結城真一郎『名もなき星の哀歌』- 記憶の断片から真実を見つ出す、切なさの募る青春ミステリー

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銀行員の良平と漫画家を目指す健太は、「店」で記憶を売買する裏稼業をしている。

人から記憶を買い取り、欲しがっている人に売るのだ。

ある日二人は、謎のシンガーソングライター・星名の歌を路上ライブで聴いた。

不思議と涙がこぼれた良平。

興味を抱いた二人は、「店」にある記憶の断片から、星名の素性を探ってみることにする。

すると、星名の幼馴染が「医者一家焼死事件」の生き残りであり、莫大な財産を相続していたことがわかった。

また「ナイト」という少年が、かつて星名に大金を渡してから消息を絶ったことも。

いくつもの記憶の欠片から、やがて良平と健太、星名は、思ってもみなかった真相を見つけ出す。

二度読まずにはいられない、切なく美しい青春ミステリー!

目次

幾多の記憶と幾多の真相

『名もなき星の哀歌』は「記憶をやり取りできる」という特殊設定のあるミステリーです。

ある水晶玉を使うことで、記憶をパソコンのデータのように、削除したり移し替えたりできるのです。

不要な記憶(辛い記憶や忘れたい過去)は抜き取って、自分が欲しい記憶(楽しい記憶や成功体験)を植え付ける。

とても便利なシステムですよね!

主人公・良平と健太は、このシステムを使って記憶の売買をしています。

さらに二人は「店」で保管している多くの記憶(ある意味大量のデータ)を使うことで、探偵のようなことも始めます。

これによって謎のシンガーソングライター・星名の過去を探ることが、『名もなき星の哀歌』の大筋です。

一番の見どころは、「ナイト」の正体!

「ナイト」は、かつて星名に2千万円もの大金を残して姿を消したという、謎の少年です。

生死もわからず、どこかで生きているのか、あるいは既にこの世から去っているのか、良平や健太はもちろん星名でさえも知りません。

でも幾多の記憶を辿っていくことで、少しずつ真相が見えてきます。

「ナイト」の消息、姿を消した理由や方法、そして星名が歌う「スターダスト・ナイト」の意味。

それだけでなく、「ナイト」が実は良平や健太とも意外な関わりがあったことが判明します。

もうこれが意外すぎて、読みながら「うわー、そうだったのか!」と驚くとともに、「だからあの時〇〇だったのか!」と仕掛けられていた伏線に気付き、頭の中が驚きと納得の嵐になります。

どんな真相が隠されていたのか、「記憶」が鍵となる謎解きに、ぜひ挑戦してみてください。

この他にも衝撃の真相や伏線が盛りだくさんなので、最後までノンストップで楽しめます。

「記憶」の大切さに気付かせてくれる

『名もなき星の哀歌』は謎や真相を楽しむだけでなく、「記憶」について深く考えずにいられなくなる作品です。

というのも、各登場人物の「記憶」への向き合い方が、読み手にいろんな道を示してくれるからです。

たとえば、巌という老人が登場するのですが、彼は認知症の妻を支えています。

妻が失ってしまった「夫婦の記憶」を、巌老人はしっかり覚えていて、その状態で妻のお世話をしているのです。

それがどれだけ悲しくて、やるせなくて、切ないか。

そして巌老人は、考えて考えて考えた末に、記憶を売る選択をします。

このエピソードは涙なくして読めませんし、同時に自分だったらどうするのかを考えさせてくれます。

出す答えは人によって違うかもしれませんが、おそらくは誰もが記憶を手放すことをためらうと思います。

記憶はたとえ辛いものであっても、今の自分を作っている土台のひとつです。

また辛さの中に、素敵な思い出がわずかに混ざっていることもあります。

だから簡単には捨てられないし、捨てるとしたらよほどの覚悟ができた時でしょう。

でも、巌老人は……。

そして、ある主要人物も……。

このように『名もなき星の哀歌』は、記憶がいかにかけがえのないものであるかを教えてくれます。

読み終えた後は、自分の過去が(辛かった過去でも)とても愛おしく感じられるはずです。

そういう意味でも、『名もなき星の哀歌』は一読の価値のある作品だと思います。

二度読むことでさらに魅力がアップ

『名もなき星の哀歌』は結城真一郎さんのデビュー作であり、第5回新潮ミステリー大賞を受賞した作品です。

実は選考の段階では、賛否両論だったそうです。

「記憶を自在に消したり移したりできることが、ご都合主義だ」という見方もあったのだとか。

それでも受賞となったのは、感動的なエピソードや、謎と真相とが盛りだくさんのスリリングな展開がとても魅力的だったから。

また、読み手の心に大きな余韻を残す作品でもあります。

さらに「一度読み終えたら、もう一度読まずにはいらえない」という評価もあります。

実際、真相を知った上で改めて読み直すと、一度目とは違った見方で物語を追うことができます。

たとえば、個性的な登場人物が多い中、良平だけはどこか薄い印象なのですが、その理由が二周目にはハッキリとわかります。

星名の歌を聴いて良平が涙したシーンも、健太がどんな気持ちで漫画家を目指しているのかを語るシーンも、一周目はサラッと読み流していたはずが、二周目になると秘められていた意味が分かり、心に深く沁み入ってくるのです。

読み終わった後の余韻も、もちろん二周目の方が圧倒的に大きくなります。

ノンストップで読書を楽しみたい方、心に残る物語を読みたい方には、ぜひおすすめしたい一冊です。

できれば二度読みして、とことん味わい尽くしてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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