倉知淳『恋する殺人者』- 想うゆえに人殺す!ラブコメに潜む驚愕の本格ミステリー

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大学生の高文が幼い頃から慕っていた従姉・真帆子が、石階段で落ちて亡くなった。

警察は事故死としたが、高文は数日前に真帆子から誰かに尾けられていると相談されており、事故ではなく他殺ではないかと疑う。

真相を突き止めるため、高文は高校時代の友人である美咲の手を借りて調査を始めた。

ところが聞き込みをする予定だった真帆子の友人たちが、何者かに次々に襲われてしまう。

調査は進まず、犠牲者は一人また一人と増えていく。

一体犯人は誰で、何が目的で動いているのか―。

ライトなノリでも仕掛けはヘビー!

読む者を容赦なく騙して翻弄する本格ミステリー。

目次

ギャップが怖くて面白い

『恋する殺人者』は、不審死を遂げた従姉の謎を解くために、大学生の高文が独自の調査を進めていくミステリーです。

恋愛要素が強く、男女の微妙な距離感がユーモアを交えて明るく描かれており、ぱっと見た目はラノベです。

でもその実、裏でかなりの仕掛けや衝撃展開が用意されていて、ラノベだと思って読むと必ず手痛いしっぺ返しを食らいます。

まず、人がたくさん死んでしまうのですよ。

高文が真帆子について調べれば調べるほど、関係者がバッタバッタと殺されていきます。

自分が行動することで周囲が死んでいくって、恐怖ですよね。

加えて、高文のパートの合間合間に犯人と思しき人物のパートが挟まれるのですが、それが不気味!

独りよがりで思い込みが激しくて、自分の感情を押し通すためなら命の重みなんて全く考えない、そんな狂気に満ちた犯人のモノローグに読者はたびたびゾッとさせられます。

全体的な雰囲気は、本当に明るくてライトなのですよ。

高文と周囲の女子たちとのやり取りなんて、ほんわかしていて可愛らしいの何の。

笑ったり、からかったり、意地を張ったりと、ちょっとした言葉や動作に恋心が隠れていそうで、読みながらムズムズ、ニマニマしてしまいます。

なのに犯人のやることなすことと言ったらもう……!

いえ、犯人も一見ふわっと軽やかな感じではあります。

でも思考がどこかサイコパスじみていて、明るいノリでダーク極まりない考えをどんどん巡らせ、その勢いで複数の人を殺します。

緊迫感があまりにもないからこそ、逆に怖いのです。

このライトとヘビーのギャップが、『恋する殺人者』の第一の見どころでしょう。

騙される快感、見抜く快感

『恋する殺人者』の第二の見どころは、終盤の超どんでん返しです。

この物語は一種の倒叙ミステリーであり、犯人視点のパートがあるので、犯人が誰で、どんな思いで何のために人を殺しているのか、読者には早い段階でわかります。

そして以後は読者は、両方のパートで犯人の動きを追うことになります。

犯人パートではもちろん犯人の動きがダイレクトにわかりますし、高文パートでは高文の視点を通して犯人の動向を確認できるのです。

犯人がすぐ近くにいるとも知らずに調査を続ける高文にヒヤヒヤしつつ、犯人がどういう行動に出るのか注目する感じですね。

こうして読者は犯人をベースとして読み進めるため、終盤に入った時、派手に度肝を抜かされます。

ある真相が発覚して、とんでもないミスリードがあったことに突然気付かされるのです。

「えええっ、じゃあ自分は実は、最初からずーっと騙されていたってこと?」と、愕然とする可能性大!

そしてこの瞬間こそが、『恋する殺人者』の最大の見どころです。

思い込んでいたことをものの見事にひっくり返されて、むしろ気分爽快で、作者アッパレと拍手したくたくなるくらい!

注意深くじっくり粘っこく読めば、もしかしたら騙されずに真相を見抜くことができるかもしれません。

でも、なにせこの作品、ノリがライトでテンポが良いので、つい流れに乗って読んでしまうのですよね。(もしやそれすらも作者の罠……?)

ということで『恋する殺人者』は、豪快に盛大にどんでん返しをしてくる作品です。

流れに任せて読んで気持ちよく騙されるも良し、目を皿のようにして読んで罠を見破るも良し、どちらにしてもミステリーならではの快感を味わえます。

倉知ミステリーの真骨頂

『恋する殺人者』の作者・倉知 淳さんは、ライトな本格ミステリーを執筆することで知られています。

ユーモアがあってユル~い感じのする反面、高度なトリックや暗号があったり、複雑怪奇な謎が隠されていたりするのです。

気楽に読めるのに気が抜けないという真逆のベクトルが絶妙にマッチしているところが、倉知ミステリーの魅力だと思います。

そして本書『恋する殺人者』も、モロに倉知さんらしい作品です。

ほんわかキュンキュンな雰囲気でありながら、内側にはドロドロの情念が渦巻き、人が何人も殺されていきハラハラドキドキ!

言うなれば、ラブコメ風味のシリアルキラー物語、といった感じでしょうか。

しかも巧妙な罠が仕掛けてあって、読者を有無を言わさず陥れ、唖然呆然とさせてしまう手練手管。

どこをとっても倉知さんのスキルや魅力にあふれ、ファンならたまらない一冊と言えます。

倉知さんの他作品をご存じない人にとっても、テイストを知るにはもってこいなので、入門編としてぜひ読んでいただきたいです。

ページ数が約200と短めであり、サクッと読めるので、スキマ時間でミステリーを楽しみたい方にもおすすめです。

興味を持たれましたら、ぜひ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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