八丈島から30キロの場所に浮かぶ無人島に、6人の男女が集められた。
共同生活の中で育まれる恋心を撮影する恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」のためだ。
出演者としてやって来た小口栞は、一人いたたまれない気分でいた。
他のメンバーが人気女優や俳優、モデルといった美男美女であるのに対し、自分は売れないミステリー作家で、しかもコミュニケーションも恋愛の駆け引きも苦手だったからだ。
そのような中で、突然事件が起こる。
一番人気の女優が、密室内で死体となって発見されたのだ。
一体、誰がどうやって、何のために殺したのか。
折悪く高波により渡航禁止の状態が続いており、島には外部からの助けを呼ぶことができそうにない。
ほどなくして島では、本格的な殺戮が始まってしまい―。
モデルもアイドルも探偵役
無人島での恋愛リアリティ―ショーの撮影中に、連続殺人事件が起こるという本格ミステリーです。
恋愛リアリティ―ショーということで、序盤こそノリはラブコメ調。
陰キャの栞が、人気女優の思わせぶりな態度にドギマギしたり、可愛いけど高圧的なグラビアアイドルに辟易したりで、読者をニマニマさせてくれます。
でもそんな平和的な雰囲気はすぐに終わり、最初の事件が起こります。
人気の女優が、密室で何者かに殺されるのです。
場は騒然とし、凍り付く出演者たちに、どこか含みがありそうなスタッフたち。
高波のせいで警察を呼ぶこともできず、緊迫感はみるみる高まります。
そしてここからが第一の見どころで、出演者たちが全員、探偵役となって推理を始めるのです。
ある者は正義感から、ある者は恐怖心から、ある者は異性に良いところを見せようとする虚栄心から、そして栞はミステリー作家としての本領発揮といわんばかりに、それぞれに推理して持論を披露します。
しかもどの推理も鋭くて、着眼点も新しくて、「なるほど!」と読者を唸らせてくれるのです。
その推理合戦さながらの様子は、ミステリー好きを心底ワクワクさせてくれます。
番組制作という特殊な環境下ゆえに、常に定点カメラが回っているところも面白いです。
随所に設置されたカメラが各人の行動を記録しているので、それがアリバイ証明になるのです。
逆に、カメラを利用したアリバイ捏造の可能性もあるので、これにより事件の複雑性は大幅にアップ!
果たしてどれが現実で、どれが虚構なのか?
登場人物と一緒に読者まで翻弄されます。
二つの視点、二つの惨劇
第二の見どころは、最初の密室事件後に始まる惨劇です。
スタート時は出演者六名+スタッフ三名だった人数が、どんどん殺されて減っていくのです。
それに伴って、残るメンバーの疑心暗鬼がヒートアップ!
なんせ島はクローズドサークル状態ですから、最初から何者かが忍び込んでいない限り、絶対にメンバーの中の誰かが殺人犯ですよね。
一体犯人は誰なのか、次に狙われるのは誰なのか、疑念が渦巻いて、壮絶な心理戦が始まります。
この緊迫感が凄まじくて、読者までつい一緒にヒヤヒヤ、ギクギク!
また『好きです、死んでください』には、栞を主人公としたパート以外に、もうひとつ、三年×組の高校生・坂東未来の視点で語られるパートもあって、ここも実にハラハラさせてくれます。
栞は「クローズド・カップル」の出演者という立場ですが、それに対して未来は「クローズド・カップル」の視聴者の立場からスタート。
といっても、未来は恋愛リアリティ―ショーにさほど興味を持っているわけでもなく、周囲と話を合わせるために仕方なく視聴している感じです。
テレビ番組だけでなく、SNSや漫画の話なども、未来は無理して自分を周囲に合わせようとします。
そんな彼女の境遇と、栞が巻き込まれた事件は、一体どのように絡み合い、どんな顛末を迎えるのか。
予想だにしなかった関連性と、さらなる惨劇、そして真相は、読者を大いに驚かせてくれるんです。
それと同時に、「決して他人事ではない」という恐怖心を植え付けられます。
世界初?疑似恋愛番組×孤島の殺人
クローズドサークルでの殺人事件を描いたミステリー作品は、数多くあります。
が、そこに恋愛リアリティ―ショーを掛け合わせたミステリーは、本書が初ではないでしょうか。
恋愛リアリティ―ショーは、日本や韓国をはじめとした世界各国で、近頃大ブームとなっています。
これを、ミステリー界では古今東西で愛され続けているクローズドサークルに絡めたのですから、面白くないわけがない!
ということで、中村 あきさんの『好きです、死んでください』は、控えめに言ってかなりの傑作であり、現代×古典のハイブリッドミステリー巨編と言えます。
恋愛のドキドキ感に加え、常に撮影されている緊張感、そして孤島から脱出できない不安と、次々に人が殺されていく恐怖。
さらに中盤からは、SNSでの個人攻撃という、これまた現代的な苦渋まで加わってきます。
それらによる波状攻撃は、ハラハラドキドキを愛するミステリー好きにとってこの上なく気持ちが良く、読み始めたが最後、アドレナリンを出し続けながらラストまで猛烈に読みふけってしまうほどの快感です。
特にSNSでの誹謗中傷については、クローズドサークルでの殺人事件と比べると非常に身近です。
その分読者は、リアルな恐怖を感じ、より物語に入り込めるはず。
合わない人々に囲まれて狼狽する栞と未来のキャラクターもまた、現代人の心の闇を映し出しており、そこに親近感を覚えて物語に没頭する人も多いのでは?
このように『好きです、死んでください』は、至る所に読者の「ツボ」となる要素を仕込んである作品です。
ぜひ多くのミステリー好きに楽しんでいただきたいです!