伏尾美紀『北緯43度のコールドケース』- 江戸川乱歩賞受賞作は流石に面白い!

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博士号を持ちながら、紆余曲折を経て30歳で北海道警察の警察官となった主人公・沢村依理子。

まだまだ男性社会の警察で、しかも異色の経歴を持つ彼女に、なんとなく周囲からの当たりは強い。

それでも、沢村に対して操作方法や取り調べの方法を教えてくれた先輩警官・瀧本に、澤村は尊敬の念を持つようになる。

ある時、5年前に未解決事件となっていた誘拐事件の被害者の少女が、最近の遺体となって見つかる。

犯人は以前に死亡していたため共犯者の存在が疑われたが、再び未解決事件に。

さらに一連の捜査資料が漏洩し、あろうことか沢村に漏洩の疑いが。

自身の身の潔白を証明するため、そして事件の解決を目指すため、捜査により力を入れる沢村。

そんな彼女がたどり着いた、驚きの真相とは?

江戸川乱歩賞受賞者による、鮮烈なデビュー作!

目次

キャラクターそれぞれの造形が魅力的

本作の主人公は、博士号を持ちつつも時代の流れにより30歳にして警察官となった警官・沢村依理子。

警察官としては普通でない経歴を持つ彼女は、その経歴や女性であるという点から厳しい目を向けられつつも、尊敬できる先輩警官の力を借りて事件に真剣に向き合います。

まず、この沢村のキャラクター造形が深く、共感できるというのがポイント。

哀しい過去を持ちながらも果敢に事件に立ち向かっていく彼女の姿に引き込まれること間違いなしです。

事件を通して警察官として・人間として成長する姿を見ることができます。

また、登場人物の数自体も多いという特徴を持ちながらも、それぞれのキャラクターを最大限掘り下げているという点も面白いです。

警察の先輩や同僚など、多くの登場人物の心理描写・情景描写が濃く、そのキャラクターたちと主人公のやり取りを大いに楽しめるでしょう。

江戸川乱歩賞の選考委員からも、登場人物の魅力という点はお墨付き!

警察内部や捜査の描写もディティールが正確で深く、警察小説が好きな方にもおすすめできる作品です。

さまざまなテーマを散りばめた意欲作

さまざまなテーマに意欲的に取り組み、それぞれを掘り下げて読ませる内容にしているというのも本作の魅力の一つ。

決して長くはないページ数の中で、主題である幼女誘拐・死体遺棄事件、少女売春グループの摘発とリンチ傷害致死事件、主人公の恋人の自殺、家族との確執やすれ違い、親の認知症問題、そして主人公の成長と、これでもかというほどのテーマが詰め込まれています。

少々テーマが多すぎるという意見もある反面、テンポの良い構成と書き口で、それぞれの話を深く理解しつつ読み進めることができます。

むしろ、たくさんのテーマを扱っているのに読者を飽きさせずに読ませる文章を書くというのはすごいことですよね。

もちろん無駄なエピソードというものは一つとしてなく、それぞれの話が事件解決の糸口につながっているのですから驚きです。

100%の極悪人も登場しないので、リアリティを持って読み続けられます。

推理小説・警察小説として新しいアプローチがされている作品!

50歳を過ぎて、本作で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした作者・伏尾美紀さん。

第一作目の小説が本作ということもあって小説の構成については選考委員から指摘が入っているものの、人物の書き方や警察小説としての物語の運び方については大絶賛が。

たくさんのキャラクターが登場する中で、それぞれの背景を掘り下げて読者に伝えるという手法がピカイチと言えるのです。

警察内部や警察官の描写にもリアリティがあり、警察小説としての評価も上々。

警察という組織に翻弄されながらも、正義を追い求めて成長していくという王道の警察小説とも言えるでしょう。

誘拐事件という一見ありきたりな主題についても新しいアプローチで取り組んでいて、それも評価の一つとなったようです。

共感できる人物造形、豊富なエピソード、そして興味を惹かれる事件。

キャラクターが立ち、エピソード的にも内容が豊富ということで、ドラマ化・映画化も十分に考えられる作品です。

伏尾美紀氏にとっては今作が第一作目であり、まだまだこれからの活躍が期待されるミステリー作家の一人。

今後も人間味あふれるミステリーを発表してくれるはずですので、今から読んでおいて損はありません!

あたたかいキャラクターの織りなすミステリーものが好きな方、警察小説が好きな方は、ぜひ読んでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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