木爾チレン『みんな蛍を殺したかった』- 少女の心を繊細に描く名手によるミステリ

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時は2007年、京都の底辺女子高のさらにスクールカースト底辺の生物部に所属する三人のオタク女子高生たち。

親に隠れて小説を書く「栞」、母親の愛を期待する「雪」、オンラインゲーム上の彼氏がいるという「桜」。

そんな通称「オタク部」の元に、東京から転校してきたという美少女・蛍が入部してきた。

自身もオタクだという蛍とオタク部の三人は次第に友情を築き始めるものの、ある時蛍が線路に飛び込んで亡くなってしまう。

真相がわからないまま月日が流れ、やがて三人は蛍の残した悲劇のゆがみに囚われていく。
蛍はなぜ死んでしまったのか?

残された三人のそれぞれの思惑とは?

少女たちの内面を抉り出す圧倒的な描写力で、蛍の、そして三人の物語に引き込まれる!

愛されることを求めた少女たちの行く先から目が離せません。

目次

愛されたい少女たちの思いが胸に迫る

スクールカースト最底辺に位置する「オタク部」の栞・雪・桜。

そこに東京からの転校生で美しい外見に恵まれた少女・蛍がやってくるところから全てが狂い始めます。

雪の母親は美しい蛍を見て養子にしたいと考え、オンラインゲーム上の“自分”を蛍に演じてもらった桜は“彼氏”が蛍に奪われるのではないかと疑い、蛍は栞の才能を見抜きつつも栞の代わりに応募し賞を受賞。

始めは蛍の綺麗さ・可愛さへの単なる羨望だったものが、彼女らが関わり合うことで次第に憎しみへと変貌していくことに。

容姿の綺麗さと心の綺麗さは関係ないと思いつつも、どうしても繋がってしまう。

結局のところ“ただ愛されたいだけだった”という少女たちの思いが胸に迫る作品となっています。

その心理的描写のリアルさ・それを描き出す言葉のセンスは、この作者特有のものとなっているように感じます。

自分を愛せないからせめて“誰か”には愛されたい少女たちと、美しさゆえに羨望や憎悪を買い、周囲を破滅させていく少女。

その関係性と終着点が、この作品の見どころの一つとなっていると言えるでしょう。

蛍はなぜ死んだのか?最後に明かされる衝撃の真相

蛍はそもそもなぜ「オタク部」に入部してきたのか?そしてなぜ自殺してしまったのか?

読み進めれば読み進めるほど、こういった謎が深まってゆくのも本作の見どころ。

少女の内面の揺らぎをあぶりだすと同時にミステリーとしての楽しみ方もできる作品なんです。

周囲も羨む美貌を手に入れながら、最後には線路に飛び込むという凄惨な最期を遂げた蛍。

読み進めるにつれて明らかになる蛍の過去、ラストで明らかになる蛍の思惑に、読んでいて驚きを隠せなくなることでしょう。

読み終わったとたんにまた読み返したくなる、そんな仕掛けがそこかしこにあふれています。

周りを巻き込んで歪ませていった、ある一人の少女の死。

その死の真相に、ぜひ触れてみてください。

新時代のイヤミス!ブラックな作風が好きな方はぜひ

ここまでご紹介してきたとおり、とても明るいとは言えない作風の『みんな蛍を殺したかった』。

著者は2012年に『静電気と、未夜子の無意識。』でデビューした木爾チレンさんで、今回の『みんな蛍を~』の舞台と同じく京都府京都市出身の小説家です。

木爾チレンさんの武器は、女性や女の子の内面を鮮烈に描き出す表現力。

2009年には大学在学中に執筆した『溶けたらしぼんだ。』で第9回女による女のためのR-18文学賞の優秀賞を受賞し、その力量が認められました。

その後も少女の内面や想いを主題としたさまざまな小説やエッセイを執筆。

意外なようですが、今作で初のミステリーを発表されました。

本作は、自殺した少女の真相をめぐるという話からして暗い作風です。

生々しい表現も多く、ブラックな作品と言えるでしょう。

それでも、イヤミスというジャンルがある限り、この少女たちの物語の顛末が気になるという方は多いはず!

少女の内面性×イヤミスという新境地をぜひ味わっていただきたいです。

かつて女子高生として暮らした20代・30代の方も感情移入して読めるのではないでしょうか。

前述の通り、作者にとっては本作が初めてのミステリー小説であり、この作者のミステリーをもっと読みたいなら待つほかにありません。

しかし、女性の内面を描き出すという主題であれば数多く出版しているのがこの作者。

受賞作の『溶けたらしぼんだ。』、デビュー作の『静電気と、未夜子の無意識。』の他、多くの作品がありますので、気になった方は読んでみてください。

きっと気に入っていただけるはずです!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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