神永学『ラザロの迷宮』- 1ページ先さえ予測不能のノンストップ・ミステリ

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殺人事件の犯人を当てる脱出型の謎解きイベントが開催されると聞き、湖畔にある洋館を友人と一緒に訪れたミステリー作家の月島。

しかし男女8人の参加者たちが発見したのは、なんと本物の死体だった。

これをきっかけに参加者たちは連続殺人事件に巻き込まれていく──。

一方、所轄の刑事・紗和は、血塗れで保護された男の捜査に駆り出され、本庁の刑事・久賀とコンビを組んで捜査を進めることに。

「A」と呼ばれるその男は記憶を全て失っていて、背景を精神科医と共に解明していくことになる。

二つの事件は突如として繋がりを持ち始め、最後には驚愕の真相が明らかに……。

全ての予測が裏切られて戦慄の最終章に繋がっていく、サイコ・ミステリー。

目次

二つのストーリーが絡み合うミステリー小説

本作は、アラビア数字で表される章とローマ数字で表される章が組み合わさっているという特殊な構成をしています。

ローマ数字(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ…)で表される章は、ミステリー作家・月島理生が湖畔にある洋館に招かれ、連続殺人に巻き込まれるというストーリー。

謎解きイベントと思っていたら本当の殺人事件が起こる、という話の中で、推理合戦が行なわれたり密室が利用されたりと、本格ミステリーの要素満載な展開が繰り広げられます。もちろん館の図面も登場する徹底ぶりです。

アラビア数字(1・2・3…)で表される章は、血塗れの男が発見されてしかも記憶が無く、精神科医の力を借りてその謎に迫っていくというサイコ・ホラー。

伝統的な本格ミステリーとサイコ・ホラーの話がそれぞれ進んでいると思いきや、突如として話が繋がり始めていくのが、本作の面白さの一つと言えます。

二つの話がある程度進んで事件の輪郭が見えてきてからも違和感や謎がちりばめられていき、どうやって話が決着するのかわからないながらも引き込まれていく楽しさがあるのです。

見通せるようで絶対に見通せない物語の真相

本作のもう一つの面白さは、読者の想像の何枚も上手をいくどんでん返しが楽しめる点です。

読書中に“あっ、これわかったな”“もしかして結構当たっているんじゃないか?”と思ったなら、それは見事に著者のミスリードに引っ掛かっている証拠。

読み進めていくごとに話が展開していき、読者が想像していた真相とは全く別の真相が出現して驚愕させられることになります。

おそらく“読者はここまで謎を解いてくるだろうな”、と見越した上で執筆しているのだろうなと感じられるほど、完璧に著者の手のひらで踊らされた感がありました。

また、いったんは犯人が見つかって一件落着かと思われたところからもう一つ展開があり、それにも驚かされましたね。

あまりにも綺麗に騙されてしまうので、騙され過ぎてかえって清々しい気分になってしまうほど。

館ものやサイコスリラーという題材のわかりやすさ・キャッチーさに加えて、しっかりとした謎解きとどんでん返しが用意されているのが良かったです。

名作へのリスペクトもありつつ新しいギミックも楽しめる作品

二つの話が交互に出てきて真相にたどり着く、という展開については、綾辻行人氏の『十角館の殺人』を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

実はこの作品の中でも綾辻行人氏の『館シリーズ』への言及がなされている場面があり、そういった過去の名作へのリスペクトを忘れないところに好感が持てました。

さらには単に過去作品の名前を出すだけではなく、同じ館という題材で著者独自の色を出してくるのも本作が面白い理由の一つとなっています。

また、本作にはギミックの一つとして催眠ミステリーの要素が含まれているのもポイントの一つ。

上手く活かすことができないと一気にうさん臭くなりがちな催眠ミステリーですが、催眠療法をきちんと科学的に理解した上でトリックに反映されていて、本格ミステリーとの両立がしっかり実現されていると感じました。

著者の神永学さんは、自費出版した本が話題を呼び、2004年10月に『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』(改題)でプロデビューしたという特殊な経歴の持ち主。

デビュー作から始まった「心霊探偵八雲」シリーズはその後大人気となり、累計700万部を超えたほか、舞台化やアニメ化がされるなど驚異的な支持を得ています。

その他、「天命探偵」シリーズや「怪盗探偵山猫」シリーズなどシリーズものでの活躍が目覚ましい方で、シリーズものでない単作品は本作で四作目となっています。

「心霊探偵八雲」シリーズが有名ではあるものの、本作で単作品の面白さ・技巧の凝りようが注目されており、今後も更なる作品発表が期待できそうです。

今作は、これまで神永学さんの作品を読んだことがなくてもおすすめな一冊。

騙されるのが好き、どんでん返しが好き、騙された!と言いたい、といった方はぜひ読んでみてくださいな(๑>◡<๑)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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