【自作ショートショート No.33】『実用的な掃除機』

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『ゴミが消える掃除機ついに登場!』

カヨコはテレビから流れてきた声に、家事の手を止めた。

『ゴミを原子レベルにまで分解して消す画期的な掃除機「デリオ」新発売!髪の毛や埃、生ゴミはもちろん、家具や家電などの大型ゴミにも対応』

どうやら新型掃除機のコマーシャルらしい。デリオのノズルを向けられた冷蔵庫が、一瞬にして消える映像が映った。

「あら、すごいわ」

カヨコは寝室にある古びたタンスを思い浮かべた。

このタンスはカヨコが結婚した時に実家から持ってきたもので、かれこれ20年以上使っている。

処分したいと思いながらも面倒で先延ばしにしていた。

「良いわねこの掃除機。いくらするのかしら」

「本当に消えるのかしら」

カヨコは今朝、届いたデリオをまじまじと眺めた。

夫は専業主婦のカヨコが無駄なお金を使うことが気に食わないらしく、デリオを買うことに最後まで反対していた。

今朝も不機嫌な顔をしたまま仕事に出かけて行ったが、まあ、帰ってくる頃には機嫌も直っているだろうとカヨコは気にしないことにした。

それよりも今はデリオだ。決して安くない額を払って購入したのだ。

これでもし役に立たなかったら夫に何を言われるか分かったものではない。

「本当に消えるのかしらね」

スイッチをオンにしてみるとブオーという音と共にデリオ本体が一瞬ブルっと震える。

カヨコがとりあえず生ゴミにノズルを向けてみると、1秒も経たないうちにキレイさっぱり消えてしまった。

「うそ?!すごい」

実際にその性能を目の当たりにしたカヨコは、次々と不要な物を消していった。

そして最後に寝室へ行き、タンスを消すと満足気に頷いた。

「こんな大きなものまで!いったいどういう仕組みになってるのかしら」

その翌日、カヨコは買い物に行く道中、ゴミ集積場を通りかかった際、大型ゴミが捨ててあったのを見つけた。

デリオがあればわざわざゴミを捨てに行くこともないのにと、カヨコはちょっぴり優越感に浸った。

ところが発売から1ヶ月も経たないうちに、デリオに大きな欠陥があることが判明する。

全国で夫や姑が消えるという事件が多発したのだ。消えたのはデリオを使っていた家庭ばかり。

調査の結果、スイッチをオンにした人間がゴミだと認識しているものは、生きているいないに関わらず全て消してしまうということが分かったのである。

つまり消えた夫や姑は、デリオを使った主婦から内心ゴミ扱いされていたというわけである。

これは販売元も想定外のことで、直ちに注意喚起がなされ、販売は中止となった。

それと同時にすでに売られた商品に関しても、回収が決まった。

ただ原子レベルにまで分解された夫や姑は二度と帰っては来ない。

普通であれば大問題になるところだが、そもそもは夫や姑をゴミ扱いしていなければ、こんなことは起こらなかったのだから、主婦たちも強くは言えない。

結果的に主婦の側にもやましさがあり、さほどの問題ならずに済んだ。

カヨコの近所にも、姑が消えた家庭があった。

「あそこの奥さんったら人の良さそうな顔をしてお姑さんをゴミ扱いしてたのよ。やだわ」

さっきから夕食を食べるカヨコの手はずっと止まったまま。箸の先を夫の方に向け、なおも続ける。

「我が家は大丈夫よ。私はお義母さんとも仲良くやってるし嫁姑も夫婦関係も良好だもの。大切な家族をゴミ扱いするなんて信じられないわよねまったく」

「おい、少し黙ってくれないか。俺は疲れてるんだ」

嫌そうな顔をする夫にカヨコは少しムッとする。

「何よ!私だって疲れてるんだから」

「もういいから黙って食べろよ」

「ふん、分かったわよ」

『生体には反応しない新バージョンの掃除機「デリオアルファ」が登場!』

カヨコは食い入るようにそのコマーシャルを見つめた。テレビにはノズルを向けられた有名タレントが笑っている。

『この「デリオアルファ」は生体には反応しませんので、小さなお子様やペットのいるご家庭でも安心してお使いいただけます』

「ふーん、すごいわね」

今度は夫に相談することもなく、カヨコはデリオアルファを注文した。

そして今、カヨコは自分で車を運転して、夫の実家へ向かっていた——車のトランクにあるものを忍ばせて。

それはついさっき夫を消したばかりのデリオアルファであった。

世の主婦たちはこぞってこのデリオアルファを購入した。

以前は意図しないものだったが、今回、世の主婦たちは学習していた。

邪魔な家族はデリオを使えば跡形もなく消してしまえるのだと。

「生体には反応しないというなら、殺してから消してしまえば良いのよ」

カヨコはさっきの夫の驚いた顔を思い出して、フフッと笑った。

そしてこれから夫の実家で起こることを想像して胸が高鳴る。

「早く、早く」

ぐっとアクセルを踏んだ。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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