手代木正太郎『涜神館殺人事件』- 狂乱の幽霊屋敷にイカサマ霊媒師が挑む

  • URLをコピーしました!

エイミー・グリフィスは、妖精を呼び出す力を持つ霊媒師……というフリをしている自称霊能力者。

「妖精の淑女」と呼ばれ注目を集めているが、ステージで観客に見せる妖精召喚は、ちょっとした演出にすぎなかった。

そんなエイミーのもとに、招待状が届いた。

幽霊おじさん(ゴースト・マン)こと探偵小説作家のソーンダイク卿からで、なんでも彼の購入した別荘で幽霊を呼び出してほしいとのこと。

その別荘は「涜神館」と呼ばれており、何百年も前に死んだ女性の亡霊が出るらしい。

今以上に名を売るチャンスと考えたエイミーは、さっそく涜神館に向かうが、そこでは恐ろしい惨劇が待ち構えていた。

エイミーと同じように招待された霊能力者たちが、次々に殺されていくのだ。

しかも現実とは思えない超常現象的な方法で。

果たして犯人は人か亡霊か、そして涜神館に隠された謎とは?

目次

霊能力を持たない主人公

『涜神館殺人事件』は、帝国屈指の幽霊屋敷と呼ばれる「涜神館」で殺人事件と超常現象の謎を解いていく、ホラー系の特殊設定ミステリーです。

いわくありげな古い洋館が舞台ということで、全体的にゴシックホラーのおどろおどろしい雰囲気に満ち満ちています。

それでいて館が吹雪でクローズドサークル化したり連続殺人事件が起こったりと、本格ミステリーとしても味わえる贅沢な一冊です。

見どころは、主人公のエイミーが霊能力を持たないイカサマ霊媒師だという点。

エイミーは、他の招待客たちも自分と似たようなものだろうと高を括っていたのですが、どうも全員本物の霊能力者らしいということで驚きます。

心霊写真を撮る者、エクトプラズムを操る者、過去の出来事がわかる者などなど。

彼らの能力はいずれも本格的で、能力を持たないエイミーはビックリ。

そしてそれは、そのまま読者の驚きでもあります。

彼らの超人的な霊能力に、読者はエイミーと一緒にドキドキワクワクしますし、館で起こる超常現象に対しても、正体が薄々わかっている霊能力者たちと違って、何もわからないエイミーと読者は逐一心臓がバクバク!

能力のない者同士だからこそシンパシーがあり、エイミーの目を通して、ありえない状況を楽しめます。

文章がエイミーの一人称なので、より一体感をもちやすいでしょう。

ごちゃまぜオカルトと本格推理

涜神館は、かつて黒ミサや黒魔術が行われており、麻薬や賭博や乱交などの度を越した快楽の温床となっていた、気味の悪い館です。

この館内で一体どのような超常現象が起こるのかというと、ラップ現象や自動書記は当たり前で、突然インクの手形がついたり、切断された首が出てきたり、胴体や首が物理的にありえない動きをしたりと、実に様々。

しかも黒魔術だけでなく、ギリシャ神話や日本神話も絡んでくるので、それぞれのおどろおどろしさが絶妙に混ざり合っており、かなり不気味。

その上グロ描写が多いので、想像力の逞しい人だと、読みながら背後が無性に気になったり、夜眠れなくなったりするかも?

このように恐怖感バリバリの『涜神館殺人事件』ですが、最初にお話しした通り、この作品は本格ミステリー。

オカルト展開だけで終わるはずがなく、推理パートもバッチリと出てきます。

一連の出来事は心霊現象なのか、はたまたトリックなのか、そしてこの館では過去に一体何があったのか。

これらの謎を霊能力者たちが霊視で探るのですが、もちろんこれだけで全てがわかってしまうようなご都合主義ではありません。

霊視で得た情報をヒントに、調査と推理とを進めていく感じです。

その中心となるのは、我らがペテン師エイミーと、行動を共にする銀髪美青年(!)の心霊鑑定士ダレン。

なんせ霊視できる面々が次々に惨殺されていくので、核心に近付いていくにつれてヒントが減って、推理が難しくなっていきます。

霊能力ありきの世界ですから、トリックにも霊能力が使われているかもしれず、そこを追究していくところも面白いです。

怖いもの見たさと真相を知りたい気持ちとで、ページをめくる手を止められなくなります。

何でもアリの予測不能な面白さ

手代木さんは、2012年に小学館ライトノベル大賞で優秀賞を受賞した作家さんで、自由で個性的な作風が人気です。

本書もまさにその通りの作品であり、オカルトでありながら特殊設定&本格ミステリーとなっていて、何が出てくるかわからない面白さに溢れています。

そのオカルト要素も古今東西のものが混ざっており、読みながら「あ、この元ネタ知ってる!」「へー、こんな神話もあるんだ」などなど、随所で知的好奇心を刺激してくれますよ。

そういう意味で、オカルト好きな方でもミステリー好きな方でも、ジャンルにこだわらずに面白く読めるのではないかと思います。

ただしひとつ注意点があって、作中にはエログロ展開がたびたび出てきます。

かなりエグい描写や目を背けたくなるシーンもあるので、苦手と感じる人もいらっしゃるかもしれません。

ただ全体を通して見ると、決して胸糞の悪くなる作品ではなく、ラストはむしろ清々しくて、読後感もスッキリ。

主人公のエイミーが明るくて活発なところも、作品に軽やかさを添えていると思います。

個人的には、エイミーの今後も気になりますし(能力は開花するのか、ダレンとはどうなるのか、など)、ぜひ続編に登場してもらいたい作品です。

ワクワクと読めることは間違いなしですので、興味を持たれた方は、ぜひお手に取ってみてくださいね。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

目次