近藤史恵『ホテル・ピーベリー』- いわくありげな宿泊客が次々に死んでいく

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小学校教諭だった木崎は、不祥事から退職した後、日々を無気力に過ごしていた。

ある日友人からハワイ島の小さなホテル「ピーベリー」を紹介され、興味を抱く。

そこは、一度利用したら二度目はないという、リピーターお断りのホテル。

さっそく泊まりに行ったところ、次々に奇妙なことが起こった。

まずは他の宿泊客たちの、謎めいた言葉。

「このホテルの客はみんな嘘つき」

「そのうち面白いことが起こる」

続いて、そのうちの一人がプールで溺れ死に、さらに直後に、別の宿泊客がバイクで事故死した。

これらは全て偶然なのか、はたまた仕組まれた罠なのか。

そもそもピーベリーは、なぜリピーターお断りなのか。

絡み合う人間ドラマで読者を釘付けにする、傑作ミステリー!

目次

穏やかなリゾート描写からの急展開

『ホテル・ピーベリー』は、旅行先の宿泊施設で、様々な事件が起こるタイプのミステリーです。

と言っても途中まではミステリー色は全くなく、主人公の青年・木崎が、ハワイで色々な人と出会い、観光や買い物、食事などを楽しむ様子が描かれています。

これがなかなかエキゾチックで、景色は広々としていて美しいし、料理は美味しそうだし、ハワイの雑学なんかも色々と出てきて興味深いことばかり。

しかも宿泊先のホテル・ピーベリーのオーナーは日本人夫妻ですし、他の宿泊客も日本人ばかりなので言葉の心配がなく、安心して楽しめるところがまた素敵。

こんな旅行なら自分もしてみたいなぁと思える魅力が満載です。

そんなわけでミステリー要素はチラリとも出てきません。

謎と言えば、ピーベリーが「リピーターお断り」というルールを定めている点くらいでしょうか。

最長三ヶ月という長期滞在を可としていながら、なぜ二度目の宿泊を頑なに拒むのか、ちょっと裏に何かありそうな気がしますよね。

他に謎があるとすれば、他の宿泊客の意味深な言葉。

「みんな嘘つき」とか「そのうち面白いことが起こる」とか言われるので、それが少し気になるくらい。

ところが中盤まで来ると、雰囲気が一気にサスペンスフルになります。

二名の宿泊客が立て続けに亡くなり、しかもそのうちの一人は、名前も住所も全くのデタラメ!

謎めいた言葉が真実となり、さすがに木崎も呑気な観光気分ではいられなくなります。

そしてここから、物語はどんどん暗く怪しげな方向へと進んで行くのです。

特にビックリさせられるのが、オーナーの正体。

以前ピーベリーに宿泊した友人が写真を見せてくれたのですが、そこに写っていたのは、木崎が知るオーナーとは全くの別人でした。

それどころかその顔は、どう見ても亡くなったはずのあの人で…。

いやー、怖い!

前半が穏やかなリゾート描写だったからこそ、ギャップがたまらないですね~。

次々に出てくる奇妙な謎と真相に、目が離せなくなります!

登場人物の裏事情が興味深い

『ホテル・ピーベリー』では、木崎の裏事情も見どころのひとつです。

本筋とは直接的な関係はないものの、このエピソードがあるからこそ物語が引き締まり、より深みのあるものとなっています。

軽くご紹介しておきますと、木崎は小学校の教諭だったのですが、ある事件から退職を余儀なくされます。

事件とは、教え子である10歳の少女との恋愛が発覚したことです。

決して木崎がロリコンというわけではなく、真剣な恋愛であり、相思相愛でしたし、結婚も意識していたほど。

しかし当人たちがいくら本気でも、世間が許すはずがなく、木崎は退職せざるを得なくなったのです。

そのため木崎は抜け殻のようになってしまい、傷心旅行のつもりでハワイに行ったわけです。

そして木崎はこの恋の痛手を、新しい恋で癒します。

その相手が驚きで、なんとホテル・ピーベリーのオーナー夫人の和美!

15歳も年上、しかも人妻ですから、またしても道ならぬ恋ですよ。

つい木崎の節操を疑ってしまいそうになりますが、だからこそ面白い。

この恋が果たしてどのような顛末を迎えるのか、ミステリーと並行して読者はワクワク、ヒヤヒヤしながら読み進めることになります。

また和美の方にも、裏事情が色々と隠されています。

夫であるピーベリーのオーナー・洋介と、かつて何があったのか、どのような思いを抱いてきたのか、そしてなぜピーベリーを「リピーターお断り」にしたのか。

このあたりは本筋にも関係してくるので、ぜひ注目して読んでください。

その他の登場人物たちにも悩みや秘密の過去があり、それぞれが物語におけるスパイスとなっています。

読み終わったあとの感慨が大きいミステリー

エキゾチックなハワイ旅行の様子と、手に汗握るミステリー、そして各登場人物たちのヒューマンドラマを楽しめる、魅力の多い作品となっています。

近藤史恵さんといえば、複雑な心理描写に定評のある作家さんです。

フーダニットやハウダニットよりもホワイダニットに重きを置いており、「行動の裏に、どのような事情や思いがあったのか」という点を丁寧に細やかに描くところが人気です。

本書『ホテル・ピーベリー』でもその作風が顕著に出ており、特に主人公・木崎の心情が深くまで描き込まれていました。

最初はウジウジした感じだったのですが、ハワイののんびりとした空気と和美の懐の深さに癒されていき、徐々に頼もしくなっていく様子は印象的。

最終的に木崎は、この事件における一つの答えを導き出し、鍵を握る人物に突き付けるのですが、そのシーンには特に迫力がありました。

驚きの真相はさることながら、愛情や依存心、責任感など様々な心情がワーッと入り乱れ、それが読み手にも伝わってきて、心を大きく揺るがしてくれるのです。

このあたりは、近藤史恵さんの作品ならではの魅力だと思います。

ミステリーとしては、小ぢんまりしたホテル内で起こった規模の小さな事件ですが、読了後の感慨はとても大きい!

近藤史恵さんのファンや、機微に触れるストーリー展開が好みの方に特におすすめの一冊です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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