片岡翔『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』- 死者を出さない殺人計画VS孤島のクローズドサークル

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亡くなったミステリー作家の一族が、孤島の館でマーダーミステリーを開催することになった。

しかし探偵志望のメイド・風゛(ぶう)は、これがゲームを装った殺人計画であることに気付いてしまった。

そこでミステリープランナーの豺(やまいぬ)と一計を案じ、殺人を成功したかのように見せかけつつ、被害者をコッソリ逃がすことにする。

ところが想定外の人物が殺されてしまった上、その後も殺人が繰り返され、被害者がどんどん増えていく。

風゛は犯行を食い止め、真相を暴くことができるのか?

軽快な読み口でありながら、緻密なロジックやトリックを楽しめる本格王道ミステリー!

目次

誰も死なない殺人計画

『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』は、タイトル通り「本格ミステリ」を偽装する物語です。

主人公はメイドの風゛(風という字に濁点をつけて、「ぶう」と読みます)で、これがかなりおっちょこちょいで、のほほんとした子。

でも実は幼い頃から探偵に憧れており、ひとたび事件が起これば優れた嗅覚と鋭い洞察力とを発揮して、見事な推理を展開していくという面白いキャラクターです。

この風゛が、勤め先の館で起ころうとしている殺人事件を防ぐため、偽装殺人を企てます。

犯人の狙い通りにきちんと殺されたように見せかけておき、裏で被害者をコッソリ逃がしてあげるわけですね。

普通のミステリーとは逆で、犯人ではなく探偵側が殺害現場を作るという発想が新鮮!

さらに斬新なのが、ミステリープランナーの男・豺(やまいぬ)です。

彼は肩書通りミステリーのプランを売り物としており、なんと料金表まであったりします。

・トリック考案 ¥300,000~
・シナリオ制作 ¥200,000~
・雨や雷の演出 ¥300,000~

などなど細かな料金設定があり、ミステリー好きであれば見ているだけでワクワクしてきます!

その仕事ぶりを、実際に間近で見学したくなるくらい。

この豺と風゛が、これから行われる殺人計画を「死者を出さない殺人計画」に塗り替えていくのが中盤までの流れです。

しかし偽装自体はうまく進むもののが、新たな問題が起こります。

全く別の人が殺されてしまった上、次々に殺人が起こって被害者がどんどん増えていくのです。

この急展開により、風゛は演出ではなく本物の推理をし、犯人探しに奔走することになります。

つまり『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』は前半は斬新な偽装ミステリーを楽しめて、後半は本格ミステリーを楽しめるわけです。

一冊で二つの味を堪能できる作品ということですね。

しかも舞台は孤島の館というクローズドサークルであり、これがより興味深く読ませてくれます!

ライトなノリでも濃密なミステリー

『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』は、風゛と豺の掛け合いも、魅力のひとつ。

なにしろこの二人、どちらもコテコテのミステリーマニアでありながらタイプが真逆なので、話が合うようで全く合わないのです。

風゛はとにかくマイペースなドジっ子で、館で身を潜めている時でさえベッドでまったり読書をしたりトイレに行ったりと、まるで緊張感がありません。

対して豺はミステリーのプロなので、偽装殺人も美しい完全犯罪に仕立てようとします。

それを風゛が、あれやこれやとやらかして、なし崩し的にダメにしていくという笑。

そのドタバタっぷりが面白いですし、二人の会話もいちいちズレていてまるで漫才のよう。

テンポも良く場面もポンポンと移り変わっていくので、勢いに乗って一気に読めます。

そういう意味では本書は、ライトノベルに近いノリですね。

でもミステリーの内容は濃密で、状況が二転三転する上ギミックが複雑なので、そう簡単には謎を解かせてもらえません。

途中で犯人の目星はつくのですが、ミスリードがありますし、動機がわかるのは最後の最後。

そのためライトな雰囲気の作品ではありますが、読み応えは十分!

ストーリーとしても、ユーモラスな流れのままではなく、終盤はとてもシリアスですし特にラストは感涙モノ!

読み終わった後は、風゛と豺の今後が気になってたまらなくなります。

今のところシリーズ化の予定はないようですが、ぜひ続編を発表してほしいです!

あの「館シリーズ」をリスペクト

『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』は、片岡 翔さんの初のミステリー作品です。

片岡 翔さんと言えば、国内映画祭で7種のグランプリに輝いた短編映画『くらげくん』の監督として知られています。

脚本家としても活躍されており、代表作に『ネメシス』や『消しゴムをくれた女子を好きになった。』があります。

その片岡 翔さんが初めて手掛けたミステリーが、本書なのです。

さすが映画監督、さすが脚本家、物語のテンポの良さといい、各キャラクターの際立つ個性といい、活字の世界でありながらとても「魅せる」作品だと思います。

状況の描写も色や香りなど五感に訴えかける表現が巧みに使われているため、シーンによっては読みながら映像が頭に自然に浮かんでくるほど。

推理小説は難しくて苦手という方でも、それこそ映画やドラマを楽しむように、サクサク読み進めることができます。

また本書には、ミステリー作家・綾辻行人さんの「館シリーズ」をリスペクトしている部分もあり、それも大きな特徴です。

クローズドサークルの設定がどこか「館シリーズ」を思わせますし、そもそも主人公の雇い主が、作中での「館シリーズ」の作家一族だったりします。

そのため『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』は、綾辻さんのファンの方にもおすすめです。

読んだことのない方も、この機会に両作品を読んでみるのも良いかもしれません。

館モノに魅せられ、どっぷりハマってしまうこと請け合いです!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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