男女7名の仲良しグループが、天草諸島の無人島に旅行に来た。
海上のコテージで一週間満喫する予定だったが、グループの1人である樋藤には別の目的があった。
樋藤は仲間たちに強い恨みを抱いており、密かに持ち込んだ毒薬で全員を殺すつもりでいたのだ。
ところが樋藤が手を下す前に、仲間の一人が何者かに殺された。
その後も一人また一人と殺されていき、コテージにはみるみる遺体が増えていく。
しかも殺害には一定の法則があり、被害者はなぜか全員「前の殺人の第一発見者」であり、なおかつ舌を切り取られていたのだ。
一体誰がなぜこのような形で人を殺しているのか、そしてこの殺戮はいつ止まるのか。
何者かが犯行を横取り?!
『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、二部構成の本格ミステリーです。
第一部は、天草諸島に浮かぶ無人島を舞台とした、いわゆるクローズドサークル・ミステリー。
7名の仲良しグループとスタッフ1名の計8名が島に一週間滞在するのですが、その間に次々に殺人事件が起こります。
迎えの船が来るのはまだ先なので、皆で疑心暗鬼になりながら過ごすという、よくある王道パターンから始まります。
が、『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、パターンのまま終わるミステリーでは決してありません。
読み進めていくとわかりますが、ひねりの多い変わり種の本格ミステリーだったりします。
まずそのひとつとして、メンバーの一人である樋藤が、全員を殺害するつもりでいたことが挙げられます。
犯人になる予定の人物が、読者には早々に明かされるわけですね。
そしてさっそく殺人が起こるのですが、ここでビックリ、なんと人々を殺して回っているのは、樋藤ではなく別人物なのです。
樋藤は用意周到に毒薬や犯行声明文まで用意していたのに、どうやら何者かにそれを利用された様子。
しかも殺し方も奇妙で、「遺体を発見した人が次に殺される」という法則があります。
樋藤にとっては、たまったものじゃないですよね。
犯行を横取りされた上、自分もいつ殺されるかわからない状況となり、悔しさと恐怖とが募りに募っていきます。
そして居ても立ってもいられず、犯人探しを始めるという流れです。
このように『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、王道パターンで始まりながらも、イレギュラーな要素が盛り込んであって、読者をハラハラドキドキさせてくれます。
でもこれは実はまだまだ序の口であり、第二部からがいよいよ本領発揮となります。
暗躍される第一部、追い詰めていく第二部
第二部は、第一部とは物語がガラッと変わります。
まず舞台は大阪で、第一部の三年後。
登場人物も、樋藤が変わり果てた姿(!)になっているため、代わりにゴミ収集作業員の真莉愛が主人公を務めます。
でも起こる事件は第一部と同様で、やはり最初に遺体が発見されて、それを見つけた人が次に殺されるという法則で、どんどん人が死んでいきます。
そのような状況下で、真莉愛はゴミ収集という仕事の関係上、ある時ゴミ捨て場でビニール袋に入れられたバラバラ遺体を発見してしまいます。
警察は「次の殺人では、真莉愛がターゲットになる」と考え、事情聴取を兼ねて彼女を署で保護する、という流れになっています。
第一部はクローズドサークルでの殺人であり、犯人は外部に介入されることなく暗躍していましたが、第二部は都市部での殺人であり、警察が最初から睨みを利かせている状況です。
このように第一部と第二部とでは、事件は同様でも外堀が全く違うので、読者は異なるハラハラドキドキ感を味わえます。
また真莉愛のキャラクターがとても魅力的で、辛い目に遭っても明るく前向きに生きようとする彼女の姿は、いじらしくも頼もしく、見ていて応援せずにはいられなくなります。
真莉愛を警護する女性刑事もキャラが立っていて素敵ですし、だからこそ読者は、彼女たちがこの先どうなってしまうのか、どう犯人を追い詰めていくのかが気になって、よりグイグイと物語に入って行けるのですよね。
そして物語は、第一部との繋がりを明らかにさせながら、どんどん佳境へと入っていきます。
最終的に全ての真相がわかった時には、犯人の正体や犯行動機があまりにも衝撃的で、本を持つ手が震えるほど!
遺体の舌が切り取られていた意味もハッキリします。
たくさんの人が亡くなった凄惨な事件ではありましたが、登場人物たちの心情が、犯人の心情も含めてとても丁寧に描かれているので、読後感は思いのほか快いです。
全員にどうか幸せになってほしい、そんな思いが膨らんでくる感動的なラストでした。
乱歩賞受賞後の記念すべき第一作
作者の荒木あかねさんは、2022年に『此の世の果ての殺人』で第68回江戸川乱歩賞を受賞してデビューした、新人作家さんです。
受賞された時に荒木さんは23歳で、なんと乱歩賞では史上最年少!
そして本書『ちぎれた鎖と光の切れ端』は、受賞後の記念すべき第一作となります。
まだお若いにも関わらず、卓越した構成と衝撃的な展開、細やかな心情描写は見事であり、史上最年少での乱歩賞受賞もうなずけます。
文章のテンポも良く、本格ミステリーでありながら堅苦しさがなく、流れに乗ってスピーディに読めるところも魅力ですね。
それでいてエンタメに偏りすぎず、かのアガサ・クリスティの作品を思わせるところもあるので(第一部は『そして誰もいなくなった』を、第二部では『ABC殺人事件』を彷彿とさせます)、本格ミステリーとしての魅力もバッチリです。
そのためライトなミステリーを好む方も、ディープなミステリーを好む方も、どちらも満足できる作品だと思います。
ミステリー界でも大型新人として注目されていて、今後も大活躍が期待できる荒木あかねさんの受賞後一作目。
読んで損なしの傑作ですので、ぜひお手に取ってみてください!