原田ひ香『図書館のお夜食』- 思いの詰まった蔵書と文学的な料理を味わえる図書館の物語

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書店員の乙葉は、店長や客からの理不尽な扱いに耐えかね、辞めようかと考えていた。

そんな時、SNSで「夜の図書館」のオーナーからスカウトされ、転職を決める。

そこは、普通の図書館とは明らかに違っていた。

開館は夜の7時で、入館料は1回1000円。

亡くなった作家の蔵書ばかりが集められており、閲覧はできても貸し出しはない。

図書館というより、まるで博物館だった。

何より違うのが館内のカフェで出されるまかない料理で、本に登場する様々な料理を再現したものが、夜食として提供される。

また他の従業員たちは、それぞれに何か事情を抱えているようだし、オーナーも謎めいており、決して皆の前に姿を現さない上、話す時もボイスチェンジャーを使うという徹底ぶりだった。

この不思議な図書館で、乙葉はどのように働き、何を掴んでいくのか。

本に携わる人々の心の機微を描き出す、味わい深い一冊。

目次

居心地抜群の夜の図書館

『図書館のお夜食』は、東京郊外にある私設の有料図書館「夜の図書館」を舞台とした、全5話の連作ヒューマンドラマです。

「夜の図書館」は本好きにはパラダイスと思えるような空間で、前職での苦しみゆえに働く意味を見失っていた乙葉は、この場所で徐々に癒され、働くことの本当の意味に気付いていきます。

また乙葉だけでなく、各話では「夜の図書館」で働く他の従業員にもスポットが当てられています。

それぞれが抱く悩みを、働きながら解消していく流れとなっており、根底にあるのはやはり「働く意味」を見出すこと。

つまり『図書館のお夜食』は、「図書館を舞台にしたお仕事物語」ということですね。

読むことで、「働くって、とても素敵なことだなぁ」と思えてくる一冊です。

一番の見どころは、なんといっても「夜の図書館」の素敵すぎる環境!

床から天井までの本棚にきちっと並ぶ、往年の作家たちが愛した本の数々。

共に本を愛で、語り合える同僚たち。

そして、本に出てくる料理を再現したまかない夜食。

たとえば『しろばんば』のライスカレーや、『赤毛のアン』のパンとバターときゅうりのサンドイッチなどなど、どれもおいしそう!

しかも数時間働いて程よく疲れてきた頃に、シェフが香り豊かな作りたてを出してくれるのが、またたまらない~!

ということで「夜の図書館」の環境は、読みながら「自分もここで働きたい」と思えるくらい素晴らしいです。

もちろん難しいお仕事や辛いお仕事もありますし、時にはトラブルも起こります。

でも素敵な場所だからこそ、乙葉たちは精一杯頑張れるし、頑張ったことで達成感や充足感を得て、ますます仕事に前向きになっていくのです。

その気持ちは読者にも伝わってくるので、読了後にはきっと仕事に対して今までよりも温かい気持ちを持てるようになると思います。

各話のあらすじと見どころ

第一話 しろばんばのカレー

乙葉を中心とした物語で、第一話ということもあり、「夜の図書館」の魅力がこれでもかというくらいに描かれています。

乙葉が職員たちに受け入れられ、働く意味を見出していく過程は、読んでいてほっこり。

気持ちよく働くには、環境ってとても大事ですね。

第二話 「ままや」の人参ご飯

図書館員のみなみの物語。

本への愛ゆえに熱心に仕事をするメンバーが多い中、みなみはそうでもないようです。

そんなみなみのもとに、ある有名作家がやってきて、無理難題を言い始めて―。

「やりがい」や「働きがい」をしみじみと感じることのできるお話です。

第三話 赤毛のアンのパンとバタときゅうり

蔵書整理室で働く正子さんの物語。

正子さんは、都内の大きな図書館で働いていたベテランですが、本を読めないという悩みを抱えています。

本好きの人にはすごく共感できる物語だと思います。

同じく蔵書整理室で働く亜子さんとのコンビが素敵!

第四話 田辺聖子の鰯のたいたんとおからのたいたん

古本屋をしていた徳田さんの物語。

「夜の図書館」では、亡くなった作家が所持していた本の回収も行っています。

その作業中、徳田さんには何か思うことがあったらしく―。

本にまつわる思い出話が、ほろ苦くも美しいです。

最終話 森瑤子の缶詰料理

「夜の図書館」を取り仕切るマネージャー篠井さんの物語。

篠井さんは優しく紳士的な男性ですが、やはり過去に色々とあったようですね……。

オーナーの正体も描かれており、ちょっとしたミステリー風になっています。

頑張って働くために大切なこと

一風変わった図書館で働く人々の思いや成長を、文学的なまかない料理をスパイスにしながら描いた物語でした。

各話の内容や印象はそれぞれ異なりますが、テーマは一貫して「働くこと」です。

厳しい仕事やトラブルにも負けず、本や利用者のためにひとつひとつの仕事を着実にこなしていく乙葉たちを見ていると、心地よく働くには何が必要なのかが見えてくる気がします。

個人的には、同僚との距離感が特に大切だと思えました。

「夜の図書館」の同僚たちは、それぞれに本好きで気が合う者同士なのですが、だからと言ってお互いに踏み込みすぎたり甘えすぎたりすることはありません。

それでいて困った時には自然にフォローし合える、そんな程よい距離感を保っているのです。

もしかしたら頑張って働くための秘訣は、こういうところにあるのかもしれませんね。

色々と考えさせてくれる作品ですが、特に気になるのは「その後の物語」です。

というのも、読み終えた時に謎が残るというか、各人物にもっと深いドラマがありそうな感じなのです。

乙葉と篠井さんの関係なんて、いかにも素敵な方向に発展しそうな気配がプンプン!

もしかしたら作者の原田さんには、続編の執筆予定があるのかもしれませんね。

それを楽しみにしつつ、今は本書をじっくり堪能したいと思います。

興味を持たれた方は、ぜひぜひお手に取ってみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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