まず最初に読むべき「江戸川乱歩」のおすすめ作品集3選

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四季しおり
ただのミステリオタク
年間300冊くらい読書する人です。
特にミステリー小説が大好きです。

ミステリーが好きな人で、江戸川乱歩(えどがわらんぽ)という名前を聞いたことがないという人は、まずいないだろう。

逆に、あまりミステリーを読まない人でも、「その名前だけは知ってる」ってケースが結構ある。

それだけ、江戸川乱歩という作家が日本の推理小説に与えた影響は大きい。名作・傑作を挙げたらキリがないし、「日本のミステリはここから始まった」と言っても、まったく大げさじゃない。

ただし、意外にも「名前は知ってるけど、実際に作品を読んだことはない」って人、実はかなり多い。

理由はいろいろあるけど、その中でもよく聞くのがこれだ。

「作品が多すぎて、どれから読めばいいのか分からない」

正直、それめちゃくちゃ分かる。乱歩は長編も短編もあるし、「〇〇傑作選」とか「少年探偵シリーズ」とか、タイトルも装丁もバラバラで、初心者にはちょっとハードルが高い。

だから今回は、そんなどれから読むか迷ってる人に向けて、「まず読んでおいて間違いない江戸川乱歩のおすすめ作品集」を紹介していこうと思う。

どれも乱歩の魅力がしっかり詰まったラインナップなので、最初の一冊選びの参考になればうれしい。

目次

まずはこれ。『江戸川乱歩傑作選(新潮文庫)』

とにかく最初の一冊を選ぶなら、これだ。

江戸川乱歩傑作選(新潮文庫)』。まずはこれを読んでおこう。

収録されているのは、以下の9編:

  • 二銭銅貨
  • 芋虫
  • 二癈人
  • D坂の殺人事件
  • 心理試験
  • 赤い部屋
  • 屋根裏の散歩者
  • 人間椅子
  • 鏡地獄

このラインナップ、ぶっちゃけかなり強い。ほぼ最強と言っていい。

初期探偵小説の代表格『D坂の殺人事件』や『心理試験』、エロスとグロテスクが混ざり合う問題作『芋虫』『人間椅子』『赤い部屋』あたりは、乱歩作品の核心をギュッと凝縮したような濃厚短編ばかりである。

どれも、江戸川乱歩という作家の顔をそれぞれ違った角度から見せてくれる傑作ばかり。ここから入るのは、本当に間違いない選択だ。

……ただし!

名作短編として名高い『押絵と旅する男』が入っていないのは、正直かなり惜しい。あの幻想と狂気が溶け合うような逸品が未収録なのは、乱歩入門としてはちょっと物足りない気もする。

というわけで、次に読むべき作品集も、ちゃんと紹介していこう。

『江戸川乱歩名作選(新潮文庫)』

最初に紹介した『江戸川乱歩傑作選』の次に読むなら、これしかない。

同じく新潮文庫から出ている続編的な位置づけの『江戸川乱歩名作選(新潮文庫)』である。

中身は以下の7編:

  • 石榴
  • 押絵と旅する男
  • 目羅博士
  • 人でなしの恋
  • 白日夢
  • 踊る一寸法師
  • 陰獣

まず注目すべきは、『押絵と旅する男』と『陰獣』が収録されていることだ。この2作が入っているだけで、この1冊の存在意義は十分すぎる。

どちらも乱歩の幻想・耽美・倒錯といった要素がぎっしり詰まっていて、「探偵小説の人」というイメージだけでは見えてこない、乱歩の奥深さを体感できるはずだ。

しかもすごいのが、この作品集、前巻と収録作品がまったく被っていない。これは、すごく重要である。

というのも、乱歩作品集って数が多すぎて、うっかり適当に選ぶと「また『屋根裏の散歩者』か……」みたいな収録かぶりに遭遇することが本当によくある。

でもこの2冊に関しては、どちらも新潮文庫から出ているからなのか、見事に被りゼロ。セットで揃えれば、短編・中編の名作がまんべんなく押さえられるという、理想的な構成になっている。

というわけで、まずはこの2冊から入るのがベスト。

でも、乱歩の真の狂気を味わいたいなら……、最後の1冊が必要になる。

『パノラマ島奇談』

そして駄目押しの一冊が、これ。

パノラマ島奇談』(江戸川乱歩文庫)である。

収録作品は以下の5編:

  • パノラマ島奇談
  • 白昼夢
  • 火縄銃
  • 接吻

もう、完璧である。

表題作『パノラマ島奇談』は、乱歩作品の中でもとびきり耽美で幻想的。探偵小説というより、倒錯した夢の小説に近い。

異常な理想郷を夢見た男の妄執と美学が暴走していくこの中編は、乱歩の「もうひとつの顔」を知るうえで絶対に外せない一作だ。

しかも、先に紹介した2冊とは収録作品がきっちり住み分けされている。短編『白昼夢』の異常心理小説的な切れ味や、『鬼』の怪談めいた味わいも、ここにしかない乱歩が詰まっている。

というわけで、

「江戸川乱歩をまだ読んだことがない」

「とりあえずどれか1冊読んでみたい」

そんな人は、この3冊をまず押さえておけばOKである。

この3冊を読めば、探偵小説・怪奇幻想・倒錯美・異常心理――江戸川乱歩という作家が持っていた魅力の主要ジャンルを、まんべんなく、しかも濃厚に体感できる。

まずはここから。

あとは自分の好みに応じて、少年探偵団や長編、さらにディープな短編集へと進んでいけばいい。

最初の入口は、もう迷わなくて大丈夫だ。

そして長編へ……

ここまで紹介してきた3冊、『江戸川乱歩傑作選』『江戸川乱歩名作選』『パノラマ島奇談』を読み終えて、「うわ、乱歩ってこんなに面白いのか!」と感じた人も、きっといるはずだ。

そんなあなたに、次におすすめしたいのがこれ。

長編小説『孤島の鬼』である。

この作品は、乱歩の数ある長編の中でも最高傑作の呼び声が高い一冊だ。探偵小説であり、怪奇小説であり、純文学のようでもある、ジャンルの枠組みを超えたとんでもない物語が待っている。

ただし。いきなり読むと、わりと面食らう可能性がある。

なにせ、乱歩の世界観がエンジン全開で襲いかかってくるので、心の準備ができてないと飲まれる。だからこそ、まずは短編で「乱歩耐性」をつけておくのが正解だ。

すでに短編で「異常」「幻想」「論理」「倒錯」のエッセンスを味わって気に入ったなら、『孤島の鬼』は、その全部が超濃縮された長編版として、最高の読書体験になるはずだ。

自宅の密室で恋人を刺殺された蓑浦金之助は、彼女が残した謎の系図を手に、死の真相に迫る。何かに導かれるように向かった孤島で金之助を待ち受けていたのは、想像を絶する恐怖だった―。

少年探偵団シリーズも忘れずに

さらに、江戸川乱歩の作品群を語るうえで、やっぱり外せないのがこれ。小林少年が団長を務める「少年探偵団シリーズ」である。

いわゆる児童向けのミステリではあるけれど、そこはさすが乱歩。文章はわかりやすく、テンポも軽快。それでいて、大人が読んでもしっかり面白い。むしろ大人になってから読み返すと、「構成めちゃくちゃしっかりしてるな」と驚かされる。

シリーズ第1作はもちろん、名作『怪人二十面相』。変装と策略を駆使する怪人と、名探偵明智小五郎&少年探偵団の知恵比べは、何度読んでもワクワクする。

わたしも小学生の頃によく読んでいたが、大人になってから読み返してみたら、「普通にめっちゃ面白いな!」ってなった。子ども向けだからって侮れない完成度だ。

最初に紹介した本格短編集や幻想怪奇系とはまたまったく違う雰囲気なので、乱歩作品にちょっと疲れた時の箸休めにもぴったりだし、純粋に「謎と冒険が好きな人」なら、年齢関係なく楽しめるシリーズになっている。

十年以上を経て突然帰郷した羽柴家の長男、壮一。折しも羽柴家には、ちまたで噂の盗賊「怪人二十面相」からロマノフ王家に伝わる宝石を狙った予告状が届いていた。

おわりに

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

江戸川乱歩の世界にこれから足を踏み入れようとしている方に向けて、最初の入口を紹介してきたが、改めてまとめておこう。

まず、何を読めばいいか迷ったときは、この3冊から入れば間違いない。

①『江戸川乱歩傑作選』(新潮文庫)
②『江戸川乱歩名作選』(新潮文庫)
③『パノラマ島奇談』(江戸川乱歩文庫)

この3冊を押さえておけば、探偵小説・怪奇幻想・耽美倒錯、といった乱歩の主要エッセンスは一通り体験できる。

そのうえで「もっと読みたい!」と思った方には、ぜひ長編『孤島の鬼』をおすすめしたい。

この作品は乱歩の長編の中でも最高峰の評価を受ける一冊であり、短編で慣らしてから読むことで、その世界観の深みにしっかり没入できるはずだ。

そしてさらに、少年探偵団シリーズで、明智小五郎と小林少年の大活躍を軽やかに楽しむのも良し。幻想色の強い短編をディープに掘り下げていくのも良し。

江戸川乱歩の作品群は、とにかく多彩で奥が深い。だからこそ、自分の好みに合った作品を拾っていけるのが最大の魅力だ。

というわけで。

まずは気になった1冊から。

そこから先は、どこへ行っても面白い。

江戸川乱歩という迷宮に、ようこそ。

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