新名智『雷龍楼の殺人』- 容疑者、誘拐犯、囚われの少女が挑む「完全なる密室」

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二年前、外狩一族の屋敷・雷龍楼で四名が死ぬ事故が起こった。

先代当主の妻、次男夫婦、三女の計四人が、一酸化炭素中毒死したのだ。

その後次男夫婦の娘・霞は、従兄の穂継の家に引き取られたが、事故から二年経ったある日、下校中に誘拐されてしまう。

犯人からの要求は、雷龍楼にあるという外狩家の重要情報。

霞を妹のように大事にしていた穂継は、救出のために急いで雷龍楼に向かうが、到着早々に事件が発生。
またもや一族の者が四人死亡したのだ。

しかも密室殺人であり、よりによって穂継に容疑がかけられてしまった。

すぐにでも霞を助け出したい穂継は、自らの潔白を証明するため密室の謎を解くことに。

一方穂継からの連絡で状況を知った誘拐犯は、外狩家の情報を入手するために穂継に協力する。

さらに霞も、穂継の嫌疑を晴らしたい思いから、監禁されながらも真相を推理する。

果たして三人は、密室の謎を解明できるのか?

目次

完全なる密室と異例の挑戦状

『雷龍楼の殺人』は、外狩一族の連続不審死の謎を解くミステリー長編です。

孤島の屋敷で密室殺人が起こるという、一見ド定番の本格ミステリーなのですが、実はかなりの変化球だったりします。

まず主人公の穂継に容疑がかけられた事件が奇妙で、二年前の事故と状況がそっくり。

どちらも被害者は一族の者ばかり四名で、現場は密室状態の別館です。

さらに厄介なことに、物理的に絶対にありえない「完全なる密室」なのです。

そもそも二年前の事故も、原因が「風呂釜の空焚きによる一酸化中毒」としかわかっていないため「事故」として処理されたものの、本当は殺人事件かもしれず、胡散臭い。

加えて推理する探偵役が、三人もいます。

それも、事件の容疑者である穂継と、誘拐された霞、誘拐犯の一味である謎の女という異色の組み合わせ。

穂継は誘拐された霞を救うため、霞は穂継の無実を証明するため、誘拐犯は穂継に外狩家の情報を持ち帰らせるため、それぞれ密室事件の謎を解こうとします。

立場も目的も居場所も全く異なる三人が、電話で情報をやり取りしながら真相を暴こうとする様子は、なんともエキセントリックです。

そしてこの作品を変化球たらしめる最大の要素は、「読者への挑戦状」!

挑戦状といえば普通は終盤、解決編の直前に挟まれますが、驚くことなかれ、この作品ではなんと冒頭、第一章の直前にあるのです。

しかもいきなり、「犯人は外狩詩子ただひとり」と、名前や人数まで明かしてくれています。

でも先に述べたように現場は「完全なる密室」なので、詩子に侵入できるはずがなく…。

何らかのトリックが隠されているのか、それとも別のからくりがあるのか。

ありえない密室と、異色な探偵役、異例の挑戦状は、読者を序盤からめいいっぱい悩ませてくれます!

三人目の視点人物は謎の推理作家

物語は大きく三つの視点に分かれて進んでいきます。

まずは誘拐された霞のパート。

龍雷楼の内部情報に詳しい霞は、穂継に間取りなどを知らせることで、調査に間接的に協力します。

その一方で監禁場所からの脱出を図ったりと、スリリングな展開も見せてくれます。

二つ目は、穂継のパート。

霞からの情報をもとに龍雷楼を探り、誘拐犯から課せられた「外狩家の重要情報」を捜しつつ、密室殺人の謎を推理します。

そして三つ目は、鯨井真子という謎の推理小説作家の視点パートです。

これが奇妙で、真子はどうやら二年前の事件の真相を探っているらしいのですが、なんとそのパートナーが穂継なのです。

二人に一体どんな関係があるのでしょうか?

真子自身も謎めいていますし、何よりも穂継が怪しくて、彼は自分が容疑者にされて大変な状況だというのに、二年前の事故を悠長に推理している暇があるのでしょうか?

読者は必然的に、真子と穂継の関係性や目的を探りながら読んでいくことになるのですが、これが面白い!

だんだんと見えてくる真実が意外すぎて、その都度ビックリさせられるのです。

誘拐犯の正体や「完全なる密室」の真相もわかりますし、さらには二年前の事故や冒頭の挑戦状など、とにかく全ての疑問が霧が晴れるかのように明らかになります。

この怒涛のようなすさまじい解決編が、本書一番の見どころです。

賛否両論?大反響を呼んだ話題作

『雷龍楼の殺人』の作者・新名智さんは、物語を予想外の方向へと転がしていくことで定評のある作家さんです。

いやー、まさしく評判通りの作品でした。

まさか孤島の館に密室殺人という本格ミステリーの王道設定から、みるみるベクトルが変わっていき、解決編であそこまでぶっ飛んだ展開になるとは!

きっと本格ミステリーを期待して読み始めた多くの読者が、愕然としたことでしょう。

そのためか、本書の評価は賛否両論くっきり分かれており、一部の人々からはイヤミス(読んでイヤな気分になるミステリー)、または壁本(思わず壁に叩きつけたくなる本)とまで言われています。

中には、「フェアなミステリーと思っていたら、アンフェアだった」という意見も。

確かに「完全なる密室」や「挑戦状」については、アンフェアと言えなくもありません。

が、これらを氷山の一角として全貌を見た場合、むしろすごくフェアなミステリーではないかと個人的には思えます。

おそらく実際にお読みいただければ、ピンときますよ。

密室も挑戦状もごく一部のパーツに過ぎず、根底にある真のテーマは全然別物なのです。

とにかく『雷龍楼の殺人』は、良くも悪くもミステリー界を騒がせた作品です。

でも発売後すぐに重版が決まったところを見ると、この賛否両論ある状態こそが、話題や反響につながったと考えられます。

想像のはるか上を行く着地点がお好きな方には、かなりおすすめです!

驚愕の真相を、ぜひ楽しんでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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