知念実希人『ヨモツイクサ』- 禁域に潜む未知の生物が巻き起こす戦慄のバイオ・ホラー

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北海道の「黄泉の森」と呼ばれる場所で、リゾート施設の開発中、作業員たちが突然行方不明になった。

作業場に残されていたのは破壊されたトラックや発電機、そして作業員のものと思われる内臓の一部。

さらに現場付近の土中で、食い荒らされた作業員たちの遺体も発見された。

ここには古くから「入るとヨモツイクサに食われる」という言い伝えがあり、7年前にも一家が行方不明になる神隠しのような事件が起こっていた。

この言い伝えと2つの事件には、何か関係があるのだろうか?

その後、警察からの依頼を受けて道央大病院が遺体の司法解剖を行うと、また新たな謎が浮上した。

腐乱した遺体の中で、小さな虫のようなものが発光しながらうごめいていたのだ。

この虫こそが、ヨモツイクサなのか―?

究極の遺伝子を持つ未知の生物に挑む、身震い必至のバイオ・ホラー!

目次

グロ描写が医学的で超リアル

『ヨモツイクサ』は、禁域とされる黄泉の森の謎を描いたバイオ・ホラーです。

主人公は、7年前の一家神隠し事件で婚約者を失った刑事・小此木と、その婚約者の妹で外科医の佐原茜。

この二人が、事件の真相を追及しつつ、謎の生物ヨモツイクサの正体を暴いていきます。

もうプロローグからオカルト展開まっしぐらで、古い伝承にゾッとさせられまくりなので、お覚悟を。

続く第一章では、今度は全力のグロ展開!

行方不明になった作業員たちの遺体が、土饅頭(ヒグマなどの猛獣が、食べきれないエサを隠すために一箇所にまとめて土や葉をかぶせたもの)の状態で発見されるのですよ。

遺体はどれも人としての原型を保っておらず、腐臭を漂わせており、眼球を失った眼窩には蛆が湧いていて……、とさんざんな状態。

その描写がなんとも丁寧で細かくて、おかげでリアルな映像が頭に勝手に浮かんでしまうし、腐臭まで感じてしまいそうなレベルです。

さらにこの遺体を主人公の茜や教授が司法解剖するのですが、そのシーンもとにかくリアル。

特に、蛆が…蛆が…、あんなふうに利用するなんて怖すぎる(泣)

また、警察はこの事件をヒグマの仕業だと考え、猟師と一緒に熊を追うのですが、そのシーンには別の怖さがあります。

ヒグマの頭は鉄兜みたいに頑丈で、警察の拳銃なんて跳ね返すし、怒ったら人間の体を和紙みたいに簡単に引き裂いてしまうのです。

グロとは違うバイオレンス的な恐怖であり、あまりの迫力に目が離せなくなります!

未知の生物の気味悪さに震撼

さて第二章に入ると、新たな展開により違う恐怖が襲い掛かってきます。

作業員の遺体から発見された謎の生物の研究が進められるのですが、これが薄気味悪いのなんのって!

見た目は小さなクモのようなのですが、未知の遺伝子を有しており、人を食らったり操ったりするのです。

現にこの生物に操られたある少女は、人間とは思えない異様な動きをするのですよ。

しかも彼女の脳からは、その生物が発した未知の物質が発見されますし、子宮には産み付けられたであろう卵が…!

つまりこの生物は、人間を介して繁殖しているわけですね。うーん、気持ち悪いし怖すぎるッ!

この生物、当然放置しておくわけにはいかないので、茜たちは最新の医療技術や科学技術を駆使して対抗するのですが、それがまた怖くて。

遺伝子の仕組みや水平伝播といった専門的な説明が出てきますし、医学的根拠も説明されるので、すごく説得力があって、読者はこの生物が実在しているような錯覚にとらわれるのです。

さらにさらに、終盤入ってこの生物と対決するシーンでは、驚愕の真相と大迫力のアクションで身が縮まる思いがします。

いやまさか、あの生物の顔があんなことになるなんて……!

でも一番怖いのは、なんといってもラストシーン。

一応の解決をし、みんながようやくホッとしたところで、諸悪の根源とも言うべき存在が姿を現すのですよ。

そいつがある選択をするのですが、それがめちゃめちゃ怖くて、この先を生きていくことが不安になるレベル!

身震いすること間違いなしのラストシーン、どうかぜひご自身で読んでみてください。

多分、読んだが最後、しばらくはある種の物事に怯えながら生活することになると思います。

多様な恐怖を味わえる贅沢なホラー

『ヨモツイクサ』の作者・知念 実希人さんは現役医師でありながら、小説も執筆している作家さんです。

そのため知念さんの作品は、医療現場が舞台だったり、医学的なトリックが出てきたりすることが特徴なのですが、本書『ヨモツイクサ』もやはり医学知識が満載。

とりわけ遺体や司法解剖の様子が秀逸で、肉や血の色さえ鮮やかに想像できてしまうほどリアルな表現の数々は、医療従事者の知念さんならではです。

しかも『ヨモツイクサ』は、バイオ・ホラーというジャンルの特性上、医学的な怖さがより強く出ていますから、知念さんの作品のそういった部分が好きな方には特に面白く読めると思います。

そして、物語を追うごとに怖さの種類が変わっていくところも『ヨモツイクサ』の特徴。

プロローグのオカルトチックな怖さから始まり、グロすぎる遺体、狂暴なヒグマ、未知の生物に卵を産み付けられる気色悪さ、学術的な説明による真実味、バトルでの危機など、次々に恐怖が様変わりするのです。

そのため読者は、その都度違う種類の恐怖に震え上がることになります。

多様な恐怖を味わえるのですから、『ヨモツイクサ』はとても贅沢なホラー小説と言えます。

何より、とてつもない不安を掻き立てるあのラストシーン!

個人的には、それまでのどのシーンの恐怖にも勝っていると思いますし、今こうして『ヨモツイクサ』をご紹介しているのも、あの怖さを実際に味わってもらいたいがためだったりします。

怖いもの好きな方には、間違いなく一読の価値ありの作品ですので、ぜひお手に取ってみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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