フィリップ・K・ディックのおすすめSF小説7選

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普段SF小説を読まない方でも、フィリップ・K・ディックの名や『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』なんてタイトルは聞いたことがあるでしょう。

ロバート・A・ハインライン『夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)』やジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの (創元SF文庫)』、ジョージ・オーウェル『一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)』、レイ・ブラッドベリ『華氏451度〔新訳版〕』などの名作と同様に、おすすめSF小説としてまず名前があがる作品です。

そんなSF小説を読むならまず手に取っちゃうフィリップ・K・ディックですが、面白い作品がありすぎるので、今回は優先的に読んでみてほしい7作品を厳選しました。

この機会にぜひディックSFの面白さを。

参考にしていただければ幸いです(๑>◡<๑)

目次

1.『トータル・リコール』

ディックといえばまず『電気羊』を手にとってしまうのは当然の事なのですが、普段SFに馴染みのない方がいきなり『電気羊』を読むと、超ディックな世界観に圧倒され挫折してしまう可能性があります(読みにくいワケではないんですけどね)。

しかし、その一度の挫折でディック作品を読まずに過ごすなんてもったいない!

というわけで、「すでに電気羊で挫折した」、「SFってあまり読んだ事がないので、いきなり長編は手に取りづらいなあ」という方にはコレ。

タイトル通り、ディックの傑作短編集です。ただただ、面白い。

収録作品は

「トータル・リコール」
「出口はどこかへの入り口」
「地球防衛軍」
「訪問者」
「世界をわが手に」
「ミスター・スペースシップ」
「非O」
「フード・メーカー」
「吊されたよそ者」
「マイノリティ・リポート」

の10編。

短い話の中でもテーマと起承転結がしっかりしており、かつテンポよく、結末が逸材。どれもキレッキレで文句の言いようがありません。

「トータル・リコール」や「マイノリティ・リポート」は映画化したことでも有名ですね。

他にも「訪問者」「地球防衛軍」「吊るされたよそ者」などは映画化された二編とならぶ傑作でしょう。

ただ「トータル・リコール」の映画と原作はほとんど別物なので注意。シュワちゃんが主役の「トータル・リコール」は何回も観てしまいました。あれは面白いです。

原作はかなり短いため、映画版のようなアクションものを期待してしまうと物足りなさを覚えるかも。でも、面白いことには変わりなし。

他にもディックの傑作短編集はいくつかあり、『変数人間』や『人間以前』もかなりオススメです。

まずは短編集で肩慣らしをしてはいかがでしょうか。

著:フィリップ・K・ディック, 著:大森 望, 編集:大森 望, 翻訳:大森望, 翻訳:浅倉久志, 翻訳:深町眞理子

「フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』はどう?」「再映画化で新しく出た短編集 初訳の話も入ってる」

「初訳?面白い?」

「ディックが死んで30年だぞ!今更 初訳される話が面白いワケないだろ!!」

ええーーっ

「まぁでも傑作選だから基本どれもいいよ」

施川ユウキ『バーナード嬢曰く。: 1』88ページより引用

2.『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』

映画「ブレードランナー」の原作。

フィリップ・K・ディックといえば、まず思い浮かぶのがこの作品でしょう。

面白いSF小説を読みたい、とする人々がまず手に取る入門書でもあります。

放射能灰に汚染され廃墟と化し、生物を所有することが一種のステータスとなっている地球が舞台(この設定だけで最高に面白い)。

火星で奴隷として扱われていたアンドロイド8人が地球に逃げ込んできて、賞金稼ぎの主人公が彼らを狩っていく、という物語です。

あらすじだけ見れば、人間とアンドロイドとの戦いを描いたよくあるSFアクション作品のように思えますが、実はものすごく深く考えさせられる作品。

すごく簡単に言うなら、「人間とアンドロイドの違いはなんなのか」というテーマを超面白く書いた物語、でしょうか。

難しいテーマなのですが、これをわかりやすく面白く読ませてくれるのが本作のすごいところですね。

本当に、読み終わったあとは「人間とは何か」についてしばらく考え込んでしまいます。学生のころ読んで、友人と議論を重ねたのは良い思い出。これはもう、永遠のテーマでしょうね。

映画と原作では内容も雰囲気もだいぶ違うので、どちらも異なる楽しみ方ができるのも嬉しいポイントです。

著:フィリップ・K・ディック, 著:浅倉 久志, イラスト:カバーデザイン:土井宏明(ポジトロン), 翻訳:浅倉久志

「電気動物にも生命はある。たとえ、わずかな生命でも」

3.『高い城の男』

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と並び、ディックの最高傑作候補としてよく名が挙がる作品。

第二次世界大戦で枢軸国が勝利し、日本とドイツの二大国家が支配をしている架空の世界が舞台。

そんな世界で、〈高い城の男〉によって執筆された「もしも第二次世界大戦で連合軍(アメリカ側)が勝利していたら」を描く『イナゴ身重く横たわる』という小説が流行していた。

「もしも〇〇だったら」という歴史改変小説は珍しくもないですが、その世界の中で「もしも〇〇だったら」を描いた小説が流行している、という点が実に面白いです。

一見難しそうなテーマで、実際難解な部分もあるのですが、ストーリー的にはSF感が少なく普通の小説のようにスラスラ読めます。

あらゆる種の人々が織り成す群像劇でもあり、そのため登場人物が多いのでメモを取りながら読むと混乱しなくて良いでしょう。

それにしても、年月を開けて再読するとここまで読後感が変わる作品も珍しい……。

4.『ユービック』

これもまた、ディックの最高傑作候補。

11人の不活性者(超能力者の能力を無効化させる能力の持ち主)が、ある能力者を追って月に行く。

しかしそれは罠であり、さらに「ある現象」が彼らを襲いはじめ、ついに犠牲者が。

そこから異能者同士の激しいバトルが始まるのかと思いきや、まさかの方向に話が進んでいき最終的には超ディック。

真相が二転三転していくミステリ小説のような一面もあるので読んでいて楽しいです。

とにかくディック作品の中でも間違いなしの名作ですので、あらすじをなるべく知らない状態で読んでください。

アイデアだけでなく、緻密な構成とストーリー展開、ディックらしいSFガジェットが見事に融合しており、結末も「ああ、そうくるか」と唸ってしまうような完成度。

「現実」と「虚構」がごちゃ混ぜになり、何が本当なのかわけがわからなく現実崩壊感、通称「ディック感覚」を思いっきり味わえる作品でもあります。

『フィリップ・K・ディックってどーいう作風?』

『よくテーマにしてるのはアイデンティティクライシス』

『信じていた日常が実はすべてまやかしで自分が何者かわからなくなる話』

『そーいう現実崩壊感を「ディック感覚」って言うの』

『ディック感覚!カッコイイ!』

施川ユウキ『バーナード嬢曰く。: 1』90ページより引用

5.『流れよわが涙、と警官は言った』

三千万の視聴者から愛される人気マルチタレント、タヴァナー。

ある朝、彼は見知らぬ安宿で目を覚ます。しかも身分証明書がなくなっており、知人やファン誰もが自分のことを覚えていない状況になっていた。

何が起こったかわからない彼は必死に自分の存在を証明しようとするが、国家のデータバンクからも存在自体が抹消されていることを知る。

つまりタヴァナーは、この世界で「存在しない人」になっていた。

さらに、彼を追う警察・バックマンが登場し、物語は大きく動きはじめていく。

というあらすじだけ見ると、追われる者と追う者を描くハードボイルドサスペンスのように思えますが、実はハラハラ感はあまりなく、淡々と物語は進んでいきます。

普通であれば「なぜタヴァナーは存在しない人間になってしまったのか」「どうしたら元に戻るのか」という謎に注目してしまいますが、本書の重要な部分はそんなところではありません。

ズバリ、「人間はなぜ涙を流すのか」についての物語なのです。

最後まで読むと、タイトルの素晴らしさに思わず拍手をしてしまうでしょう。

ああなるほど、だからこういうタイトルなのか、と知るだけでも読む価値ありです。

6.『時は乱れて』

初期の頃の作品で、ただ純粋に面白い。

ディックおなじみの「現実が崩壊していく様」を存分に楽しめる傑作です。

新聞の懸賞クイズで2年間連続でチャンピオンとなっていたレイグル。

そのクイズの賞金で生活をしていた彼は、ときどき「自分はいったい誰なのか」という違和感を覚えることがあった。

そしてある出来事をきっかけに、その歯車が大きく狂い始めていく。

いつもの日常が少しずつ崩壊していく恐怖、謎に謎が重なっていき、読んでいる自分までもが「この世界は一体なんなのだろう」とワケがわからなくなってくるこの感覚。最高です。

明らかになる真実と着地も完璧ですね。言うことありません。

SFらしいガジェットもなく、普段SFを読まない方でも、純粋に面白い読み物として楽しんでいただけるでしょう。

7.『死の迷路』

ディック作品の中でも好みが別れるものだと思いますが、個人的に超好きなのでしれっとオススメ。

いろんな所から集められた14人の男女が、目的も告げられずに、未開の辺境惑星デルマク・Oに送り込まれた。

しかし連絡をとる機械が故障し、外部との連絡が途絶えてしまう。

クローズドサークルと化したこの惑星で、なぜここに集められたのかもわからぬまま、一人、また一人と謎の死を遂げていく……。

まるでクリスティの『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫)』を彷彿とさせる設定。たまらん!これだけでご飯三杯はいけます。

もちろんあくまで彷彿とさせるだけで、内容は全くの別物。完全にディックワールドなので、そんな本格ミステリー小説を期待して読むのはやめましょう。

最後には「まじですか!」と叫んでしまうような展開が待っていますが、本を壁に叩きつけたりしないように。これがディックです。

おわりに

今回は7作品に厳選しましたが、ほかにも『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕 (ハヤカワ文庫SF)』や『火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF)』など面白い作品はいくらでもあるので、いろいろ読み漁ってみてください。

そして、SF小説に興味がある方にもない方にも、施川ユウキさんの『バーナード嬢曰く。』という漫画も強くオススメします。

「読書欲が高まるギャグマンガ」でありながら、小説に関する知識が豊富で、特にSF小説について詳しく書かれているのでとても参考になります。

たとえSFに興味がなくたって、『バーナード嬢曰く。』を読むとSF小説を読みたくなってしまうのですから。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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