃村で水道使用量が増えていることに気づきました。
現地に向かうと主人公は謎少女たちに襲われ、サイバーテロの犯人に仕立て上げられてしまいます。
スリル満点、バディものSF超大作
この物語は今から20年後の日本が舞台です。
疫病や災害により人口減に悩まされており、現実的にあり得そうだと思える世界観。
そこでサイバーテロの班に仕立て上げられた主人公が、エージェントであるバディと共に逃亡しつつ真相を追い求める、バディものが好きな人にとってはたまらない一冊でしょう。
主人公の独白や推理だけでなく、バディとの絶妙な掛け合いがとても巧いです。
銃撃戦やカーチェイス、ネット上での戦いもあり、シリアスで緊迫感のある展開にハラハラドキドキしながら読むことができます。
結末までの持っていき方も綺麗で、読了後は結末が分かっていても再読したくなること間違いなし。
100.『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』
百合、それは女性同士の関係を表す用語。
豪華作者陣が執筆した、百合をもとにしたSF短編を全部で9篇収録した世界初の百合SF短編集です。
女性同士の感情とSFが綺麗に合わさった短編集
百合アンソロジー、と言う名前からは想像のつかないぐらい重厚なSF短編集です。
SFらしさに溢れる設定、そして女性間の匂わせからしっかりとした恋愛展開まで様々な百合要素、SFと百合の良いところ同士がうまく融合されています。
どの作品も女性同士の思いやりを綺麗に描いており、読後感がとても爽やかなものばかり。
女性感の感情がリアルなので、百合好きだけでなく人間関係ものが好きな人にもおすすめできます。
百合SFという同じテーマでもここまで書き分けることができるのかと驚きに満ちた一冊です。
こういった特殊なジャンルでまとめた短編集はとても斬新で面白いですし、SFに慣れた人にこそ手に取ってもらいたいと感じます。
おわりに
というわけで今回は「一度は読むべきおすすめ名作SF小説」をご紹介させていただきました。
普段SFをあまり読まない方にも興味を持っていただけたら嬉しいです。
それでは、良い読書ライフを!(=゚ω゚)ノ