さて、やって参りました、日本国内ミステリー小説おすすめ50選のお時間です。
・【殿堂入り】最強に面白い国内ミステリー小説おすすめ50選【名作選】
に続く、第3弾的なものです。
悩みに悩んで選んだわけですが、我ながら素晴らしいチョイスだと思っています。
一応、なるべく最近(ここ4年以内くらい)の作品や新刊を選んだつもりです。
私は1年に300冊くらい小説を読むのですが、ということはここ4年で1200冊くらい読んだわけですね。
つまりその約1200冊の中から選びに選び抜いた50冊なわけです。
なので、絶対に面白いと思っていただける自信があります。
今回もおすすめミステリー小説と言いますか、単純に私が愛してやまないミステリー小説を語っているだけですが、参考にしていただければ幸いです(๑>◡<๑)
1.相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
推理作家の香月史郎は、死者の魂を呼び寄せることのできる城塚翡翠と出会う。
世間では証拠を残さない連続殺人鬼が暗躍していたが、霊媒の力を持つ翡翠には、その正体がわかるというのだ。
ところが証拠がない以上犯行を証明できないため、香月が推理作家としての頭脳を駆使することに。
霊能力と推理力の合わせ技で、二人は果たして事件を解決できるのか?
翠の瞳で真相を見抜く、新感覚の本格ミステリー
霊媒師と推理作家という異色のバディが、共に難解な事件に挑んでゆくミステリー連作短編集です。
霊媒師の翡翠には、犯人の正体はわかっても証拠を提示することができません。
それを香月が抜群の推理力でカバーすることで、二人は「泣き女の殺人」や「水鏡荘の殺人」などの事件をどんどん解決していきます。
お互いに痒い所に手が届くように息の合った活躍は、爽快感があってワクワクするんですよねえ。
それに加えて、翡翠がとっても可愛いのです!
長い黒髪に碧玉色の瞳と、お人形さんみたいな見た目をしている上に、性格もほんわかキュート。
でも実はラストで、恐ろしいどんでん返しが待っています。
何度味わっても、ミステリー小説におけるこの快感はたまりません……!
香月の思い、翡翠の秘密、そして事件の真相とが絡み合った予想外の結末は、かなり衝撃的!
このミス1位を始め、数々のミステリー賞を総ナメした圧巻の作品です。
2.知念 実希人『硝子の塔の殺人』
ミステリーフリークの神津島が北アルプスの山奥に建てたガラス張りの塔・通称「硝子館」に、様々なゲストが集められた。
医師、刑事、霊能力者、小説家、編集者、そして名探偵。
神津島は彼らに重大な発表をする予定だったが、その日の晩、密室で殺されてしまう。
医師の一条遊馬は、ホームズ似の名探偵・碧月夜にワトソン役として付き従い、共に真相究明を目指す。
ところが第二、第三の密室殺人が起きてしまい―。
犯人が犯人を追う本格ミステリーの傑作
2022年本屋大賞にノミネートされた、クローズドサークル×密室殺人ミステリーです。
見どころはやはり、主人公の遊馬が懸命に犯人を見つけ出そうとするところでしょう。
冒頭でいきなり明かされるのですが、第一の殺人の犯人は、実は〇〇です。
でも第二第三については〇〇は全く知らず、自分以外にも殺人犯がいたことにビックリ。
そして戸惑いつつも、もう一人の犯人に自分の罪を着せてしまおうと考え、名探偵の月夜に取り入って、犯人探しに精を出すのですね。
自分自身のためなので、〇〇は本当に一生懸命に月夜をバックアップ。
つまりこの物語、犯人と探偵がタッグを組んで事件を追うわけで、そこがまず面白い。
さらに頑固な刑事まで絡んできて、心理戦がどんどん激化していきますし、密室トリックも医学要素が取り込まれていて(なんと作者は現役の医師!)、オモシロ要素が満載です。
ラストには大どんでん返しもあって、度肝を抜かされます……!
3.今村 昌弘『屍人荘の殺人』
大学のミステリ愛好会の葉村は、会長の明智や探偵少女の比留子と一緒に、映画研究部の夏合宿に参加する。
明智が「何か事件が起こる」と予感したからだった。
さっそく合宿所の紫湛荘に向かったところ、その日の晩、本当に恐ろしい出来事が起こった。
近隣でバイオテロが発生し、感染してゾンビ化した集団に取り囲まれたのだ。
脱出することも叶わず、紫湛荘に閉じ込められる一同。
しかもこの状況下で、密室殺人まで起こり―。
前代未聞のゾンビ×密室殺人ミステリー
バイオテロやゾンビ化が絡んでくるという、今までになかったワクワク要素てんこもりのミステリーです。
数えきれないほどのゾンビが押し寄せてきて、ペンションに逃げ込むも、あっという間にロビーが占拠され、慌てて二階に逃げて……と、スリリングな展開を楽しめます。
そのような中で殺人事件まで起こり、しかも現場には「ごちそうさま」と書かれており、これまた面白すぎる展開。
ゾンビはどんどん迫って来るし、第二の殺人も起こるし、一体ミステリ愛好会と映画研究部の面々はどうなってしまうのか。
ページをめくる手が止まらない、一気読み必至の傑作です。
ペンションの構造やトリックも綿密に練られており、凶器のアイデアも秀逸で、謎解きの魅力もたっぷりと味わえます。
デビュー作にして、主要ミステリーランキングで三冠を達成した話題作です。
4.榊林 銘『あと十五秒で死ぬ』
者かに後ろから撃たれた「私」のもとに、死神のお迎えが来た。
死神は「私」が死んだと思ったようだが、実際にはまだ15秒の寿命があった。
つまりお迎えに来たのは死神のフライングであり、手違いだったわけだ。
お詫びとして死神は、残り15秒を、好きな時に好きなだけ時間を止めながら過ごせるようにしてくれた。
「私」は、この15秒を最も有効に活用する方法を考えるが―。
15秒にまつわる緊迫感あふれる4つの短編
『十五秒』『このあと衝撃の結末が』『不眠症』『首がとれても死なない僕らの首無殺人事件』の4編を収録したミステリー短編集です。
この中でも特筆すべきは『十五秒』で、第12回ミステリーズ! 新人賞の佳作受賞作であり、作者のデビュー作です。
背後から撃たれて死ぬ寸前の「私」が、残り15秒で精一杯の抵抗をする様子がスリリングに描かれています。
振り向いて犯人が誰なのかを確認したり、ダイイングメッセージを残したり。
アイデアの斬新さもさることながら、「わずか15秒で人間はこれだけのことができるのだなぁ」と、死ぬ間際の人間のパワーに圧倒される作品です。
他の3編もそれぞれに興味深く、ドラマのラスト15秒の展開を推理する話や、15秒後に事故に遭う夢ばかり見る少女の話、首を斬っても15秒間以内にくっつければ死なない人の話など、いずれも「15秒」にまつわるトリッキーな物語です。
秒刻みの緊迫感を濃密に味わってくださいな。
5.方丈 貴恵『孤島の来訪者』
かつて十三名もの死者が出たといういわくつきの島・幽世島。
テレビ局に勤める佑樹は、ロケのために総勢九名でこの島に向かった。
しかし彼の真の目的は、かつて幼馴染を事故に見せかけて殺した三人のロケメンバーに復讐することだった。
ところが佑樹が手を下す前に、標的が一人、また一人と殺されてしまう。
一体誰が先回りして殺しているのか。
やがて佑樹は、島に人ならざる存在がいることを知り―。
孤島で人外と対峙する特殊設定ミステリー
「竜泉家の一族」シリーズ第2弾。
自分が殺そうと思っているターゲットを、人ではない何かに横取りされてしまう特殊設定ミステリーです。
主人公の佑樹は、絶対に自分の手で復讐したいと思っており、人外に先を越されないよう必死に立ち回ります。
そのためにもまずはターゲットを人外から守ってやる必要があり、この矛盾やジレンマが激アツです!
憎い相手を一生懸命守りつつ、復讐のチャンスを狙うという駆け引きに、ハラハラドキドキが止まりません。
また、特殊設定ではありますが、トリックはきわめてロジカル。
謎が二重三重に張り巡らされているため、本格ミステリーとしての味わいも十分です。
状況を二転三転させるどんでん返しの手腕も見事で、ラストまで何度もビックリさせられます。
6.斜線堂 有紀『廃遊園地の殺人』
テーマパーク・イリュジオンランドは、オープン前に銃乱射事件が起こったため、正式開園されることなく廃園となった。
それから二十年、資産家の十嶋がここを買い取り、かつての関係者や廃墟マニアたちを招待した。
「宝を見つけたものにイリュージョンランドを譲る」とのことで、招待客はめいめいに宝探しを始める。
しかし翌朝、着ぐるみを着て串刺しとなった参加者の遺体が発見され―。
閉ざされた廃遊園地での猟奇的連続殺人
序盤から、オープン前の廃園や宝探しなど興味深い展開が続く上、着ぐるみで串刺しという衝撃的な殺人が起こったり、園がクローズドサークルになったりと、事態が急ピッチで悪化していくので全く目が離せません!
謎も多くて、宝はどこにあるのか、なぜ殺人が起こったのか、そもそも十嶋の目的は何なのか、気になるところが山盛りです。
それぞれに裏の顔を持つ招待客たちも、なんだか得体が知れなくて不気味です。
そのような中で素晴らしい活躍をするのが、主人公の眞上。
生粋の廃墟マニアであり、コンビニ店員をしている彼は、バイトで培ったスキルをフルに活用して、真相にどんどん迫っていきます。
犯人側の動きも見事で、遊園地ならではのトリックの数々は、凄惨だけれど面白味バツグン。
眞上の過去を絡めた哀愁漂うラストにも注目です。
7.鳥飼否宇『指切りパズル』
綾鹿市動物園で行われたイベントで、人気アイドルユニットの一人が、レッサーパンダを撫でようとして、人差し指を噛み切られてしまった。
この事故がきっかけとなったのか、彼女の周辺で手指切断事件が次々に発生。
別のメンバーが暴漢に中指を切断されたり、次は親指、次は小指と、なぜか関係者の指がどんどん切り取られていく。
動物園のチーフ警備員の古林は、警察に協力して調査を進めていくが―。
動物園から始まった指切り事件の謎を追え!
なぜレッサーパンダが?なぜ指ばかりが?なぜアイドルの周辺が?
たくさんの謎のピースが、ページが進むにつれてどんどん繋がっていき、やがて隠された真相が大々的に明かされる、まさにパズルのような読み心地のミステリー!
また主人公の警備員さんが動物を好きすぎて、各人物をヒグマとかペンギンとか逐一動物にたとえてくれるところも魅力的。
おかげでイメージを掴みやすく、展開もどこかコミカルでテンポが良いので、事件は陰湿なのに楽しく読めますよ。
最後の最後でプロローグの意味もわかって、読後感はスッキリ爽快。
綾鹿市を舞台としたシリーズ物の一冊ですが、登場人物が一部共通しているだけなので、初めましての方でも問題なく楽しめます。
8.東川 篤哉 『スクイッド荘の殺人』
暇を持て余していた探偵・鵜飼のもとに、有力企業の社長からボディガードの依頼が来た。
社長が断崖絶壁の高級ホテル・スクイッド荘に泊まるため、鵜飼は喜んで同行し、温泉に食事に酒にと贅沢三昧。
しかし折り悪く大雪に見舞われ、スクイッド荘から出られなくなってしまった上、殺人事件まで起こり―。
笑いありスリルありのドタバタ本格ミステリー
13年ぶりに登場、「烏賊川市シリーズ」待望の長編!
イカに似た構造のスクイッド荘を舞台とした、本格ミステリーです。
大雪でクローズドサークルになったり、殺人事件が起こったりとシリアスな展開のはずが、探偵の鵜飼と助手の戸村がひょうきんで、ところかまわずギャグを飛ばすので、読みながらついつい笑ってしまいます。
そのような中でも犯人は暗躍し、地下で新たな死体が発見されたり、20年前のバラバラ死体事件が絡んできたりと、緊張感がみるみる高まっていきます。
それでも鵜飼たちのギャグは止まらないという……(笑)
探偵コンビとは別に警察コンビも出てきますが、こちらもやはりツッコミどころ満載です。
しかし終盤になると、全ての謎が見事にリンクし、伏線はキッチリ回収されます。
鵜飼も探偵としてバッチリ活躍するので、最終的には本格ミステリーを読んだ時の満足感をしっかり得ることができるんですからたまりません。
コミカルでありながらスリルと謎解きを十二分に味わえる、贅沢な一冊です。
9.東川篤哉『仕掛島』
ある資産家が亡くなり、遺言状が瀬戸内海に浮かぶ孤島・斜島の別荘で開封されることになった。
一族が集い、探偵が見守る中、弁護士によって遺言状が読み上げられたが、翌朝になって相続人の一人の遺体が発見される。
しかも嵐が来たため、島から出ることも外部と連絡を取ることも不可能に。
さらに幽霊や赤鬼が目撃されたり、人間が消失したりと、異常な事態が続き―。
ユーモアの裏に惨劇あり!孤島の因縁が今ここに
東川篤哉氏のデビュー20周年を記念して刊行された、東川史上最長の本格ミステリーです。
孤島に、奇妙な館に、嵐にと、何ともダークな雰囲気ですが、そこはさすが東川さん、スキあらばギャグをねじ込んで、楽しくテンポよく読ませてくれます。
特に探偵の小早川と弁護士の矢野のコンビが面白く、二人の会話は漫才そのもので、シリアスなシーンでもつい吹き出してしまうことがしばしば。
ミステリーとしての見どころも多く、怪異を使ったトリックや、親族が隠し続けた23年前の事件など、ワクワクしながら謎解きを楽しめます。
何よりタイトルにもある「仕掛」が凄すぎて、終盤では想像を絶する展開に、心拍数が激上がり!
実は東川さんが2005年に発表した『館島』の続編であり、前作の主人公の息子が今作の探偵役となっています。
今作だけでも十分に面白いですが、前作と併せて読むと、さらに深く味わえると思います。
10.石持浅海『風神館の殺人』
株式会社フウジンブレードが売り出した欠陥商品により、人生を狂わされた十名の被害者たち。
彼らは企業の幹部三名に復讐すべく、保養施設「風神館」に集まった。
しかし最初のターゲットを計画通りに殺害した後、仲間の一人が何者かに殺されてしまう。
風神館には十名の仲間しかいなかったはずで、ということは誰かが裏切ったのか?
その後も次々に仲間が殺され、残ったメンバーはみるみる疑心暗鬼に陥っていき―。
復讐者たちが逆に殺されていく本格ミステリー
誰が仲間で誰が敵なのか、復讐者たちの心理戦がアツいミステリー長編です。
既に一人を殺しているため、仲間が殺されても警察を頼ることはできず、これにより館が事実上クローズドサークルになってしまっているところが面白い!
復讐という絶対的な目標がある以上、逃げ出すわけにもいかず、「次は自分が殺されるかも…」と怯えながらも復讐計画を進めていくジレンマにも、手に汗握ります。
また復讐者たちは、会話の中から裏切り者=犯人を炙り出そうとするのですが、その巧妙な駆け引きにもハラハラドキドキ。
しかも「この人が怪しいな」と思ったら、その人物が次に殺されてしまい、推理がふりだしに戻ってしまうこともしばしば。
二転三転しまくる展開が面白すぎて、息をつく暇もないテンポで一気に読めてしまいます。
心理戦が好きな方には、たまらない一冊です。
11.紺野天龍『神薙虚無最後の事件』
大学生の白兎と志希は、ミステリー作家の娘・唯から相談される。
唯は、亡き父が執筆した『神薙虚無最後の事件』に残されている謎を、どうしても解き明かしたいと言う。
この作品は実在の探偵・神薙の活躍を描いたものだが、最終巻でありながら真相が明らかにされていないのだ。
白兎は大学の名探偵倶楽部の面々と共に、隠された事実を探ってみるが―。
作中作の真相を追う多重解決ミステリーの決定版
完結編なのに完結していない「伝説のミステリー」の謎を解くという物語です。
見どころは、名探偵倶楽部のメンバーたちとワイワイ推理を進めていくところなのですが、揃いも揃ってミステリー好きなので、様々な意見が出まくるのですよ。
しかもどの推理も目の付け所が面白いし、理屈が通っているしで、逐一「なるほど、ありえる!」と納得させられるところが見事!
読みながら自分もこの推理合戦に参加しているような気分になって、テンションが上がりますよ~。
そして作中作も、見どころのひとつです。
作中作と言っても内容がサラッと紹介されているのではなく、重要シーンを丸ごと読めるようになっています。
しかも二つ名を持つ探偵や怪盗王、使徒といった中二病ゴコロをくすぐる要素に加え、密室やトリックなども出てきて、これまたテンション上げ上げで読める面白さなのです。
最終的にはもちろん本当の真実が明かされてスッキリしますし、大どんでん返しの末の素敵な結末を拝めるので、読後感も爽快です。
12.阿津川辰海『入れ子細工の夜』
フリー記者の牧村が、自宅で撲殺された。
現場には物色した痕跡があり、鞄の中身がぶちまけられていた。
探偵の若槻が調べたところ、その鞄は牧村のものではなく、どうやら喫茶店で別人のものと入れ替わったらしかった。
間違えた鞄には古本屋の袋が入っており、若槻は本物の鞄を取り戻すべく、袋をヒントに周辺の古本屋を渡り歩くが―。
独創的なアイデアに彩られたミステリー短編集
阿津川辰海さんのノンシリーズ短編集、第二弾。
全4編が収録されており、いずれも序盤から意外性の連続で、オチではどんでん返しがズバッと決まる、驚愕必至の傑作です。
第一話の『危険な賭け~私立探偵・若槻晴海~』では、探偵が古本屋巡りをするという一風変わった出だしから、全くの予想外の犯人へと行き着きます。
第二話の『二〇二一年度入試という題の推理小説』では、某大学の新しい入試形式が描かれるのですが、これがなんと推理小説の犯人当てをするという、ビックリ試験!
問題文も掲載されているので、読者も解いてみることができますよ。
続く『入れ子細工の夜』は表題作であり、ある作家が密室殺人モノの新作を執筆するにあたって、編集者に状況を再現してもらうという物語。
実は双方が腹黒すぎて、恐ろしい結末に…!
最終話の『六人の激昂するマスクマン』では、プロレスのマスクをつけたメンバーの中から殺人犯を探し出す物語で、マスクの下のまさかの素顔に仰天!
4つの物語がそれぞれ独創的なので、謎も4倍なら、驚きも4倍、読了後の満足感も4倍味わえます。
13.阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』
透明人間になる病気が蔓延し、世間では続々と透明人間が増えていた。
このままでは社会がうまく回らないため、人々は薬で透明化を抑えることで、なんとか平穏な生活を保とうとする。
ところがそのような中で彩子は、あえて薬を服用せず、完全な透明人間となることを選んだ。
理由はただ一つ、ある人物を秘密裏に殺害することだった―。
ありえないから面白い!特殊設定ミステリー短編集
阿津川辰海さんのノンシリーズ短編集で、全4編が収録されています。
ジャンルとしてはいずれも特殊設定ミステリーであり、日常の中に非日常的な要素が練り込まれ、ありえない状況で事件が起こります。
第一話の『透明人間は密室に潜む』は、透明人間が完全犯罪を狙う物語。
透明になったら便利なこともありますが、不便なこともたくさんあって(食後は胃の中の食べ物が透けて見えるとか)、そのような中での試行錯誤に富んだ犯罪が見どころ。
第二話の『六人の熱狂する日本人』は、裁判員裁判で選ばれた陪審員が、揃いも揃ってアイドルオタクだったという物語。
ドルオタならではの解釈で、事件が思わぬ方向に!
第三話の『盗聴された殺人』は、超人的な聴力を持つ探偵助手の物語。
殺人現場の音をヒントに、事件の真相を探っていきます。
第四話の『第13号船室からの脱出』では、船上での脱出ゲームの最中に誘拐事件が起こります。
これにより、ゲームのはずがリアルな脱出劇となり―。
どの物語も、特殊設定にワクワクしつつ、手に汗握る緊迫感を味わえます。ラストの大どんでん返しにも注目。
『2021本格ミステリ・ベスト10』で第1位に輝いた傑作です!
14.芦辺拓『名探偵は誰だ』
楽しみにしていた旅先での朝食、のはずだったが、私の心中はそれどころではなかった。
宿泊客の中に殺人犯がおり、しかも4人のうち3人が共犯者だからだ。
料理はおいしそうだが、自分まで殺されるかもしれないと思うと、とても食べる気になれない。
果たして、誰が犯人で誰が犯人ではないのか、この4人の中で信用できるのは誰なのか。
何とかして見抜き、この窮地を脱しなければ―。
変則フーダニットを楽しめる7つの短編
芦辺拓さんの本格ミステリー短編集で、全7編が収録されています。
どの物語も「◯◯は誰だ」という章題となっていて、ターゲットを見つけ出すことがテーマです。
たとえば『犯人でないのは誰だ』では、殺人犯のいる宿泊客の中で唯一信頼できそうな人物を探しますし、『生き残ったのは誰だ』では、雪山で全焼した山荘からただ一人逃れた人物を探し出します。
また表題作『名探偵は誰だ』では、ひいおばあちゃんのために孫が名探偵を見つけ出そうとするなど、一般的な犯人探し系のミステリーとは一味違うフーダニットになっているところが特徴です。
しかも全7編全て、主人公や舞台が異なる上、展開も独創的。
ターゲットの見つけ方も、推理だったり腕力だったりと様々で、オチも「そう来たか~!」と思わず膝を打ってしまうものばかり。
一話ごとに新鮮な驚きを味わえるので、面白さにグイグイ引っ張られ、一気に全話読んでしまうことでしょう。
15.夕木春央『方舟』
山奥の地下建築に興味本位で入り込んだ大学生の柊一たちは、きのこ狩りで道に迷った三人家族と一緒に、内部に閉じ込められてしまう。
地震が起こり、出入り口が巨大な岩で塞がれたのだ。
巻き上げ機で岩を動かせば脱出できそうだが、構造上、操作する人は置き去りになる。
つまり誰か一人を犠牲にすれば、他の皆は生還できるということだ。
悩む柊一たちだったが、さらなる悲劇が襲い掛かる。
この状況下で、メンバーの一人が何者かに絞殺されたのだ―。
皆が生き残るために、死んでもいいのは誰?
謎の地下建築からの脱出を描いた、サスペンス・ミステリーです。
地震で閉じ込められるだけでも怖いのに、地下水が入り込んできて、約1週間で水没するというタイムリミット付き。
その上殺人事件まで起こり、柊一たちは大パニック!
この極限状態での不安や焦り、絶望感などが激しく伝わって来るので、読みながら冷や汗が出まくりです。
でもこの殺人事件は、ある意味、光明なのです。
なぜなら、皆で脱出するために誰かを犠牲にしなければならないのなら、人を殺した犯人がちょうどいいから。
つまり犯人に巻き上げ機を操作してもらえば、他の全員が生きて帰れるということですね。
そのことに気付いてからは、皆で必死に犯人探しを始めるのですが、これがたまらなく面白い!
お互いに疑心暗鬼になって、腹を探り合って、会話の中でボロを出させるように仕向けたりと、白熱した心理戦にワクワクが止まりません。
最終的に誰が犠牲になり誰が生還するのか、ラストシーンは衝撃の嵐。
「週刊文春ミステリーベスト10」と「MRC大賞2022」でダブル受賞した大傑作です。
16.夕木春央『十戒』
伯父が所有していた枝内島がリゾート開発されることになり、里英は父や業者たちと一緒に下見に訪れた。
しかし島は何年も無人だったはずなのに、別荘やバンガローにはなぜか食糧やガソリン、さらには爆弾まであった。
一体何者が……と警戒する一同だったが、翌朝になり業者の一人が死体となって発見される。
その上、犯人と思われる人物からの10のルール「十戒」が残されていた。
3日間、それを守って過ごさなければ、島が爆破され皆殺しになるという―。
十戒を守り、生きて島を出ることができるのか?
閉ざされた島で、十戒に縛られて過ごす里英たちを描いた長編ミステリーです。
この十戒がなかなかに厄介で、「島を出てはならない」とか「犯人を知ろうとしてはいけない」とか、勝手な要求ばかり。
しかも破ったら問答無用で全員殺されるのですから、守らないわけにはいきません。
たとえ何かのきっかけで犯人の正体に気付いたとしても、行動に出たら皆を巻き込んでの爆破となるので、下手に動けません。連帯責任って怖い!
その上、このがんじがらめの状況で第二第三の殺人が起こるので、緊迫感の凄まじさといったらもう…!
果たして犯人は一体誰なのか、そして里英は無事に島から脱出できるのか。
終盤では恐ろしい真相が明らかにされますし、特に最後の1ページは、作者の別作品『方舟』を読まれた方であれば、背筋が凍り付くほどの衝撃を味わえます。
17.片岡翔『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』
音更風゛(おとふけぶう)は、ドジでおっちょこちょいだけれど、大のミステリ好き。
亡きミステリー作家が遺した館でメイドとして働くことになったが、そこで開催されるマーダーミステリーのゲームで、実際の殺人が計画されていることを知る。
風゛は殺人を阻止するために、ターゲットを死んだと見せかけて助ける計画を立てるが―。
誰も死なない殺人計画にするはずが、まさかの展開に
クローズドサークル内で、殺人計画の「成功を偽装する」という本格ミステリーです。
死体の偽装はもちろん、ミステリーらしくするために伏線まで偽装するという芸の細かさが面白い!
主人公の風゛がすっとぼけたキャラクターで、肝心なところでギャグのようなミスを連発し、相棒(?)のミステリープランナー豺との会話もユーモア満載。
そのため一見ゆる~いミステリーなのですが、実はかなりのクセモノだったりします。
思いもよらないところから犠牲者が増えていきますし、ロジックやトリックは難解ですし、どんでん返しもあるしで、読めば読むほど深みにハマッていきます。
そして終盤にも注目。犯人の正体が明らかになるのですが、ここで終わりではなく、むしろ一番の見どころが始まります。
犯人の過去や思い、タイトルに込められていた真の意味にも気付くことができて、涙腺大崩壊レベルの感動を味わえます。
18.北山猛邦『月灯館殺人事件』
作家としてデビューしたものの、新作を全く書けなくなった孤木雨論は、作家たちが執筆に勤しむ「月灯館」を訪れた。
しかし吹雪で館が完全に閉ざされた上、作家が首無し死体やバラバラになって発見されるという恐ろしい事態に。
一体、誰が何の目的で?
ひとつわかるのは、作家たちが「七つの大罪」により処刑されているということだった―。
王道にして王道を糾弾する本格ミステリー
本格ミステリーの「お約束」的なところをふんだんに詰め込んだ作品で、山奥の館が吹雪でクローズドサークル化したり、連続密室殺人が起こったりという、どこかで見たことのあるような王道パターンが続くところがミソです。
古今東西の人気ミステリーの小ネタもあちこちに練り込まれているので、ミステリーマニアな人ほど、仕込みに気付いてニマニマと楽しめますよ。
でも決して王道パターンのまま終わる物語ではなく、本筋はここからです。
なぜ作家たちが殺されていくのか、彼らが犯したという七つの大罪「傲慢、怠惰、無知、濫造、倒錯、強欲、嫉妬」が何を意味しているのか。
それらを考えながら読むことで、なぜこの物語が王道パターンにこだわっているのかが見えてきます。
それこそが本書のテーマであり、作者からの切なるメッセージ!
読み終えた時には、本格ミステリーへの愛情が今まで以上に膨らみ、今後の読み方が変わってくると思います。
そのくらい心に跡を残す作品です。
19.北山 猛邦『アルファベット荘事件』
山奥に佇む「アルファベット荘」は、いたる所にアルファベットのオブジェが並ぶ風変わりな洋館だった。
また別館には、手に入れた者は死ぬと言われる「創生の箱」があった。
ここに招待された役者の未衣子や美由紀、探偵のディは、なかなか姿を現さない主にやきもきしながら一夜を過ごす。
そして翌朝になり、彼らは恐ろしい現実を目の当たりにする。
招待客の一人が、創生の箱の中でバラバラ死体になっていたのだ。
奇妙な館で呪われた箱を巡る惨劇が……
雪山の館に招かれた10名が連続殺人事件に見舞われる、本格ミステリー。
もちろん館はクローズドサークル状態になりますし、殺人も足跡がどこにもなかったりとトリック盛り盛りですよ。
キャラクター造形も凝っていて、まずメインどころの3人が、売れない役者や変人女優、家族も名前も記憶すらも失った「何も持たない探偵」など、すごく個性的です。
他の招待客も、賞金稼ぎや犯罪研究者など、なんだか物騒な職業ばかりで、いかにも怪しげ。
何より興味深いのが「創生の箱」で、かつてこの箱絡みで起こったという血なまぐさい事件が冒頭で描かれているので、もう読みながら不吉な予感がするの何のって。
そして実際に、とんでもない惨劇が起こるわけですよ。
空だったはずの箱から突然死体が出てきたりとか、現実ではありえないことが起こりまくるので、ドキドキゾワゾワ!
さらにエピローグでは、強烈にビックリする真相も明かされます。
実は作者の初期作品であり、一度は絶版となったものの、20年ぶりに復刻したというファン待望の一冊です。
20.村崎 友『風琴密室』
仲間たちと野山で楽しく過ごした、小5の夏。
せっかく仲良くなれた雨ちゃんの転校が決まり、兄が川の事故で亡くなって、苦い思い出が残ったあの夏。
あれから10年、高校生になった凌汰は、出身小学校の廃校をきっかけに皆と再会する。
ところが台風で校舎に閉じ込められた上、翌朝には仲間の一人が屋上のプールで死んでいて―。
過去と現在、二つの密室の謎を追う青春ミステリー
田舎の夏休み、少女との出会いと別れ、そして再会と、ノスタルジックな雰囲気あふれるミステリーです。
序盤はひたすらワクワクしながら読めるのですが、兄の死を皮切りに、物語はどんどん不穏な方向へ突き進んでいきます。
廃校がクローズドサークル化したり、密室殺人が起こったり、しかもその状況が兄の死と妙に似ていたりと、セピア色の序盤はどこへやら、陰謀とトリックの渦巻く本格ミステリーへと大変貌!
密室の設定が凝っているし、真相も「こんなところにカラクリが!」と予想外の場所から明らかになるしで、脳をロジカルな方向でフル回転させながら楽しめます。
死体と目が合ってゾッとするなど、時折意表を突くホラー展開が出てくるところもニクいですね。
そして終盤には、ミステリーでもホラーでもないけれど、ビックリすること間違いなしの展開が……!
全てを知った読了後に、散りばめられていた謎と照らし合わせるために、もう一度読みたくなる作品です。
21.荒木あかね『此の世の果ての殺人』
二ヶ月後、小惑星「テロス」が地球に衝突し、人類は滅亡することになる。
世界中がパニックを起こす中、ハルは福岡で自動車の教習を受けていた。
ハルには、地球最後の日に、ある場所まで自分で運転したいという、ささやかな夢があったのだ。
そんなある日、ハルは教習車のトランクで他殺死体を発見する。
もうすぐ滅びる世界で、一体誰が何のために殺人を犯したのか。
ハルは教官のイサガワと共に、謎解きを始めるが―。
滅びゆく地球で、最後の謎解きを
人類滅亡が確定している世界で殺人事件の謎を追うという、ディストピア・ミステリーです。
史上最年少の江戸川乱歩賞受賞作として、話題沸騰!
冒頭から「もうすぐ滅亡」という感じがすごくて、絶望した人々の集団自殺や、無法地帯と化した町など、退廃っぷりに圧倒されます。
そのような中でもハルは、夢の実現のために健気に運転の練習をするのですが、殺人事件が起こったり、犯人が自分の弟かもしれないという疑惑が出てきたりで、辛いことだらけ。
でも熱血漢のイサガワや、道中で出会った人々の強さとやさしさに触れ、前へ前へとひたむきに進んでいき、少しずつ真相を掴んでいきます。
もう終わる世界なのに、一生懸命に生きていて、その姿がとても感動的なのですよね。
最終的にハルは、どんな真相に辿り着くのか。夢は叶うのか、そして地球はどのように終わりゆくのか。
ラストシーンの美しさは、まさに圧巻です!
22.山沢晴雄『ダミー・プロット』
バラバラに切断された死体が、あちこちで発見された。
まずは会社に手首が配達され、次に地下鉄の網棚で首が見つかり、そして占い教室の床に胴体が横たえられていた。
警察の調べによると、いずれも同一人物のものらしいが、誰のものかは不明。
探偵の砧順之介は、幾多のアリバイ証言から捜査を進めるが、事件の裏には巧妙な罠が潜んでおり―。
トリックのコンボに困惑必至の本格ミステリー
20年以上前の同人誌で発表され、ミステリーマニアを唸らせ続けた幻の名作が、ついに刊行!
一見単なるバラバラ殺人事件のようですが、この作品の醍醐味は、複数の要因が複雑に絡み合っているところにあります。
まずメインキャラクターからして胡散臭い。
自分とよく似た女性を替え玉に仕立てる涼子、殺人容疑をかけれらた友人を助けるため嘘の証言をする風山、そして大阪でアリバイ工作に奮闘する大幹。
このように、それぞれが水面下で怪しい動きをしているのです。
果たして彼らの行動が事件とどう結びついていくのか、ジワジワと探っていく過程をパズルのように楽しめますよ。
加えて、探偵の砧順之介の動きがまた絶妙。
数々の偽のアリバイやトリックを見事に暴いていく姿は抜群にカッコいいのですが、この男、最後の最後で物語をビックリな方向へと展開させます。
いや~、まさかそう来るとは!
これも作者が仕掛けた罠であり、本書が「幻の名作」と呼ばれた所以でしょう。
冒頭からラストまで、仕込みたっぷりな一冊です!
23.松城明『可制御の殺人』
大学院生の千冬は、友人の真凛に彼氏を奪われ、就職の推薦枠まで奪われそうになっている。
「この女を殺さなければ、また敗北してしまう」
千冬は、真凛を自殺と見せかけて殺すことにした。
専攻分野である機械工学を駆使して、綿密な殺害計画を練る千冬。
その裏に、人の行動を操作しようとする黒幕「鬼界」がいることも知らずに……。
人間はシステムだ!理工学視点の新鋭ミステリー
Q大学やサークル、高校で起こった事件や謎を描く連作短編集です。
第42回小説推理新人賞の最終候補となった表題作を含む、全6編が収録されています。
それぞれが独立した学園ミステリーに見えますが、実は背後には黒幕が潜んでおり、この人物が全話の手綱を握っています。
名前は「鬼界」で、工学部に所属している彼は、夜な夜な怪しげなロボットを作っていると噂されています。
しかし彼が研究しているのは、実は人間を制御システムとして操ること。
システムは命令を与えればその通りに動きますが、人間の行動も同じで、環境からの入力で自在に操作できるのではないかと鬼界は考え、ターゲットを選んでは実験しているのです。
各編では、鬼界に操られた人々が辿る過程と顛末とが描かれています。
裏に常に潜んでいる鬼界の存在は不気味で、読者はワクワク、ゾクゾクしながら彼の暗躍を楽しめますよ。
要は人間を理工学的に支配しようというのですから、なんとも恐ろしいですが、だからこそ刺激的な読書体験ができます。
24.歌野晶午『首切り島の一夜』
高校の同窓会が、40年前の修学旅行の行き先だった弥陀華島で開かれた。
旅館で元生徒たちと教師が思い出話を楽しむ中、参加者のひとりである久我が、突然告白を始めた。
かつて自分は、自由のない学校生活が嫌で、腹いせのために教師が次々に殺されるミステリーを執筆した、と。
もちろんフィクションであり、一同は笑って流したが、夜になって状況は一変した。
島が嵐で閉ざされた上、久我が何者かに殺害されたのだ。
同窓会で起こった殺人事件の謎
嵐の孤島+殺人事件というよくあるクローズドサークル系かと思いきや、実は変化球的作品です。
というのも、かつて久我が執筆した小説は、修学旅行中の弥陀華島で教師たちが殺されていくという猟奇的な物語でした。
そして40年後、修学旅行を模した同窓会の最中に、当の本人が殺されるのですよ。
つまり修学旅行を再現した同窓会で、小説を再現したような惨劇が起こるわけです。(被害者は教師ではなく本人ですが)
この奇妙な符合が面白くて、どんな真相が隠されているのかと、ワクワクが止まらなくなります。
また、残ったメンバーたちがめいめいに過去の出来事を語るのですが、その中にもヒントが隠されているのではないかと、ドキドキしながら探る過程も楽しいです。
最終的には、事件の真相以外に、作者がひっそり忍ばせていた罠も明らかになり、二度ビックリさせられます。
さらにカバーの裏側にも仕掛けが隠されており、もう一度ビックリ!
様々な驚きを味わわせてくれる良作です。
25.麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』
名門ペルム学園に通う神舞まりあは、超がつくほど化石が好きな、一風変わったお嬢様。
部員不足で廃部寸前となった古生物部のことで悩んでいたところ、なんと学園内で殺人事件が発生する。
それも一度ではなく、二度、三度、四度―。
まりあは部の存続のために事件に首を突っ込むが、彼女の推理はあまりにも荒唐無稽すぎて……?
トンデモ推理が光る、青春ユーモアミステリー
「化石少女シリーズ」第二弾、全7編を収録した連作短編集です。
前作同様、まりあのぶっ飛んだ推理に対し、お目付け役でありワトソン役の彰が厳しく突っ込みつつ、すったもんだの末に事件を解決していくという展開です。
まりあは古生物部を廃部にしようとする生徒会を目の敵にして、事件が起こるたびに生徒会を強引に犯人に仕立て上げて暴れるので、彰は気の休まる暇がありません(笑)
今作はそこに、古生物部の新入部員である切れ者の美少年(!)高萩も加わり、ドタバタ感が一層アップ!
また起こる事件も、理科室での密室殺人、殴り殺された上に灯油で焼かれた書道教師、雪の中で手首を赤い紐で結び合った三つの死体、などなどいずれも前作を上回る凄惨さ。
こんな事件が立て続けに起こるのですから、名門ペルム学園、なんとも恐ろしい……。
それでもなんだかんだとまりあが解決するので、その快刀乱麻っぷりがまた楽しい。
まりあの高校卒業後の進路についても描かれているので、色々な意味で見逃せない一冊です。
26.小川哲『君のクイズ』
凄腕のクイズプレイヤーである三島は、クイズ番組の決勝戦で驚愕した。
対戦相手でありタレントの本庄が、問題文が読まれる直前に、ボタンを押して正解したからだ。
問題を一文字も聞くことなく正解するのは、さすがに不可能ではないだろうか。
ヤラセ疑惑が浮上する中、三島は解明のために独自に調査するが、そこには予想外の真相が潜んでいた―。
クイズという名の人生回顧
第76回日本推理作家協会賞受賞作。
クイズ決勝戦での「0文字押し」の謎を解き明かすという、変わり種の長編ミステリーです。
ヤラセと思いきや決してそのようなことはなく、緻密なロジックが隠されており、それを紐解いていく過程が抜群に面白い!
というのも、クイズは知識勝負ですが、その知識は言い換えると「自分が人生で経験してきたこと」だからです。
人の頭には、勉強や読書、趣味やレジャーなど、あらゆる経験が「記憶=知識」として入っているわけですよ。
主人公の三島は、決勝戦で出題された問題を一つ一つ丁寧に調査しながら、そのことに気付きます。
問題を振り返ることで、自分の人生を振り返り、やがて「クイズとは人生である」という真相に辿り着くのです。
「なるほど、そう考えると、0文字押しは可能だな」と、最終的には読者も大いに納得することになります。
クイズを土台としたミステリーでありながら、人生という壮大なテーマが語られており、かなり読み応えのある作品だと思います。
クイズプレイヤーの思考分析も描かれているので、クイズが好きな方にもたまらない一冊です。
27.桃野雑派『星くずの殺人』
民間企業による宇宙旅行のモニターとして参加した6名の男女。
ところが目的地であるホテル「星くず」に到着するや否や、問題が起こった。
宇宙船の機長が、首吊り死体として発見されたのだ。
無重力状態で首を吊るなんて、自殺だとしても他殺だとしても、物理的におかしい。
この異常事態にホテルのスタッフは逃げ出し、残されたツアー客とパイロットは途方に暮れるが―。
地上の法則が全く通用しないミステリー
近未来の宇宙を舞台とした、スケールの大きい特殊設定ミステリーです。
機長やスタッフのいなくなったホテル「星くず」は、宇宙空間に浮かぶ密室のようなものなので、クローズドサークル系ミステリーとも言えますね。
この極限状況で、通信システムが壊れたり、何者かに襲撃されたりとトラブルが続出するので、スリルが半端なく、ハラハラし通しで楽しめますよ。
また事件のトリックも、宇宙空間ならではの物理法則が使われており、地球ではちょっとお目にかかれないものばかりで、斬新で面白いです。
特に殺人道具の使い方が、見事!
さらに人間関係のゴタゴタも見どころ。
主人公は土師という名のパイロットなのですが、機長亡き後、ツアー客たちを何とかして守り、無事に地球へ帰そうと奮闘します。
ところがツアー客が一癖も二癖もある人ばかりで、一筋縄ではいかないのですよ。
それぞれに目的があって宇宙まで来たので、譲れない思いがとてもとても強いのですね。
最終的に彼らがどのような末路を辿るのか、ラストの一行まで目が離せません!
28.渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』
資産家の雨目石昭吉が、山奥の別荘・私雨邸に、3人の孫とミステリー仲間2人を招待する。
料理人や雑誌編集者、山中で足をくじいて迷い込んだ人もおり、邸内は総勢11名に。
そのような中、豪雨による土砂崩れで館が外界から閉ざされ、さらに昭吉が何者かに殺害されてしまう。
しかも現場は、内側からしっかり施錠してあるという密室状態。
警察にも頼れず、残された面々はいかに犯人を見つけ出すのか?
探偵不在の多重推理ミステリー
嵐の館で密室殺人が起こるという、王道設定のクローズドサークル系ミステリーです。
と言っても決してありきたりの物語ではなく、登場人物が全員ことごとく怪しい動きをしている上、探偵役が存在しません。
しかも視点人物が複数いて、それぞれが自分の立場や目的に合わせて別個に推理を進めていくという、多重推理の形式になっています。
たとえば二ノ宮という視点人物の場合、ミステリーを愛するあまり密室殺人にテンションが上がり、嬉々として探偵役を気取って推理する、といった具合です。
さらにXという正体不明の人物の視点まであるので、読者としてはどの視点や推理を信じるべきなのか、惑わされること必至!
ひとつの物事でも、見る人によっては全く違った受け止め方になるのですよね。
そこが面白くて、真相がどこにあるのか、探らずにいられなくなります。
謎解き小説が好きな方に、ぜひ楽しんでもらいたい一冊です。
29.くわがきあゆ『レモンと殺人鬼』
10年前に父親を殺され、母親が失踪し、妹の妃奈と二人で慎ましく暮らしていた美桜。
ある日、父を殺した犯人・佐神が刑期を終えて出所したことを知り、なんとも嫌な気分に。
その矢先、妃奈が山中でめった刺しの遺体となって発見された。
しかも週刊誌によって、妃奈が保険金殺人をしていたという疑いまでかけられてしまう。
美桜は妃奈の潔白を証明するために、独自の調査を始めるが―。
レモンから始まった負の連鎖
妃奈の保険金殺人の真偽を始め、誰に殺されたのか、出所した佐神はどこに行ったのか、なぜ美桜の家族ばかり殺されたのか、などなど謎がてんこ盛りのミステリーです。
見どころは美桜のあまりにも不遇な運命で、家族の死はもちろん、陰湿ないじめやコンプレックスなど、美桜にはたくさんの苦しみが襲い掛かってきます。
それでも協力者を得て一歩ずつ前進していく様子は、痛々しくも頼もしく、応援したくなります。
と思いきや、本書は決してそんな「お涙ちょうだい系」のミステリーではなく、終盤になると物語は、ものすごい勢いでひっくり返り始めます!
それまでの悲哀に満ちた調査物語はどこへやら、急激にドロッドロの血生臭い展開になるのです。
読者の予想はことごとく裏切られ、妹や佐神のこと、さらには10年前の父のことにおける真相も、ギョッとするほど意外な形で判明します。
タイトルの「レモン」の意味も「殺人鬼」の正体も明らかになるのですが、これがもう鳥肌モノ!
どんでん返しの衝撃を味わいたい方に、特におすすめの一冊です。
第21回 『このミステリーがすごい!』大賞で文庫グランプリを受賞した超大作をご覧あれ!
30.三津田 信三『忌名の如き贄るもの』
怪奇譚蒐集のために日本各地に赴いている作家・刀城言耶は、虫絰村に向かうことになった。
ここは大学の先輩の婚約者・李千子の出身地であり、彼女は14歳の時に村で奇妙な体験をしたらしい。
「忌名の儀礼」の最中に一度死んだが、火葬場に運ばれる途中で息を吹き返したというのだ。
そして言耶が向かう前日、村ではまさに「忌名の儀礼」が行われており、そこでは新たな死者が―。
最後まで油断ができない、シリーズ屈指の怪奇事件
民俗学ミステリー「刀城言耶シリーズ」第11弾!
今作では言耶が、仲人的な役割で山奥のいわくありげな村に行き、「忌名の儀礼」という因習が絡んだ事件に遭遇します。
かなりホラー色が強く、儀礼の最中には首虫や角目といった不気味な怪異が現れ、読者を大いにギョッとさせてくれます。
ミステリーパートも凝っており、村や山が丸ごとクローズドサークルになっていて、おいそれとは逃げ出せない閉塞感たっぷりの状況が、またゾクッとさせてくれます。
伏線やミスリードも多いので、読みながら事件が怪異によるものか人為的なものか判断がつかなくなり、ホラーとミステリーの双方の恐怖の狭間で翻弄されること必至!
それでも終盤には、言耶の活躍によって事件は一応解決します。
が、これだけでは終わらないのが「刀城言耶シリーズ」。
今作では最後の最後で、それまでの怖さを吹き飛ばすほどの圧倒的な衝撃が襲い掛かって来ます。
シリーズ屈指の戦慄、どうぞ味わってみてください!
31.浅倉 秋成『六人の嘘つきな大学生』
IT企業スピラリンクスの就職試験で、六人の大学生が最終選考に残った。
最後の課題は、「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」をディスカッションすること。
彼らはこれを、議論+投票という形で進めることにした。
相応しい人物、相応しくない人物について議論した後、自分以外に投票することを複数回行い、最も多くの票を集めた人物を選ぶのだ。
しかしその最中、六人それぞれに対する告発文が発見され―。
裏の顔を暴かれながらのディスカッション
六人の優秀な就活生が、ひとつしかない内定者の席を競い合う青春ミステリーです。
見どころは、謎の告発文によって、六人の罪が次々に晒されるところ。
まずは明治大学の袴田がいじめの罪で告発され、それにより袴田は票を集めることが難しくなります。
次に慶応大学の九賀が交際相手を中絶させた罪で告発され、やはり票を集めにくくなります。
このように告発文が開封されるたびに票が多大な影響を受け、勝敗が見えなくなるので、緊迫感はどんどんアップ!
告発文は六人分あり、全員が順番に厳しい立場に追いやられていきます。
そのような中で六人は、どうやって内定に相応しい人物を決めるのでしょうか?
そもそもこの告発文を出したのは、一体誰なのか。
六人に内定を取らせまいとする罠か、はたまた別の目的があるのか。
白熱したディスカッションと、ロジック満載の犯人探しを楽しめます!
ブランチBOOK大賞2021を受賞し、映画化&舞台化された話題作です(๑>◡<๑)
32.紺野天龍『シンデレラ城の殺人』
城の舞踏会で、王子の結婚相手が選ばれることになった。
妃の座を求め、いそいそと着飾って出かける継母と二人の娘に対し、シンデレラは家で留守番。
しかし突然現れた魔法使いがシンデレラを美しく変身させ、カボチャの馬車まで用意してくれた。
ガラスの靴を履いたシンデレラはさっそく城に向かうが、なんと王子が密室で殺されてしまう。
しかもシンデレラが犯人として逮捕され―!?
法廷で戦う前代未聞のシンデレラ
シンデレラを主人公とした、変わり種のリーガルミステリーです。
誰もが知る有名童話を密室殺人と掛け合わせたところが、まず面白い!
しかも舞台設定こそ原作を踏襲しているものの、キャラクターの性格設定が全く違っているところが、また絶妙なのですよ。
たとえばシンデレラですが、この子はとにかく口が立ち、「ああ言えばこう言う」系の屁理屈少女で、血のつながらない姉と王子のイケナイ関係を懸念して、お城に乗り込んでいくのです。
姉は姉で体重120キロの大食らいだし、王子は特殊な性癖があると噂されているしで、原作とのギャップがとにかく凄く、そこが魅力で読者はみるみる物語に引き込まれていきます。
その上王子が殺され、シンデレラが逮捕され、法廷で潔白を証明しなければギロチン刑になるとか、原作者もビックリのトンデモ展開が続き、息をつく暇もないくらい楽しめますよ。
こうして見るとまるでパロディのようですが、これが実は意外なくらいガッツリとした本格ミステリー。
兵士が見張る密室での殺害方法や、血で隠された文字の謎など、推理要素がてんこもりです。
口達者なシンデレラによる極上エンターテイメントの中で、骨太ロジックを味わえます。
33.犬飼ねこそぎ『密室は御手の中』
探偵の和音は、新興宗教「こころの宇宙」に潜入し、調査することになった。
そこでは14歳の少年・密が亡き親の後を継いで教祖となり、約10人の信者と共同生活をしていた。
和音も調査のために一員となるが、ある日裏山の瞑想室で、信者の一人がバラバラの死体となって発見された。
そこには、100年前に修験者が中に入ったまま姿を消したという奇妙な言い伝えがあり―。
女性探偵と少年教祖の多重推理バトル
山奥の宗教施設で起こった連続殺人事件を追う本格ミステリーです。
新興宗教という特殊なフィールドでバラバラ殺人が起こり、しかも現場は密室であり、100年前には人間消失まで起こっていたという、どこを取ってもキナ臭さ満点なところが良いですね!
少年教祖・密のキャラクターがまた良くて、和音を探偵だと見抜いた上で、自分の助手として使い、事件を解決しようと意気込みます。
和音は和音で、子供に使われることが癪で、自力で謎を解こうと躍起になります。
これにより密VS和音の推理合戦が勃発するのですが、どちらも対抗意識メラメラで、容赦なくぶつかり合うところが面白い!
相手の推理に穴を見つけては、すかさず突っ込み、持論を展開するという論理バトルは激アツです。
二転三転する状況といい、トリックの意外性といい、推理好きをとことん楽しませてくれる一冊なんですよねえ。
34.似鳥鶏『推理大戦』
貴重な聖遺物を、日本のミステリーマニアが発見した。
世界中の宗教関係者が注目する中、発見者は「聖遺物争奪ゲーム」を開催。
謎解きで競わせ、見事に勝利した者に聖遺物を得る権利を与えるというのだ。
これを受け、各国のカトリックや正教会が、超人的な能力を持つ探偵を雇って日本に派遣。
今ここに、異能者たちによる推理大戦が始まる―!
特殊能力と推理力を駆使する最強決定戦
聖遺物と世界一の名探偵の名を賭けて謎解きバトルを繰り広げる、特殊設定ミステリーです。
物語前半では、各国の探偵の紹介が、ショートストーリー風に語られます。
アメリカ代表の、超高速演算能力を持つAI探偵。
ウクライナ代表の、無限の思考力を持つクロックアップ探偵。
日本代表の、ずば抜けた感受性による情報収集が得意な五感探偵、などなど。
いずれも能力といい性格といい非常に個性的で、それぞれを主人公とした短編と言っても過言ではない面白さです。
そして彼らの凄さや魅力をたっぷり紹介してから、後半になりいよいよ推理対決が始まります。
これがまた激しくて、異能と推理力とが派手にぶつかり合う様は、あたかもバトル漫画!
荒唐無稽なようでいて緻密に練り固められたロジックは、読む者を圧倒し、思考力とテンションを否応なしにMAXへと引き上げます。
最終的に勝利し、世界一の名探偵となって聖遺物を手に入れるは誰か。
「ほんタメ文学賞2021年下半期」たくみ部門の受賞作である、激アツのスーパーバトルをぜひお楽しみください。
35.中村あき『好きです、死んでください』
八丈島から30キロの場所に浮かぶ無人島に、6人の男女が集められた。
共同生活の中で育まれる恋心を撮影する恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」のためだ。
そのような中で、突然事件が起こる。
集められたメンバーの中の一人が、密室内で死体となって発見されたのだ。
しかも、高波により渡航禁止の状態が続いており、島には外部からの助けを呼ぶことができそうにないというクローズドサークル状態に……。
世界初?疑似恋愛番組×孤島の殺人
クローズドサークルでの殺人事件を描いたミステリー作品は、数多くあります。
が、そこに恋愛リアリティ―ショーを掛け合わせたミステリーは、本書が初ではないでしょうか。
近頃大ブームとなっている恋愛リアリティ―ショーを、ミステリー界で古今東西で愛され続けているクローズドサークルに絡めたのですから、面白くないわけがありません!
恋愛のドキドキ感に加え、常に撮影されている緊張感、そして孤島から脱出できない不安と、次々に人が殺されていく恐怖。
さらに中盤からは、SNSでの個人攻撃という、これまた現代的な苦渋まで加わってきます。
ということで、中村あきさんの『好きです、死んでください』は、控えめに言ってかなりの傑作であり、現代×古典のハイブリッドミステリー巨編と言えます。
一体犯人は誰なのか、次に狙われるのは誰なのか、疑念が渦巻く壮絶な心理戦をぜひご覧ください。
36.斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』
天使が降臨して以来、探偵はお役御免となってしまった。
この天使は、二人以上を殺した人間を即座に地獄に引きずり込むからだ。
天使が裁いてくれるなら、探偵が犯人を探し出す必要はない―。
そう思っていた探偵の青岸だが、富豪の招待で常世島を訪れた時、信じられない光景を目にする。
ここでは招待客が次々に殺されているのだ。
犯人はどうやって、天使による断罪を免れながら殺人を続けているのだろうか。
天使の裏をかく殺戮に、孤高の探偵が挑む
天使が殺人犯を裁く特殊な世界を舞台とした本格ミステリーです。
興味深いのが、天使が降臨したことで、「どうせ天使に地獄に落とされるなら、二人といわず大量に人を殺そう」という人間まで現れた点。
倫理が完全に狂ってしまっており、主人公の青岸はそのせいで探偵としての自分の存在意義を見失っています。
しかし常世島での、天使の断罪をかいくぐるかのような連続殺人に、再び探偵魂に火がつくのです。
一人目の被害者は、ナイフで心臓を一突きに。
二人目の被害者は、槍で喉を串刺しに。
三人目は忽然と姿を消し、四人目は15メートルの井戸の底に。
といった具合で続々と被害者が出るのですが、これらは全て単独犯の仕業なのか、はたまた天使によるものなのか。
特殊設定ではありますがトリックやロジックが満載なので、しっかりとした謎解きを楽しめますよ。
また、青岸には過去に凄絶なトラウマがあり、それと向き合う様子や、自らのアイデンティティを確立させていく様子も描かれています。
ヒューマンドラマとしても読み応えのある作品です。
37.門前典之『卵の中の刺殺体』
2010年夏、池で龍の卵のような白い物体が発見された。
調べてみると、それは卵型に固めたコンクリートであり、中には右目を刺された女性の白骨死体があった。
時は遡り2005年、人気カフェの社長が密室で殺され、翌年にはその弟がやはり密室で殺害された。
さらに、殺人鬼によって遺体が「芸術作品化」されるという猟奇的な事件が相次ぐ。
探偵の蜘蛛手は、これら一連の事件の謎をどう解き明かすのか?
人間を卵やテーブルに!?驚愕必至の猟奇殺人
一級建築士であり名探偵でもある蜘蛛手のシリーズ第六弾です。
極小の密室と言える卵型コンクリートの中から女性の刺殺体が発見されるという、冒頭からインパクト抜群な一冊。
しかも吊り橋が落ちてクローズドサークル化した山荘で社長兄弟が殺されたり、殺人鬼ドリルキラーによる連続殺人が起こったりと、これでもかというほど事件が続き、読者を飽きさせません。
特に強烈なのがドリルキラーで、人間を切り刻んでコンクリートと繋ぎ合わせてテーブルにしたりと、エグすぎる殺人のオンパレード!
さらに面白いことに、これらの事件は探偵・蜘蛛手の不在中に起こります。
代わりにワトソン役である宮村が翻弄されまくるのですが、これにより読者は、自分も翻弄されているかのようなハラハラドキドキ感を味わえます。
もちろん最終的には、戻ってきた蜘蛛手によって謎が一気の解き明かされるので、その爽快感もバッチリ堪能できますよ。
衝撃的なミステリーを読みたい方は、ぜひ!
38.門前典之 『友が消えた夏 終わらない探偵物語』
大学の演劇部員たちが、火災で燃えた合宿所で、白骨遺体となって発見された。
不可思議なことに、いずれの遺体からも首が切り取られていた。
犯人と思われる人物の白骨が海底から発見されたため、この事件は解決済みとされていたが、時を経て探偵の蜘蛛手が推理し直すことに。
被害者の一人が残したボイスレコーダーの記録を入手したからだ。
首無し白骨、拉致、ストーカーの三段構え
建築士探偵・蜘蛛手シリーズの第七弾。
半焼した合宿所で発見された首無し白骨事件を中心に、記憶喪失の女性がタクシー運転手に拉致される事件やストーカー被害が描かれています。
いずれも過去に起こった事件であり、蜘蛛手が当時の記録から真相を探っていく、という流れです。
この「記録」が厄介で、ある連続窃盗犯が入手したボイスレコーダーを文書化したものなのです。
つまり蜘蛛手は、事件の関係者に直接話を聞くことなく、真実かどうかわからない怪しい記録を頼りに推理しなければならないわけですね。
しかも複数の事件が、時間も場所も全く異なっているのに水面下で絡み合っているという難解さで、読者も大いに惑わされることになります。
だからこそ蜘蛛手が見事に謎を解いた時には、「まさかコレとアレが繋がるなんて!」「こんな伏線があったなんて!」と、新鮮な衝撃を連続で味わえますよ。
真犯人の正体や動機にもかなりの意外性があり、最後まで驚きながら読めます。
でも最も驚愕するのはラストシーン。なんと宮村に、とんでもないピンチが襲いかかってきます。
読み終えた瞬間、次回作を読みたくてたまらなくなる、ファン泣かせの一冊です。
39.夕木春央『サーカスから来た執達吏』
時は大正十四年、樺谷子爵家は莫大な借金によってすっかり没落していた。
ある日晴海商事から、執達吏(借金の取り立て人)として、元サーカス団の少女・ユリ子がやって来た。
到底返済できそうにない樺谷家は、借金のカタとして娘の鞠子を差し出す。
鞠子はユリ子と共に、今は亡き絹川子爵が明治末期に隠したという財宝を探すことになり―。
暗号あり、密室あり、殺人ありのお宝探し
借金返済を目指して、少女二人が財宝の謎に挑むという冒険活劇です。
一人は、字は読めないけれど行動力は天下一品という、サーカス団出身のユリ子。
もう一人は、華族のご令嬢で教養があり、小説家になることをひっそりと夢見ている鞠子。
タイプは真逆ですが、だからこそ役割分担がスムーズなので良いバディですし、何より二人の掛け合いがとても面白い!
マイペースなユリ子に、世間知らずでおっとりした鞠子が振り回されている感じが可愛くて、ついニマニマしながら読んでしまいます。
それに対して財宝探しは、超ハード。
もともとこの財宝は、密室からいきなり消失し、その際に人が殺されており、崩壊した館から激ムズ暗号文が発見されたという、かなりのいわくつき。
しかも財宝を狙うライバルも多く、簑島伯爵家や長谷部子爵家が、二人の前に立ちはだかります。
拉致監禁されたり、給仕に変装して潜入したりと、二人は幾多のハラハラドキドキを乗り越えて、どんどん財宝に近付いていきます。
最終的に、財宝の謎は解けるのか、誰が手に入れるのか。
疾風怒濤の冒険譚、ぜひ読んでみてください!
40.米澤 穂信 『可燃物』
寡黙でとっつきにくいが、捜査能力はズバ抜けており、誰もが一目置いている警部・葛。
ある時、奇妙な不審火が連続して発生した。
場所は決まって近隣のゴミ捨て場で、なぜか曇や雨の日など、燃えにくい日を狙ったかのように発生するのだ。
しかも紙のゴミではなく、水分を含む生ゴミが狙われている。
燃やすために放火したのではないとしたら、一体目的は何なのか。
寡黙すぎる警部の鋭すぎる洞察力
機械のように無感情な捜査の鉄人・葛警部を主人公とした、全5編のミステリー短編集。
見どころは、いずれの短編も「わかりそうでわからない謎」が描かれているところです。
たとえば表題作の『可燃物』の場合ですが、放火犯といえば、普通は何かを燃やすことが目的ですよね。
でもこの放火犯は、なぜか雨の日に生ゴミに火をつけようとしているので、そこで読者は混乱させられます。
同じように他の短編でも、「犯人はわかるのに凶器がない」とか「事故の目撃者が何人もいるのが逆にあやしい」とか、事件としては解決しそうだけれど、どこか引っかかるのですよね。
半分スッキリ、半分モヤモヤ、という感じです。
そして最後の最後で葛警部が見事に謎を解き明かしてくれるのですが、これにより読者は本格的にスッキリ!とても気持ちよく読了できるわけです。
また葛警部があまりにも寡黙で、自分の推理や捜査状況をはほとんど喋ってくれないところがニクい。
だから読者は余計に混乱してモヤモヤを抱えますし、最後のタネ明かしのシーンでは一層スッキリ感を味わえるのです。
解決編の爽快感を味わいたい方にオススメの一冊。
ミステリーランキング三冠を達成した話題作をぜひ!
41.雨穴『変な家』
オカルト専門ライターである筆者は、友人から中古一戸建ての購入について相談された。
一階の台所とリビングの間に、謎の空間があって気になるというのだ。
筆者が知人の設計士に間取り図を見せたところ、他にも二重扉や窓のない浴室など奇妙な部分がいくつもあることがわかった。
一体この家は、何の目的でこのような間取りで作られたのだろうか。
間取りに潜む一家の秘密とは
ある中古物件の間取りから、その家でかつて何があったのかを探っていく不動産ミステリーです。
一見普通の家の間取りですが、よく見ると明らかに異常な点があって、指摘と仮説とが次々に出てくるところが見どころ。
①二重扉で閉ざされた子供部屋 → 子供を誰にも見せたくなかったのではないか?
②一階にある謎の空間 → 子供部屋と浴室とを繋ぐ隠し通路ではないか?
③窓のない浴室 → 人を殺害するためではないか?
などなど、物騒な仮説のオンパレード!
しかもこじつけや当てずっぽうではなく、間取り図を見れば見るほど、そうとしか思えなくなってくるから怖い。
物語が進むと、別の住宅や古民家の間取り図も出てきて、不吉なムードはますます加速していきます。
やがてある一家の秘密や因縁、呪術、左手供養などなど、物語は一気にオカルティックな方向へ!
一体どのような真相が隠されているのか、ぜひ読んで秘密を暴いてみてください。
WEBメディアへの投稿から始まり、動画化、書籍化、漫画化され、ついに映画化も決定した超話題作です!
42.白井智之『そして誰も死ななかった』
五人の推理作家が、同じく作家の天城から、孤島の洋館「天城館」に招待された。
ところが館には天城の姿はなく、ミクロネシアの先住民族・奔拇族が使っていたという儀式用の泥人形が並ぶのみ。
そのような中で、作家たちが一人、また一人と不審な死を遂げていき―。
惨劇後に本人たちが推理合戦!?
かのアガサ・クリスティ著『そして誰もいなくなった』をモチーフとした本格ミステリーです。
モチーフとはいっても作品としての毛色は全く違っていて、奇抜な展開が続くので、新鮮な気持ちで読めます。
見どころは、作家たちが次々に殺され、「誰もいなくなった」状態になってからすぐに、「本人たち」による犯人探しの推理合戦が行われるところ。
そう、この作品、殺されたはずの被害者たちが、動いたり考えたりすることが可能であり、自分たちを殺した犯人を探しまわるのですよ。
「なるほど、だからタイトルが”誰も死ななかった”なのか」と読者は合点がいきつつも、あまりにもありえない展開に、目が点になったまま。
それでも怖いもの見たさと真相の知りたさとで、物語にどんどん引き込まれていきます。
しかも本人たちによる推理がまた見事で、メンバーがそれぞれミステリーのプロなので、とにかく濃密!
どれも着眼点が面白い上に説得力があって、読者は驚かされたり納得させられたりで、興奮が止まりません。
一体犯人は誰なのか、姿を現さなかった天城や泥人形の真相は?
最後の1ページまで、衝撃が続きます!
43.白井智之『名探偵のいけにえ』
大塒探偵の助手を務める有森りり子が、失踪した。
ガイアナ共和国のジョーデンタウンにいることがわかり、大塒は連れ戻すために現地に向かう。
そこはカルト教団が作った町で、信者たちは教祖を崇め、どんな怪我も病気も奇跡によって治ると信じていた。
大塒はここで、奇妙な連続密室殺人に遭遇し―。
誰が誰をいけにえに?衝撃の真相に震えが止まらない
カルト教団内での連続殺人の謎を追うミステリーです。
まずは冒頭で「人民教会殺人事件」が描かれているのですが、これがものすごくショッキング!
なんと教祖を始めとした914名の信者が、一斉に毒をあおって自殺するのです。
老若男女関係なく、皆が泡を吹いたり痙攣したり喉を掻き毟ったりしながら、バタバタと倒れていく…。
しかもこれ、実際にあったという「人民寺院集団自殺事件」を元にしているらしいので、余計に恐ろしい!
そして次章では時が少し遡り、なぜそのような事件が起こったのか、ジョーデンタウンに潜入した大塒の視点で少しずつ語られます。
密室殺人が立て続けに起こるのですが、その謎をりり子と大塒の多重推理で解き明かしながら、ジワジワと「人民教会殺人事件」に近付いていく感じです。
どれほ凄惨な事件なのか、冒頭を読んだ読者は既に知っているため、読みながらヒヤヒヤしまくりですよ。
そして終盤になると、いよいよ真相が明らかに。
事件の謎に加え、タイトルの「いけにえ」の意味が大どんでん返し的に明かされ、読者は大いに衝撃を受けることになります。
名探偵に対してトラウマを抱きかねないレベルのショックであり、そういう意味でも『名探偵のいけにえ』は、忘れられない一冊になること間違いなしです!
「2023本格ミステリ・ベスト10」で第1位に輝いた傑作をご覧あれ。
44.五十嵐律人『法廷遊戯』
法都ロースクールでは、クラスで起こった事件を生徒たちが模擬的に裁くという「無辜ゲーム」が流行していた。
このゲーム内で清義は、自身が過去に起こした事件を暴露された。
また美鈴も、自宅で過去の罪を指摘するような嫌がらせを受けた。
犯人がわからないまま二人はロースクールを卒業したが、ある日再び「無辜ゲーム」の誘いを受ける。
ところが清義が待ち合わせ場所に行ってみると、発案者である馨が胸を刺されて死んでいて―。
罪を暴くか隠すか、青春リーガルミステリーの傑作
ロースクールに通う清義と美鈴が、自分たちの過去の罪を知る人物を探っていく物語。
見どころは前半と後半とで分かれており、まず前半では「二人は本当に罪を犯したのか?」という疑惑に読者はハラハラドキドキ。
そして後半では、なんと美鈴が。ある重大な罪の犯人として逮捕され、清義が弁護することに!
この急展開に、読者はますますドキドキ。
しかも美鈴は清義にすら黙秘を貫くので、謎が膨らむ一方という、読者泣かせの面白さ!
さらに終盤になると、過去の真相が明らかになり、その上で二人には強烈な選択が迫られることになります。
罪を受け入れるか、無罪を勝ち取るか。
その先には、胸を締め付けられるような切ないラストシーンが待っています。
リーガルミステリーではありますが、法律の知識は全く必要なく、謎を追う楽しさに読者はみるみる引き込まれていきます。
むしろ読むことで法律への興味がわき、知識もどんどん増えていきますよ。
現役弁護士が司法修習生の時に執筆し、第62回メフィスト賞を受賞。
数多のミステリーランキングにおいて上位にランクインし、さらに映画化もされた、圧倒的な人気作です!
45.櫻田智也『蝉かえる』
昆虫をこよなく愛し、全国各地を旅してまわる魞沢(えりさわ)が出会った数々の事件を描く。
被災地ボランティアの男性が目撃した少女の幽霊、団地での傷害事件と同時に起こった交通事故の謎、ペンションで仲良くなった中東出身の青年の転落死など、計5編を収録。
一話読むたびに、人の寂しさ、愛おしさが胸に沁み入ってくる、切なくも心温まる短編集。
思わずホロリ…昆虫と人間が紡ぐ5つの物語
『サーチライトと誘蛾灯』に続く連作ミステリー第二弾で、前作同様、昆虫を愛する青年・魞沢が主人公です。
魞沢は旅の道中で様々な事件に出会い、昆虫が関わる独自の視点で解決していきます。
日常系のミステリーなので事件の派手さはないものの、謎を解く過程の面白味と真相の意外性には、心を強く引き付けられます。
そして何より、真相に潜むテーマが温かい。
どの事件も人の寂しさや悲しみといった感情が起因となっており、それが魞沢という感受性の極めて高い青年を通すことで、実に優しく美しく描き出されているのです。
登場人物の行動のひとつひとつが読み手の琴線に触れ、ホロリとしてしまうこともしばしば。
読み終えた時には、「本当に素敵な読書体験ができた」と胸がジーンと熱くなるような、印象的な作品です。
特に表題作『蝉かえる』と、少年時代の魞沢を描いた『ホタル計画』が、悲哀に満ちていて感動的!
第74回日本推理作家協会賞、第21回本格ミステリ大賞を受賞。
ぜひ多くの方に、読んで浸っていただきたいです。
46.須藤古都離『ゴリラ裁判の日』
高い知能を持つゴリラのローズは、人間を相手に裁判を起こした。
動物園にいた夫ゴリラが、檻に入った子供を守るという理由で、無惨に射殺されたからだ。
しかし裁判の結果、ローズは敗訴。
ゴリラの命は人間の命よりも軽いのか、人間を助けるためならゴリラを殺しても良いのか?
激しい悲しみと憤りを覚えたローズは、動物園と決別し、なんと人間の社会で生きていくことに……!
種族の違いによる命の優先度を描いた感動巨編
2016年のアメリカで、男児を救出するためにゴリラを射殺する事件が起こりました。
本書はこの事件をモチーフとしたリーガルミステリーで、射殺されたゴリラの妻ローズが人間を訴えるという流れです。
しかもローズは知能が高く、人語はおろか数学も理解できるスーパーゴリラ。
手話で会話もできるので、裁判どころか人間社会でプロ〇〇〇〇として働いたりと、荒唐無稽ながらも興味津々で目の離せない展開が続きます。
ローズには人間の友達もいて、彼らとの交流は、ジョークあり、恋バナあり、悩み相談ありで、とってもハートフル。
聡明でユーモアのあるローズを、読者はページを追うごとにどんどん好きになっていきますよ。
だからこそローズが置かれている「人間よりも命が下位とされるゴリラ」の立場には、胸が痛みます。
ローズはこれほどまでに人間に近い存在なのに、やはりゴリラとして扱われのかと、やるせない気持ちになります。
物語終盤では、ローズは裁判にもう一度挑みます。
人間社会で生き、人間について学び、人間との強い絆を得たローズは、今度はどう戦うのか。
ラストシーンは、涙腺崩壊レベルの感動の嵐!
第64回メフィスト賞を満場一致で受賞した傑作です。
47.大山誠一郎『ワトソン力』
たいした手柄があるわけでもないのに、捜査一課に抜擢された和戸刑事。
彼が出会った事件では、いつも現場に居合わせた人物が真相を暴き出していた。
ペンションオーナーの射殺事件も、作品展での作家撲殺事件も、謎を解いたのは必ず彼の周囲の人々。
そう、和戸には、ある特殊能力があったのだ。
自分を中心とした半径20メートル以内にいる人物の推理力を高め、名探偵にする「ワトソン力」が!
自分以外のみんなが名探偵
「ワトソン力」で他人の推理力を爆発的に押し上げて謎を解くという、特殊設定ミステリー短編集です。
主人公の和戸が関わった事件が、過去の回想も含めて全7編収録されています。
どの事件も捻りに捻った殺人事件で、現場に謎の赤い十字架が5本描かれていたり、複数のワイングラスの中でターゲットが飲むことになるグラスにだけ毒が仕込まれていたりと、推理のしがいがあるものばかり。
しかも和戸のワトソン力によって抜群の推理力を得た人々が、それぞれに考えを披露しながら、意見を戦わせるところがまた面白い。
理路整然とした推理だったり斬新な推理だったり、どれも卓越しており、手に汗握る推理合戦となっているのです。
中には名探偵ではなく「迷」探偵になってしまう人もいて、ギョッとするようなトンデモ推理が出てくるところも魅力。
ライトなタッチなので気軽に読めますし、トリックやロジックが盛り盛りなので、コアなミステリーファンにも楽しめる一冊です。
48.五条紀夫『クローズドサスペンスヘブン』
気が付いたらリゾートビーチにいた。
誰かに首を斬られて殺されたこと以外、自分の名前も年齢も何ひとつとして思い出せない。
目の前の洋館に入ると、そこには同じように殺されて記憶を失った人々がいた。
どうやらここは天国で、成仏するには自分たちの死の真相を解き明かす必要があるらしい。
集められた6名の死者たちは、それぞれに謎解きを始めるが―。
天国というクローズドサークルで謎を解く
舞台が天国で、登場人物が全員殺されているという、前代未聞の特殊設定ミステリーです。
しかも6人とも同じ事件で死亡しています。
そのため一同は、この中の一体誰が犯人なのか疑心暗鬼になりますし、それでいて謎解きのためには協力し合うことも必要なので、必然的に心理戦の応酬となるのです。
後半になればさらに手に汗握らずにはいられない展開が続きます。
毎朝6時に新聞が届くのですが、これがまた面白い。
現世での事件の調査内容などが記載されているので、犯人探しのヒントになり、推理が飛躍的に進むのです。
この他にも、望めばどんな道具でも出てくる納戸など、天国ならではの奇抜な設定がいくつかあります。
いずれも登場人物や読者の推理をうまくサポートしてくれるので、読めば読むほど考えることが楽しくなっていくんです。
終盤には、特大のどんでん返しも待ち構えています!
新潮ミステリー大賞の最終候補に選ばれ、すぐに文庫化された話題沸騰の作品です。
49.井上悠宇『不実在探偵の推理』
ある事件を追っている刑事の百鬼と烏丸は、大学生の現を訪ねた。
現のもとには、素晴らしい推理力を持つ名探偵アリス・シュレディンガーがいるからだ。
ただし彼女は「不実在探偵」で、その姿は現にしか見えないし、声については現でも聞くことができない。
だから彼女は、現や刑事からの質問に対してダイスで答える。
「はい」「いいえ」「わからない」「関係ない」、この四パターンの返答で、数多の難事件を解決へと導くのだ。
ダイスで語る、実在しない探偵の名推理
実在はしていないけれど現には見える「不実在探偵」と一緒に事件を解決していくミステリーです。
藍の花を握りしめて死んでいた女性の謎、宗教施設で血まみれになった眼球のオブジェの謎など、複数の事件が描かれています。
見どころは、ダイスでやりとりする水平思考!
水平思考とは、問題解決のために枠にとらわれない幅広い発想をすることであり、これが本書ではきれいに成り立っているのです。
たとえば現や百鬼は、アリスにできるだけ正確に推理してもらうために、あらゆる角度から質問を投げかけます。
これによりアリスは、必然的に水平思考をすることになります。
また現たちは、アリスが四択で回答できるよう工夫して質問する必要があります。
さらに、アリスが提示するダイスの目から、彼女の考えや主張を汲み取らねばならず、やはり頭をかなり使うのです。
このように双方の頭脳プレイによって推理が進んでいく過程が、まるでパズルのように面白い!
つい「自分ならどう考えるかな」と、水平思考に参加したくなるところもイイですね。
今までにない推理をワクワクと楽しめる新鮮な一冊です。
50.青本雪平『バールの正しい使い方』
父の仕事の都合で、小学校を転々としている礼恩(レオン)は、その場の人間関係を的確に読み取り、スムーズに入り込むことに長けていた。
礼恩は行く先々で、嘘をつく子供や奇妙な事件に出会う。
友達に嫌われてもかまわないという女の子や、タイムマシンを作った話、そしてバールのようなもので殴ってくる奴のこと。
礼恩はそれらの嘘や噂の真相を、スバ抜けた洞察力で探っていくが―。
「バール」に込められた思いとは?
バールというと、殺人事件の凶器に使われることが多いため、「この作品も猟奇殺人モノかな?」と思ってしまいがちですが、実は優しく切ない青春ミステリー。
小学生の礼恩が出会った「子供たちの嘘」と「バールの噂」とが、全6編の短編として描かれています。
各話において事件が起こるので、ミステリーとして楽しめるのはもちろん、それ以上に興味深いのが、子供たちがつく嘘の内容と、その理由。
虚栄心だったり親子関係だったり、子供は子供なりに色々と抱えて悩んでいるのだと、しみじみと伝わってきますし、考えさせられます。
しかも礼恩がそれらの真相を暴く様子が、優しく見えることもあれば残酷に見えることもあり、匙加減が絶妙なのですよ。
礼恩は賢くて感受性が強くて色々とわかってしまう子なので、暴く過程で苦しみを抱くこともあり、その葛藤がまた読者の胸を突いてきます。
最終的には、「バール」とは一体何のことで、どういう気持ちからどう使うのかが見えてきます。
読んでいる読者も、「自分だったらバールを正しく使えるだろうか?」とつい考えてしまうのですが、そこもこの作品の醍醐味です。
心に刻まれるようなドラマ性のあるミステリーを読みたい方は、ぜひ!
おわりに
以上、【2024最新版】究極に面白い国内ミステリー小説おすすめ50選【最近の新刊】でした。
最後までご覧いただきありがとうございました!
第1弾、第2弾も読んでいただければ嬉しいです(๑>◡<๑)