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【自作ショートショートNo.68】『歪んだ愛』
大通りに面したオフィスビルの自動ドアが開き、女が現れた。 女はガードレールの切れ間で手を挙げた。タクシーが止まり、女を乗せて走り出す。 間違いない。今日で確実に女を仕留められる。俺は物陰から離れて目的地へ急ぐ。 今回の依頼主は冴えない中年の... -
笠井潔『夜と霧の誘拐』- 謎と哲学の交響。前人未到、永久不滅の誘拐ミステリ
現代日本文学、とりわけミステリの領域において、比類なき知性と深遠なテーマ性で独自の光彩を放つ作家、笠井潔氏。その作品群は、単に巧妙な謎解きを提供するに留まらず、読者を存在の根源的な問いへと誘う力を持っています。 中でも、現象学を駆使する哲... -
【自作ショートショート No.64】『傲慢な女』
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?それはもちろん私だわ。うふ」 そうよ、私はこの世の誰よりも美しいの。 でもこの美貌を維持するには、もっともっとお金が必要。 ううん、お金だけじゃないわ。私に釣り合うステキな王子様も必要よね。 マリアは... -
ドゥーセ『スミルノ博士の日記』- 秘めたる日記、驚愕の「仕掛け」
ミステリというジャンルは、読者の知的好奇心を刺激し、論理の迷宮へと誘う魅力に満ちています。その歴史の中には、時代を超えて輝きを放つ古典作品が数多く存在します。 今回ご紹介するサムエル・アウグスト・ドゥーセ著『スミルノ博士の日記』は、まさに... -
シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』- 乗っていた観覧車から消えた少年の謎
人とは違った物の見方をする「症候群」の少年テッドは、ある日家族や従兄弟のサリムたちと一緒に大型観覧車ロンドン・アイに乗ることになった。 チケットを先に手に入れたサリムが最初に乗り、テッドは姉のカットと一緒に地上から見上げながら待っていた。... -
【自作ショートショート No.61】『家賃の安い部屋』
「たしか、この辺りのはずなんだけどな」 街の中心部から少し離れた、降りたシャッターの目立つ商店街を、ひとりの若い男が歩いていた。 男は、手元のスマートフォンに表示された地図を何度も見ながら、あたりをキョロキョロと見まわしている。どうやら、... -
井上悠宇『不実在探偵の推理』- 実体のない探偵とダイスで推理を構築する、斬新な謎解きミステリー
マンションの一室で、女性が手に藍の花を強く握りしめた状態で毒死していた。 そして彼女の恋人も、死を聞かされた後、後を追うように自殺してしまった。 なぜ彼女は、藍の花を持って亡くなっていたのだろうか。 そもそも彼女は自殺したのか、それとも何者... -
【自作ショートショートNo.73】『幸運をもたらす石』
エヌ氏は平凡なサラリーマンだった。 毎日毎日、満員電車に揺られてオフィスにたどり着き、惰性で仕事をする、そんな日々。出世はとうに諦めていた。 特に大きな夢や目標もなく、ただなんとなく日々を過ごしていたのだった。 そんなある日のこと、この日も... -
【自作ショートショート No.63】『死ねない男』
「う、うわあああ」 ふぅ、た、助かった。どうにか雪崩には巻き込まれずに済んだようだ。 「だ、誰か助けてくれー。おーい」 何時間経ったんだろうか。雪崩を避けたはいいものの、俺は崖から転がり落ちてしまっていた。 「おーい、誰かいないかー。俺はこ... -
『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』- 紙とプラモデルの専門知識で謎を追うミステリ
紙の銘柄を鑑定する渡部の事務所に、なぜか浮気調査の依頼が来た。 依頼主の女性はどうやら「紙鑑定」を「神探偵」と間違えたらしい。 話を聞いてみると、浮気を疑っている理由は、彼氏が急にプラモデルに凝り始めたこと。 渡部は小遣い稼ぎのつもりで依頼...