伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』- 飛沫感染で能力発動!未来を見る国語教師がテロ事件に対峙

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中学校の国語教師・檀には、特殊能力があった。

他人の飛沫に触れると「感染」し、その人の未来が見えるようになるのだ。

檀はこの能力を「先行上映」と呼んでいた。

ある時この「先行上映」で教え子を事故から救ったところ、能力が内閣府の里見にバレてしまった。

しかもその里見が、突然失踪する。

「先行上映」によると、里見はどうやら自爆テロの被害者家族サークルのメンバーに監禁されているらしい。

檀は助けに行こうとするが、自身もまた監禁されてしまう。

調べると、このサークルはテロの被害者団体でありながら、自分たちもテロを計画していることがわかった。

放置すれば被害者が多数出ることになる。

「どうすればテロを阻止できるだろうか」

拘束中の身で考える檀だったが、突然目の前に、あり得るはずのない謎の二人組が現れて―!?

目次

奇抜な特殊能力「先行上映」

『ペッパーズ・ゴースト』は、特殊能力を持つ国語教師・檀が、謎のサークルが計画した爆破テロ事件に巻き込まれていくエンターテイメント長編です。

物語は主に三つのパートに分かれていて、檀のパートと、檀の教え子が書いた小説のパートと、サークル側のパートが切り替わりながら進んでいきます。

それぞれ全くバラバラの展開ですが、少しずつ共通点が見えてきて、最終的には意外な形でひとつに繋がっていく展開が魅力です。

メインとなるのは、主人公・檀の視点で進むパート。

見どころは、なんといっても檀の能力!

発動条件が少し変わっていて、なんと「飛沫感染」だったりします。

他人が近くでくしゃみなどをすると感染し、その人が翌日に見る光景が頭に浮かぶのです。

ちなみに他人と同じコップを使ったときでも発動します。

「飛沫感染」というとコロナやインフルエンザなどで怖いイメージがありますが、それを特殊能力の発動条件にしているところが奇抜で面白いですよね。

檀はこの能力「先行上映」を使ってテロ事件に関わるのですが、その使い方がまた面白い。

犯人グループの行動や計画を探るために、檀はなんとか飛沫をゲットしようとするのです。

あの手この手で感染しやすい状況に持っていく様子は、面白くもあり頼もしくもありました。

そもそも檀は決して勇敢ではなく、むしろ地味なタイプで、カッコいい立ち回りは全然できないし、逆にひどい目に遭いまくります。

でも過去に人を救えなかったトラウマがあって、だからこそ「今度こそは!」という思いで奮起するのですよね。

泥臭くも頑張り続ける檀を、読者はどんどん応援したくなってきます。

そこも、このパートの見どころです。

ギャップが面白カッコいい作中作

ひときわ異彩を放っているのが、檀の教え子が書いた小説パート。

「ネコジゴ・ハンター」を名乗る二人組の殺し屋・アメショーとロシアンブルの物語です。

ネコジゴとは「猫ゴロシ」の略で、かつてインターネットで配信されていた猫の虐待動画シリーズ。

二人は猫好きの富豪に雇われて、「猫ゴロシ」の関係者たちに制裁を加えています。

猫が受けた虐待と「同じこと」を、きっちりやり返すのです。

この物語は作中作の形式になっているため、そのものを読むことができます。

何が面白いって、アメショーとロシアンブルのキャラクター性!

アメショーは楽天的で活発で、挨拶は「ハラショー、アメショー、松尾芭蕉」(笑)

こう言いながら颯爽と登場するだけでもインパクト抜群なのに、ニッコニコの笑顔で残虐な仕返しをビシバシ進めていく容赦のなさといったらもう。

明るさとえげつなさのギャップが凄すぎて、目が釘付けに。

そして相方のロシアンブルも、これまた強烈なキャラクターです。

アメショーとは逆に暗くて悲観的で、大きなことも小さなことも、とにかく片っ端から心配しまくります。
だけど仕返し作業はやはりビシバシえげつないという(笑)

こんな個性的な二人による勧善懲悪ドラマが繰り広げられるわけですが、これだけでも十分すぎるほど面白カッコいいのに、中盤を過ぎると、さらに爆発的に面白くなります。

この作中作が、あるシーンを境に本編と繋がるのです。

それも、とんでもなく驚きの繋がり方で!

さらに第三のパートも加わり、これにより三つのパートはひとつに重なり、物語は一気にクライマックスへと突入します。

魅力の非常に多い作品ですが、ここからが最高の見どころ。

一瞬も目が離せない怒涛の展開が、ラストまで続きます。

伊坂ワールドの集大成と言うべき大傑作

『ペッパーズ・ゴースト』は、作家デビューして25周年を迎える伊坂幸太郎さんの、集大成と言える作品です。

伊坂さんは、2000年に『オーデュボンの祈り』でデビューして以来、『重力ピエロ』や『逆ソクラテス』など数々の作品を世に出し、そのたびに世間を驚かせてきました。

どの作品も伏線の量が半端ない上、一見バラバラに見える展開がラストに一気に繋がるという離れ業を見せてくれるからです。

驚きと爽快感に溢れる作風は高く評価され、今日までに伊坂さんには多数の文学賞が贈られました。

かの英国ダガー賞にも、日本人作家で初めてノミネートされたほどです。

このように国内のみならず世界からも注目されている伊坂さんが、25周年という節目に満を持して世に出した作品が、本書『ペッパーズ・ゴースト』です。

設定の面白さといい、キャラクターの個性といい、パートの絶妙な繋がりといい、伊坂ワールドが見事に炸裂しています。

伊坂さん作品の魅力が集約されていると言っても過言ではないくらいの傑作だと思います。

特にネゴジゴ・ハンターの二人は、カッコよくて、容赦なさ過ぎて(笑)、「ハラショー、アメショー、松尾芭蕉」の挨拶も含めて最高でした!

彼らが活躍する別の作品も、伊坂さんにぜひ執筆していただきたいくらい。

伊坂ファンの方にはもちろん、まだ伊坂ワールドをご存じない方にも、文句なしにおすすめの一冊です。

読んで損ナシ、ぜひご堪能あれ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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