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切断と再生の果てに咲くもの―― 島田荘司『眩暈』【エッセイ】
この世界にまだ「物語」が可能だとすれば、それは崩壊の果てにこそ現れるものでしょう。 瓦礫の中に転がる真理。 異形の肉体が立ち上がる地平。 うす曇りの午後、火照った脳裏に冷たい雨粒が落ちるような衝撃で『眩暈』は始まります。 青年が遺した手記――... -
その一言が、沈黙の底を割った―― アガサ・クリスティ『葬儀を終えて』【エッセイ】
誰かの死が、すべての終わりであるとは限りません。 むしろ、それは、ある物語の静かな始まりなのかもしれません。 アガサ・クリスティの『葬儀を終えて』は、まさにそんな“余白から始まる”物語です。 コーニッシュ地方のエンダビー荘。 重々しい天蓋の下... -
五条紀夫『町内会死者蘇生事件』- 殺したはずのクソジジイが、生きてラジオ体操に現れた朝【読書日記】
「誰だ! せっかく殺したクソジジイを生き返らせたのは!?」 ――これがこの物語の第一声であり、読者への宣戦布告でもある。 こんなにパンチの効いた書き出し、なかなかない。 五条紀夫の『町内会死者蘇生事件』は、タイトルも設定もぶっ飛んでる。そのくせ... -
ドゥーセ『スミルノ博士の日記』- 秘めたる日記、驚愕の「仕掛け」
ミステリというジャンルは、読者の知的好奇心を刺激し、論理の迷宮へと誘う魅力に満ちています。その歴史の中には、時代を超えて輝きを放つ古典作品が数多く存在します。 今回ご紹介するサムエル・アウグスト・ドゥーセ著『スミルノ博士の日記』は、まさに... -
アビール・ムカジー『マハラジャの葬列』- 訪問中の王太子が暗殺!?藩王国に潜む陰謀とは
帝国警察のウィンダム警部とバネルジー部長刑事は、カルカッタ訪問中の藩王国王太子の一団に同行していた。 バネルジーは王太子の同窓生であり、あだ名で呼び合う親しい間柄だったのだ。 その道中で、二人は王太子から私的に相談を受ける。 王太子がカルカ... -
【自作ショートショートNo.66】『のっとる呪文』
冒険家のアドは古びた地図を頼りに森の中を進んでいた。 昼間だというのに、茂った木々に日光を遮られて辺りは薄暗い。 膝辺りまで伸びた草を踏み荒らしながら、ぐんぐん森の奥深くへと進んでいく。 時折、木の根に足を取られながらも、その足取りは力強い... -
【自作ショートショートNo.73】『幸運をもたらす石』
エヌ氏は平凡なサラリーマンだった。 毎日毎日、満員電車に揺られてオフィスにたどり着き、惰性で仕事をする、そんな日々。出世はとうに諦めていた。 特に大きな夢や目標もなく、ただなんとなく日々を過ごしていたのだった。 そんなある日のこと、この日も... -
【自作ショートショートNo.67】『犯罪のない国』
幼い頃に事故で両親を亡くしたエル氏は、ずっと孤独に生きてきた。 誰もがエル氏を見ると眉をひそめる。 それは醜い容姿ゆえのことだったが、誰からも相手にされず人を遠ざけているうちに、性格までひねくれてしまっていた。 容姿にも性格にも難があるとな... -
シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』- 乗っていた観覧車から消えた少年の謎
人とは違った物の見方をする「症候群」の少年テッドは、ある日家族や従兄弟のサリムたちと一緒に大型観覧車ロンドン・アイに乗ることになった。 チケットを先に手に入れたサリムが最初に乗り、テッドは姉のカットと一緒に地上から見上げながら待っていた。... -
【自作ショートショートNo.68】『歪んだ愛』
大通りに面したオフィスビルの自動ドアが開き、女が現れた。 女はガードレールの切れ間で手を挙げた。タクシーが止まり、女を乗せて走り出す。 間違いない。今日で確実に女を仕留められる。俺は物陰から離れて目的地へ急ぐ。 今回の依頼主は冴えない中年の...