澤村伊智『ファミリーランド』- 近未来の技術に踊らされた人々をシニカルに描く短編集

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AIで常に嫁を監視し、いびる義母。

優秀な子供を計画的に出産できる薬。

配偶者のあらゆる行動をモニタリングできる結婚指輪。

ロボットばかり大切にする娘に殺意を抱く母親。

介護の手間を減らすための、非人道的な処置。

バーチャルで行われる葬儀。

シニカルな面白さ満載の短編を、全6編収録。

近い将来、本当に現実になりそうな悪夢を、一足先に味わえる……!?

テクノロジーが今より一歩進んだ世界を描いた、SF短編集。

目次

近未来の優れた技術が、実は……!

『ファミリーランド』は、そのタイトル通り「ファミリー = 家族」にまつわる物語です。

と言っても心温まるファミリードラマでは決してなく、ブラック感のあるSFミステリー。

今から数十年後くらいに、技術がもう少し進むことで家族が直面するであろうトラブルや恐怖をテーマとしているのです。

もちろん技術というものは基本的には便利なので『ファミリーランド』に登場する技術も、それはもう見るからに便利で、生活を快適にしてくれるものばかり。

読んでいるとワクワクしますし、自分も使ってみたくなります!

でも便利だからこそ、使い方によってはマズいことになる場合もあるわけで。

『ファミリーランド』ではまさにその様子が皮肉的に描かれています。

全部で6話あり、時に恐ろしく時にコミカルに、様々なパターンで展開するので、最後まで退屈することなく読めます。

各話のあらすじと見どころ

『コンピューターお義母さん』

義母からの過度な嫁いびりに悩む主婦の物語です。

ただの嫁いびりじゃないですよ、なんと義母は遠い老人ホームから、インターネットを通じていびってくるのです!

家中にセンサーを設置し、嫁の言動全てを監視して、家事や育児に口出しし、果ては夜の営みにまであーだこーだ言ってきます。

見どころは超ハイテクノロジーないびりっぷり。

嫁が帰宅時に玄関の鍵を開けても、遠隔操作でソッコーでロックして入れないようにしたりと、容赦なさすぎて面白い!

『翼の折れた金魚』

優秀な子供を産むために、多くの親がコキュニアという薬を使う物語です。

コキュニアを使って生まれてきた子供は知性がズバ抜けて高く、これにより世界は発展していくと思われていました。

でも中にはコキュニアを使わずに生まれてきた普通の子供もいて、彼らは能力の格差から差別を受けてしまいます。

人間も世界もとにかくエゴ丸出して、それがどういう結果を招くのか。

皮肉たっぷりなオチが、後を引く作品です。

『マリッジ・サバイバー』

超高度なマッチングサイト「エニシ」で理想と言える女性と出会い、結婚したサラリーマンの物語です。

考え方や体臭まで相性の良い相手を選んでもらえるので、とても幸せな結婚生活になりそうですよね。

でも問題があって、アフターサービスで付いてくる結婚指輪、これが高性能すぎて、お互いのあらゆる情報が筒抜けになってしまうのです。

現在地はもちろん、脈拍や匂いまで常に相手にチェックされるので、窮屈なことこの上ない!

何のためのマッチングだったのか、本末転倒な様子が見どころです。

『サヨナキが飛んだ日』

近未来の毒親を描いた物語。

娘のために家庭用の小鳥型ロボット「サヨナキ」を購入するのですが、娘が夢中になりすぎて、母親に関心を持たなくなります。

それが面白くない母親は、徐々に不満を募らせ、やがて凶行に走り…。

今の時代も、親とろくに顔を合わさずゲームばかりの子供が増えていますよね。

そこに不満を持つ親は多いでしょうし、だからこそこの物語はリアリティがあって怖いです!

『今夜宇宙船が見える丘に』

主人公は、年老いた父親を一人で介護することに限界を感じ、「ケアフェーズ」を利用します。

これは介護のサポートキットと言えば聞こえは良いのですが、実態は被介護者に非人道的な処置を加える恐ろしいキット。

・フェーズ1:人工肛門を取り付ける
・フェーズ2:両足を切断する
・フェーズ3:両手を切断する
・フェーズ4:脳機能を停止させる

これらを利用すれば、排泄のお世話をしやすくなり、徘徊もなくなり、介護は確かに楽になるでしょう。

でも…でも…だからって。

しかもラストでは、さらに恐ろしくブラックな展開になるのです!

『愛を語るより左記のとおりに執り行おう』

お葬式ですらバーチャル化している世の中。

ある高齢者が「伝統的な葬儀をしたい」と言い出し、家族が希望を叶えてあげようとします。

でも誰も昔ながらの本格的な葬儀のやり方を知らないので、てんてこまい。

遺体はどうすれば良いのか、どうしてお寺に連絡が必要なのかと、皆がアタフタしている様子が面白おかしいコメディタッチな作品です。

エンタメの枠を超えた奥の深い短編集

『ファミリーランド』の作者・澤村伊智さんは、ホラーエンターテイメントの新鋭として注目されている作家さんです。

なんせ初めて投稿した作品『ぼぎわんが、来る』が、いきなり日本ホラー小説大賞の大賞に選ばれた上、その年のうちに刊行、その後映画化までされたのです。

そして本書『ファミリーランド』は、第19回センス・オブ・ジェンダー賞の特別賞を受賞しました!

これほど世間から認められている理由は、なんと言ってもアイデアが奇想天外で、読む人をワクワク&ゾクゾクさせてくれるからだと思います。

たとえば第一話の『コンピューターお義母さん』ですが、嫁姑問題をテーマにした作品は多いですが、AIで四六時中いびり続けるパターンは類を見ません。

高性能すぎるマッチングサイトや、非人道的な介護フェーズなども同様で「どうやったらこんなアイデアを思いつくのだろう」と、その斬新で卓越した発想には舌を巻くばかりです。

しかも「近未来に実現するかもしれない恐怖」というところが、また興味深い!

今現在のテクノロジーの在り方に疑問を投げかけ、「このままでいいのだろうか」と読者に考えさせるのですから、エンタメの枠を超えた奥深い作品と言えます。

これほど読み応えのある短編集はなかなかないと思うので、ぜひお手に取ってみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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