凪良ゆう『汝、星のごとく』- 母親の呪縛に囚われた二人の純愛と試練とは

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瀬戸内海の島で生まれ育った暁海(あきみ)は、夫の不倫に傷付いて立ち直れないでいる母親を支えながら高校に通っていた。

ある時、島に同い年の男の子・櫂(かい)が引っ越してきた。

櫂の母親は男性にひどく入れ込むタイプで、島に来たのも京都で出会った男を追ってきたからだという。

共に母親に振り回される人生を過ごしてきた暁海と櫂は、互いに惹かれ合い、付き合うようになる。

ところが高校を卒業した後、櫂は漫画の原作者を目指し、東京に行ってしまう。

暁海も大学進学のために上京しようと思ったが、心身を病んだ母親を放っておけず、島に残ることにする。

離れ離れになった二人。

やがて櫂は原作者として成功して著名になり、暁海との距離はだんだんと開いていく。

母親から離れて自立しようと考え始める暁海。

ところがそれを阻むかのように母親は次々に面倒事を起こし、さらに櫂の母親にまが金の無心をしてくるようになり――。

毒になる親を捨てきれない二人が紡ぐ、儚くも激しい純愛ドラマ。

目次

毒親の支配とそこから始まる恋

『汝、星のごとく』は、毒親に翻弄されてきた暁海と櫂が、恋や挫折や葛藤を経て自分の人生を掴んでいく物語です。

暁海が17歳の時に櫂と出会い、その後30歳になるまでが描かれています。

まずは大人になった暁海のモノローグからスタート。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く」

という、どこか不穏なモノローグです。

夫が恋人に会いに行くなんて、明らかに結婚生活がうまくいっていない感じですし、そもそも「夫」とは誰のことなのか。

櫂かもしれませんし、別の男性かもしれません。

未来が決して順風満帆ではないことを漠然と予測しながら、読者は読み進めることになります。

プロローグが終わると、17歳の暁海と櫂とが描かれます。

どちらも母親に振り回される生活をしていて、見ていて可哀想になるくらい。

暁海は、夫の不倫でふさぎ込む母親を支えるため、家事と学校を両立させつつ、終わらない愚痴を聞き、効果のない慰めを続ける日々。

一方櫂は、男にだらしない母親のせいで、村でヒソヒソ噂されたり冷たい目で見られたり。

母親は、男に夢中になっては櫂を放置して男を追いかけて、そのくせ男に捨てられると、櫂にベッタリと甘えてきます。

でもだからこそ櫂は、現実逃避のために物語を作る作業に没頭し、漫画原作者の卵として開花します。

このように二人とも毒親の餌食になっていて、そのためか出会ってすぐに恋が芽生えました。

読者としては、幸せな恋になるよう応援したくなるのですが、でもあの冒頭のモノローグが不意に脳裏によみがえってくるのです…。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いに行く」

彼らにはこの先、どんな恋が、どんな人生が待っているのでしょうか。

狂い続ける歯車、抗えない呪縛

中盤になると『汝、星のごとく』は、序盤とは別の意味で暗く重くなっていきます。

まず櫂が漫画原作者として上京することで、二人は遠距離恋愛になります。

櫂は夢を叶え、無事に毒親の元から離れることができたわけですね。

でも暁海の方は相変わらず母親の呪縛に囚われており、しかも忙しくなった櫂とはすれ違い気味。

ここからは物語にどんどん暗雲が立ち込めてきます。

暁海が別れを切り出したり、母親が霊感商法に手を出したため借金することになったり。

櫂の方は、ある事件から仕事を失ったり、病魔に侵されてしまったり。

とにかくもう、あらゆる不幸が押し寄せてくるような感じで、可哀想で見ていられなくなります。

だって暁海も櫂も、本人たちは全然悪くないのですよ。

母親だったり仕事仲間だったり、自分以外の誰かが発端となって歯車がどんどん悪い方向に回り、落ちるところまで落とされてしまうのです。

腹が立つのは、やはり二人の母親ですね。

暁海の母親は、夫の不倫で深く傷付いたからとはいえ、娘の青春を奪った上に借金までさせるなんて、ひどすぎます。

櫂の母親も、櫂が漫画原作者として成功したらお金の無心をするくせに、病気になったらお見舞いにも来ないとか、自分勝手すぎませんか?

そんなわけで読者としては、毒親たちに憤りつつ、暁海と櫂の幸せを祈るようにして読み進めることになります。

暁海は毒親の呪縛を解き放ち、自立できるのか。

櫂は病魔に打ち勝つことができるのか。

そしてあの冒頭のモノローグが持つ意味とは何なのか。

全ては終盤になってから明かされますので、ぜひそこまでご自身で到達してください。

ラストが近付くにつれ涙があふれて止まらなくなるでしょう。

自立と人生とを考えさせてくれる傑作

『汝、星のごとく』の作者・凪良 ゆうさんは、数々のヒューマンドラマやBL作品を世に出している作家さんです。

人物の内面や関係性を巧みに掘り下げて、心の機微を細やかに描く作風で定評があります。

主要人物の多くが、どこか世間になじめないマイノリティであるところも特徴のひとつですね。

本書『汝、星のごとく』は、まさにその作風をギュッと凝縮したような作品です。

毒親の影響で普通の高校生としての青春時代を過ごすことができず、その後の人生も歯車が狂い続けた暁海と櫂。

恋をすることも夢を追うことも阻まれ、自分の人生を自分で決めることが許されなかった二人。

「わたしたち、なにか悪いことしてるの?」

暁海の叫びが読者の胸を抉ります。

高校卒業後は櫂は独り立ちし、その後暁海も自立しますが、それでもなんだかんだと母親の呪縛は続きます。

表面上の自立はできても、本当の意味での自立はそう簡単にはいかないのです。

最終的には二人とも、それぞれ別の形で「解放」されるので、その点からも『汝、星のごとく』は、自立や人生について学ばせてくれる作品だと思います。

物語としてもグイグイ読ませる面白さがありますし、人生の教訓にもなります。

多くの方に、ぜひぜひ読んでいただきたい作品です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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