白井智之『死体の汁を啜れ』- 前代未聞の死体から始まる、新時代の本格ミステリ

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豚の顔をした人間が死んでいる──。

なぜか人がよく殺されるこの町では、異常すぎる死体が発見される。

豚の頭を被った死体、頭と手足を切断された死体、胃袋が破裂した死体、死体の腹の中の死体……。

これらの事件の謎を解くのは、推理作家や悪徳刑事、女子高生、そして深夜ラジオ好きのやくざ。

ならず者たちが、異常な死体と事件の謎を追う!

各編『〇〇な死体』縛りのタイトルがつけられた短編が並び、全体として作品を形作っている短編連作。

なぜ異常な死体が生まれたのか?

事件の裏に隠された真相と闇とは?

読者を襲う衝撃の最後とは。

鬼畜系・猟奇系ミステリーの名手が送る、グロテスクで本格的なミステリー小説!

「気持ち悪いのに読んでしまう」こと請け合いです。

目次

突飛な設定を支える、堅実な理論とトリック

殺人事件の発生率が南アフリカのケープタウンと同じくらい、と言われるほど、なぜか殺人が起こりまくる町・牟黒市。

あらゆる方法で殺されぐちゃぐちゃになった死体が登場し、終始グロテスクな描写が続きます。

そんな突飛な設定を支えているのが、驚くほど理路整然と組み上げられたトリック。

推理作家と女子高生のタッグが事件の謎を解いていきます。

倫理はないが論理はある、という言葉の通り、トリック部分については非の打ちようがない「本格ミステリー」と言えるでしょう。

ただのグロテスクな小説ではないのがこのミステリーの肝であり、魅力なんですね。

奇妙な死体ばかりが登場するものの、全て「なぜそんな状況になったのか」がきっちりと納得のいくように説明されているので、すらすら読むことができます。

基本的に各短編で事件が解決するものの、章を越えた伏線やつながる部分もあり、短編連作の名作としても楽しめるでしょう。

後味が悪いのに最後はむしろスカッと爽快、不思議な読後感

ちょっとぎょっとする題名の通り、中身もグロテスクで不気味な描写の多い本作。

胸の悪くなるようなシーンも多く、読み進めるごとに後味が悪くなっていくのですが、最後の話を読むと不思議と爽快感が得られるという声が多数。

主要人物たちさえも被害に巻き込まれていくのに爽快な読後感を残せるというのは、ひとえに作者の文章力の賜物と言えるのかもしれません。

探偵役の推理作家と女子高生が事件に挑むという構成も読みやすさに貢献しているのでしょう。

そもそもこれまでの作品に比べるといくらかショッキングな描写が抑えめになっている今作ですから、白井氏の作品を読み慣れていればあまり抵抗なく読めるはず。

はじめて白井氏の作品を読むという方にも比較的おすすめしやすい本と言うことができそうです。

後味の悪さを楽しみたい方、軽度なグロテスク描写にも耐えられる方、“ただの本格ミステリー”に飽きてしまったという方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか?

白井ワールド全開!ポップなグロテスクさとミステリーの共存

2014年の第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補に残ったことがきっかけでミステリー作家としての経歴を開始した白井智之氏。

その破天荒かつ不道徳な世界観はデビュー作『人間の顔は食べづらい』からいかんなく発揮され、『横溝正史ミステリ大賞史上最大の問題作』として話題を呼びました。

彼の得意分野は、特殊な舞台設定を生かしたバラバラ殺人・エログロ・虫などを扱うグロミステリーで、本格ミステリー作家綾辻行人氏からは「鬼畜系特殊設定パズラー」の称号を贈られるほど。

本作もその例に漏れず、なぜか殺人事件の多発する町でさまざまな死体が発見され、そのどれもがグロテスクな様相を呈しています。

しかし今回のグロテスクさは、それまでの作品と比べるといわば“ポップ”なグロテスクさ。

グロテスクであることには間違いないものの重い描写は多くなく、耐性のあまりない方でもミステリーに集中して読むことができます。

「よくぞこんな死体を思いつくな」という連続で、むしろわくわくしながら読んでいる人の方が多いようです。

単なるグロテスク一本の作家ではないことは、デビュー作以外にも『東京結合人間』で日本推理作家協会賞候補、『おやすみ人面瘡』では本格ミステリ大賞候補に入るなど、彼の作品が物語っています。

1990年生まれと驚きの若さで実績を残している白井智之氏。

この本を楽しめたという方は、ぜひ彼の他の作品を読んでみてはいかがでしょうか?

決してグロテスクだけでない、骨太の本格ミステリーを楽しめることでしょう。

その時にはもう彼の鬼畜系小説のとりこになっていること間違いなしです。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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