阿津川辰海『録音された誘拐』- 令和のテクノロジーを欺く誘拐犯との頭脳戦

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探偵事務所の所長・大野が誘拐された。

大野の家は資産家ではあるが、なぜよりによって探偵事務所の所長をターゲットにしたのか。

どうも15年前に起こった誘拐事件が関係しているらしいが……。

助手の美々香は、特殊能力である抜群の聴力を生かして事件に挑む。

美々香の耳は、人間には聞き取れない小さな音でも拾うことができるのだ。

また誘拐された張本人の大野も、探偵としての頭脳と技術とを駆使して、外部への情報伝達を図る。

ところが犯人も犯罪における高いスキルを有しており、現代のテクノロジーの裏をかいて捜査や追跡を華麗にかわす。

美々香と大野は、犯人に打ち勝つことができるのか?

熱い頭脳戦が繰り広げられる、新世代ミステリー!

目次

誘拐された探偵VS美学を尊ぶ誘拐犯

『録音された誘拐』は、誘拐された探偵・大野を、助手の美々香が救い出す物語です。

誘拐の被害者が探偵というところが、逆説的で面白いですよね。

本来であれば探偵なんて犯人が一番毛嫌いしそうな相手なのに、あえて狙うところに犯人の自信が見え隠れしています。

そして犯人を追うのは、大野の助手である美々香。

彼女の設定も面白くて、人間離れした聴力を持っており、様々な音の中に潜む違和感やヒントを見つけることができます。

この能力が犯人から連絡が来た時や、大野が手掛かりとなる行動をとった時などに大活躍!

これだけでも興味深いのですが、さらに凄いのが犯人のカミムラ。

彼は「僕の犯罪は美しくなければならない」という理念を持っており、犯罪をとにかくエレガントに遂行することにこだわっています。

そのため現代の発達したテクノロジーによる捜査や追跡を、それはもう美しく鮮やかにかいくぐります。

拉致の方法や連絡方法、身代金を受け取る方法などなど、読んでいて「なるほど、こうすれば証拠が残らないのか」と感心してしまうくらい見事!

カミムラいわく「すべては、究極の犯罪のために」とのことで、彼の犯行の様子は美学に満ち満ちています。

美々香と大野は、この犯人に聴覚と頭脳とで対峙するのです。

彼らの攻防は凄まじく、スキを突いたり突かれたり、出し抜いたり出し抜かれたりで、まさに一進一退、二転三転。

探偵側も犯人側もカッコよく、読みながらついどちらも応援してしまいます。

この熱いバトルが、『録音された誘拐』一番の見どころですよ!

黒幕にも主人公にも意外な真実が!

『録音された誘拐』は、美々香たちの攻防だけでなく、ストーリーも二転三転します。

どんでん返しの連続で、読み手は「まさかこんなことが……!」と驚かされっぱなしです。

めいいっぱい惑わされるので、犯人当てが好きな人には、楽しみ続けることのできる一冊でしょう。

もうひとつ読み手の度肝を抜いてくるのが、美々香の真の実力。

美々香の抜群の聴力には実はある秘密が隠されているのですが、これがもうビックリで、それまで読み手が信じていたものが根底から覆されます。

そして美々香のすごさや魅力がますます強く感じられ、彼女をもっともっと応援したくなるのです。

この他にも、大野が誘拐された理由、15年前の誘拐事件、大野の家の近所で発見された死体などなど、真相はてんこもり!

いずれも意外性に富んでおり、逐一ドキドクワクワクさせてくれますよ。

約400ページという長編ですが、そのページ数を超えるくらいのボリュームを感じさせる、濃密な作品です。

読み応えのあるミステリーをお探しの方は、ぜひ手に取って、熱い頭脳戦と度重なるどんでん返しとを堪能してください。

作者の愛が溢れる登場人物たち

『録音された誘拐』は、実は厳密には、シリーズ二作目にあたります。

ミステリー短編集『透明人間は密室に潜む』に収録されている『盗聴された殺人』の続編なのです。

前作でもやはり美々香が特殊な聴覚を駆使して大活躍するので、まずはそちらを読むのが良いかもしれません。

今作から読んでも物語自体はわかるのですが、前作を先に読んでおけば今作での「真の美々香」により大きな驚きを覚えると思います。

ビックリさせられることがミステリーのひとつの楽しみですので、今作をより楽しみたい方はぜひ!

とにかく続編が出たということは、作者の阿津川辰海さんにとって美々香や大野は、お気に入りのキャラクターなのかな、という気がします。

だからこそ短編で終わらせず、こうして長編を執筆されたのでしょう。

また今作の終盤では、美々香の真の能力が今後ますます磨かれそうな描写がありました。

ということは、さらにこの続きの物語が発表される日が来るかもしれませんね。

現段階でも十分にすごい能力が、今度どう開花していくのか、想像するだけでワクワクします。

ちなみに阿津川 辰海さんは、今作の実行犯のカミムラもお気に入りだそうです。

「演説する悪党が好き」とのことで、なるほどカミムラは作中で、犯罪をいかにエレガントにこなすか、それはもう生き生きと語っています。

作者の愛ゆえか、カミムラのキャラクターは非常に立っており、行動やセリフのひとつひとつが印象的。

彼の存在が、この作品をより輝かせていると思います。

美々香や大野はもちろんですが、カミムラの別の活動も読んでみたくなるんですよね〜。

今から続編が楽しみです!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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