澤村伊智『怪談小説という名の小説怪談』- 怖いのに読むのをやめられない震恐のホラー短編集

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8月14日の深夜、僕は複数の知り合いを乗せて、高速道路を運転していた。

途中、食事のためにサービスエリアに立ち寄った時、同乗者の一人が急に「思い浮かんだ」と言って、女性の絵を描いた。

左右の目がありえない方向を向いて笑っている不気味な女性の顔で、僕はそれを見た瞬間、

「死に顔」

と思った。

これは死んだ女性の顔だ、しかも笑うように顔を歪ませて死んでいった女性の……。

その後、車内でよりによって怪談会が始まり、僕はすっかり怖くなってしまった。

そして目的地が近づいて来た時、極めつけの事件が起こった。

その事件によって、僕は思い知った。

あの絵の女性、あの顔が、一体何を意味していたかを―。

目次

バラエティ豊かな7つのホラー短編

『怪談小説という名の小説怪談』は、全7編からなるホラー短編集です。

バラエティに富んでおり、深夜の高速道路での怪談や学園ホラー、霊能者の話など様々。

それぞれ登場人物も舞台も異なっており、雰囲気が違うので、読んでいて全く飽きることがありません。

さっそく、それぞれの見どころをご紹介しますね。

いずれも舞台設定からして怖そうで、興味をそそられること間違いなしです!

各話のあらすじと見どころ

『高速怪談』

東京から大阪に行く用事のある5人が、交通費を浮かせるために一台の車に相乗りします。

その道中、深夜の高速道路で一人ずつ怪談ネタを語るのですが、まずこれが怖い。

最初はジャブ的なネタですが、語り手が替わるたびにパワーアップし、冷や汗の出る展開になっていきます。

そして最後の最後で、とんでもない恐怖が襲い掛かってきます!

その恐ろしさたるやもう、リアルな映像が頭に浮かび、「嫌だ、絶対こんな体験したくない!」と心底思うほどです。

『笛を吹く家』

かつて一家が全員変死し、幽霊屋敷と呼ばれるようになった家がありました。

散歩中にその家を見かけた家族が、徐々におかしくなっていく物語です。

問題のある息子、悩みを抱える妻、不安になる夫。

それぞれの苦しみが、幽霊屋敷と関わることで、また違った形になっていきます。

全く予測できないトリッキーな展開にゾクゾク!

『苦々陀の仮面』

あるホラー映画が、世間で高く評価されるのですが、主演俳優が自殺してしまいます。

どうやら劇中の凄惨なシーンが、CG加工ではなく俳優に対して実際に行われていたようで、俳優はその苦痛に耐えられなかったのです。

その後、映画の関係者がどんどん変死していき―。

物語全体が、メディアの記事や世間からのレビューで構成されているところが秀逸!

作品であることを忘れ、実話と思ってしまうようなリアリティがあります。

『こうとげい』

新婚旅行中の夫婦が、山奥の不思議なカフェでひとときを過ごした後、不可解な出来事に見舞われるようになる物語です。

わけのわからない状況で翻弄される夫婦の怯えが、読み手にもジワジワ伝わってきて、手に汗を握りまくります。

『うらみせんせい』

生徒たちが学校内に閉じ込められ、謎の殺人鬼に次々に殺されていく物語です。

殺人鬼の正体は、かつて自殺した先生の亡霊だそうで…。

生徒が必死に逃げ回りながら、脱出方法を探っていく様子にハラハラドキドキ。

脱出ゲームのようなワクワク感とスリルがあります。

『涸れ井戸の声』

ある作家が、自分が執筆した覚えのない作品を「一番怖かった」と評価され、困惑する物語です。

作家はその作品『涸れ井戸の声』を読んでみたく思うのですが、不思議なことにどこを探して見つかりません。

でもファンやネット上の多くの人々が読んだことがあるらしく、しかも皆一様にひどく怯えています…。

一体『涸れ井戸の声』とはどんな作品で、なぜ見つけることができないのか。

怖くても先が気になり、食い入るように読んでしまう物語です。

『怪談怪談』

霊能者の物語と、小中学生の肝試しの物語が、交互に進んでいきます。

霊能者のパートはおどろおどろしく、肝試しのパートは迫力満点!

やがて二つの物語が交差していくのですが、まさかのオチにびっくり。

「そう来たか~!」と思わず叫んでしまう可能性が大ですよ。

募る恐怖と不安を掻き立てるオチ

7編すべてがジワジワ来るタイプのホラーであり、恐怖が徐々に募っていく感じがたまりません。

絶対に恐ろしい展開になるとわかっているのに、怖いもの見たさでどんどんページをめくってしまう魅力があります。

結果として7編全部一気読みしてしまい、しばらくは忘れられず、日々をゾクッとしながら過ごすことになるかも……?

文章のタッチが軽めで読みやすいので、それもまた「やめられない止まらない状態」で読み進めてしまう理由のひとつ。

登場人物もかしこまった喋り方ではなく、タメ口や関西弁などで自然な感じで話すので、テンポが非常に良いです。

また単に怖いだけでなく、オチがしっかり用意されているところも魅力ですね。

最後の最後でハッとする展開となり「この後一体どうなるの……?」と不安を掻き立てられての終幕。

テレビの『世にも奇妙な物語』にも似た、なんとも言えない不気味な空気を残してくれます。

ホラー好きにはもちろん、ショートショート的な物語が好きな方にもおすすめの一冊です。

ひとつひとつの物語が短めなので、隙間時間にサクッと読書をしたい方も、ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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