青崎有吾『地雷グリコ』- 子供の遊びをアレンジした、非情で狡猾な頭脳バトルの傑作

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真兎は、勝負ごとにやけに強い女子高生。

文化祭で、真兎のクラスは屋上にカレー店を出すことを希望していたが、屋上は激戦区であり、他のクラスやクラブも希望しているらしい。

そこで屋上の使用権を賭けて、各団体が「愚煙試合」と呼ばれる争奪戦をすることになった。

トランプやチェスなど、その時々で試合内容が決められるという、風変わりなトーナメント戦だ。

クラス代表選手となった真兎は、この愚煙試合でとんとん拍子に勝ち上がり、次はいよいよ決勝戦。

対戦相手は生徒会代表の椚で、彼はかつて二年連続で生徒会を勝利に導いたことで知られていた。

この強者に、真兎はどう対峙するのか。

そもそも決勝戦は、どんなゲームで行われるのか。

関係者たちが固唾を呑んで見守る中、文化祭実行委員によって、ついに詳細が発表された。

「ゲーム名は、≪地雷グリコ≫です」

目次

複雑化した戦略にワクワクが止まらない

「グリコ」というと、階段を使うジャンケン遊びとしておなじみで、誰でも子供の頃に遊んだことがあるのではないでしょうか。

ジャンケンで勝った人が、勝ち手に応じた数だけ階段を上がり、ゴールを目指すというゲームです。

グーで勝ったら「グリコ」で三段上がり、チョキなら「チヨコレート」で六段、パーなら「パイナツプル」で六段といった具合です。

このグー、チョキ、パーの三つの戦略に、もうひとつ「地雷」が加わったら、どうなるでしょうか?

あらかじめ両者が「地雷」となる段を決めておき、もしもその段で止まったら、問答無用で十段戻らされるというルールです。

これが加わるだけで「グリコ」は、いかに地雷を踏まずにゴールまで行くか、あるいは相手をいかに地雷へと誘導するかという、熾烈な頭脳戦になります。

このように『地雷グリコ』は、シンプルなゲームを難解なゲームにアレンジして戦う高校生たちを描いた、本格頭脳バトル小説です。

全五編の連作短編集であり、「グリコ」の他、「神経衰弱」や「だるまさんがころんだ」など、様々なゲームが登場します。

いずれも「ちょっとルールを加えただけで、こんなにも戦略が複雑になるなんて!」と、読む者を驚かせつつワクワクさせてくれますよ(๑>◡<๑)

各話のあらすじと見どころ

『地雷グリコ』

文化祭での屋上の使用権を賭けて、真兎と生徒会の椚先輩が激戦を繰り広げます。

椚先輩は開始早々エンジン全開で、計算高く爆走していきます。

勝負は真兎の圧倒的不利に思われたのですが……?

真兎の桁外れの洞察力やしたたかさが、非常~によくわかる第一話。

ちょっとした会話の中にも相手への罠が仕掛けられており、油断も隙もないったら!

読者もすっかり騙されるのですが、そのテクニックが見事すぎて、むしろ清々しいです。

『坊主衰弱』

カフェで出禁にされたかるた部を救うために、真兎がマスターと「坊主衰弱」で勝負します。

「坊主めくり」と「神経衰弱」を合わせたようなゲームで、真兎にとっては初めてのプレイな上、マスターにイカサマを仕掛けられてしまい―。

これまた、真兎のしたたかさが炸裂する物語。

大胆かつ緻密な罠で、圧倒的大差を一気にひっくり返そうとする手腕が、何とも爽快です。

『自由律ジャンケン』

真兎は数々の戦績から、生徒会長に生徒会に入るよう誘われます。

真兎は断りますが、会長は諦めず、やむなく両者は「自由律ジャンケン」で勝負をつけることに―。

グー、チョキ、パーの三手に、独自の二手を加えた変則ジャンケンです。

通常のジャンケンにも多少の読み合いがありますが、そこに二手加えるだけで相当な頭脳戦になるから驚きです。

そのような中でもひるまず、狡猾な戦略で相手の息の根を止めにかかる真兎に、惚れ惚れします!

『だるまさんがかぞえた』

他校の生徒会と勝負することになり、我らが真兎が代表として出場!

入札式の「だるまさんがころんだ」、題して「だるまさんがかぞえた」で雌雄を決します。

子供の遊びとしておなじみの「だるまさんがころんだ」が、やはりハードにアレンジされています。

鬼が数える数や子の進む歩数が、あらかじめ入札で決められているのです。

真兎の大胆不敵な戦いっぷりに、今度ばかりは相手が可哀想になりました(笑)

『フォールーム・ポーカー』

最終話。

対戦相手は、真兎の中学の同級生で、因縁の相手でもある絵空。

約六千万円を賭けて、手札が三枚という変わり種のポーカーで戦います。

さすが最終話、ゲームの難易度も激しさも、敵の強さも、真兎の真剣味も、全てが全五編の中で文句なしに最高!

真兎の秘めたる思いも見えてきて、思いの外感動的なエンディングを拝めます。

もうただのジャンケンでは飽き足らない?

あの「グリコ」が、あの「だるまさんがころんだ」が、ここまで白熱した戦いになるなんて、誰が想像できたでしょうか。

青崎 有吾さんの『地雷グリコ』は、まさに前人未到の領域で描かれた、頭脳バトル小説の大傑作だと思います。

たかが子供の遊びと侮るなかれ、シンプルだからこそ奥が深く、底知れない闇と深謀遠慮がそこにはあります。

勝つためには常に戦況を先読みし、相手の行動も正確に予測し、幾重にも罠を張って出し抜かなければなりません。

ほんの少しの油断も温情も、命取り。

ひたすらに神経を研ぎ澄ませ、相手を容赦なくやり込める非情さを持つことで、初めて勝者となれるのです。

いや~、元が子供向けの遊びなだけに、スリルにおけるギャップがすごいのなんの!

読んでいるうちに、頭がどんどんタクティカルな世界へと引き込まれていき、感化されていきます。

読み終わった後にはきっと誰もが、ただのジャンケンでさえ徹底的な先読みで勝利を掴もうとする自分になっているのではないでしょうか?

『地雷グリコ』は、そのくらい脳にインパクトを与える作品でした。

頭脳バトルが好きな方なら読んで損なしと、全力で断言できるほどの一冊です!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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