【保存版】KindleUnlimitedで読み放題のおすすめミステリー小説のリスト【随時更新 現在207作品】

Kindle Unlimitedのラインナップを確認するたびに、私は毎回びっくりしている。
普通に買えば一冊700円、800円、1000円近くする本が、月980円で次々読めてしまう。二冊読んだ時点でほぼ元が取れる計算だ。
正直、月980円でこれだけの小説が読み放題なのはちょっとおかしい。冷静に考えてもバグっていると思う。
しかも探してみると、これまで読み放題なのか!と思わず二度見する作品まで普通に混ざっている。本好きとしては使わない手がない。
ただし、ここだけは注意してほしい。
Kindle Unlimitedの対象作品はずっと同じではなく、定期的に入れ替わるのだ。今日まで読み放題だった本が、いつの間にか対象から外れていることが頻繁にある。つまり、今読める本が明日も読める保証はない。
だからこそ、気になる作品を見つけたら早めに読んでおくのがおすすめだ。今この記事で紹介している本も、いつ読み放題が終了するかわからない。
私も、あとで読もうと思って放置し、気づいたら対象外になっていて悔しい思いをしたことが何度もある。
そこでこの記事では、Kindle Unlimitedで現在読み放題になっている作品の中から、私が「これは読んでほしい!」と思ったおすすめ小説をまとめて簡単にご紹介する。
もちろんラインナップの変化に合わせて記事も更新していく予定だ。新しく読み放題へ加わったおすすめ作品は追加し、対象から外れた本は順次整理していく。
せっかく読み放題なのだから、使い倒さないともったいない。
面白い本を探しているなら、まずはここから気になる作品を見つけてほしい。
読み放題のうちに、読めるだけ読んでしまおう!
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島田荘司『斜め屋敷の犯罪』
厳冬の北海道・宗谷岬に建つ、建物全体が約5度傾いた異様な館、流氷館。
猛吹雪で外界から隔絶されたクリスマスの夜、離れの密室で男が刺殺され、雪上には犯人の足跡ひとつ残されていなかった。さらに警察の警戒下で、今度は本館の密室から第二の犠牲者が現れる。
密室、人形、雪上の足跡と不可解な要素が重なるなか、途中から御手洗潔と石岡和己が登場し、事件の様相は一気に加速する。建物全体が傾いた流氷館ならではの空間設計も抜群に魅力的で、奇抜な舞台と不可能犯罪がどう結びつくのか最後まで目が離せない。
大胆なトリックと異様な館の造形を存分に活かし、後世の館ものにも大きな影響を与えた御手洗潔シリーズ第2作。
悠木四季島田荘司作品が読み放題は凄すぎる。ただ、御手洗潔シリーズ一作目の『占星術殺人事件』はKindleUnlimitedの対象ではなかった。
島田荘司『改訂完全版 異邦の騎士』
井の頭公園で目覚めた青年は、自分の名前も年齢も過去もすべて失っていた。
良子と出会い新たな生活を始めるが、偶然見つけた手帳には、妻子を殺害する計画と実行記録が残されている。自分は本当に殺人者なのか。答えを求めた青年は、横浜で占星術師を名乗る若き御手洗潔のもとを訪れる。
記憶喪失と純愛を軸に進みながら、終盤ではそれまで信じていた前提が大きく崩れ、青年の過去が別の姿を見せ始める。シリーズの原点と人間ドラマが強く結びついた傑作。
島田荘司『改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木』
『改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木』
人を喰う大樹の伝説と脳髄を失った死体から、御手洗潔が一族と近代史に埋もれた秘密を暴く怪奇長編。
横浜・暗闇坂には、古くから人を喰うと恐れられてきた巨大な楠が立っている。台風が過ぎ去った翌朝、旧家・藤並家の当主が地上数十メートルの枝に跨がった死体で発見され、しかも頭部からは脳髄が消えていた。
やがて狂気を孕んだ絵画や青銅の巨人、一家をめぐる変死まで絡み、御手洗潔と石岡和己は大樹に刻まれた過去を追い始める。幕末から戦後まで積み重なった伝承と一族の歴史を掘り起こしながら、超自然現象にしか見えない出来事を物理と心理の両面から解きほぐしていくスケールが圧倒的。
怪談めいた恐怖、壮大な仕掛け、近代日本の暗部がひとつにつながり、後のシリーズで重要人物となる松崎レオナも本作で初登場する。館や密室とはまた違う方向から、島田荘司の奇想を存分に浴びられる長編だ。
島田荘司『眩暈』
東大の精神医学教授から御手洗潔のもとへ、一人の青年が遺した異様な手記が持ち込まれる。
そこには赤い太陽の下で崩壊する街、男女の死体を縫い合わせて作ったアゾート、そして動き出した死骸との会話まで記されていた。医学者が妄想と判断する一方、御手洗は細部に現実の痕跡を見つけ、石岡和己に鎌倉周辺の調査を依頼する。
悪夢としか思えない光景を、地形や環境、錯視など現実の物理現象から一つずつ解き明かしていく展開が凄まじい。『占星術殺人事件』のアゾートを再び持ち込みながら、狂気の世界を徹底した合理性で読み解く御手洗潔シリーズの中でも異色の長編。
島田荘司『水晶のピラミッド』
古代エジプト、タイタニック号、そして現代アメリカ・数千年の時間をまたぎながら、物語はルイジアナ沖の孤島に建つ原寸大の巨大ピラミッドへ集約していく。
嵐の夜、高さ30メートルの完全密室で大富豪が溺死する。給排水設備すらない部屋に、どうやって大量の水が満ちたのか。そんな難題が御手洗潔を待ち受ける。
古代文明やタイタニックの伝説を絡めた壮大な物語と、高空密室を成立させる物理的な大仕掛けの組み合わせが圧巻。鬱状態に沈んでいた御手洗がレオナ松崎の依頼を受けて再び事件へ向かう姿も大きな読みどころだ。
島田荘司『御手洗潔の挨拶』
御手洗潔シリーズ最初の短編集で、『数字錠』『疾走する死者』『紫電改研究保存会』『ギリシャの犬』の4編を収録。
『疾走する死者』では、マンションから消えた男がわずか13分後、数キロ離れた線路上で轢死体となって発見されるなど、短編ながら強烈な不可能状況が次々と提示される。
密室やアリバイ、不可能移動から盲導犬の失踪まで題材は幅広く、御手洗が現場の違和感を拾いながら合理的な解答へ導く流れも軽快。皮肉屋で奇人ながら他者への情も見せる御手洗潔の人物像まで楽しめる、シリーズ入門にも向いた4編である。
島田荘司『御手洗潔のダンス』
御手洗潔シリーズ第2短編集で、『山高帽のイカロス』『ある騎士の物語』『舞踏病』『近況報告』の4編を収録。
なかでも『山高帽のイカロス』では、4階のアトリエから消えた画家が、数日後に地上20メートルの高圧電線へ跨がった死体で発見される。空を飛んだとしか思えない死体、古い甲冑、集団パニックなど、怪異めいた現象を物理や心理から解きほぐしていく推理が光る。
御手洗と石岡の日常を描いた掌編も収められた、奇想と二人の関係性をコンパクトに楽しめる第2短編集。
島田荘司『屋上』
都心のU銀行では、屋上へ上がった行員が次々と飛び降り自殺を遂げる。
婚約したばかりの女性、子どもの誕生を控えた男性など、死を選ぶ理由の見当たらない人々ばかりで、現場には無数の盆栽と巨大な電飾看板が並んでいた。
呪いめいた連続自殺を、御手洗潔が屋上の配置や周囲の建物、人間心理から読み解いていく。ありふれた都市空間が思いもよらない犯罪装置へ変わる衝撃作。
島田荘司『透明人間の納屋』
昭和52年、日本海沿岸の町で暮らす少年・ヨウイチは、隣家の納屋で実験を続ける青年・真鍋と親しくなる。
真鍋は透明人間を生み出す研究をしていると語るが、その頃、ホテルの密室から女性が消失し、数日後に海岸で水死体となって発見される。
透明人間の仕業を思わせる事件を少年の視点から追いながら、26年後に届く一通の手紙が過去の真相を明らかにしていく。幻想的な消失事件と、昭和の日本海側に刻まれた冷戦下の歴史を結びつけ、謎解きの先に深い哀切を宿す長編。
島田荘司『網走発遙かなり 改訂完全版』
成城のマンションを見張り続ける老人、街を徘徊するピエロ、江戸川乱歩の幻影を追う老女。
東京で起きる三つの不可解な物語が、最終章「網走発遥かなり」へつながっていく。そこで描かれるのは、厳寒の北海道を走る列車からの乗客消失と、40年前の網走に埋もれた悲劇である。
独立して見えた四つの物語が少しずつ結びつき、都市の孤独や狂気が遠い北国の記憶へたどり着く組み立てが圧巻。謎解きの先に壮絶な人間愛が浮かび上がる、島田荘司の異色連作長編。
島田荘司『龍臥亭事件』
御手洗潔が日本を離れ、横浜に一人残された石岡和己は、悪霊の憑依に苦しむ女性とともに岡山の寒村・貝繁村へ向かう。
そこで投宿した巨大旅館「龍臥亭」が大雪によって孤立し、津山三十人殺しの記憶をなぞるかのような連続猟奇殺人が始まる。
本作では御手洗がほとんど現場に立たず、石岡自身が惨劇と向き合う点が大きな特徴。実在の事件や郷土史、村に根づく因習を絡めた重厚な物語の中で、天才の庇護を離れた石岡の成長まで描き切るシリーズ屈指の大作だ。
島田荘司『名探偵傑作短篇集 御手洗潔篇』
御手洗潔シリーズから、『数字錠』『ギリシャの犬』『山高帽のイカロス』『IgE』『SIVAD SELIM』の5編を選んだ自選ベスト短編集。密室、誘拐、不可能死体、失踪事件など題材は幅広く、御手洗の論理と大胆な推理を一冊で追える。
高圧電線に跨がる死体を扱う『山高帽のイカロス』から、無関係に見える二つの事件を結ぶ『IgE』、御手洗と石岡の絆を描く『SIVAD SELIM』まで、奇想だけでなく人間ドラマも充実。
シリーズの作風と御手洗潔の人物像をまとめて味わえる入門編にも向いた選集だ。
島田荘司『毒を売る女』
高級住宅街の主婦が性病をめぐる告白から疑心暗鬼に陥る表題作をはじめ、結婚詐欺、都市の孤独、社会風刺まで全8編を収録。
御手洗潔が暗号を解く『糸ノコとジグザグ』、吉敷竹史が地上げの闇を追う『土の殺意』も収められている。心理ホラーから犯罪劇、掌編、社会派まで作風の振れ幅が大きく、島田荘司のストーリーテラーとしての幅広さを味わえる。
都市生活の歪みや人間の悪意を切り取りつつ、御手洗潔と吉敷竹史の二大シリーズの魅力まで一冊に詰め込んだ短編集。
悠木四季『糸ノコとジグザグ』は知る人ぞ知る名短編。
倉知淳『星降り山荘の殺人』
広告代理店に勤める杉下和夫は、スターウォッチャー・星園詩郎の付き人として雪深い山荘へ向かう。猛吹雪で一帯が孤立するなか、雪原に不可解な模様を残した殺人事件が発生。
各章の冒頭には、作者から「主人公は犯人になり得ない」などの注釈が置かれ、推理の条件まで先回りして示される。それでも思い込みやお約束を巧みに利用され、気づけば仕掛けの真ん中に放り込まれている感覚が面白い。
悠木四季言わずと知れた、倉知淳の代表作にして傑作だ。このレベルの傑作たちが読み放題なのは本当に凄すぎるしおかしい。
西澤保彦『七回死んだ男』
高校生の大庭久太郎には、同じ一日を9回繰り返す特異体質がある。正月に親族が集まるなか祖父が殺され、久太郎はループを利用して死を防ごうと奔走。
ところが、原因を潰しても祖父は別の形で命を落としてしまう。何度もやり直せる設定を使いながら、最後はきっちり論理で真相へ迫る組み立てが楽しい一作。
悠木四季これも西澤保彦の傑作中の傑作。ここから西澤保彦作品が続いていく。
西澤保彦『人格転移の殺人』
米国旅行中の苫江利夫は、大地震に遭遇し、居合わせた男女とともに防空シェルターへ逃げ込む。そこは人格転移の実験施設で、目覚めると6人の精神と肉体が入れ替わっていた。
さらに施設内で殺人が起こり、犠牲者が増えるほど「誰がどの身体にいるのか」も複雑さを増す。人格転移の規則を整理しながら犯人を絞り込んでいく、西澤保彦らしいSFパズルの真骨頂。
西澤保彦『殺意の集う夜』
大型台風で孤立した別荘で、主人公の万理は襲ってきた男に抵抗したことをきっかけに、居合わせた男女6人を次々と死なせてしまう。さらに逃げ込んだ先では、友人・園子が何者かに刺殺されていた。
自分が関わった6人の死を隠すため、万理は園子を殺した真犯人を探し、その人物にすべての罪を押しつけようと画策。とんでもなく身勝手な推理から始まり、ブラックな騒動と複数の事件が終盤で一気につながる。
西澤保彦『解体諸因』
西澤保彦のデビュー作にして、タックたちおなじみの面々が初めて顔をそろえる連作短編集。登場するのは、箱詰めされた遺体や細かく切断された死体など、バラバラ殺人ばかりだ。
焦点となるのは犯人探しに加え、なぜ死体を切断する必要があったのか。猟奇的な事件を徹底して論理の問題へ変えてしまう、西澤保彦の発想力が詰まった一冊。
西澤保彦『麦酒の家の冒険』
夏休みの旅行帰り、タックたち4人は土砂崩れに巻き込まれ、山中で立ち往生。雨宿りに入った無人の別荘には簡易ベッドが一台だけあり、冷蔵庫には大量のエビスビールが詰まっている。
殺人も事件らしい事件も起こらないまま、4人は「なぜこんな家があるのか」を酒を飲みながら推理していく。何もないように見えた空間から、仮説を積み重ねるだけで思いがけない背景が浮かび上がる安楽椅子探偵もの。
西澤保彦『死者は黄泉が得る』
山深い洋館では、死者を蘇生させる機械によって生き返った女性たちが、過去の記憶を失ったまま共同生活を送っている。一方、別の町では、ひとりの女性をめぐる愛憎と連続殺人が進行。
まるで別々に見える二つの物語が、少しずつ重なり合っていく展開が見どころ。誰と誰が対応しているのかを追いながら真相へ迫る、死者蘇生を使った大胆な照合パズル。
西澤保彦『瞬間移動死体』
妻から虐げられてきた男には、酔ったときだけ瞬間移動できる特殊能力がある。彼はその力を使い、日本からロサンゼルスへ移動して妻を殺す完全犯罪を計画する。
ところが犯行は失敗し、後日ロスの別荘から見知らぬ死体が発見。厄介な制約だらけの瞬間移動を手がかりに、不可解な死体の謎を解きほぐしていくSFパズルの秀作である。
西澤保彦『夢魔の牢獄』
50歳の高校教師・田附悠成は、眠るたびに22年前へ遡り、他人の身体を通して過去を追体験するようになる。彼が追うのは、恩師の義理の息子が殺された未解決事件だ。
憑依する相手は選べず、その人物の行動を変えることもできない。複数の視点から事件当日の断片を拾い集め、食い違う見え方をつなぎ合わせながら真相へ迫っていく。特殊設定のパズルに、人間の執着や歪んだ感情まで絡む重厚な一冊。
悠木四季西澤保彦の名作がこんなに読み放題……。
麻耶雄嵩『新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』
『新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』
首なし死体と密室が連なる奇城で、二人の探偵の推理が何度も覆されていくアンチミステリの傑作。
京都近郊の山中に建つゴシック様式の蒼鴉城。私立探偵・木更津悠也と助手の香月実朝が依頼を受けて訪れると、館主はすでに首を切断された死体となっていて、密室や見立て、死者の蘇生を思わせる伝承まで絡んだ連続殺人へ巻き込まれていく。
木更津が論理を積み上げる一方、途中から現れるメルカトル鮎は冷酷な推理で事件を切り裂いていく。ところが真相へ近づくたび、それまで成立していた解決が新事実によって崩され、事件の形そのものが何度も塗り替えられる。
二人の探偵をぶつけながら、名探偵や論理への信頼まで揺さぶる麻耶雄嵩のデビュー作。
悠木四季麻耶雄嵩作品も読み放題がいっぱい!読んでいない作品があったらぜひ。
麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲 新装改訂版』
20年前に急死した女優・真宮和音の追悼会のため、かつて彼女と共同生活を送っていた男女が孤島・和音島へ集まる。
取材で島を訪れた雑誌記者・如月烏有と、和音に生き写しの高校生・舞奈桐璃を待っていたのは、真夏の降雪と、足跡ひとつない雪上で見つかる首なし死体だった。
孤島、雪密室、見立てを並べながら、物語は烏有の認識そのものを揺さぶり、現実の輪郭まで崩していく。整然とした解決を期待するほど先が読めなくなり、終盤のメルカトル鮎登場後には混迷がさらに深まる。
論理、幻想、哲学が巨大な渦を作る、麻耶雄嵩屈指の問題作。
麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』
傲岸不遜な銘探偵・メルカトル鮎と、振り回され続ける推理作家・美袋三条が、密室や孤島、連続殺人など五つの難事件に挑む。
『答えのない絵本』では、容疑者20人全員にアリバイが成立する理科室殺人を前に、徹底した消去法から驚くべき結論が導かれる。
メルカトルの推理は筋が通っている一方、人間的な感情や倫理など平然と踏み越えていく。その冷酷さゆえに、事件が解決しても美袋は納得できず、ときには真相へ到達する行為そのものへの不信まで生まれてくる。
論理を極限まで突き詰めた先に、不条理とブラックユーモアが顔を出す異色の短編集。
悠木四季収録作の『答えのない絵本』は麻耶作品の中でも特にヤバいやつ。
麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』
傲岸不遜な銘探偵・メルカトル鮎と、美袋三条が再び五つの事件へ挑む。
命を狙われている作家からの依頼や、避暑地の別荘で起きる変死など、事件ごとに趣向を変えながら、メルカトルは相変わらず常識外れの言動で周囲を振り回していく。
一見すると失敗や気まぐれにしか見えない行動が、後になって犯人を絞り込む決定的な材料へ変わる展開が面白い。
事件を解く探偵でありながら、その存在自体が犯罪の成り立ちへ影響しているかのような倒錯まで踏み込み、シリーズ特有のブラックユーモアと論理の悪趣味さがさらに尖っている。
麻耶雄嵩『化石少女』
名門・私立ペルム学園で、廃部寸前の古生物部を率いる神舞まりあは、事件が起きるたびに名探偵気取りで首を突っ込む化石オタクのお嬢様。
古生物の知識を無理やり事件へ結びつけて迷推理を披露し、そのたびに幼馴染の桑島彰が冷静な論理で叩き潰していく。軽快な学園コメディとして進みながら、まりあと彰の役割関係が少しずつ不穏な形へ変わっていくのが面白い。
探偵が推理し、助手が支えるおなじみの図式を反転させつつ、笑える掛け合いの奥へ冷たい悪意を忍ばせるあたりは麻耶雄嵩らしさ全開。
麻耶雄嵩『神様ゲーム』
小学4年生の芳雄は、仲間たちと町で相次ぐ猫殺しの犯人を追っていた。
そんなとき、転校生の鈴木太郎から「自分は神様だ」と告げられ、犯人の名前まで教えられる。未来を言い当てる鈴木への疑念が深まるなか、やがて子どもたちを巻き込む殺人事件まで発生する。
全知全能の神が最初から答えを知っているなら、人間の推理にどこまで意味があるのか。そんな発想をジュブナイルの形へ落とし込み、真相を知ること自体が恐怖へ変わっていく展開が強烈だ。
無邪気な少年たちの物語として始まりながら、終盤には名探偵や論理への信頼まで揺さぶる冷酷な着地が待つ。
法月綸太郎『雪密室 新装版』
真冬の蓼科高原にある山荘で、美貌の女性が離れの中で刺殺される。
周囲には雪が降り積もっているにもかかわらず、犯人が出入りした足跡はどこにもない。現場に居合わせた法月貞雄警視から連絡を受け、息子の推理作家・法月綸太郎が雪密室の謎へ挑む。
雪の状態、地形、時間経過を手がかりに、容疑者の行動可能性を一つずつ削っていく推理は読み応え抜群。さらに冒頭では犯行を思わせる場面が先に示されていて、その記述をどこまで信用していいのかという仕掛けも絡んでくる。
父・貞雄の地道な捜査と、綸太郎の論理的思考が噛み合う、法月親子シリーズの出発点。
悠木四季法月綸太郎シリーズは本当に面白いので、未読なら最優先で読もう。
法月綸太郎『誰彼 新装版』
新興宗教・汎エーテル教団の教祖に脅迫状が届き、法月綸太郎は教団本部へ向かう。
ところが厳重な警戒下にあった地上80メートルの一室から教祖が姿を消し、その4時間後、都内のマンションでは首を切断された死体が発見される。死んだ人物は本当に教祖なのか。そこから事件の前提そのものが揺らぎ始める。
綸太郎は手がかりをもとに推理を組み立てるものの、新たな事実が現れるたびに仮説が崩れ、別の可能性が浮上する。
首なし死体による身元の混乱と多重解決を重ねながら、名探偵の論理さえ間違うかもしれないという不安を徹底して掘り下げたシリーズ第2作。
法月綸太郎『新装版 頼子のために』
17歳の娘・頼子を殺された大学教授・西村悠史は、自ら犯人を突き止めて復讐を果たした経緯を手記に残し、その後、自死を選ぼうとしていた。
だが、その告白文を読んだ法月綸太郎は、行動記録や心理描写の細部に食い違いを見つけ、すでに終わったはずの事件を一から洗い直していく。
父親の慟哭に満ちた手記をひとつの証拠として読み解き、書かれていない空白まで論理で掘り起こしていく展開が凄まじい。頼子への愛情から始まった復讐劇は、検証が進むほど別の顔を見せ、やがて家族愛そのものを疑わざるを得ない真実へ到達する。
人間の情念と探偵が真実を暴く重さを真正面から描いた、法月綸太郎の代表作。
悠木四季法月綸太郎シリーズの長編で一つだけ選ぶならコレ。超傑作である。
法月綸太郎『新装版 密閉教室』
京都の進学校で、男子生徒・寺西雅樹が施錠された教室内で死体となって発見される。
しかも教室からは48人分すべての机と椅子が消え、黒板にはコピーされた遺書が残されていた。推理小説好きの高校生・工藤順也は、級友の死に疑問を抱き、独自に調査を始める。
密室そのものに加え、「なぜ大量の机と椅子を消したのか」「なぜ遺書をコピーしたのか」といった不可解な行動が、事件の方法と理由の双方へ結びついていく。工藤の仮説は新たな矛盾によって何度も崩れ、そのたびに事件の見え方も変化する。
受験期の焦りや高校生同士の距離感まで織り込まれた、法月綸太郎の原点となる青春推理長編。
法月綸太郎『ふたたび赤い悪夢』
深夜、法月綸太郎のもとへ人気アイドル・畠中有里奈から「人を刺してしまったかもしれない」と電話が入る。
彼女はラジオ局で男に胸を刺されたはずなのに、身体にも服にも傷ひとつない。ところが現場には、その男が胸を刺された死体となって横たわっていた。
被害者だったはずの少女が無傷で、襲った男だけが死んでいる。この不可解な状況を、血痕や凶器、証言から組み直していく推理が軸となる。同時に、華やかな芸能界の裏で動く利権や人間関係が掘り起こされ、真実へ近づくほど有里奈を救う行為そのものが難しくなっていく。
謎を解けばすべてが救われるわけではなく、探偵が真相を明かす責任まで法月綸太郎に背負わせる重厚な長編。
法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』
死刑執行直前の囚人が毒殺される『死刑囚パズル』、11歳の少年が疑われる毒殺事件『黒衣の家』、恋人の遺体を食べ続けた男の動機に迫る『カニバリズム小論』など、全7編を収録。
重苦しい犯罪から図書館を舞台にした軽快な日常の謎まで、法月綸太郎の推理をさまざまな角度から味わえる。なかでも『死刑囚パズル』は、間もなく処刑される男をなぜわざわざ殺したのか、という異様な状況から犯人と動機を絞り込んでいく傑作。
後半の図書館シリーズでは司書・沢田穂波との軽妙な掛け合いも楽しめ、暗い心理劇と知的な謎解きが一冊の中で大きく振れる。長編とはひと味違う法月綸太郎の魅力が凝縮された第1短編集。
悠木四季法月綸太郎の短編集はどれも面白い。特にこの『法月綸太郎の冒険』に収められている『死刑囚パズル』は法月短編の最高傑作だと思っている。
法月綸太郎『法月綸太郎の新冒険』
特急「あずさ」で起きる車内毒殺、オカルト番組のロケ中に発生する怪死、生中継映像を利用したアリバイ、交換殺人など、全5編+プロローグを収録。鉄道、テレビ、ハードボイルドと題材を大きく変えながら、法月綸太郎の論理がそれぞれ異なる形で試されていく。
なかでも『背信の交点』は、すれ違う列車の窓と時刻表を組み合わせた緻密な仕掛けが光る一編。『世界の神秘を解く男』ではテレビが作り出す超常現象の虚像を暴き、『身投げ女のブルース』では綸太郎を外して葛城警部を主役に据えるなど、シリーズの枠を積極的に広げている。
論理の切れ味だけでなく、事件のあとに残る苦味まで味わえる第2短編集。
法月綸太郎『法月綸太郎の功績』
死刑囚の毒殺から図書館の日常事件まで幅広かった前2作に対し、本作ではダイイングメッセージ、密室、都市伝説、連続事件、自殺偽装と、古典的な題材へさらに深く踏み込む。
全5編の中でも『都市伝説パズル』は、殺人現場に残された血文字の利点と不利益を突き詰め、容疑者6人から犯人を論理だけで絞り込む代表的傑作短編。
クイーンやクリスティへの敬意も濃く、法月綸太郎の論理性を最も濃密に味わえる第3短編集。
悠木四季『都市伝説パズル』は必読。
法月綸太郎『キングを探せ』
それぞれに殺したい相手を抱える4人の男が集まり、互いの標的を入れ替えて実行する四重交換殺人を計画する。
A、J、Q、Kのトランプで役割まで決められた完全犯罪は、メンバーの事故死や標的の自殺など予想外の出来事によって、少しずつ狂い始める。
犯人側の計画と、交換殺人の存在へ迫る法月父子の捜査が並行して進み、崩れた計画をどう修復するかまで頭脳戦の材料になる。
カードに隠された符号や死亡順序を追ううちに、やがて「キングは誰なのか」という事件全体を読み解く鍵へ変化。交換殺人そのものを最後まで使い切った意欲作。
法月綸太郎『法月綸太郎の消息』
急逝したオカルト研究家の遺稿からホームズ譚の秘密を読み解く『白面のたてがみ』、二人の死者と入れ違った遺書を自宅で推理する『あべこべの遺書』、殺人が起きる前に自首してきた男を扱う『殺さぬ先の自首』など全4編を収録。
最後の『カーテンコール』では、アガサ・クリスティ『カーテン』に埋め込まれた矛盾へ法月綸太郎が挑む。現場へ出向かず限られた情報だけで事件を組み立てる安楽椅子探偵ものから、ホームズやクリスティの作品そのものを読み直すメタ推理まで、題材の広がりが楽しい。
古典への深い知識をそのまま謎解きへ変えながら、細かな矛盾や言葉のずれから意外な解釈を導き出す、シリーズ30周年にふさわしい作品集。
法月綸太郎『名探偵傑作短篇集 法月綸太郎篇』
法月綸太郎シリーズから、『過ぎにし薔薇は……』『背信の交点』『世界の神秘を解く男』『リターン・ザ・ギフト』『都市伝説パズル』『縊心伝心』の6編を選んだ自選ベスト短編集。
図書館の日常的な事件から、鉄道アリバイ、交換殺人、都市伝説を利用した殺人まで、シリーズの代表的な趣向を一冊で味わえる。なかでも日本推理作家協会賞を受賞した『都市伝説パズル』は、現場に残された血文字の意味を犯人側の利害から検討し、容疑者を論理だけで絞り込んでいく名編。
『背信の交点』の時刻表トリックや、『世界の神秘を解く男』のメディア批評など方向性も幅広く、法月綸太郎の短編に初めて触れる際にも選びやすいラインナップになっている。
横溝正史『本陣殺人事件』
昭和12年、岡山の旧家・一柳家で婚礼を終えた新郎新婦が、離れ座敷で惨殺される。
戸も雨戸も内側から施錠され、雪の積もった庭には足跡ひとつなし。金屏風には三本指の血痕、庭には凶器の日本刀が残され、久保銀造に呼ばれた金田一耕助が完全な雪の密室へ挑む。
日本家屋、竹藪、琴糸、水車、雪景色といった和の道具立てを使い、密室殺人を成立させる仕掛けが圧巻。名探偵・金田一耕助の初登場作でもあり、旧家の血筋への執着や体面が惨劇へ結びつく人間ドラマまで濃い。
第1回探偵作家クラブ賞を受賞した、横溝正史を代表する長編である。
悠木四季横溝正史が読み放題はほんとうに凄すぎると思うのよ。
横溝正史『八つ墓村』
天涯孤独の青年・寺田辰弥は、自分が岡山の寒村・八つ墓村にある旧家の跡取りだと知らされる。
ところが帰郷を前に祖父が毒殺され、村へ入った後も田治見家の当主をはじめ関係者が次々と死亡。戦国時代の落武者惨殺と、26年前に辰弥の父・要蔵が起こした32人殺しの記憶が重なり、村全体が祟りへの恐怖に包まれていく。
村人から追われた辰弥が逃げ込む巨大な鍾乳洞、埋蔵金をめぐる冒険、連続殺人の緊張感まで盛り込まれ、金田一耕助シリーズでも特に物語のスケールが大きい。
因習と怨念に支配された寒村の怖さを存分に味わわせながら、その奥に隠れた人間の思惑を金田一が解きほぐしていく代表長編だ。
悠木四季金田一ミステリでありながら、冒険小説としての勢いも抜群の一作である。
横溝正史『獄門島』
南方戦線から復員した金田一耕助は、戦友・鬼頭千萬太が死の間際に残した「三人の妹が殺される」という言葉を胸に、瀬戸内海の孤島・獄門島へ渡る。
やがて三姉妹の末妹・花子が梅の木へ逆さ吊りにされて発見され、島に残る古い掟や鬼頭家の確執を巻き込みながら、俳句になぞらえた連続殺人が始まる。
横溝作品らしい、孤島、旧家、見立て殺人などの要素が揃いながら、俳句が犯行時刻やアリバイ、犯人の行動まで深く結びつく作りが圧巻。
敗戦直後の空気や家名存続への執念も事件へ重くのしかかり、論理と因習の恐怖を同時に味わえる金田一耕助シリーズ屈指の長編である。
悠木四季金田一耕助シリーズを代表する一本として、まず名前が挙がる作品だ。私も『獄門島』が最高傑作だと思っている。
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く』
宝石店で大量毒殺事件が発生し、容疑をかけられた元子爵・椿英輔は失踪後、信州で自殺する。
ところが死後、東京の椿邸では英輔に似た男が目撃され、降霊会の最中には遺作『悪魔が来りて笛を吹く』のフルート曲が響き渡る。やがて悪魔の紋章を伴う殺人が起こり、娘・美禰子に依頼された金田一耕助が没落華族の秘密へ踏み込んでいく。
不気味な笛の音、降霊術、火焔太鼓を模した紋章といった怪奇趣味が全編を覆い、その奥から旧華族の腐敗した人間関係や血縁の秘密が浮かび上がる。
天銀堂事件から東京、さらに神戸・須磨へと舞台を広げながら、犯人を凶行へ駆り立てた過酷な宿命まで掘り下げる、シリーズでもひときわ暗く重い長編。
悠木四季金田一ものの中でも、犯人の背負った宿命が特に重く胸へ刺さる作品だ。
横溝正史『犬神家の一族』
莫大な財産を築いた犬神佐兵衛が死に、一族へ遺されたのは三人の娘とその息子たちを争わせるような遺言状だった。
さらに戦地で顔に重傷を負った佐清が白いゴムマスク姿で帰還し、その正体にも疑惑が向けられる。やがて家宝「斧・琴・菊」に沿う形で、菊人形の首とすげ替えられた生首を皮切りに凄惨な殺人が続いていく。
ゴムマスク、菊人形、湖面から突き出した二本の足など、視覚へ直接突き刺さる場面の強さは圧倒的。
一方で事件を動かしているのは、遺産をめぐる欲望だけでなく、犬神佐兵衛が生前に残した因縁と、我が子を守ろうとする母の激しい情念である。
悠木四季菊人形の生首から湖面の二本足まで、とにかく映像としても絵面が強い。
横溝正史『夜歩く』
探偵作家・屋代寅太は、大学時代の友人・仙石直記から、旧大名家・古神家に届いた不気味な脅迫状について相談を受ける。
やがて小金井の別邸で、厳重に封印したはずの日本刀が血塗られて金庫へ戻り、蜂屋小市か古神守衛か判別できない首なし死体まで出現。しかも関係者には夢遊病の持病があり、眠っている間の自分自身さえ信用できなくなっていく。
首を失った死体の身元、金庫から消えた日本刀、夢遊状態での犯行疑惑が重なり、誰が被害者で誰が犯人なのかまで揺らしてくる。
後半は舞台を岡山の鬼首村へ移し、古神家と仙石家の古い確執や土着の伝承も絡みながら、屋代の一人称を利用した大胆な仕掛けが牙をむく。
横溝正史『悪魔の手毬唄』
静養のため鬼首村を訪れた金田一耕助は、23年前に起きた未解決殺人の再調査へ乗り出す。
折しも村では人気歌手・大空ゆかりの帰郷を前に熱気が高まっていたが、やがて若い娘が滝壺で異様な姿の死体となって発見される。その状況は、村に伝わる古い手毬唄の歌詞と不気味なほど重なっていた。
手毬唄に沿って進む見立て殺人と、23年前の事件、村に絡み合う血縁の秘密が少しずつ一本につながっていく展開が圧巻。
犯人が歌詞通りに殺人を重ねる理由にも切実な必然があり、青池リカと磯川警部の感情まで含めて、終盤は深い悲劇へ突き進んでいく。
悠木四季横溝正史作品は他にも読み放題のものがあるのでぜひチェックしてみてほしい。おすすめを上げたらキリがないので、今回は特におすすめの7作品を選んだ。
中井英夫『新装版 虚無への供物』
洞爺丸沈没事故で両親を失った氷沼家に、密室状態の風呂場での急死やガスによる変死が相次ぐ。
事件を取り巻く亜利夫、奈々村久生、藍司ら探偵小説好きの面々は、五色不動やサロメ、薔薇、毒物学まで持ち出し、競うように推理を展開していく。
事件を解く行為そのものを娯楽として楽しむ彼らの姿を通して、探偵役や謎解きのあり方まで鋭く突き崩していくのが本作の凄み。
過剰な衒学、美しく退廃的な文章、何重にも重なる推理が巨大な迷宮を作り、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』と並ぶ日本三大奇書の一角。
悠木四季ミステリ好き必読書の一つである。
竹本健治『新装版 匣の中の失楽』
推理小説好きの大学生グループの一人・曳間が、自室の完全な密室で殺される。
しかも、その状況は仲間が書いていた作中作の内容と寸分違わず一致。現実の殺人と小説内の事件が互いに入り込み、どこまでが事実でどこからが虚構なのか、境界が次第に見えなくなっていく。
奇数章と偶数章が現実と作中作の立場を入れ替えながら進み、五つの密室や暗号、確率論まで絡んで迷宮はさらに深まる。
夢野久作『ドグラ・マグラ』、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』に続く「第四の奇書」とも呼ばれる、竹本健治の伝説的デビュー長編。
竹本健治『涙香迷宮』
囲碁界の有力者が集う老舗旅館で不可解な変死事件が発生し、IQ208の天才棋士・牧場智久が調査に乗り出す。
やがて明治の新聞人・黒岩涙香が愛した山荘へたどり着き、そこには仮名四十八文字を一度ずつ使って作られた、四十八首もの「いろは歌」が遺されていた。
驚くのは、その四十八首すべてが巨大な暗号の一部として機能していること。日本語そのものを素材にした超絶技巧が事件の動機や真相へ直結し、暗号を解く行為がそのまま物語を前へ進めていく。
第17回本格ミステリ大賞を受賞した、竹本健治を代表する暗号推理長編。
悠木四季四十八首全部を暗号にしようと考えた時点でもうどうかしている。
折原一『倒錯のロンド』
作家志望の山本安雄は、新人賞へ応募するはずだった渾身の原稿『幻の女』を電車内で紛失してしまう。
ところが後日、その原稿を拾った永島一郎が自作として応募し、そのまま受賞。名声を奪われた男と、盗作の事実を隠し通したい男の間で、脅迫と監視、殺意を孕んだ駆け引きが始まる。
手記、作中作、三人称の記述が入り混じり、誰の視点を追っているのか、どこまでが真実なのかが次々と揺らいでいく。盗作をめぐる攻防そのものが騙しの仕掛けへ変わり、終盤まで立場と真相が何度も裏返る。
タイトル通り、欺瞞が輪舞のように巡り続ける折原一の代表作。
悠木四季これもまた折原一の傑作。ここから折原一作品が続く。
折原一『倒錯の死角 201号室の女』
アルコール依存の翻訳家・大沢は、実家の屋根裏から向かいのアパート201号室を覗き見ている。
そこへ若いOL・真弓が越してきたことで、大沢の妄想は膨張。一方の真弓も、どこからか向けられる視線に怯え始める。
物語の鍵は、位置関係や視線、時間への思い込み。手記や日記が重なるほど、見えていたはずの景色そのものが怪しくなり、終盤には認識を大きくひっくり返す仕掛けが待つ。
折原一『鬼面村の殺人 新装版』
休暇で白川郷を訪れた黒星警部は、フリーライターの葉山虹子と知り合い、山奥の鬼面村へ足を踏み入れる。やがて巨大な合掌造りが一夜で消え、さらに不可解な密室殺人まで発生。
因習めいた村の不穏な空気に、何でも密室へ結びつけたがる黒星警部の迷推理が重なり、物語はどこかコミカルに転がっていく。建物消失や密室の謎をしっかり仕込みつつ、終盤にはもちろん折原一らしいひねりアリ。
折原一『グランドマンション』
賃貸住宅「グランドマンション1番館」の前に、新たな分譲マンションの建設が決定。
日照権や騒音をめぐる争いを皮切りに、幼児虐待、ストーカー、年金不正受給、振り込め詐欺など、各部屋に隠された住人たちの事情が次々と顔をのぞかせる。
一見すると独立したトラブルが並ぶオムニバス風だが、散らばっていた出来事はやがて意外な形で接続。いつものマンション風景がまるごと違って見えてくる、折原一らしい衝撃が待ち受ける。
折原一『天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記』
大御所作家・小宮山泰三が所有する木造アパート「幸福荘」には、作家志望の風変わりな住人たちが集まっている。
そこへ人気少女小説家・南野はるかが入居したことで、男たちは天井裏を使った覗き見合戦を始め、やがて不可解な密室殺人へ発展。
手記やフロッピーディスクの記録、作中作が入り混じり、どこまでが現実なのか次第に判然としなくなる。乱歩への遊び心と折原一らしい叙述の罠が重なった、虚実入り乱れる迷宮劇。
折原一『天井裏の奇術師 幸福荘殺人日記』
前作の事件を経て取り壊された幸福荘は、3階建てマンション第二幸福荘として再出発する。
ところが再び怪しい作家志望者たちが集まり、南野はるかと一枚のフロッピーディスクをめぐって新たな騒動が始まる。
手記やデータの信頼性が揺さぶられ、真相らしきものが何度も姿を変えていく。前作以上にミスディレクションを押し出し、最後まで足元をすくい続ける続編。
折原一『ポストカプセル』
1985年のつくば科学万博で投函された手紙が、15年後の2001年に一斉配達される。未来の自分や家族への言葉に混じって届くのは、脅迫状や過去の犯罪を告白する手紙まで。
各章では異なる手紙と受取人の人生が描かれ、忘れられていた過去が現在を少しずつ狂わせていく。ばらばらに見えたエピソードの背後から未解決事件が浮かび上がり、すべての手紙がひとつの真相へ収束する。
井上真偽『アリアドネの声』
事故で兄を救えなかった過去を抱えるハルオは、災害救助用ドローンを扱う企業に勤務している。
しかし巨大地震によって地下施設が崩壊し、その最深部に「見えない、聞こえない、話せない」女性が取り残される。浸水まで残り6時間、頼れるのは一機のドローンだけ。
電波やバッテリーにも限界があるうえ、要救助者は不可解な行動を見せ始める。極限の救出劇と「なぜ彼女はそう動くのか」を追う論理パズルがぴたりと噛み合う、緊迫感たっぷりの傑作長編。
悠木四季この『アリアドネの声』はおすすめ中のおすすめの傑作だ。この機会にぜひ。
井上真偽『その可能性はすでに考えた』
山奥の宗教施設で30人以上が死亡した集団自決事件。唯一の生存者・渡良瀬莉世は、首を刎ねられた少年に救われた記憶を抱え、15年後、探偵・上苙丞のもとを訪れる。
上苙が目指すのは、人間によるトリックを突き止めることではなく、考えられる可能性をすべて論理で潰し、奇蹟の実在を証明すること。
次々と提示される仮説を「その可能性はすでに考えた」と退けていく、消去法を逆転させた論理戦が展開する。
井上真偽『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』
地方の旧家で行われた婚礼の儀式で、大盃を回し飲みした直後、新郎、新郎の父、新婦の父、さらに犬までがヒ素中毒で死亡する。
ところが同じ盃に口をつけた新婦や親族の一部は無事で、死者だけが飛び石のように現れる不可解な毒殺事件となる。
上苙丞は、時間差、共犯、物理的仕掛けなど、考え得る仮説をひとつずつ検証。一本道の盃の巡回から、なぜ特定の者だけが毒を受けたのかを論理で削り込んでいく、多重解決型の推理戦に注目すべし。
井上真偽『恋と禁忌の述語論理』
大学生の森帖詠彦は、自身が遭遇した事件や、すでに解決済みとされた事件の記録を、天才数理論理学者の叔母・硯へ持ち込む。
硯が検証するのは現場そのものより、探偵が組み立てた「推理」の論理だ。命題論理や一階述語論理を使い、隠された前提や論理の飛躍をひとつずつ洗い出す。
正しいと思われていた解決から別の答えが浮かび上がる、異色のメタ推理劇の開幕。
柳広司『ジョーカー・ゲーム』
昭和初期、結城中佐によって設立された秘密組織・D機関。そこで鍛え上げられた精鋭たちは、「死ぬな、殺すな」を信条に、ロンドンや上海など各地で危険な諜報活動へ身を投じていく。
派手な戦闘よりも、観察力や心理戦、情報の読み合いで相手を出し抜く展開が中心。スパイの常識を軍人の価値観と対比させながら、冷徹な頭脳戦を5編に凝縮した連作短編集。
悠木四季このジョーカー・ゲームシリーズが全部読み放題!
柳広司『ダブル・ジョーカー』
結城中佐率いるD機関に対抗するため、陸軍は風佐大佐のもとに新たな諜報組織・風機関を設立する。
「死ぬな、殺すな」を掲げるD機関に対し、風機関の信条は「躊躇なく殺せ、潔く死ね」。表題作では、正反対の思想を持つ二つの組織が熾烈な情報戦を繰り広げる。
ドイツ人スパイとの駆け引きを描く『柩』など、舞台も人物もさらに多彩。諜報員に必要な強さとは何か、D機関の異質さが前作以上にはっきり浮かび上がるシリーズ第2弾。
柳広司『パラダイス・ロスト』
太平洋戦争開戦を目前に、D機関の工作員たちはナチス占領下のフランス、シンガポール、豪華客船など各地で任務に挑む。
記憶喪失から自分の正体を探る『誤算』、英国人記者が結城中佐の過去へ迫る『追跡』、客船上の毒殺事件を描く『暗号名ケルベロス』など4編を収録。
舞台が世界へ広がる一方、鍵を握るのは観察、偽装、情報の読み合い。結城中佐の謎めいた過去にも触れながら、D機関の冷徹な哲学をさらに深く掘り下げるシリーズ第3弾。
柳広司『ラスト・ワルツ』
第二次世界大戦の足音が迫るなか、D機関の工作員たちは満州、東京、ベルリン、ロンドンでそれぞれの任務に挑む。
走行中の特急列車での頭脳戦、仮面舞踏会に潜む因縁、ゲシュタポとの駆け引き、密室殺人を描く4編を収録。
華やかな都市や列車を舞台にしながら、その背後には戦争へ傾いていく時代の不穏さが漂う。結城中佐の過去にも触れつつ、知性ひとつで危機を切り抜けるD機関の矜持を刻んだ作品集。
貴志祐介『新世界より』
1000年後の日本、人々は「呪力」と呼ばれる念動力を操り、自然豊かな集落で暮らしている。
少女・渡辺早季は野外実習の最中、失われた歴史を記録するミノシロモドキと遭遇し、平和な社会の裏に隠された恐ろしい真実を知ってしまう。
悪鬼や業魔の伝承、人間に従うバケネズミ、そして呪力を持つ人類を縛る仕組み。少年少女の冒険から始まり、やがて文明と人間社会そのものを揺さぶる壮大な物語へ広がっていく貴志祐介の超大作。
悠木四季貴志祐介の傑作たちもこんなに読み放題。
貴志祐介『青の炎』
17歳の高校生・櫛森秀一は、母と妹を守るため、家庭に入り込んだ粗暴な元義父の殺害を決意する。
警察や法律では救えない現実を前に、秀一は理系の知識を駆使して病死に見せかけた完全犯罪を組み立てていく。
犯行のすべてを最初から明かしながら、計画の綻びと捜査の追及によって秀一が追い詰められる過程を描く倒叙形式。家族を守ろうとした少年の決断が、取り返しのつかない場所へ転がっていく痛切さが胸に刺さる。
貴志祐介『硝子のハンマー』
上場を目前に控えた介護サービス会社で、社長が頭を殴られた遺体となって発見される。
現場は監視カメラや暗証番号式エレベーター、強化ガラスに守られた最上階のオフィスで、外部からの侵入が困難な鉄壁の密室だった。
容疑者の無実を信じる弁護士・純子は、鍵や防犯設備に精通する榎本径へ謎解きを依頼する。前半では密室の突破方法を徹底して検証し、後半では犯人側の視点から完全犯罪の裏側へ迫っていく。
貴志祐介『狐火の家』
表題作『狐火の家』では、完全に戸締まりされた旧家で少女が死亡し、唯一開いていた窓の下にも足跡が残っていない。榎本と純子は、外から侵入できないはずの現場に潜む仕掛けを追う。
ほかにも毒蜘蛛、将棋、防犯犬など、毎回まったく異なる条件を使った不可能犯罪を収録。鍵や扉だけに頼らず、動物の習性や心理まで障壁に変えてしまう発想の幅が面白い。
貴志祐介『鍵のかかった部屋』
榎本径と純子が、趣向の異なる4つの密室事件に挑むシリーズ第3作。
内側から施錠された事務所、練炭自殺に見せかけた殺人、傾いた欠陥住宅、観客の目が集まる舞台上など、一筋縄ではいかない現場が揃っている。
鍵や扉だけでなく、建物の傾きや人間の視線、日常的な家具までトリックへ組み込む。身近な空間に潜む小さな盲点から、不可能犯罪のからくりを鮮やかに崩していく短編集。
貴志祐介『ダークゾーン』
将棋のプロ棋士を目指す塚田裕史は、三段リーグを突破できず苦しむ青年。
ある日、意識を取り戻すと、謎の漆黒空間「ダークゾーン」で異形の軍勢を率いる〈赤の王将〉となっていた。
対する青軍の王将は、因縁のライバル・奥本博樹。将棋のルールがそのまま生死を懸けた戦闘へ置き換えられ、味方を犠牲にする選択や、倒した敵を自軍へ取り込む駆け引きが展開する。
現実での挫折と盤上の戦争が重なっていく、異色の頭脳戦。
貴志祐介『ミステリークロック』
榎本径と純子が、二つの複雑な不可能犯罪に挑むシリーズ第4弾。
『ゆるやかな自殺』では銃撃事件に仕掛けられた物理トリック、『ミステリークロック』では大量の機械式時計に囲まれた山荘の密室殺人を扱う。
とりわけ表題作では、容疑者全員にアリバイがあるなか、時計のゼンマイやチャイムまで手がかりとして機能。空間だけでなく時間そのものを解きほぐしていく、シリーズ屈指の緻密な時計パズルだ。
貴志祐介『コロッサスの鉤爪』
榎本径と純子が、鏡だらけの美術館と海上で起きた二つの不可能犯罪に挑む。
『鏡の国の殺人』では鏡の反射や監視カメラの死角、『コロッサスの鉤爪』では全方位ソナーに監視された海での不可解な溺死事件が展開。
光学トリックから海洋技術まで、密室の概念を室内の外へ大きく広げた発想が特徴。大海原そのものを音の密室に変えてしまう表題作のスケールも強烈だ。
深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』
大晦日の生放送番組「推理闘技場」で、吹雪の洋館を舞台にした密室殺人が出題される。
挑むのは、作家や書評家、論理学者など、謎解きに自信を持つ個性派の解答者たち。
ルールは早押しで、推理を外せば即失格。ひとつの事件から15通りもの解答が飛び出し、映像から新たな情報が示されるたび、それまでの真相候補が次々と塗り替わっていく。
ひとつの謎を限界までしゃぶり尽くす、多重解決バトルの傑作。
深水黎一郎『倒叙の四季 破られた完全犯罪』
春夏秋冬、それぞれの季節に4人の犯人が完全犯罪を実行する。
彼らが頼るのは、ネット上で入手した謎の電子マニュアル『完全犯罪完全指南』。首吊り、溺死、刺殺、氷の密室を利用した毒殺と、犯行の手口も四者四様だ。
犯人たちは証拠を消し、警察への受け答えまで周到に準備するが、海埜刑事は日常の小さな矛盾から計画の穴を突いていく。4つの完全犯罪を追ううち、指南書そのものに隠された秘密も少しずつ浮上する連作倒叙劇。
殊能将之『ハサミ男』
美少女の喉にハサミを突き立てる連続殺人犯「ハサミ男」は、次の標的を選び、入念な準備を進めていた。
ところが犯行直前、その少女が自分とまったく同じ手口で殺された姿を発見。模倣犯の正体を突き止めるため、殺人犯自身が捜査へ乗り出す。
警察による捜査とハサミ男の追跡が並行するなか、性別や年齢、人物像への思い込みを利用した叙述の仕掛けが牙をむく。
提示されていた情報の意味が終盤で一変する、殊能将之の代表作。
悠木四季伝説の『ハサミ男』も読み放題!このほかの殊能将之作品も全部面白いので今のうちに全部読もう!
殊能将之『鏡の中は日曜日』
鎌倉の異形の館「梵貝荘」で、14年前に起きた刺殺事件。
名探偵・水城優臣によって解決済みとされた事件に、探偵・石動戯作のもとへ再調査の依頼が持ち込まれる。
認知症患者の一人称、過去の事件を描いた作中作、現在の調査が複雑に交錯。記憶や時間、語りへの思い込みを利用しながら、かつての解決そのものが少しずつ揺らいでいく。
悠木四季二人の探偵が導く答えの違いまで含め、幾重にも仕掛けを施した館ものの名作だ。
殊能将之『黒い仏』
探偵・石動戯作は、助手のアントニオとともに、福岡の寺に隠された幻の秘宝を探すことになる。
その一方、市内では指紋をすべて拭き取られた身元不明の死体が見つかり、警察による捜査が進行。秘宝探しと殺人事件が並行する前半から、中盤以降は予想もしない領域へ踏み込んでいく。
論理的な謎解きとクトゥルフ神話的な怪奇が真正面から衝突する、シリーズ屈指の実験的怪作。
殊能将之『美濃牛』
牛鬼「高賀童子」の伝承と、病を癒やす「奇跡の泉」が残る岐阜県の山村が舞台。
取材に訪れた一行の前で首を切断された遺体が発見され、古いわらべ歌になぞらえた連続殺人が幕を開ける。
事件に挑むのは、シリーズ探偵・石動戯作。因習や怪異めいた伝承をまとわせながら、猟奇的な事件を冷徹なロジックで解きほぐしていく重厚な推理劇へ。
殊能将之『キマイラの新しい城』
ヨーロッパの古城を移築した中世テーマパーク「シーメル城」で、社長が750年前の騎士エドガー卿に取り憑かれたと主張し始める。
石動戯作へ持ち込まれた依頼内容は、騎士が密室で暗殺された真相の解明。さらに現代の城内でも、新たな殺人事件が発生する。750年前の事件には物証も目撃者もなく、手がかりは憑依された社長の言葉だけ。
幽霊めいた設定を大胆に使いながら、過去と現在の二つの謎を論理で結びつけていく異色の館もの。
我孫子武丸『殺戮にいたる病』
東京を震撼させた連続猟奇殺人犯・蒲生稔が逮捕される場面から物語は幕を開ける。
自らの凶行を愛と信じる稔、息子への疑念を深める母・雅子、事件を追う元刑事・樋口という三つの視点から、殺人の全貌へ迫っていく。
犯人が最初から明かされているのに、読み進めるほど事件の見え方が揺らいでいく点が最大の見どころ。過激な犯罪描写と心理サスペンスの陰で、人物への思い込みを巧みに利用した罠が張られ、終盤にはそれまで信じていた前提を根底から覆す衝撃が待つ。
悠木四季はい。傑作中の傑作『殺戮にいたる病』も読めます。我孫子武丸作品は他にも面白いのが多いのでこの機会にぜひ。
我孫子武丸『8の殺人』
デジタル数字の「8」をかたどった洋館で、蜂須賀建設の副社長がボウガンで射殺される。
しかも狙撃に使われた部屋は施錠された密室で、事件が解けないまま第二の密室殺人まで発生。館の独特な間取りそのものを利用した大掛かりな物理トリックと、速水三兄妹の軽快な掛け合いが面白い。
密室講義など古典へのオマージュも盛り込みつつ、見取り図を眺めながらトリックを考えたくなる王道の館ミステリである。
我孫子武丸『0の殺人』
大富豪・藤田カツの喜寿祝いで、姪が毒殺される事件が発生する。
半年後、捜査に行き詰まった速水恭三は調書を自宅へ持ち帰り、弟の慎二と妹の一央を交えて事件を最初から検討し直す。
最初から容疑者が4人に限定されているのに、その面々が次々と死亡してしまう大胆な展開が特徴。現場へ行かず、茶の間で情報だけを整理する安楽椅子探偵形式も軽快で、容疑者が減るほど真相が遠ざかる逆説的な犯人当てが効いている。
我孫子武丸『修羅の家』
暴行現場を神谷優子に目撃された晴男は、通報を見逃す条件として彼女の家へ連れていかれる。
そこで目にしたのは、十数人が「家族」として支配され、犯罪や相互監視を強いられる異様な共同生活だった。
一方、区役所勤めの北島は、初恋の相手・愛香の家庭が優子に乗っ取られていると知り、救出のため内部へ踏み込む。
暴力や食事制限、連帯責任によって人間関係が壊れていく恐怖を徹底して描き、監禁生活と潜入救出を並行させる息苦しいサスペンス。
我孫子武丸『狼と兎のゲーム』
小学5年生の心澄望は、警察官の父・茂雄から日常的に激しい暴力を受けている。
ある夏の日、友人の智樹が心澄望の家を訪れると、庭には弟の遺体が。現場を見られた茂雄は二人を追い始め、少年たちは炎天下の街へ逃げ出す。
大人、それも警察官を相手に、小学生二人だけで逃げ続けなければならない圧倒的な不利なところが特に面白い。
頼れる場所の少なさや少年ゆえの判断ミスまで容赦なく危機へつながり、逃走劇の緊張を最後まで押し上げる。極限状態で試される二人の友情も物語の大きな軸だ。
我孫子武丸『メビウスの殺人』
東京都内で、金槌による殴殺と絞殺が交互に繰り返される連続殺人が発生。
被害者のポケットには毎回、意味不明な数字が書かれたメモが残されている。単独犯か複数犯かも判然としないまま、速水恭三と新たな相棒・鬼島麗子が捜査へ乗り出す。
注目したいのは、ばらばらに見える被害者同士の接点と、数字に隠された規則を同時に追っていく点だ。コミカルな掛け合いを挟みながら、無関係だった人物たちが一本の線で結ばれていく展開も強烈。
連続殺人の背後に仕込まれた冷徹な計算が見えてくる瞬間に大きな快感がある。
我孫子武丸『人形はライブハウスで推理する』
幼稚園教諭の妹尾睦月、腹話術師・朝永嘉夫、毒舌人形の鞠小路鞠夫が、身近で起きるさまざまな事件に挑む連作短編集。
ライブハウスでの騒動から園児の不可解な言葉、死体をめぐる謎、アリバイ崩しまで、全6編それぞれ異なる趣向が用意されている。日常の小さな違和感から本格的な謎まで、短編ごとに推理のタイプががらりと変わる。
睦月たちの軽快な掛け合いと、鞠夫が最後に核心を突く安楽椅子探偵的な快感もシリーズならではの味わいだ。
我孫子武丸『人形は眠れない』
幼稚園教諭の妹尾睦月と腹話術師・朝永嘉夫、毒舌人形の鞠小路鞠夫が活躍するシリーズ第3作。
街で連続放火が続く一方、睦月の周囲では不審な男からの接近や嫌がらせ電話が相次ぎ、平穏な日常が少しずつ脅かされる。連続放火の謎と睦月を狙う人物の正体を追いながら、朝永と鞠夫の過去にも深く踏み込んでいく。
軽快な掛け合いの裏で、腹話術人形に宿る人格の正体や孤独、執着まで浮かび上がるのが良き。
道尾秀介『カラスの親指』
闇金によって人生を狂わされた中年詐欺師のタケとテツは、ひょんな成り行きから3人の若者と子猫を迎え、奇妙な共同生活を始める。
やがて5人には同じ闇金組織への因縁があると分かり、人生を奪った相手へ大勝負を仕掛けることに。詐欺師ならではの心理誘導や騙しのテクニックに、疑似家族の温かな関係が重なる。
終盤では張り巡らされた伏線が次々とつながり、それまで見ていたペテンの全貌まで大きく反転する。
悠木四季道尾秀介の大傑作の中の大傑作である。
道尾秀介『スケルトン・キー』
恐怖や他者への共感が欠けた青年・坂木錠也は、児童養護施設で育ち、現在は週刊誌の潜入調査を仕事にしている。
母の遺品として残されたのは、一本の銅製マスターキー。ある日、施設時代の友人から母の死にまつわる事実を知らされ、錠也の日常は殺人と逃亡へ転がり込む。
自らをサイコパスと認識する主人公の一人称で進み、常識から外れた判断や行動が独特の緊張を生む。さらに終盤では、それまで信じていた前提まで崩され、物語の景色が大きくひっくり返る。
阿津川辰海『紅蓮館の殺人』
高校生の田所信哉は、名探偵・葛城輝義とともに山奥の文豪を訪ねる途中、大規模な山火事に遭遇し、紅蓮館へ逃げ込むことに。
炎が迫り、全焼まで時間がないなか、館内で不可解な吊るし殺人が発生する。火災によって退路が次々と失われる極限状態で、足跡や証言を頼りに犯人を追うタイムリミット型の推理劇。
真実を暴くことの重さに苦しむ探偵と、それを支える助手の関係も大きな見どころ。
悠木四季阿津川辰海の館ミステリシリーズも今のうちに読んでくれ。
阿津川辰海『蒼海館の殺人』
前作の事件で心に深い傷を負った名探偵・葛城輝義を案じ、田所信哉は葛城の生家「蒼海館」を訪れる。
そこへ猛烈な台風が直撃し、館は土砂崩れと河川氾濫によって孤立。水位が上がり続けるなか、連続殺人まで始まってしまう。
浸水によって通れる場所やアリバイの条件まで刻々と変化するため、館そのものが巨大なパズルへ姿を変えていく。事件の真相とともに、挫折した葛城が「なぜ謎を解くのか」を取り戻していく再生の物語も大きな軸となる。
阿津川辰海『黄土館の殺人』
大学生となった葛城、田所、三谷は、元名探偵・飛鳥井光流に招かれ「荒土館」へ向かう。
ところが大地震と土砂崩れによって一行は二手に分断され、葛城と離れた田所たちの前で連続殺人が幕を開ける。
頼れる名探偵がそばにいない状況で、助手役だった田所が自ら推理を組み立てていく展開も新鮮でいい。離れた二つの場所で進む事件が次第に絡み合い、土の災厄を生かした大規模な謎解きへ雪崩れ込む。
周木律『眼球堂の殺人』
山奥に建つ、人間の眼球を模した異形の館・眼球堂。
放浪の数学者・十和田只人とルポライター・陸奥藍子は、各界の天才たちとともに招かれるが、豪雪によって外界から隔絶された直後、密室殺人が連続して発生する。
球体建築そのものが事件の仕掛けへ深く絡み、数学や幾何学を使った思考が真相への鍵となる。
閉ざされた館、連続不可能犯罪、そして常人離れした十和田の推理が噛み合う、第47回メフィスト賞受賞作。
悠木四季はい、最高です。周木律の堂シリーズが今なら全部読み放題。まずは『眼球堂の殺人』からぜひ読んでほしい。館もの好きにはたまらないシリーズだ。
周木律『双孔堂の殺人』
Y湖の湖畔に建つ双孔堂は、位相幾何学のダブル・トーラスを思わせる特殊な形状の館。
そこで二つの密室殺人が同時に発生し、現場の状況を見た十和田只人は、なぜか自ら犯人だと認めて拘束されてしまう。
探偵本人が容疑者になる異例の展開に加え、館の形そのものが空間認識の盲点へ直結している点が面白い。新たに登場する宮司司警視が、十和田の不可解な自白と二重密室を検証しながら、事件の全貌を組み直していくシリーズ第2作。
周木律『五覚堂の殺人』
哲学者・志田幾郎の遺産相続をめぐり、一族が正五角形を基調とした館・五覚堂へ集められる。
外部との接触を30時間禁じられた館内で連続密室殺人が発生し、宮司司の妹・百合子も惨劇へ巻き込まれていく。
十和田只人が事件後に残された監視映像だけを見て真相へ迫る設定が特徴的。五感を惑わせる館の仕掛けと幾何学的な発想が映像記録の盲点へ結びつき、現場に立たない探偵が過去の事件を再現していく。
周木律『伽藍堂の殺人』
絶海の孤島・伽藍島に建つ旧宗教施設・伽藍堂で、リーマン予想をめぐる講演会が開かれる。
十和田只人や善知鳥神、宮司兄妹、高名な数学者たちが集うなか、参加者が物理的にあり得ない瞬間移動を遂げ、遺体となって発見される。
ひとつの球体を分割し、同じ大きさの球体を二つ作れるバナッハ=タルスキーのパラドックスを、建築と殺人の仕掛けへ結びつける着想が大胆。
数学上の不可思議を現実空間へ落とし込みながら、シリーズ全体を貫く敵の存在にも迫る第4作。
周木律『教会堂の殺人』
深山の教会堂へ向かった警察関係者が次々と消息を絶ち、宮司司は部下を追って館へ足を踏み入れる。
そこで待っていたのは、水死、焼死、窒息死などの致死トラップを館そのものに組み込んだ巨大な殺戮装置だった。
礼拝か懺悔か。選択ひとつが生死を左右し、ゲーム理論に基づく合理的判断さえ命取りになる。宮司百合子も兄を追って参戦し、数理的な駆け引きと主要人物たちの生存を懸けた脱出劇が激しく交錯するシリーズ5作目。
周木律『鏡面堂の殺人』
宮司百合子は善知鳥神に呼び出され、森林公園に残された廃屋・鏡面堂を訪れる。
館内は鏡で覆われており、26年前には二重の密室殺人と凶器消失事件が発生していた。百合子は当時の管理人が残した手記を読み、過去の惨劇へ迫っていく。
現場ではなく記録だけを手がかりに、百合子自身が推理の中心に立つ点が印象的。鏡、光、時間と空間の認識を利用した仕掛けが事件へ絡み、さらに沼四郎と主要人物たちを結ぶ因縁まで明らかになっていく。
周木律『大聖堂の殺人』
24年前に宮司兄妹の両親が命を落とした北海道沖の孤島・大聖堂へ、宮司百合子と善知鳥神が招かれる。
そこで過去の悲劇をなぞるように、焼死や凍死を伴う不可能殺人が続く一方、首謀者と目される藤衛には遠隔地での鉄壁のアリバイが成立していた。
大聖堂の特殊建築、熱力学、孤島の地理まで利用した大仕掛けに加え、全7作で積み重ねられた伏線もここで収束。シリーズ全体を貫いてきた数学と犯罪の因縁に決着をつける最終作。
悠木四季堂シリーズ全7作がここで完結。私も大好きなシリーズなので、1作目の『眼球堂の殺人』からぜひ読んでみてほしい。
北山猛邦『クロック城』殺人事件
文明崩壊が進む終末世界で、探偵・南深騎と幼なじみの志乃美菜美は、森の奥に建つ『クロック城』へ招かれる。
三つの大時計が異なる時を刻む城では、鐘が鳴るたびに密室や監視下をすり抜けるように首なし死体が現れ、幽霊「スキップマン」の影までちらつく。
オカルトめいた世界観とは対照的に、事件の核心には力学や幾何学を利用した物理トリックが据えられている。終末の幻想美と冷徹な論理が同居し、北山猛邦の〈城〉シリーズの方向性を鮮烈に示した第24回メフィスト賞受賞作。
悠木四季北山猛邦の城シリーズも読み放題!今読まなくていつ読む!
北山猛邦『瑠璃城』殺人事件』
1243年のフランス、1916年のヴェルダン戦線、1989年の日本。
数百年離れた三つの時代で、首なし死体の消失や雪に閉ざされた図書館での刺殺など、不可解な事件が発生する。無関係に見えた惨劇は、呪われた短剣と、時代を越えて出会いと死を繰り返す男女の宿命によって結ばれていく。
歴史も場所も異なる三つの事件を、輪廻転生のロマンスと物理的な仕掛けで一本につなぐ壮大さが魅力。幻想的な物語を最後には合理的な論理へ着地させる、〈城〉シリーズでも異彩を放つ長編。
北山猛邦『アリス・ミラー城』殺人事件
鏡の迷宮とチェス盤のような区画で構成された『アリス・ミラー城』に、伝説の秘宝を求めて複数の名探偵たちが集められる。
だが城内では、チェスの駒を思わせる見立てに従って探偵たちが次々と殺され、密室や人間消失まで発生する。鏡による錯覚や空間認識の盲点を利用しながら、童話的な幻想美の裏側に厳密な手がかりを配置。
名探偵同士が論理をぶつけ合う華やかさと容赦のない連続殺人を両立させている傑作。
悠木四季私が〈城〉シリーズで一番好きな作品この『アリス・ミラー城』だ。
北山猛邦『ギロチン城』殺人事件
人形塚に捨てられていた古いからくり人形が、突然「Help」と文字を書き始める。
胴体からは巨大な断頭台の前に囚われた女性の写真が見つかり、探偵・幕辺ナコと頼科有生は、深い霧と断崖に囲まれたギロチン城へ向かう。やがて城内では、巨大な断頭台を利用した密室殺人が続発する。
ギロチンの落下運動と館の空間設計を結びつけ、建物そのものを巨大な仕掛けへ変える発想が強烈。ゴシックな恐怖と精密な物理トリックが噛み合った、〈城〉シリーズ屈指の一作。
北山猛邦『私たちが星座を盗んだ理由』
恋のおまじないから始まる『恋煩い』、孤島で妖精になる訓練を受ける子どもたちを描く『妖精の学校』、拾った携帯電話から犯罪へ巻き込まれる『嘘つき紳士』など、幻想と日常の境目に潜む悪意を描いた全5編を収録する。
どの物語も優しい寓話や青春譚のように進みながら、終盤でそれまでの出来事が別の意味を帯びていく。甘さの奥へ冷酷な論理を忍ばせ、最後の一撃で物語の景色を塗り替える北山猛邦の短編技巧が光る作品集。
北山猛邦『踊るジョーカー 名探偵音野順の事件簿』
人前が大の苦手なのに、事件の違和感を瞬時に見抜く天才探偵・音野順。
推理作家の白瀬白夜に半ば強引に連れ出され、密室殺人、時計ばかりを狙う窃盗、ダイイングメッセージ、毒殺、雪上の足跡なき殺人など5つの事件へ挑む。
引きこもり探偵と押しの強い助手の掛け合いは軽快だが、事件の仕掛けは正統派。親しみやすいキャラクター小説の楽しさと、物理・論理を使った謎解きがすっきり噛み合った連作短編集。
歌野晶午『新装版 長い家の殺人』
大学のフォークロックバンド「メイプル・リーフ」は、解散前の合宿で越後湯沢の横長ロッジへ。
初日の夜、奥の部屋へ引き上げたメンバーが、施錠された室内から忽然と姿を消す。翌朝、消えたはずの彼は同じ部屋で遺体となって発見される。
なぜ死体は消え、なぜ元の部屋へ戻されたのか。見取り図や時間の記録を手がかりに、ロッジの形そのものへ仕掛けられた謎を解き崩していく。
歌野晶午の原点らしい、大胆な空間トリックが前面に出たデビュー長編。
悠木四季ここから歌野晶午の名作が続く。
歌野晶午『新装版 白い家の殺人』
八ヶ岳山麓の別荘で、資産家一族の令嬢が密室状態の自室から逆さ吊りの遺体で発見される。
さらに猛吹雪によって山荘は孤立し、雪の上に足跡を残さない新たな殺人まで発生。
一族の因縁や古い日記が不穏な空気を濃くする一方、謎解きの中心にあるのは力学や移動経路を利用した物理トリックだ。
異様な死体の姿にまで明確な意味を持たせる、雪山クローズドサークルの力技が素晴らしい。
歌野晶午『新装版 動く家の殺人』
放浪中の信濃譲二は、ひょんな縁から弱小劇団のマネージャーを引き受ける。
ところが特別公演の初日、舞台裏で関係者が相次いで命を落とし、6年前に稽古場で起きた死亡事故まで影を落とし始める。
芝居が続く表舞台と、殺人が進行する舞台裏。限られた時間と舞台装置を利用した仕掛けに、劇団員たちの過去や人間関係が絡み合い、家シリーズは劇的なクライマックスへ。
歌野晶午『増補版 放浪探偵と七つの殺人』
放浪探偵・信濃譲二が、さまざまな場所で遭遇した事件を描く連作短編集。
病院で人間が忽然と消える『ドア⇄ドア』、鉄壁のアリバイに挑む『有罪としての不在』、宙に浮いた修行僧の死を追う『阿闍梨天空死譚』など、全8編を収録する。
怪異めいた現象から力学を使った物理パズルまで、短い物語ごとに趣向は大きく変化。長編の家シリーズで見せた大胆なトリックを、濃密な短編サイズで次々と味わえる。
悠木四季この名探偵・信濃譲二シリーズの、1.『長い家の殺人』2.『白い家の殺人』3.『動く家の殺人』4.『放浪探偵と七つの殺人』はどれも安定した面白さがある。
歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』
素性を隠した5人の男女が、暗号化されたチャットルームに集まり、自作の不可能犯罪を出題し合う。
だが彼らが披露する密室やアリバイは創作ではなく、現実に実行された殺人そのもの。残る4人は、出題者が仕掛けたトリックを画面越しに推理していく。
命を奪う行為すらゲームの材料として扱う乾いた異常さと、容赦のない論理戦が強烈。匿名だった5人の素性や現実での関係まで少しずつ揺らぎ始め、推理ゲームそのものが危険な局面へ転がっていく。
歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』
〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉の5人が再びネット上に集まり、本物の殺人を題材にした推理ゲームが始まる。
今度は力学や建築、心理的な盲点まで利用した、前作を上回る不可能犯罪が続々と出題。ひとつひとつの事件を解く楽しみに加え、物語全体にも大掛かりな罠が仕込まれている。
前作から当然だと思っていた前提まで揺さぶる、シリーズ屈指のトラップが炸裂。
歌野晶午『密室殺人ゲーム・マニアックス』
かつての殺人推理ゲームの記録が外部へ流出した世界で、何者かが動画投稿サイトに自ら実行した不可能犯罪の映像を公開。
「この謎を解いてみろ」と挑発し、青年・嵯峨島行生らが事件の真相に挑む。舞台上からの人間消失や、透明人間を思わせる侵入劇など、古典奇術を思わせる謎も登場。
閉じたチャットから不特定多数が見守るネット空間へ舞台を広げ、殺人そのものを公開問題へ変えてしまうシリーズ外伝。
悠木四季この「密室殺人ゲームシリーズ」三部作は歌野晶午作品の中でも特におすすめだ。必ず順番に読もう。
歌野晶午『新装版 ROMMY 越境者の夢』
奇抜なフェイスペイントと圧倒的な歌声で人気を集めた覆面シンガー・ROMMY。
引退前の最後のアルバムを録音していた山中湖畔のスタジオで、切断され装飾を施された遺体となって発見される。しかも現場は、外から侵入できない密室だった。
事件の謎を追う一方、関係者の証言や手紙、歌詞などを通してROMMYの過去と素顔も少しずつ明らかになる。密室殺人とひとりの表現者の人生が重なり合う、異色の音楽ミステリ。
歌野晶午『首切り島の一夜』
還暦を目前にした同窓生たちは、40年前の修学旅行を再現するため離島・弥陀華島を再訪する。
楽しいはずの旅の途中、高校時代に教師殺害を題材にした小説を書いていた久我が、首を斬られた遺体で発見された。
荒天で船は止まり、島に残されたのは7人だけ。殺人の謎を追う一方、それぞれが高校時代の記憶や人生の挫折、隠してきた秘密を語り始め、王道の孤島殺人は次第に重苦しい告白劇へ姿を変えていく。
悠木四季これは歌野作品の中でも特に評価の分かれる作品だ。しかし、そういう作品こそKindleUnlimitedが役にたつ。なにせ読み放題なので気軽に読めるし、合わなかったとしてもダメージが少ないのだ。
歌野晶午『さらわれたい女』
資金繰りに苦しむ便利屋のもとへ、裕福な人妻から「夫の愛情を確かめたい」と狂言誘拐の依頼が舞い込む。
高額報酬に惹かれた男は計画を成功させるが、隠れ家へ戻ると依頼人は何者かに殺されていた。偽の誘拐犯だったはずが、一転して本物の殺人犯として追われる立場へ。
警察から逃げながら黒幕を探すうち、仕掛けられた罠と新たな事実が次々と姿を現すスピード感抜群の逃亡劇。
悠木四季歌野晶午作品がこんなに読み放題……。
倉阪鬼一郎『四神金赤館銀青館不可能殺人』
推理作家の屋形は、三重県伊勢の湾岸に建つ洋館・銀青館へ招かれる。
暴風雨の夜、館主の部屋で密室殺人が起こり、対岸の金赤館でも連続殺人が幕開け。さらに、海を隔てた二つの館の間を遺体が移動する不可解な現象まで加わる。
対をなす奇館、嵐、名家の因縁、密室と、王道の舞台装置をこれでもかと盛り込んだ豪快さが特徴。
二館の配置を利用した不可能犯罪はスケールが大きく、厳密なパズルと大胆すぎる物理トリックの境目を攻める怪作感も強い。
悠木四季バカミスの帝王・倉阪鬼一郎も読み放題。倉阪作品は絶盤になっているものばかりなので紙の本で手に入れることは難しいのだ。それがKindleUnlimitedで読めるのはめちゃくちゃありがたい。
倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』
神奈川県三崎の渓谷を挟んで建つ黒鳥館と白鳥館。
招待状を受けて黒鳥館を訪れた大学生・西大寺俊が密室で怪死したことを皮切りに、同じ美術サークルの仲間たちも次々と館へ招かれ、不可解な死を遂げていく。
二つの館を使った密室だけでなく、暗号、言葉遊び、作中作、さらにはマルチエンディングまで、次々と過剰な仕掛けを投入するサービス精神がすさまじい。
あちこちに散らされた細工が終盤で一斉に意味を持ち始め、緻密なパズルと脱力するほど大胆な発想が入り乱れる怪作だ。
倉阪鬼一郎『波上館の犯罪』
海に浮かぶように建つ孤島の洋館・波上館では、亡き芸術家・波丘駿一郎の家族たちが複雑な利害を抱えながら暮らしている。
ある日、長女・香波が自室で刺殺され、放浪生活から戻った妹・美波が事件を調べることに。ところが残された手がかりは、死んだはずの父が犯行に関わったかのような不可解さを帯びていた。
孤島殺人の王道を踏まえつつ、現実と幻想の境目が少しずつ崩れていく過程にも引き込まれる。犯人や手口を追うほど登場人物たちの認識まで揺さぶられ、論理的な謎解きと怪奇小説めいた世界が重なっていく不可思議な一本。
倉阪鬼一郎『五色沼黄緑館藍紫館多重殺人』
福島県・五色沼の近くに建つ黄緑館と藍紫館。
完成披露のため集まったわずか4人の招待客は、濃霧と猛吹雪によって外界から隔絶され、そのさなか衆人環視に近い状況で殺人事件が発生する。
黄緑と藍紫の不穏な色彩、対をなす二つの館、雪上から消える足跡など、舞台装置からしてインパクト抜群。
物理トリックや多重解決を盛り込みながら、ブラックユーモアと脱力するほど大胆な発想まで飛び出す、倉阪鬼一郎らしさ全開の館ミステリ。
倉阪鬼一郎『八王子七色面妖館密室不可能殺人』
外壁を7色に塗り分けた七色面妖館には、魔術や拷問、占星術などをテーマにした7つの部屋が並び、財宝の噂を聞きつけた来訪者たちが集う。
やがて魔術研究家が密室で刺殺され、それを皮切りに各部屋で不可能殺人が続いていく。7色、7部屋、7つの殺人と、数字と館の意匠を徹底して事件へ絡める過剰さが本作ならではの持ち味。
次々と提示される密室を私立探偵・宵内初二が解きほぐす一方、その解決には思わず脱力するほど大胆な発想も飛び出し、倉阪鬼一郎らしいバカミス精神が炸裂する。
悠木四季他にも読み放題の倉阪鬼一郎作品はあるけれど、特におすすめしたいのがこの5作品だ。
高木彬光『刺青殺人事件~新装版~』
戦後間もない東京で、元軍医の松下研三は刺青愛好家が集う競艶会を訪れ、背中に大蛇丸を彫った美女・野村絹枝と出会う。
やがて絹枝は内側から施錠された浴室で惨殺されるが、現場に残されていたのは首と両手両足のみ。最大の特徴である刺青を背負った胴体だけが、密室から消えていた。
「顔のない死体」を「胴体のない死体」へ置き換えたアイデアが秀逸で、刺青そのものが身元を示す証拠になる点も面白い。三竦みの刺青にまつわる因縁と密室の謎を、若き天才・神津恭介が心理分析と論理によって解きほぐす。
高木彬光のデビュー作にして、神津恭介の華々しい初登場となった作品だ。
悠木四季高木彬光作品も読めるのは凄すぎる。
高木彬光『人形はなぜ殺される』
奇術愛好家のサロンで、ギロチン手品に使う人形の首が施錠された箱から消失する。
直後、京野百合子が本物のギロチンで斬首され、その傍らには消えた人形の首が転がっていた。さらに列車に轢かれるマネキンと人間など、人形の破壊を予告にしたかのような殺人が続いていく。
犯人はなぜ人を殺す前に、わざわざ人形まで壊すのか。この不可解な行動に明確な理由があり、奇術のミスディレクションや列車ダイヤを利用したアリバイ工作まで一つの犯罪計画へ結びついていく。
神津恭介さえ翻弄される展開も含め、人形の意味が分かった瞬間に事件全体の見え方まで変わる。
悠木四季名探偵・神津恭介まで犯人に翻弄される、シリーズでも緊張感の強い一編である。
高木彬光『呪縛の家 新装版』
松下研三は旧友・卜部鴻一から救援を求められ、かつて新興宗教の本部だった信州の旧家へ向かう。
そこで告げられるのは、〈今宵、汝の娘は一人、水に浮かびて殺さるべし〉と続く四つの殺人予告。厳重な警戒をあざ笑うかのように、最初の犠牲者は密室状態の浴室で発見される。
水・火・土・風の四大元素を使った見立てと、新興宗教をめぐる因習が濃い怪奇色を生みながら、神津恭介は物理法則と証言の矛盾から一つずつ真相へ迫っていく。
途中には二度の挑戦状まで挟まれ、最後に浮かび上がるのは、自ら手を下さず人間の憎悪を操る悪意の存在。事件を解明しても割り切れない苦さが後を引く。
悠木四季みんな大好き「読者への挑戦状」が二度もあるよ!たまらないねえ!
高木彬光『白昼の死角』
東大法学部の秀才・隅田光一が率いた金融会社・太陽クラブは、当局の摘発を受けて瓦解し、隅田は壮絶な自死を遂げる。
その死を目の当たりにした鶴岡七郎は、法律の知識を武器に社会へ復讐する道を選択。手形詐欺、企業乗っ取り、国際的な巨額詐欺へと手を広げながら、自らは巧みに安全圏へ身を置いていく。
暴力や殺人よりも恐ろしいのは、法律の隙間を知り尽くした頭脳そのもの。鶴岡が次々と仕掛ける経済犯罪と、証拠を求めて食らいつく福永検事の攻防には、通常の犯人探しとは異なる緊張感がある。
戦後社会の欲望と法制度の死角を利用し、人間も企業も容赦なく呑み込んでいく鶴岡の犯罪人生が凄まじい。
悠木四季高木彬光の最高傑作として名高い作品だ。
高木彬光『破戒裁判』
二件の殺人と死体遺棄で起訴された元俳優・村田和彦は、東京地裁の法廷で突然、自白を覆して無実を訴える。
弁護士・百谷泉一郎は、検察側が積み上げた証言や物証を反対尋問で崩しながら、村田を死刑から救うため事件そのものを改めて検証する。
物語のほとんどが法廷内の尋問と陳述だけで進み、証人の言葉や科学鑑定の小さな矛盾から事件の姿が次々と塗り替えられていく。
冤罪、予断捜査、出自への差別まで踏み込み、論理による逆転劇と司法への怒りを同じ法廷へ叩き込んだ高木彬光の異色作。
高木彬光『神津恭介、密室に挑む 神津恭介傑作セレクション』
『神津恭介、密室に挑む 神津恭介傑作セレクション』
雪、鏡、遠隔毒殺、心理的盲点など、6種類の不可能犯罪で神津恭介の頭脳を味わう短編集。
雪原に足跡のない死体、密室から消えた美女、鏡が生む死角、書棚を利用した遠隔毒殺など、神津恭介が挑んだ不可能犯罪を6編収録。
物理的に閉ざされた空間だけでなく、人間の思い込みや視線の誘導まで利用し、事件ごとに異なる密室の形を見せてくれる。
特に『妖婦の宿』では雪深い温泉宿と蝋人形の首を使った事件に挑戦状まで用意され、短編ながら濃密な論理戦を味わえる。
『鏡の部屋』の光学トリックや『影なき女』の心理的な盲点など、神津恭介の推理を手軽にまとめて楽しめる密室セレクションだ。
悠木四季短編『妖婦の宿』はガチの傑作なのでこれだけでも読んでくれ!
高木彬光『神津恭介、犯罪の蔭に女あり 神津恭介傑作セレクション』
『神津恭介、犯罪の蔭に女あり 神津恭介傑作セレクション』
愛憎、虚栄、嫉妬に揺れる女たちを通して、神津恭介の心理推理を味わう6編の傑作選。
神津恭介シリーズから、女性をめぐる犯罪をテーマに6編を収録した傑作選。
ストリップ劇場で発見される踊り子の死体、完璧すぎる目撃証言、夫を次々と失う妖婦、宝石と死体をめぐる執念など、愛憎や虚栄、嫉妬が事件の形を変えながら現れる。
航空機を利用したアリバイ崩しから心理分析、悲劇的な人違いまで、事件ごとに推理の方向が大きく異なるのも魅力。
冷徹な頭脳で真相を暴く神津恭介が、犯罪の奥にある女性たちの悲哀や人生へ目を向ける場面も多く、第1弾の密室セレクションとは違った味わいを楽しめる。
潮谷験『時空犯』
私立探偵・姫崎智弘のもとに、「過去へ時間跳躍して世界を改変している人物を突き止めてほしい」と破格の依頼が舞い込む。
特殊な薬を飲んだ姫崎は、実際に世界が6月1日へ巻き戻った事実を認識するが、その直後、依頼人の博士が殺害されてしまう。誰が時間を巻き戻し、誰が前の時間軸の記憶を持っているのか。
タイムリープのルールを手がかりに、何度でも過去を変えられる犯人を追い詰め、殺人を立証する方法まで探っていく特殊設定ミステリの秀作。
「先ほど私は、巻き戻しについて説明しました。昨日までの五十三年間で、巻き戻しが発生した日は計百十四日。回数を総計すると、二百七十三回になったと。申し上げた通り、これは昨日までの数字です。そして本日も巻き戻しが発生しています」
質問のため姫崎は口を開きかけたが、その前に博士はきっぱりと言葉を継いだ。
「本日、二〇一八年六月一日だけで、九百七十八回の巻き戻しが発生しています」
潮谷験『時空犯(講談社文庫)』36ページより引用
潮谷験『スイッチ 悪意の実験』
大学生の箱川小雪は、友人たちと高額報酬の心理実験に参加する。
6人のスマホに入れられたのは、無関係なパン屋一家を破滅させるスイッチ。押しても押さなくても報酬は同じなのに、やがて一家の周囲で不可解な事件が起こり始める。
利害のない人間は、それでも他人を傷つけるのか。心理実験から始まった物語は、やがて犯人とアリバイを追う推理劇へ姿を変え、小雪自身の過去と決断にも踏み込んでいく。
五十嵐律人『法廷遊戯』
ロースクールで学ぶ久我清義と幼馴染の織本美鈴は、過去に重い秘密を抱えている。
学生時代、二人は天才・結城馨が主宰する模擬裁判「無辜(むこ)ゲーム」に関わっていたが、やがてその遊びは現実の殺人事件へつながっていく。
弁護士となった清義が再び法廷へ向き合う後半では、学生同士の私的な裁きと、法律に基づく公的な裁きが正面から衝突。誰を信じ、何を証明できるのかを突き詰めながら、過去の秘密までひっくり返していく法廷サスペンス。
五十嵐律人『不可逆少年』
少年の更生を信じる家庭裁判所調査官・瀬良真昼は、狐面の少女による凄惨な連続殺人事件に直面する。
犯人は13歳で刑事責任を問えず、世論が処罰を求めるなか、真昼は「少年はどこまで立ち直れるのか」という難題と向き合うことになる。
面白いのは、犯人探しよりも更生可能性をめぐる判断そのものが物語の中心になっているところだ。家裁調査官の仕事や少年法の考え方を軸に、加害者側と被害者側の感情、家族の事情、隠された事実が重なり、単純な善悪では割り切れない重さを突きつけてくる。
五十嵐律人『原因において自由な物語』
若手作家・二階堂紡季は、誰にも知られてはいけない秘密を抱えていた。
そんな彼女の恋人でスクールロイヤーの遊佐想護が、かつて高校生のいじめ転落死を調査していた廃病院から不審な転落。紡季は彼の遺した小説プロットを手がかりに、学校で起きた事件の真相を追い始める。
現実の事件と作中作を行き来しながら、いじめやスクールカースト、責任の所在を掘り下げていく点が特徴。法律だけでは拾いきれない人の痛みを、物語を書くことと結びつけて描く仕掛けも印象的だ。
黒澤いづみ『人間に向いてない』
日本各地で、社会から孤立した若者たちが一夜にして異形の怪物へ変わる奇病が発生する。
主婦の美晴も、22歳の引きこもりの息子・優一が巨大な虫のような姿へ変貌した現実に直面。政府が変異者を人権の対象外とするなか、彼女は息子を守ろうと奔走する。
カフカ『変身』を思わせる設定ながら、焦点となるのは怪物になった本人より、その姿を受け入れられるか苦しむ家族の側。
親子の愛情、世間体、家族だからこそ生まれるエゴが容赦なく剥き出しになり、人間らしさとは何かを突きつけてくる家族ホラーミステリ。
方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』
完全犯罪を請け負ってきた黒羽烏由宇は、何者かにビルから突き落とされ、生霊となってしまう。
そこで出会ったのが、両親を殺され復讐を誓う小学生・音葉。現世にいられる7日間で、二人は互いを襲った犯人を追うことになる。物に触れられない黒羽と、子どもゆえ自由に動けない音葉が、互いの弱点を補いながら調査するバディ感が楽しい。
幽霊の能力に明確な制約を設け、密室や足跡の謎、多重解決まで組み合わせた頭脳戦も濃厚である。
霧舎巧『ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ 』
行方不明になった女生徒を探すため、《あかずの扉》研究会の鳴海や後木たちは北海道の流氷館へ向かう。
館では富豪が主催する推理イベントの真っ最中。ところが猛吹雪で外界から孤立すると、余興だったはずのゲームは本物の連続殺人へ変貌する。
瓜二つの間取りを持つ二重建築と、人間の消失を組み合わせた大掛かりなトリックが特徴。複数の探偵がそれぞれの推理をぶつけ、解決したかに見えた真相まで次々とひっくり返される、これでもかと謎解きを詰め込んだ濃密な館ものだ。
悠木四季《あかずの扉》研究会シリーズが4作全部読めるなんて素晴らしすぎる… …。
霧舎巧『カレイドスコープ島 《あかずの扉》研究会竹取島へ』
『カレイドスコープ島 《あかずの扉》研究会竹取島へ』
竹取物語の伝承が残る孤島で、鏡と光を駆使した見立て殺人が繰り広げられる館外型の孤島推理。
《あかずの扉》研究会のユイの友人・金本鈴に招かれ、鳴海雄一郎や後動仁らは八丈島沖に浮かぶ竹取島と月島を訪れる。
竹取物語の伝説が息づく絶海の孤島で、古い伝承をなぞるかのような連続殺人が始まり、一行は外界から切り離されたまま事件へ巻き込まれていく。
題名のカレイドスコープ=万華鏡を思わせる、鏡や光の屈折、視覚の死角を利用した趣向が随所に登場。
孤島、見立て殺人、伝承といった王道の要素へ視覚トリックを絡め、華やかで遊び心のある謎解きを展開する《あかずの扉》研究会シリーズ第2作。
霧舎巧『ラグナロク洞 《あかずの扉》研究会影郎沼へ』
《あかずの扉》研究会の一行は、山奥の影郎沼を訪れた最中に暴風雨と土砂崩れへ巻き込まれ、近くの洞窟へ避難する。
ところが出入口は塞がれ、完全に孤立した地下空間で、北欧神話の終末ラグナロクを思わせる連続殺人が始まってしまう。
暗闇と閉塞感に加え、方向感覚まで狂わせる洞窟そのものが大きな仕掛けとして働く。誰がどこへ移動できたのか、どの経路なら犯行が可能なのかを追い詰めていく地理的な推理が濃く、シリーズでも異彩を放つ地下迷宮編。
悠木四季館でも孤島でもなく今度は洞窟。このシリーズは毎回舞台選びが面白いのだ。
霧舎巧『マリオネット園 《あかずの扉》研究会首吊塔へ』
《あかずの扉》研究会へ届いたのは、死者から送られてきた一通の手紙。
そこに仕込まれた多重暗号を解いた一行は、閉鎖されたテーマパーク「マリオネットランド」へ向かい、園内にそびえる首吊塔で、複数の死体がメリーゴーランドのように旋回する異様な光景に遭遇する。
塔の内部に閉じ込められた後動と、外側から暗号を追う鳴海。二方向から進む調査に、遊園地の機械仕掛けや操り人形の意匠、首吊塔そのものを利用した大掛かりなトリックが絡み合う。
シリーズの中でも、とびきり派手な見立てと建築トリックを味わえる長編。
悠木四季シリーズの中でも特に見た目の怖さが前面へ出た一編だ。
霧舎巧『名探偵はもういない』
犯罪学者の木岬研吾と義弟の敬二は、雪崩によって孤立した山間のペンションへ閉じ込められる。
宿泊客の弱みを握っていた女性が不可解な死を遂げ、さらに事件を解決するはずの存在まで機能を失う中、他殺・事故・自殺の可能性が入り乱れていく。
猛吹雪の山荘、秘密を抱えた宿泊客、連続する怪死と王道の舞台を整えながら、「名探偵がいない状況で誰が真相へ届くのか」を正面から扱うのが面白い。
細かな物証と語りの細工を積み重ね、終盤には堂々たる挑戦状まで用意された、霧舎巧らしい論理勝負の長編。
悠木四季事件を解く人がいない。この一点をここまで大きな謎へ育てるのが最高に面白いのだ。
西村京太郎『殺しの双曲線』
冒頭で「メイントリックは双生児を利用したもの」と明かされる西村京太郎の傑作ミステリ。
東京では瓜二つの双子による強盗事件が続き、一方、東北の山奥にある観雪荘では、大雪で孤立した6人の男女が次々と殺されていく。
ひときわ面白いのが、最初からトリックの一部を明かしているのに、それでも推理の盲点を突かれる大胆な構成である。双子強盗と雪山の連続殺人、趣の異なる二つの事件を並行して描く展開にも引き込まれる。
悠木四季西村京太郎作品の中で私が一番大好きなやつだ。
坂口安吾『不連続殺人事件』
終戦直後、信州の山奥にある旧家へ、詩人や画家、小説家、学者など20人を超える男女が集まる。
愛憎や遺産をめぐる思惑が渦巻くなか、動機も手口もばらばらに見える連続殺人が発生し、青年探偵・巨勢博士が真相を追う。
互いに関係が薄そうな殺人の背後から、次第にひとつの冷徹な論理が浮かび上がる過程が見事。犯人当てとしての緻密さに、人間の欲望や悪意を容赦なく描く安吾らしい毒気も重なり、日本探偵小説史に残る古典となった。
浦賀和宏『眠りの牢獄』
5年前、別荘で女性を突き落としたのは誰なのか。
事件当時その場にいた浦賀、北澤、吉野の3人は地下シェルターへ監禁され、「犯人が名乗り出るまで出さない」と迫られる。
疑心暗鬼が膨らむ監禁劇と並行して、別の場所では匿名の相手と交換殺人を企てる女性の物語が進行。一見無関係な二つの事件が思わぬ形で接続し、事実が判明するたび新たな矛盾とそれまでの前提が崩れていく。
短い物語の中に、心理戦と多重の仕掛けをぎっしり詰め込んだ濃密な名作。
浦賀和宏『記憶の果て』
高校卒業後の春休み、安藤直樹は脳科学者だった父を自殺で失う。
遺された黒いコンピュータを起動すると、安藤裕子と名乗る人工知能が現れ、直樹は彼女との対話にのめり込んでいく。
面白さの核にあるのは、人工知能の正体を追う謎と、直樹自身の出生や家族の秘密が重なっていく展開。人間の意識はどこに宿るのか、自分を自分たらしめるものは何かを、思春期特有の不安や孤独と絡めて掘り下げる。
陰鬱な青春小説とサイバーパンクSFが溶け合った、浦賀和宏の原点。
蘇部健一『六枚のとんかつ』
保険会社の調査員・小野は、旧友で自称名探偵の推理作家・古藤とともに、保険金絡みの不可解な事件へ次々と関わっていく。
誘拐事件、雪山での消失、アリバイ工作など題材は本格派だが、飛び出す推理や解決はとにかく珍妙で、下ネタやダジャレまで容赦なく投入される。
ふざけ倒した語り口の裏で、事件そのものは意外ときっちり組み立てられている。真面目に考えるほど肩透かしを食らう脱力感と、古典的な仕掛けへの愛情が同居している、メフィスト賞らしさをたっぷり味わえるバカミスの王。
文庫版『六枚のとんかつ』ディレクターズ・カットをお届けする。
この作品のノベルス版が出たとき、バカだ、ゴミだ、だれにでも書ける、商品としてのレベルに達していないなどと、たくさんのご批判を頂戴した。
当時は、そういうことを言った人たちに対して殺意を抱いたものだが、四年ぶりに読み返してみると、たしかにこれはゴミだった。
『六枚のとんかつ (講談社文庫)』430ページ 文庫版あとがきより引用
蘇部健一『六とん2 六枚のとんかつ』
推理作家・古藤が失踪してから5年。相棒を失った保険調査員・小野のもとへ、パン屋の秘密や奇妙なアリバイ、身近な違和感から始まる事件が次々と持ち込まれる。
前作の迷コンビ感を残しつつ、今回は小野の単独調査が中心。くだらないオチや強引な発想で笑わせながら、錯視や盲点を使った伏線もしっかり忍ばせてあり、ナンセンスと論理が変な方向へ噛み合う短編集である。
蘇部健一『六とん3』
シリーズ第3作では、『もうひとつの証言』『アリバイの死角』などの論理ものから、問題作『×××殺人事件』、タイムマシンで過去へ戻る『秘めた想い』、運命の赤い糸を信じる男を描く『赤い糸』まで、作風がさらに大きく広がる。
くだらなさ全開のナンセンス編に、SF、恋愛、狂気、叙情まで同居し、前2作より振れ幅は格段に大きい。バカミスの悪ノリを保ちながら、時間ものや純愛へ踏み込み、蘇部健一の意外な顔までのぞかせる作品集。
名倉編『異セカイ系』
WEB小説『臥竜転生』を書いている名倉編は、ある日、自分が創作した異世界へ迷い込む。
そこで理想のヒロインと出会うものの、このまま筋書き通りに進めば彼女の母親が惨殺されると気づき、現実へ戻って投稿済みの物語を書き換え始める。
ところが文章を修正しても、異世界の出来事は作者の思惑通りには動かない。現実での執筆と物語内部の事件が互いに影響し合い、「読者への挑戦状」ならぬ「作者への挑戦状」まで登場する仕掛けがユニークだ。
異世界転生を扱いながら、創作者が登場人物の運命をどこまで支配してよいのかまで踏み込むメタフィクションミステリー。
第58回メフィスト賞受賞作。小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや! あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……?
柾木政宗『NO推理、NO探偵? 謎、解いてます!』
女子高生探偵・美智駆アイは、犯人から受けた催眠暗示によって推理力を失ってしまう。
助手の取手ユウは彼女を「推理しない名探偵」として売り出し、暴力や色仕掛け、自白強要まで使って事件を強引に片づけ始める。日常の謎、旅情もの、アクションなど、さまざまなジャンルのお約束を徹底的に茶化す悪ノリが強烈。
ところが終盤、前半で雑に処理されたはずの事件をアイが再検討すると、ふざけた展開の裏に隠されていた論理と伏線が一斉につながっていく。
悠木四季ジャンルへのパロディと愛情が同居した怪作だ。ミステリが好きな人ほどハマるやつである。
柾木政宗『ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~』
『ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~』
登場人物が自分は小説の中にいると知ったまま、トリックだらけの連続殺人へ挑むメタ推理。
自称・美少女女子高生探偵のアイと助手のユウは、莫大な遺産をめぐって揉める旧家の洋館を訪れる。
豪雨によって外界から遮断された館で、巨大な鶴の銅像を載せられた刺殺体が発見され、さらに密室殺人まで発生。しかも登場人物たちは自分たちが小説の中にいると自覚し、章数や伏線、叙述トリックのお約束まで平然と口にしながら事件を追っていく。
館ものや遺産相続といった王道の舞台を使いながら、小説の記述や視点そのものを事件のルールへ組み込む徹底ぶりが面白い。
ふざけた会話を連発しつつ、露骨に置かれた伏線や二人の語りが終盤で思わぬ形につながり、メタフィクションそのものが物語全体を覆す大きなからくりへ姿を変える。
悠木四季柾木政宗のこの2作品はミステリ好きな人にこそぜひ読んでほしいやつだ。
これほどのトリック柾木政宗がやらずに、誰がやる。女子高生探偵と助手が挑む奇怪な連続殺人――あなたは真相を見抜けるか?「読者への挑戦状」つき。女子高生探偵のアイと助手のユウは、ひょんなことから遺産相続でモメる一族の館へ。携帯の電波が届かない森の中、空一面を覆う雨雲……外界から閉ざされた館で発見されたのは男の刺殺体だった。遺体に載った巨大な鶴の銅像と被害者の異様な体勢、それらが意味するものとは? 謎解きの最中に第二の不可解な殺人も発生。さらには二人にも魔の手が。やりたい放題ミステリ開幕!「読者への挑戦状」 本作の登場人物数名には、ある重要な秘密があります。私は読者の皆様から、それを巧妙に隠しております。 その秘密は、本作において非常に重要な意義があり、そして作中のあちこちに散りばめられた手がかりに気付けば、誰にでも見抜けることをお約束します。 そのため今ここで、僭越ながら挑戦状を掲げさせていただきます。 登場人物に隠された秘密とは何か。 ぜひ頭をフル回転させて、解き明かしてみてください。 なお、物語の途中で秘密に気付いた聡明な方へ。ネタバレは厳禁でお願いします。 秘密が明かされるには、適したタイミングがあるというものです。 物語のクライマックスだったり、登場人物のターニングポイントとなる瞬間だったり、 そして、事件の真相が明かされるときだったり……。 それでは、ご健闘をお祈りいたします。 作者 拝
舞城王太郎『煙か土か食い物』
サンディエゴで救命外科医として働く奈津川四郎のもとに、故郷の福井で母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害に遭ったとの報せが届く。
怒りに駆られて帰郷した四郎は自ら犯人を追い始めるが、事件はやがて奈津川家に刻まれた凄絶な過去へ踏み込んでいく。
口語が雪崩れ込むような高速文体と、暴力まみれの家族ドラマが異様な熱量を生んでいる。勢い任せに見えて暗号や推理の芯は硬く、犯人を追うほど四郎自身の血筋や傷までむき出しに。
論理と暴力、家族への執着が猛烈な速度で衝突する舞城王太郎のデビュー作。
悠木四季ここから舞城王太郎が続く。ミステリではない作品もあるのだが、名作ばかりなのでご紹介したい。
舞城王太郎『世界は密室でできている。』
十五歳の西村友紀夫と、十四歳の天才探偵・ルンババは隣家に住む親友同士。
修学旅行先の東京で井上椿と榎の姉妹に出会ったことをきっかけに、二人は凄惨な密室殺人へ巻き込まれていく。福井、東京、大宮と舞台を移しながら、少年たちの成長とともに奇抜な不可能犯罪が次々と立ちはだかる。
アクロバティックな密室を連発しながら、その閉鎖空間を家庭環境や思春期の息苦しさにも重ねていくのが本作の面白さ。
福井弁まじりの高速な語り、猟奇事件、友情、青春の苛立ちが一気に流れ込み、最後には友紀夫がルンババを救おうとする切実な感情へすべてが集まっていく。
悠木四季密室を解く話でありながら、本当に描いているのは「どうやって外へ出るか」なのだ。
舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』
小説家の治は、悪性リンパ腫で恋人・吉村柿緒を失い、その喪失を抱えたまま彼女との日々を書き続ける。
現実の記憶の合間には、寄生生物に身体を蝕まれる恋人、夢の修理屋、神へ戦いを挑む男女など三つの物語が挟まれ、まったく異なる世界を通して同じ「愛」と「死」へ迫っていく。
恋人を失った悲しみを美しく整えるより、怒りも執着も創作への欲望もまとめて猛烈な言葉で叩きつける。その激しさの中心にあるのは、大切な人の幸福を願い続ける祈りであり、現実では救えなかった人を小説の中で何度でも救おうとする切実さだ。
タイトルの勢いそのままに、愛することを極端な場所まで押し進めていく。
悠木四季愛は祈りだ。 あまりにも有名なこの冒頭だけでもう全部持っていかれる。
愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。
舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』より引用
舞城王太郎『短篇七芒星』
連続足首切断事件の真相を語り合う男女、三十発に一発だけ弾丸が消える狙撃手、夜ごと集合住宅へ響く落下音、少年を守る意志ある石……。
『奏雨』『狙撃』『落下』『雷撃』『代替』『春嵐』『縁起』の7編を収録し、日常へ突然入り込む超常現象や暴力を、舞城王太郎らしい勢いで描いていく。
『代替』の冒頭、「ろくでもない人間がいる。お前である。」は、一度読めば忘れられない書き出しだ。
ろくでもない人間がいる。お前である。くだらないことに執着して他人に迷惑をかける人間がいる。これもお前である。何を触っても誰と関わっても、腐敗と不幸をもたらす人間がいる。まさしくお前である。
舞城王太郎『短篇七芒星』収録『代替』より引用
設定だけを見ると不穏で荒々しい話が並ぶが、その奥にあるのは家族や恋人、隣人を守ろうとする人々の感情である。
猟奇事件から戦争、魂の入れ替わり、生まれる前の記憶まで大胆に飛び回りながら、最後には他者を思う気持ちへ着地する。その振れ幅こそ、この7編を続けて読む醍醐味だ。
悠木四季暴力も怪異もぶち込みながら、最後は人を思う気持ちへ戻ってくるのが舞城王太郎なのだ。
舞城王太郎『短篇五芒星』
流産への怒りに取り憑かれる青年、人間の姿になった鮎と結婚する姉、四隅を巡る怪談の謎、バーベルをめぐる奇怪な記憶、家畜の死骸を鎧のようにまとう女子高生。
『美しい馬の地』『アユの嫁』『四点リレー怪談』『バーベル・ザ・バーバリアン』『あうだうだう』の5編を収録し、現実の常識を軽々と飛び越える物語が並ぶ。
怪異、推理、異類婚姻、暴力、ナンセンスまで作品ごとに大きく姿を変えながら、根底には世界の理不尽へどう向き合うかという切実さが流れている。
突拍子もない設定を全力で走らせ、その先から生命への祈りや他者を守ろうとする感情が顔を出す振れ幅こそ、舞城王太郎らしさ満載の5編だ。
悠木四季私が特に好きなのだ『四点リレー怪談』だ。怪談のからくりを論理で追う楽しさがある。
舞城王太郎『熊の場所』
十一歳の宏之は、クラスメイトのまー君がランドセルに猫の尻尾を隠し持っているのを目撃し、恐怖のあまり学校から逃げ出してしまう。
そんな息子へ、グリズリーと遭遇した経験を持つ父は、「恐怖を消すには、その源へ戻らなければならない」と教える。表題作『熊の場所』のほか、暴力の連鎖に呑まれる男を描く『バット男』、荒れた日常から抜け出そうとする少女を追う『ピコーン!』の全3編を収録。
三編を貫くのは、暴力や恐怖から逃げ続けるのか、それとも自分の足で向き合うのか、その切実な感情である。
猫殺しの噂から始まる少年の恐怖、弱者へ流れていく暴力、泥沼の関係からの脱出まで、舞城王太郎らしい高速の語りで人間の生々しい衝動を叩きつける。
悠木四季なかでも『熊の場所』が示す、怖かった場所へ自分から戻る発想は忘れられない。
舞城王太郎『されど私の可愛い檸檬』
夫の独自の愛情論に傷つき、福井へ逃げた姉を連れ戻そうとする妹を描く『トロフィーワイフ』。悲しい歌や物語を人が求める理由を、児童失踪と家族の告白を通して掘り下げる『ドナドナ不要論』。
そして、決断を先延ばしにしてきた青年が、仕事や恋愛、家族との関係を経て自分の生き方を選び取る表題作の3編を収録する。夫婦、姉妹、親子といった近しい関係だからこそ生まれるすれ違いや、善意の言葉が相手を傷つける瞬間を丁寧に描く。
派手な怪異や暴力より会話と心理へ軸足を置き、誰かを愛することと、その相手の人生を尊重することの難しさをじっくり掘り下げた家族篇。
早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』
絶海の孤島・再従兄弟島に集まったアウトドア仲間たちの前で、参加者の失踪と連続密室殺人が発生する。
通信を断たれた島で疑心暗鬼が広がるなか、赤毛の女子高生・上木らいちも事件の真相へ迫っていく。しかも本作では、伏字になった書名そのものが事件と直結している。
悪ふざけのように見える要素まで伏線として回収され、消去法による厳密な推理と突き抜けたバカミス精神が最後にぴたりと噛み合う怪作。
悠木四季伝説のバカミスである。未読ならぜひ最優先で読もう。
早坂吝『虹の歯ブラシ 上木らいち発散』
女子高生探偵・上木らいちは、自室で男性客を相手にしながら、警察から持ち込まれる難事件を解いていく。
本作は、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤と、虹の7色を各編のモチーフにした連作短編集だ。死体のカラーコピー、切断された教祖の四肢、住居侵入の謎など、事件ごとに趣向は大きく変化。
性的なモチーフまで論理やトリックへ組み込みつつ、各編に散らされた伏線が終盤で結びつき、上木らいち自身の秘密へ踏み込んでいく終盤の収束も見逃せない。
早坂吝『双蛇密室』
警視庁捜査一課の藍川刑事は幼い頃から、暗闇の部屋で2匹の蛇に襲われる悪夢に苦しんでいた。
相談を受けた上木らいちは、両親が語る過去の説明に食い違いを見つけ、藍川の出生と、かつて起きたSM作家の密室変死へ踏み込んでいく。
現在の殺人ではなく、過去に閉ざされた二つの密室を論理だけで掘り返していく設定が面白い。蛇の生態まで手がかりとして利用しながら、家族関係や出生の秘密を一つずつ削り、最後には犯人像そのものへの思い込みまでひっくり返す。
悠木四季早坂吝作品の中でも特に傑作だと思っている。
早坂吝『誰も僕を裁けない』
奇怪な館で社長一家を巻き込む連続殺人が起きる一方、高校3年生の戸田公平は資産家令嬢・埼と出会い、その豪邸で思わぬ事件へ巻き込まれる。
二つの物語はやがて接近し、密室殺人の解明から法律そのものの盲点へ踏み込んでいく。犯人や手口を突き止めても、それだけでは裁判で罪に問えない。そんな法的袋小路を利用して、事件をさらに一段ひねっている。
物理的な密室と刑法の論理を同時に解きほぐし、真相を知ることと人を裁くことの隔たりを突きつける上木らいちシリーズの異色長編。
矢野龍王『極限推理コロシアム』
目を覚ますと、駒形祥一は男女7人とともに「夏の館」へ監禁されていた。
別の「冬の館」にも同じ状況の参加者がいて、双方に紛れ込んだ殺人犯2名をテレビ電話越しの情報だけで特定できなければ、全員が命を失う。
相手側の現場を直接確認できないため、誰の証言を信じ、どの情報を渡すかまでが生死を左右する。殺人犯を探す推理戦と同時に、嘘や情報隠し、両館の利害まで絡む駆け引きが展開。
閉鎖空間のデスゲームと理詰めの犯人当てを真正面から組み合わせた、第30回メフィスト賞受賞作。
悠木四季正直に申し上げると、この作品は世間からの評価があまり高くない。とにかく万人受けしないのだ。その理由は読めばわかる。だが、私はこういう作品を面白いと思ってしまう捻くれ者なので、ここでおすすめとしてご紹介した。読むかどうかは、あなた次第。
木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』
非業の死を遂げた者たちが送り込まれるのは、閻魔大王の娘・沙羅が裁く冥界の法廷。
現世へ戻りたい死者に課される条件は、自分が殺された直前の記憶だけを手がかりに、犯人と殺害方法を突き止めることだ。
証拠を集める捜査はできず、頼れるのは自分が見聞きした記憶のみ。被害者自身が探偵役となって死の瞬間を組み直していく発想がユニークで、真相へ近づくほど、生前の人間関係や自分自身の過ちまで浮かび上がる。
論理的な謎解きと人生をやり直す物語が結びついた、第55回メフィスト賞受賞作。
宮西真冬『誰かが見ている』
過食に苦しむ保育士・春花、育児ブログで理想の母親を演じる千夏子、不妊と冷え切った夫婦関係に悩む結子、何者かの視線に怯える柚季。
異なる問題を抱えた4人の女性の日常は、千夏子の子どもが保育園から姿を消したことで大きく崩れ始める。嫉妬、承認欲求、母親であることへの重圧が複数の視点から描かれ、それぞれが見ている世界の食い違いが事件の印象を少しずつ変えていく。
終盤では散らばっていた人物関係や違和感が思わぬ形で結びつき、それまで信じていた関係性まで覆る。女性たちの息苦しい日常と叙述の仕掛けを絡めた、第52回メフィスト賞受賞作。
古泉迦十『火蛾』
12世紀の中東。修行僧アリーは、姿を見せない導師ハラカーニーと4人の行者が暮らす霊山へ入り、密閉された天幕「穹廬」で起きた不可解な殺人に遭遇する。
やがて同じ聖域で、常識では説明できない死が重なっていく。イスラーム神秘主義の思想や神学問答が、そのまま密室の論理へ接続されていく異色の組み立てが圧巻だ。
穹廬そのものを利用した不可能状況に加え、終盤では事件の理解だけでなく、物語世界の見え方まで大きく裏返る。宗教思想と論理がここまで深く絡み合う作品は珍しい。
鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』
密室で起きた殺人は、犯行方法を証明できなければ無罪。そんな判例が確定し、日本中で密室殺人が流行した世界。
密室好きの高校生・葛白香澄は、幼馴染とともに雪山のホテル「雪白館」を訪れるが、豪雪で孤立した館内では次々と密室殺人が発生していく。
犯人がわざわざ密室を作る理由を法律そのものに結びつけた設定が抜群に面白い。ひとつの長編に六つもの密室トリックを詰め込み、それぞれをテンポよく解き明かしていくため、とにかく密室の物量がすごい。
雪の館を舞台に、ハウダニットの快感をこれでもかと浴びせてくる作品だ。
鴨崎暖炉『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』
雪白館の事件を生き延びた葛白香澄のもとへ、10億円を懸けた〈密室トリックゲーム〉への招待状が届く。
舞台は絶海の孤島・金網島に建つ仕掛け屋敷で、友人の蜜村漆璃と参加した香澄を待っていたのは、ゲームを現実の殺人へ変えていく七つの密室だった。
前作を上回る七種類の密室に、からくり屋敷や犯罪代行業者まで投入され、物量もスケールもさらに拡大。
新たな不可能状況が現れるたびに論理で突破していく疾走感があり、終盤にはそれまでの出来事を別の角度からつなぎ直す伏線回収も待ち受ける。
降田天『女王はかえらない』
北関東の小学校で、クラスの女子を支配していた女王マキ。
そこへ東京から美少女・エリカが転校してきたことで教室は二派に割れ、子どもたちの意地と悪意がぶつかるなか、夏祭りの夜に決定的な事件が起きる。
前半は男子児童、続いて担任教師へと視点が移り、同じ教室で起きていた出来事の意味が少しずつ変化していく。
子どもの残酷さやスクールカーストを生々しく描きながら、終盤では散らばっていた違和感がつながり、それまで見えていた人間関係までひっくり返るのだ。
降田天『彼女はもどらない』
雑誌編集者の楓は、人気パパブロガーに皮肉交じりの批判コメントを書き込んだことをきっかけに、過去のブログや個人情報を晒され、現実世界でも嫌がらせを受け始める。
一方、病気の妻を抱える官僚・棚島もまた、ネット上で執拗に絡んでくる女性への憎悪を募らせていた。楓と棚島、二人の視点を交互に追ううちに、SNS上の悪意と現実の人間関係が少しずつ接近していく。
匿名性、承認欲求、正義感を盾にした攻撃が生々しく描かれ、二つの物語が交差した瞬間、それまで信じていた状況まで別の姿を見せる。ネット社会の怖さと叙述の仕掛けを結びつけた心理犯罪劇の秀作。
降田天『すみれ屋敷の罪人』
2001年、かつて「すみれ屋敷」と呼ばれた旧紫峰邸の跡地から、身元不明の白骨遺体が発見される。
紫峰家の当主と三姉妹は終戦直前の東京大空襲で全員死亡したはずだったため、西ノ森泉は生き残った元使用人たちを訪ね、半世紀以上前の記憶をたどり始める。
アガサ・クリスティの『五匹の子豚』や『スリーピング・マーダー』に代表される回想の殺人を、日本の近現代史へ移し替えたような味わいも魅力。証言を集めるほど、それぞれの思い込みや誰かを庇う嘘が重なり、過去の事件は別の姿を見せ始める。
戦前の名家、三姉妹、空襲、白骨死体を結ぶ秘密が明らかになるにつれ、タイトルにある『罪人』の意味にも深い哀しさが宿っていく。
中山七里『人面瘡探偵』
気弱な相続鑑定士・三津木六兵には、右肩に人の顔を持つ「ジンさん」が棲みついている。
頭脳明晰で毒舌なこの人面瘡とともに、六兵は莫大な遺産をめぐる調査のため信州の名家・本城家を訪れるが、やがて絵本の内容をなぞるような連続殺人が始まる。
因習の残る旧家と遺産争いへ、人面瘡を名探偵役として組み込んだ設定が大胆。頼りない六兵が現場で集めた情報を、二人きりになった後でジンさんが論理的に整理していく役割分担もユニークで、怪異と正統派の謎解きが自然に噛み合っている。
中山七里『人面島』
上空から見ると人の顔の輪郭を描く絶海の孤島・人面島へ、相続鑑定士・三津木六兵と右肩の人面瘡「ジンさん」が財産調査のため渡る。
島では有力者・鴇川行平の死をきっかけに跡目争いが激化し、台風で孤立したさなか、祈祷所の密室で長男が刺殺される。隠れキリシタンの歴史、埋蔵金伝説、島を二分する対立を背景に、ジンさんが限られた証拠から殺人の手口と犯人の心理を切り崩していく。
閉鎖的な島社会の濃い人間関係と、六兵とジンさんの凸凹コンビぶりもさらに深まるシリーズ第2弾。
まさきとしか『あの日、君は何をした』
2004年、北関東で暮らす高校生・大樹は、深夜に警察から逃げた末、トラックにはねられて死亡する。
なぜ模範的だった少年が家を抜け出し、必死に逃走したのか。その理由が分からないまま15年が過ぎ、東京で起きた女性殺害事件と男の失踪が、かつての事故へつながり始める。
二つの時代を行き来しながら、刑事・三ツ矢秀平が家族の証言や母親たちの愛情に潜む歪みを掘り起こしていく。遠く離れた二つの事件が結びつくにつれ、15年前の夜に隠されていた事実も姿を現す。
まさきとしか『彼女が最後に見たものは』
クリスマスイブの新宿で、路上生活をしていた初老の女性・松波郁子が殺害される。
ところが遺体の指紋は、一年前に千葉で起きた公務員刺殺事件の現場からも検出されていた。接点の見えない二つの殺人を結ぶため、三ツ矢秀平と田所岳斗は郁子が路上へ至るまでの人生を辿っていく。
捜査が進むほど浮かび上がるのは、家族のすれ違い、他人から幸福に見られたい欲望、SNSに作られた虚像である。その一方で、すべてを失った郁子が他者へ向け続けた優しさも少しずつ明らかになり、二つの事件がつながった先には苦さと温かさが同居する。
タイトルの意味まで含め、被害者の人生そのものが事件の核心へ食い込んでくる名作。
まさきとしか『あなたが殺したのは誰』
東京・中野のマンションで、シングルマザーの永澤美衣紗が頭部を殴られ、生後十ヶ月の娘・しずくが姿を消す。
現場には「私は人殺しです。五十嵐善男」と書かれた紙が残されていたが、その五十嵐は二ヶ月前の強盗殺人ですでに死亡していた。三ツ矢秀平と田所岳斗は、死者が残した自白の謎を追い始める。
一方で物語は三十年前の北海道・鐘尻島へ移り、バブル崩壊とリゾート開発の失敗によって追い詰められていく島民たちの姿を描く。現在の母子襲撃事件と、過去の首吊り死体や失踪事件が少しずつ結びつき、最後には題名そのものが別の重みを帯びて迫ってくる。
時間も土地も離れた二つの悲劇を、一つの因果へまとめ上げる展開が強い。
乙一『銃とチョコレート』
病気の母と貧しい暮らしを送る11歳の少年リンツは、亡き父の聖書から怪盗ゴディバの宝の隠し場所を示す地図を発見する。
憧れの名探偵ロイズへ手紙を送ったことをきっかけに、少年は怪盗を追う冒険へ足を踏み入れていく。チョコレートブランドを冠した名前や童話めいた世界観の裏で、格差や偏見、大人が振りかざす正義の欺瞞を容赦なく描いている。
少年の純粋な憧れが崩れていく過程と、冒険活劇から苦い人間ドラマへ変わっていく展開が乙一らしい。
遠藤かたる『推しの殺人』
大阪で活動する3人組地下アイドル「ベイビー★スターライト」は、ハラスメントや人気格差、恋人からのDVなど、それぞれ過酷な事情を抱えていた。
そんなある日、事務所で社長が殺され、3人は夢と居場所を守るため、死体を山中へ埋めて事件を隠す道を選ぶ。殺人の共犯者となったことで、もともと危うかった3人の関係に思いがけない結束が生まれるのが面白い。
地下アイドル業界の搾取や競争を背景に、隠蔽工作、新たな犯罪、周囲との騙し合いがテンポよく重なり、彼女たちは逃げ切るためさらに深い場所へ踏み込んでいく。
芦沢央『夜の道標』
1996年、横浜で塾経営者・戸川勝弘が殺害され、元教え子の阿久津弦が容疑者として浮上する。
しかし阿久津は姿を消し、事件は未解決のまま2年が経過。再捜査を命じられた刑事・平良正太郎は、匿われていた阿久津と、家庭で虐待に近い扱いを受ける少年・波留との意外なつながりへ近づいていく。
複数の人物の視点から、善意、正義、家族愛が時に人を追い詰める残酷さを描く。殺人の動機を追うほど、1990年代の制度からこぼれ落ちた人々の孤独が浮かび上がり、事件の真相と人間ドラマが重く結びついていく。
有栖川有栖『高原のフーダニット』
火村英生と有栖川有栖が活躍する作家アリスシリーズの中編集。
淡路島で起きた富豪殺しを追う『オノコロ島ラプソディ』、アリスが見る夢を10編描いた『ミステリ夢十夜』、双子の兄弟が相次いで殺される表題作の3編を収録している。
緻密なアリバイ崩しから幻想的な掌編、消去法で犯人を絞り込む正統派の犯人当てまで、火村とアリスの魅力を違った角度から味わえる内容。シリーズ20周年らしい遊び心と論理が詰まった三編だ。
似鳥鶏『推理大戦』
莫大な価値を持つ「聖遺物」を懸けた推理ゲームのため、世界各国から超人的な探偵たちが北海道の雪深い村へ集結する。
ところがゲーム開始直前、出題役の弁護士が刺殺され、競技は本物の殺人事件へ。AI、超高速思考、超感覚、嘘の見抜きなど、それぞれ異なる能力を持つ探偵たちが、同じ事件から別々の真相を導き出していく。
能力者バトルのような派手さと、多重仮説がぶつかり合う論理戦を同時に味わえる大作。
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』
急成長中のIT企業の最終選考に残った6人の大学生。当初は全員合格の可能性があったものの、直前になって内定枠は1名へ変更され、6人自身で合格者を決めることになる。
さらに会議室には、それぞれの過去を暴く告発文が入った封筒が持ち込まれ、協力関係は一気に疑心暗鬼へ。誰が嘘をつき、誰が封筒を用意したのか。
就活で見せる理想の自分と隠された素顔がぶつかり合い、真相が明らかになるたび登場人物の印象まで塗り替わっていく。
浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』
私立高校で、同じ遺書を残した生徒たちが相次いで命を絶つ。
主人公の友弘は、幼馴染みから「あれは自殺ではなく、誰かに殺された」と告げられ、同時に特殊な能力を手に入れる。
校内にはほかにも異能を持つ生徒が存在し、それぞれの力には厳しい発動条件と制約がある。友弘は能力そのものを手がかりに、連続死の背後に潜む人物と仕掛けを追っていく。
スクールカーストの息苦しさと特殊設定の論理が絡み合う学園ミステリの名作。
「違う」
「……何が?」
「人殺しがいる」
意味を、すぐには把握できなかった。しかし聞き返すタイミングを完全に逸してしまい、僕らの間には明らかに不自然で不気味な空白が生まれてしまう。僕は息をすることも忘れて、扉の隙間から次の言葉が繰り出されるのを待った。ほんの数秒、でも僕にとっては数十分にも感じられる沈黙の後、美月はようやく言った。
「助けて」
喉が震えていた。
「三人とも自殺なんかじゃない。燈花も、竜也くんも、健くんも、みんなあいつに殺されたの。このままじゃ、こずえも殺されちゃう」
『教室が、ひとりになるまで(角川文庫)』14,15ページより引用
桃野雑派『星くずの殺人』
地上約320キロの軌道上に浮かぶ民間宇宙ホテル「星くず」。
モニターツアーで訪れた6人の客を待っていたのは、無重力空間に吊られた機長の死体だった。通信も破壊され、さらに地上から「まだ戻るな」と警告まで届き、宇宙ホテルは究極の孤立空間へ変わっていく。
重力のほとんどない場所で、そもそも首吊りは成立するのか。微小重力下の物理法則や宇宙設備を手がかりに事件を解きながら、「なぜ宇宙で殺す必要があったのか」まで舞台設定そのものへ結びつける徹底ぶり素晴らしい。
小島正樹『武家屋敷の殺人』
孤児院で育った静内瑞希は、自らの出自を知るため川路弁護士へ生家の捜索を依頼する。やがて見つかったのは、神奈川県大和市に残る広大な武家屋敷。
そこには20年前から、氷室の消失、密室に現れるミイラ、首なし死体、死者の蘇生など、常識では説明しにくい事件が積み重なっていた。
一つでも長編の核になりそうな不可能犯罪を惜しげもなく投入し、それらをアリバイ検証や物理・心理トリックによって一つずつ崩していく豪快さが際立つ。
怪談めいた雰囲気で引っ張りながら、最後は徹底して理屈で決着をつける、小島正樹らしい重量級の館ものだ。
悠木四季怪異だらけの武家屋敷を、最後は全部理屈で片づける。その力技が最高の一本である。
天祢涼『キョウカンカク 美しき夜に』
女性を殺害した後、遺体を焼却する連続殺人鬼「フレイム」が星守市を騒がせる。
妹を事件で失った高校生・天弥山紫郎は、人の声や音を色として認識できる共感覚の持ち主・音宮美夜と出会い、彼女の助手として犯人を追うことになる。
特殊な知覚を武器にする探偵が登場しながら、真相へ迫る手順は物証と論理を積み重ねる正攻法。音が色に見える能力をどう推理へ生かすのか、犯人が遺体を焼き続ける理由は何なのか。
共感覚の設定と事件の核心が緊密につながり、最後まで勢いよく駆け抜ける天祢涼のデビュー長編。
悠木四季特殊能力ものに見えて、最後は物証と論理で勝負するのがいいのだ。
ここからホラー
悠木四季ミステリー小説だけをご紹介する予定だったが、どうしてもおすすめしたい読み放題のホラー作品があったので少しだけご紹介させてほしい。
夜馬裕『イシナガキクエを探しています』
『イシナガキクエを探しています』
失踪女性を追うテレビ番組の舞台裏まで掘り下げ、捜索そのものが怪異へ変わっていくフェイクドキュメンタリーホラー。
老人・米原実次が何十年も捜し続けた女性「イシナガキクエ」。
彼の死後、テレビ局がその捜索を引き継ぐと、視聴者から大量の情報が寄せられる一方、古い写真や肉声テープ、親族の証言から、この失踪には通常の行方不明者捜索では説明できない異変が浮かび上がる。
書籍版では番組制作に携わったADの兄による手記を軸に、放送の裏側で起きていた出来事まで描かれる。
さらに二次元コードから未公開音声や映像へアクセスでき、本そのものを調査資料のように読み進めることで実際の調査記録を追っているような生々しさが増していく。怖い。とにかく怖い。
悠木四季この本は、YouTubeで『イシナガキクエを探しています』の動画を観た後に読んでほしい。
原浩『身から出た闇』
作家・原浩のもとへ、角川ホラー文庫編集部から自由な短編集の執筆依頼が届く。
SNS、用水路、落書き、エレベーターなど身近な題材からホラーを書き上げていくが、原稿を提出するたび、打ち合わせに参加した編集者たちが休職や失踪へ追い込まれていく。
独立した短編の合間に編集部との対話記録を挟み、創作だったはずの怪異が執筆現場へ侵入してくる仕掛けが不気味。収録作を読み進める行為そのものまで物語の一部に取り込む、現実と虚構の境界を揺さぶるホラー作品。
寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』
『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』
人外の隣人と絶対に仲良くしなければならないマンションで、怪談と現実が交わり始める日常侵食ホラー。
母親からの虐待と搾取で住まいも貯金も失ったタカヒロは、住み込みの仕事を求めて古びたマンションへたどり着く。
提示された条件はただ一つ、「隣人と何があっても仲良くすること」。ところが隣室にいたのは、6本指と裂けた口を持ち、これまで23人もの担当者を逃げ出させた人外の存在だった。
一言でも機嫌を損ねれば命に関わる緊張感の一方、修羅場慣れしたタカヒロの受け流し方には変な可笑しさがある。隣人が毎晩語る怪談が、やがてマンションやタカヒロ自身の現実と重なり始め、奇怪な共同生活の奥に潜む秘密へ近づいていく。
寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください 2』
『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください 2』
人外の隣人との共同生活が、マンションの怪異とタカヒロ自身の過去へ広がっていく第2巻。
人外の隣人と奇妙な共同生活を続けるタカヒロの前に、ブラック企業時代の元同僚・弧見が現れる。
彼は住み込みの仕事と部屋を譲れと迫るが、隣人の危険性を知るタカヒロの警告を無視し、事態はマンション全体を巻き込む方向へ転がっていく。
前作より舞台が広がり、別フロアに棲む怪異や前任者イマイの過去、タカヒロの失踪した父親まで物語へ絡み始める。人間側の身勝手さと怪異側の掟がぶつかり、隣人との関係にも新たな変化が生まれる続編。
真島文吉『右園死児報告』
「右園死児」の名を人間や動植物、無機物などに与えると、必ず規格外の怪異が発生する。
そんな法則をめぐる非公式調査報告書を集めた異色作。明治25年から現代まで、政府、軍、警察、学者らが遭遇した事件が、乾いた公文書の形式で淡々と記録されていく。
序盤は短い怪異報告が連なるが、やがて探偵、国家機関、カルト、海外勢力まで絡み、物語の規模が一気に拡大。認識汚染めいた恐怖から、人類の存亡を懸けた異能者たちの抗争へ雪崩れ込む展開の振れ幅に圧倒される。
郷内心瞳『拝み屋怪談 花嫁の家』
現役の拝み屋・郷内心瞳が、自身の相談事例をもとに綴った最恐の実話怪談。
亡き母の霊や少年をめぐる怪異など、別々に見えた相談を追ううち、東北の寒村にある海上家と、「嫁いだ花嫁は3年以内に死ぬ」と恐れられる因習へ行き着く。
断片的な心霊体験が少しずつつながり、家に積み重なった女性たちの死と呪いの全貌が浮かび上がる組み立てが恐ろしい。
語り手の郷内心瞳自身も怯えながら現場へ向き合うので、作り物めいた安全圏が薄く、実録ならではの生々しさが最後まで付きまとう。
悠木四季あらゆるホラー小説の中でもぶっちぎりで怖い伝説の作品だ。初めて読んだとき怖すぎて逆に感動したのを覚えている。
吉田悠軌『怖い話を聞かされた』
新宿の商業ビルで起きる不可解な誤報、自室に現れる怪人物、屋根裏のコウモリ、同じ火曜日を繰り返す少女など、身近な場所で遭遇した怪談を集めた実話怪談集。
どの話も派手な演出に頼らず、日常のわずかな綻びから不穏さが広がっていく。さらに怖いのは、怪談を聞く行為そのものが恐怖の入口になっている点だ。
語り手から聞き手へ渡された話が、その人の日常にまで入り込んでいく感覚を淡々とした筆致で描き出している。
朱雀門出『妹が死んだ時の海亀』
お盆の海で禁忌を破った男たちが遭遇する表題作をはじめ、焚き火を囲む首のような塊、山中の荷台に残された異様なものなど、理解の枠から外れた怪異を全65話収録。
著者自身による不気味な怪画も添えられ、文章と絵の両方から悪夢めいた世界が広がっていく。「ワザマられる」「へれめてる」など意味をつかめない言葉まで入り込み、因果や怨念で説明できる怪談から意図的に距離を取る作風が強烈。
怖さと可笑しさの境界まで崩し、理屈で整理できない怪異だけを次々と突きつけてくる。
朱雀門出『アホになって死んで、後はカマキリの卵』
「けんちゃんだったとき、じいじに食べられた」と話す幼児、深夜のオフィスに貼られた不穏な紙、風呂場に現れる正体不明の存在……。
理解しようとするほど足場が崩れるような怪異を全62編収録する。ドールハウスの奥の絵や団地に埋まった小人の右手など、日常へ唐突に入り込む異常な光景も次々と現れる。
因果も理由もほとんど与えず、恐怖と滑稽さを同じ場所へ放り込む朱雀門出独特の怪談世界がさらに加速。意味を整理する暇さえ与えず、他人の悪夢をそのまま覗き込んだような感覚へ引きずり込む。
阿刀田高『冷蔵庫より愛をこめて』
精神を病んだ夫と、献身的に支える妻の家庭を描く表題作をはじめ、他人の葬儀へ通い続ける女、美食家が見る不穏な夢、鸚鵡が暴く過去の情事など全18編を収録。
どれも身近な日常から始まり、いつの間にか人間の悪意や狂気へ足を踏み入れていく。家庭や職場など平凡な場所へブラックユーモアと毒を忍ばせ、ラスト数行で物語の意味を塗り替える切れ味が阿刀田高らしい。
短い作品の中で笑い、不気味さ、残酷さを自在に操る、初期を代表する短編集。
阿刀田高『ナポレオン狂』
ナポレオンの遺品収集に人生を捧げる大富豪と、自分こそナポレオンの生まれ変わりだと信じる青年が出会う表題作をはじめ、不審な雑役婦につきまとわれる主婦を描く『来訪者』、歯への執着が暴走する『白い歯』など全13編を収録する。
日常の中に潜む偏執や悪意を軽やかに描きながら、最後にはぞっとする結末へ導く切れ味が抜群。ロアルド・ダールやスタンリイ・エリンにも通じるブラックな味わいと、無駄を削ぎ落とした短編技巧を存分に楽しめる直木賞受賞作。
阿刀田高『新装版 食べられた男』
絶世の美女と結婚した親友S君の身体に、少しずつ異変が起こり始める表題作をはじめ、男女の愛憎、都市生活の不条理、企業社会への皮肉などを描いた全41編を収録。
数ページほどの短さから、平凡な日常が思いもよらない方向へ転がっていく。SF的な着想を得意とした星新一に対し、阿刀田高は大人の情愛や虚栄心、人間心理の暗部へ鋭く切り込む。
ユーモアから残酷なブラックオチまで、わずかな紙幅で鮮烈な結末へ運ぶショートショートの技巧を堪能できる一冊。
悠木四季阿刀田高の『冷蔵庫より愛をこめて』『ナポレオン狂』『食べられた男』はミステリでもホラーとも言いにくい、いわゆる「奇妙な味」と呼ばれるジャンルの名作だ。
阿刀田高『自選恐怖小説集 心の旅路』
記憶と現実の食い違いに揺れる表題作『心の旅路』をはじめ、旅先で過去の愛人を思い出す『らせん階段』、不可思議な女性をめぐる『熱病』、大企業のビルに潜む不穏さを描く『屋上風景』など全13編を収録する。
怪物や派手な残酷描写に頼らず、記憶の曖昧さや人間心理の揺れから恐怖を立ち上げるのが阿刀田高らしい。日常と幻想の境界がいつの間にか崩れ、大人びた情感と冷たい怖さが同居する自選ホラー集。
澤村伊智『ぼぎわんが、来る』
会社員・田原秀樹のもとへ、誰にも教えていないはずの娘の名前を口にする謎の訪問者が現れる。
幼い頃に聞いた、人をさらう化物「ぼぎわん」を思い出した秀樹は、オカルトライターの野崎や霊媒師・比嘉姉妹へ助けを求める。語り手が秀樹から妻の香奈、さらに野崎へ移るにつれ、理想的に見えた家庭の裏側や夫婦の認識のずれが露わになっていく。
怪異の恐怖と、育児の孤立や家族の欺瞞を重ね合わせ、人間側の醜さまで容赦なくえぐる第22回日本ホラー小説大賞受賞作。
悠木四季なんと澤村伊智の『比嘉姉妹シリーズ』が今なら読み放題!
澤村伊智『ずうのめ人形』
オカルト雑誌で働く藤間は、不可解な死を遂げたライターが残した未発表原稿を預かる。
そこには、目や口を糸で縫われた「ずうのめ人形」と、怪談に触れた者が次々と死ぬ都市伝説が記されており、原稿を読んだ藤間にも人形の影が迫り始める。
作中の原稿を検証しながら、虚構として書かれた怪談がなぜ現実の呪いを生むのか、その矛盾を比嘉真琴と野崎が追っていく。
物語を知りたい好奇心そのものが怪異を広げる仕掛けも不気味で、都市伝説と人間の悪意が巧みに絡み合う。
澤村伊智『ししりばの家』
夫の転勤で上京し、孤独を深めていた笹倉果歩は、幼馴染の平岩敏明と再会する。
招かれた平岩家では、部屋中に細かな砂が散らばり、「さああ」と擦れる音が絶えない。それでも家族は異常を気にも留めず、果歩だけが家に潜む何かへ気づき始める。
砂のざらつきや音を使った生理的な怖さに加え、異常な環境へ家族全員が順応している不気味さが際立つ。
屋敷そのものが住人を取り込み、欠けた家族を補おうとするような恐怖の中で、比嘉琴子の過去にも触れていくシリーズ第3作。
澤村伊智『などらきの首』
貸事務所だけ退去が続くビル、雨の日の学校に現れる少女の霊、居酒屋で起きる異変、大学の自主映画をめぐる殺人など、日常へ怪異が入り込む全6編を収録。
野崎と真琴の初対面や高校時代の野崎も描かれ、シリーズ人物たちの過去を知れる作品集でもある。怪異の裏側を論理で説明し、一度は事件が解決したかに見せながら、その説明からこぼれ落ちた「本物」が最後に顔を出す瞬間が最高に恐ろしい。
第72回日本推理作家協会賞短編部門受賞作『学校は死の匂い』を含み、謎解きと怪談の怖さを短編ならではの切れ味で融合させている作品集。
澤村伊智『ぜんしゅの跫』
人の本性を映す鏡、都市伝説の少女、30年前に消えた子ども、病棟に現れる赤い制服の少女など、シリーズの人物たちにまつわる怪異を全5編収録。
野崎と真琴の結婚後を描く表題作では、夜の街で建物や人を襲う不可視の巨大怪異「ぜんしゅ」に比嘉琴子が挑む。長編で描かれた事件の前後を補いながら、怪異以上に人間の身勝手さや残酷さを掘り下げていく。
琴子と真琴の霊能への向き合い方の違いや、姉妹の不器用な関係まで味わえるシリーズ第2短編集。
澤村伊智『ばくうどの悪夢』
父の故郷へ引っ越してきた少年は、夜ごと何者かに追われる悪夢を見るようになる。
しかも夢の中で負った傷は、目覚めた後も痣となって身体に残り、同じ悪夢を見ていた同級生たちは次々と変死。野崎昆と比嘉真琴の助けで危機を逃れたはずが、今度は夢の中に比嘉琴子が現れ、少年へ襲いかかる。
眠ること自体が死へ直結する逃げ場のなさに加え、シリーズ随一の守護者だった琴子が脅威として立ちはだかる展開が衝撃的。甘美な夢を与える「ばくうど」の誘惑と現実の苦痛が絡み合い、夢と現実の境目を失わせていく。
澤村伊智『さえづちの眼』
育児放棄や非行に苦しむ少年少女を預かる施設を描く『母と』、1981年のUFO目撃事件を追う『あの日の光は今も』、昭和初期の名家と大蛇の神をめぐる表題作『さえづちの眼』の3編を収録。
真琴、野崎、琴子がそれぞれ異なる怪異と向き合い、その背後にある家族や土地の因縁へ踏み込んでいく。母性、血筋、家を守るための選択が、世代を越えて新たな呪いを生み出していく構図が重くのしかかる。
UFOから土着神まで題材を大きく振りながら、人を救おうとした思いさえ怪異の源へ変わる残酷さを描く中篇集。
澤村伊智『すみせごの贄』
四本腕の鍾馗像、脱出不能の温泉旅館、毎週火曜に現れる女性、無人島に繁殖する未知の菌類など、現代社会の身近な歪みと怪異を結びつけた全6編を収録。
不登校、児童虐待、動画配信、もの作りへの執着といった題材を通して、日常のすぐ隣に潜む恐怖を描いていく。怪異そのものに加え、人間の欲望や無関心が惨事を育てていく展開が重い。
『とこよだけ』の精神汚染や表題作の一族をめぐる秘密など、話ごとに恐怖の形を変えながら、シリーズ世界をさらに広げる第3短編集。
澤村伊智『一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集』
飛び降りが続く高層マンション、小学校から届く保護者向けプリント、児童の作文、職場で交わされる何気ない会話など、身近な形式や日常風景をそのまま恐怖へ変えた全21編の掌編集。
わずか数ページの中で、怪異、人怖、不条理、ブラックユーモアまで自在に行き来する。
特に面白いのは、プリントや作文、会話文そのものに異変を忍ばせ、説明されない部分から恐怖を想像させる手法だ。
短いからこそ最後の一撃が鋭く、見慣れた日常が急に不穏なものへ見え始めてくる。
おわりに

さて、ここまでKindle Unlimitedで読み放題になっているおすすめ小説をまとめてご紹介させていただいた。
改めて並べてみると本当にラインナップが強い。これだけの作品を月980円で好きなだけ読めるのだから、やっぱり凄すぎると思うのだ。
気になった作品があったら、ぜひ読み放題のうちに手に取ってみてほしい。
最初にも言ったのだけれど、Kindle Unlimitedは対象作品の入れ替わりがあるため、あとで読もうと思っているうちに対象外になることが頻繁にある。私自身、それで何度も悔しい思いをしてきたので、気になる本は早めにチェックしておくのがおすすめだ。
この記事も、今後ラインナップに合わせて定期的に更新していく予定である。
新しく読み放題へ加わったおすすめ作品はどんどん追加するし、対象から外れた本は順次整理していく。
たまに覗きに来ていただければ、まさかこの本まで読み放題に!と、思いがけない作品との出会いがあるかもしれない。
せっかくの読み放題サービスなのだから、普段なら手を出さない作家、気になっていた話題作、タイトルだけ知っていた作品まで、気軽にどんどん読んでみよう。
次の一冊を探すとき、この記事がその入口になればうれしい。
そんなわけで、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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