寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』- 住み込み先で出会ったそいつは□□だった!

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人生を悲観し、死のうと考えていた俺は、道端で求人看板を見つけた。

「今すぐ人生がどうにかなってもいい人募集中」とのことで、まさに今の俺にピッタリだった。

仕事内容は、とあるマンションの住み込み管理で、月給は十五万円~。

条件はただひとつ、七階の住人の隣に住み、必ず仲良くすること。

なんだか怪しい感じだが、判断力すら失っていた俺は、さっそく働いてみることに。

それ以来、俺は隣人と仲良くしている。

隣「人」と言っていいかはわからない。

なぜならそいつは、きっと、いや絶対に、人間ではないから。

見た目からして異様で、顔も体も人間離れしている。

でも意外とフレンドリーで、俺に危害を加えてくることはない。

ただ怪談を話すのが好きなようで、時折ベランダ越しに話しかけてくる。

俺は、気を損ねない程度に相槌を打ち、聞いているだけ。

今日もそいつがベランダの窓を叩いて、合図をしてきた。

今回は一体どんな怪談が語られるのだろう。

目次

ハートフルなホッコリ系ホラー

『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』は、日常系のホラー連作短編集です。

青年タカヒロが、仕事としてマンションに住み込み、隣人と仲良くする様子が描かれています。

それだけで給料を貰えるのだから、おいしい仕事ですよね。

でもウマい話には裏があって、この隣人、どうやら人間ではなさそうです。

指は六本あって真っ黒にただれているし、口は筒状、舌は長いという薄気味悪い姿で、しかも夜な夜なベランダ越しに怖い話を聞かせてきます。

現にタカヒロの前には、二十三人もこの仕事から逃げ出したのだとか!

けれどタカヒロは、逃げずに隣人に向き合っています。

誘われるたびに受け入れ、隣人が満足できるように、怪談話を聞いてあげるのです。

なぜこんなことができるのかというと、タカヒロがそれまで辛すぎる人生を歩んできたから。

タカヒロは、重度の借金癖のある実母に金品を搾取され続け、ついには家も貯金も失い、「もう人生を捨てたい。死のう」とまで思い詰めていました。

つまりタカヒロにとっては、怖い怪異と過ごす方が、実母に苦しまされる日々よりずっとマシだったということですね…(泣)

でもこの隣人、それほど怖くないというか、少なくともタカヒロを襲ったりはしません。

怪談を聞かせてきて、「ね、怖かった?」と顔を覗き込んでくる他は、タカヒロの嫌がることを一切しないのです。

どうやら隣人の方は、タカヒロを本当の友達のように思っているようです。

そして徐々にタカヒロも心を開いていき…、といった具合で、実はこの物語、ホラーでありながら、とってもハートフル。

隣人の語る怪談パートとタカヒロパートとが繰り返されるのですが、その過程で親交がだんだんと深まっていくので、読みながらホッコリしてきます。

怖いけど可愛らしくて尊い

もちろん基本はホラーなので、怖い展開はあります。

その最たるものは、隣人が話す怪談ですね。

姿を消した女の子のスニーカーが、びしょ濡れの状態で机の上に転がっていた話。

近所に住む女性が、いつも抱いていた赤ちゃん人形をズタズタにして渡してきた話。

などなど、どれも短めの怪談ですが、設定やシチュエーションが凝っていて、ゾッとさせてくれます。

幽霊モノもあれば、都市伝説系、ヒトコワ系などもあり、バリエーションも豊富。

でもそれらの怪談よりもさらにインパクトが大きいのが、隣人の可愛らしさ!

明らかに人外なのに、なんだか愛嬌があるのです。

グミキャンディが好きで、タカヒロに「つぎは、こーら味がいいな」と、おねだりしたり。

「くりすます、贈り物、いる?」と気遣ってくれたり。

タカヒロに「友達を辞めるかも」と言われた瞬間、慌てふためいたり。

タカヒロが辛そうだったり危険だったりした時に、助けになってくれたり。

言動のひとつひとつが、タカヒロに対する親愛の情に満ちていて、尊いのですよね。

そしてこれにより、タカヒロのささくれだった心が徐々に解きほぐされていく様子も、また素敵。

人生に悲観し、自殺さえ考えていたタカヒロが、隣人との「明日」を楽しみにするくらいに立ち直っていく過程は、感動的です!

やがてタカヒロに、母親との確執に立ち向かう場面がやってきます。

その時タカヒロが何を思い、どう行動するのか。

この山場は、ぜひご自身で味わってみてください!

他の部屋にも怪異が?続編に期待!

『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』は、小説投稿サイト「カクヨム」で寝舟はやせさんが連載していた作品です。

WEB上で人気を博し、話題となり、加筆修正を経て書籍化されたものが本書です。

各パートが短いので読みやすく、それでいてタカヒロの凄絶な過去と隣人の可愛らしさによって、読者はグイグイと物語に引き込まれていきます。

怖い、可愛い、怖い、可愛いが小刻みに入れ替わるため、飽きることなく読み続けることができるのですよね。

実際にWEB上では、「面白すぎて一気読み」「読み終えるのがもったいない」「続編を読みたい」という感想が大量に出ています。

全てに同感ですが、特に続編については激しく同意!

なぜならこの物語、様々な謎が残されているからです。

隣人の正体、このマンションの存在意味などなど気になる点が色々あり、なんとも後を引くのですよね。

さらに表紙を見ていただければわかるのですが、このマンション、隣人以外にも怪異が何体もいそうです。

階下の窓には、カーテンの隙間からこちらを見ている白い影が、上の階の窓には、苦しんでのたうちまわる人々の姿が映っています。

最上階に近いのに、なぜか踏切が映り、真っ赤に染まっている窓もあります。

どれも不気味で、何かが潜んでいそうな気配がプンプン!

これらとタカヒロがどう関わっていくのかも、気になるポイントのひとつ。

シリーズ化が期待されるほどの傑作ですので、ぜひお手にとって楽しんでみてくださいね!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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