逸木裕『五つの季節に探偵は』- 隠された本性を暴きたがる探偵の物語

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女子高生のみどりは、父親が私立探偵だという理由で、クラスメートから何かと厄介事を頼まれている。

ある日いじめに悩んでいる怜に、英語教師の清田を調べ、弱みを握るよう依頼された。

いじめの主犯である好美が清田を慕っているらしく、清田を利用すればいじめ行為をやめさせることができるかもしれない、というのだ。

渋々依頼を受けるみどりだが、いざ調査を始めてみると、これが予想を超えて面白く、とりわけ「人の本性を暴き出すこと」に魅力を感じた。

そして調査に熱中しているうちに、この一件に裏があったことがわかり―。

心を暴かずにいられない探偵みどりを描く、傑作短編集!

目次

人の本心を暴く快感

『五つの季節に探偵は』は、事件が起こって探偵が活躍してハッピーエンド、という安直な物語ではありません。

「人が心の奥に隠し持っているものを暴きたくて仕方がない」という一風変わった探偵のみどりが、様々な事件に出会い、人々の本性を炙り出す物語です。

みどりはとにかく「知りたい、暴きたい」という欲求が強く、事件の解決なんて二の次。

衝動的に勘繰ったり探ったりして、結果的に人が傷つくことになっても、隠された本心を引きずり出さずにいられないのです。

正義感から奮闘するタイプの探偵ではないので、そこが面白い!

極めて個人的な欲求からズバズバ切り込んでいく様子は強烈で鮮烈で、一種の毒気のような魅力があります。

「その悪意が本物なら、〇〇もできるよね?」と相手を扇動したり追い詰めたりもするので、シニカルなところも小気味良かったりするんですよねえ。

本書では、そんなみどりが女子高生から大学生、そして子持ちの主婦になり、その間に出会った5つの事件が短編として描かれています。

いずれも世間を揺るがすような大事件ではないものの、だからこそ身近に感じられて、読者をハラハラ、時にはゾクッとさせてくれます。

また、それぞれの物語にどんでん返しや捻ったオチが用意されており、ミステリーとしての完成度が高いところも魅力です。

各話のあらすじや見どころ

・『イミテーション・ガールズ』(2002年春・みどり17歳)

クラスメートの好美にいじめられている怜から、英語教師の清田を調べるよう依頼されます。

怜の目的は、清田の弱みを握り、清田に好美を止めてもらうこと。

最初は乗り気ではなかったみどりですが、調査を始めると、清田の風俗通いや怜との意外な関係が見えてきて、面白くてたまらなくなります。

「人が隠していた本性を暴く快感」に目覚めたわけですね。

みどりの探偵としての始まりの物語、と言えます。

・『龍の残り香』(2007年夏・みどり22歳)

大学生になったみどりは、友人の保奈美から希少な香料が盗まれたと相談を受けます。

犯人の目星は既についているので、今回の課題は「いかに白状させるか」ということ。

保奈美は穏便に済ませることを望んでいるのに、みどりときたら人の本心を暴きたくて暴きたくて仕方がなく、手段を選びません。

依頼人の希望を無視してグイグイ進み、その結果あるものを失うことになります。

・『解錠の音が』(2009年秋・みどり24歳)

大学卒業後、父親の探偵事務所に就職し、本格的に探偵業を始めたみどり。

元カノからのストーカー被害の相談を受けますが、調べてみると、加害者とされる女性には怪しいところはなさそうでした。

むしろ被害内容の方が怪しく、稚拙な上に中途半端。

ここでもみどりは、人が隠している本性を容赦なく炙り出します。

・『スケーターズ・ワルツ』(2012年冬・みどり27歳)

旅先でみどりは、ピアニストの尚子に出会い、ある話を聞かされます。

指揮者とピアノ売りの恋話で、みどりは聞いているうちに、尚子が何か罪を背負っていることに気付きます。

この話にどんな裏があるのか、真実は何なのか、みどりは暴こうとしますが―。

予想外の展開と緻密な心理描写が圧巻の物語!

・『ゴーストの雫』(218年春・みどり32歳)

結婚・出産後も探偵として活躍するみどり。

ベンジポルノ被害の相談を受け、後輩の要と一緒に犯人を追います。

デリケートな事件であり、プライバシーに十分に配慮しながら調査を進めるべきですが、みどりは相変わらず容赦なく真相を暴き出そうとします。

しかし優しく誠実な要がサポートすることで、流れが変わり―。

いびつな探偵の成長物語

逸木 裕さんの『五つの季節に探偵は』は、日本推理作家協会賞の短編部門受賞作品やノミネート作品を収録した、傑作短編集です。

タイトル通り、5つの季節の物語が描かれていますが、劇中ではその間に15年も経っています。

最初は17歳だったみどりも、最終話では32歳。

回を追うごとに探偵として人間として成長しており、感慨深かったですね。

そういう意味では本書は、ミステリーをベースとした、みどりという一人の探偵の成長物語とも言えます。

惜しむべくは、一話ごとに2~6年経過しているので、その間の物語も読みたかった、ということ。

たとえば、大学受験(なんと京大!)の時のみどり、就職して新米探偵として奮闘するみどり、結婚するみどり、妊娠したみどり。

本書を読んだ方なら、想像するだけでもワクワクしてくるのでは?

また、その後のみどりも気になります。最終話で後輩の要が登場したことで、みどりの探偵としての在り方が、きっと変わっていくからです。

それまで依頼人の気持ちをあまり考えず、ある意味いびつだった調査スタイルが、要によって理想的な形へと構築されていく、そんな希望を感じさせる終わり方となっています。

ぜひ続編を読みたいので、作者の逸木裕さんには、今回描かれなかった合間の物語と併せて、執筆を頑張ってほしいです!

また、実はみどりは、逸木 裕さんの別作品『虹を待つ彼女』『星空の16進数』にも、サブキャラクターとして登場しています。

みどりの他の活躍を見たい方は、そちらを読むこともおすすめです。

より成熟したカッコいいみどりが描かれていますので!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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