【自作ショートショート No.32】『働かない子供たち』

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「ハッ、ハックション!」

自分のくしゃみの音で目が覚めてしまった。窓の外はまだ暗い。

枕元にあった時計を手に取ると、僕は一度ブルッと身震いをしてから、大声で母親を呼んだ。

「おーい、寒いじゃないか」

そのまま布団に縮こまって耳をすませていた。

すぐに廊下をパタパタと走ってくる、特徴的な母親の足音が聞こえてくる。

母が寝室の扉を開けるより早く僕は「布団を持ってこい」と怒鳴った。

母が扉の向こうでパタリと立ち止まるのが気配で分かった。

全く気の利かない母親だ。僕がいちいち言わないと、何も分かってくれないんだからな。

僕が風邪をひいたら、大変なのはお前たちなんだぞ。

僕はいつものように昼過ぎに起きて、朝食兼昼食を食べていた。それにしても代わり映えのしないメニューだ。

こんなに毎日同じものばかり食べさせられていたら飽きてくる。

まったくあいつはいつまで経っても料理が上手くならないんだから。

あれでも一応母親なんだぞ、もう少し料理を勉強しろってんだ。

だんだん腹が立ってきた。

どうしてこんなまずいもの我慢して食べなけりゃいけないんだ。僕は食べる手を止めて立ち上がった。

なんだかむしゃくしゃするので、気分転換に外へ出かけることにする。

大通りを歩いていると、僕と同世代の若者たちがたくさん目につく。

やっぱりみんな僕と同じように、仕事もせず、昼間からぶらぶらしているのだ。

中には親と一緒に歩いているやつもいる。けれどみんな揃いも揃って、親の前で偉そうにふんぞり返っている。

見ていてあまり気分の良いものではないなと思う。まあ僕も他人のことは言えないけれど。

そんな中で親に優しく接しているのは大抵の場合、僕より年下の子たちだ。

これがだんだん成長してくるとみんな僕らみたいにふんぞり返るようになってくるのだ。

そんなことを考えながらぶらぶら歩いていると、さっき昼食を食べ損ねたからか、グーッとお腹が鳴った。

よし、どこかの店で美味しいものでも食べようと決めた僕は、さっきよりいくらか早足で歩き始めた。

迷った末にカレーを食べることに決め、黄色い屋根のお店へ入った。

そこで2杯もおかわりし、お腹が膨れた僕はとたんに眠たくなってきた。

気分転換もできたことだし、そろそろ家へ帰るとしよう。ふぅ、それにしてもちょっと食べ過ぎたかな。

おや?ずいぶん家の中が静かだな。いつもならこの時間になると父が仕事から帰ってきて、家の中はもっと騒がしいはずだった。

何しろあいつらときたら、寝ている時以外はガチャガチャと本当に騒々しいからなぁ。

狭い廊下を奥に進んで行くと、リビングから父と母の声が聞こえてきた。なんだやっぱり帰ってきてたのか。

僕のいないところでどんな会話をしているのだろう。ちょっと気になったので、そっと聞き耳を立ててみる。

「あの子ったら25歳にもなって働きもせず、ずっと家でゴロゴロ。私にも偉そうに命令してばかりで嫌になっちゃうわ」

「うむ、そうだな」

「あなたからちゃんと注意してよ」

「うむ、わしも前から気になってたんだ」

「だったらお願いよ」

「よし、一度ガツンと言ってやろう」

フン、何言ってやがる。このポンコツめ。腹が立った僕はリビングの扉をバンと開けてやった。

「おい、何か言いたいことがあるのか!言ってみろよ」

声を張り上げた僕に、父がスーッと近づいてくる。

「いい加減に働け」

「やだね」

冷静に言う父に、僕も無表情で言い返す。

「仕事もせず、遊んでばかりで良いと思ってるのか」

「良いに決まってるだろ」

半分笑いながら答える。

チラッと母のほうに目をやると、その場であたふたしてるだけだった。まったく役に立たないんだからな。

「お前らに偉そうにされる筋合いはないぞ!」

僕がそう怒鳴ってやると、父がさらにこっちに迫ってきた。

さすがにこの距離になると迫力があるなぁ、と僕はのんきに考えてしまっていた。

そんな僕の態度をみてさすがにカッとしたのか、父が右手を大きく振り上げた。

しかしそんな行動はこっちもお見通しだ。僕は冷静にその手を掴んで、向こうへ弾き飛ばしてやった。

すると頭から火を吹いた父が、とうとう言ってはいけないひと言を放った。

「だ、だ、だ、誰のおかげで飯が食えていると思っているんだ!」

あーあ、言っちゃったよこいつ。

「僕のおかげだよ」

言いながら僕は父の背後に回り、その背中についた蓋をパカッと開ける。

ついでにすぐ横で、まだあたふたしていた母の背中の蓋も開けて、両方から電池を取り出した。途端に母と父の動きが止まる。

僕はやれやれとため息をついた。この親型アンドロイドはそろそろ交換だな。

人の代わりに働き、人に代わって世話をしてくれるのが親型アンドロイドの便利な所なんだけど、育てていくうちに自分を親だと勘違いするのが玉に瑕なんだよな。

やっぱり安物はダメだ。次はもっと良いやつに買い換えよう……。

(了)


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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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