【自作ショートショート No.64】『傲慢な女』

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「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?それはもちろん私だわ。うふ」

そうよ、私はこの世の誰よりも美しいの。

でもこの美貌を維持するには、もっともっとお金が必要。

ううん、お金だけじゃないわ。私に釣り合うステキな王子様も必要よね。

マリアはこの世に生を受けた時から誰よりも愛らしく、常に周りからチヤホヤされてきた。

幼い頃はただ笑うだけで、周りには人が集まってきたし、年頃になると今度は男たちが群がるようになっていった。

しかしそれが災いしてか、大人になったマリアは異常にプライドの高い傲慢な女性に育ってしまった。

やがて25歳になったマリアは、ある青年に目をつけた。

柔らかな銀髪に宝石のような青い目が特徴的なその美しい青年は、まさにマリアの理想だった。

ひときわ大きな豪邸にたった一人で住む彼なら、財産も申し分ない。

私には彼しかいないわ。彼をどうしても私の物にしたい。絶対に誰にも渡さない。

それからというものマリアは青年を手に入れるため、あらゆる手を尽くした。

偶然の出会いを演出するため、ボーイフレンドの一人に生活リズムを調べさせたり、探偵に資産を調査させたりといったことだ。

その甲斐あって、青年と恋仲になるまでにこぎつけた。

もちろん彼の前では、金に目が眩んだことなどおくびにも出さない。

おしとやかなレディーを完璧に演じきっていた。

一瞬こちらの方が本当の自分じゃないかと、マリア自身も錯覚しそうになるほどだった。

あとは既成事実を作ればいいだけ。そうすれば彼との結婚まであと一歩だわ。

どうしても彼の財産が欲しいマリアは、自分の魅力を駆使して、とうとう子供を身ごもることに成功したのだ。

「ねえ、私、妊娠したみたいなの」

「本当?」

「ええ、本当よ。私と結婚してくれるわよね」

「それは……」

「何よ、黙っちゃって。まさか結婚できないなんて言わないわよね」

「できないとは言わないけど、僕と本当に結婚するつもりなのか?」

「当たり前でしょ。お腹に子供もいるんだから責任取ってよ」

「本当にいいのか、僕で?」

「そう言ってるでしょ!そうと決まったらあなたの家族に早く私を紹介してちょうだい」

「いや、でも……」

「分かったわね。次の休みの日にあなたの故郷へ連れて行ってもらうわよ」

「仕方ない、分かったよ」

次の休日、彼の豪邸へとやってきたマリアが目にしたのは、これまで見たこともない立派な乗り物だった。

なんでもこの乗り物で青年の故郷へ連れて行ってくれるらしい。

それにしてもすごい乗り物ね、さすが金持ちは違うわ。

ところがその乗り物が出発した途端マリアは、おかしな感覚にとらわれた。

どう考えても空を飛んでいるのだ。いくら金持ちとは言え、まさか自家用ジェットで移動するとでもいうのだろうか。

「ねえ、空を飛んでるわよ。これ飛行機なの?」

「違うよ。これは宇宙船だ」

「えっ?宇宙船?一体どういうこと」

「僕の故郷は地球からはるか離れた惑星なんだよ」

「何言ってるの?冗談はやめて」

「僕は本気だよ。疑うなら外を見てみればいい。そろそろ宇宙空間のはずだから」

「ウソよね、やめてよ。どうしてこんなに外が暗いのよ、まだ昼間のはずよ、ねえ、どういうことなの」

「驚いた顔してどうしたの。君が故郷に連れて行けって言ったんだよ」

「そんな、これは悪い冗談よね」

「冗談でもなければ悪夢でもない。これは現実だ。これで信じてくれるかい?」

そう言ったかと思うとマリアの目の前で美しかった青年の姿がみるみる溶けていく。

「あなたいったい何なのよ」

「僕の正体はゼルダ星人だ。そしてこれから行くのはゼルダ星」

ここでマリアは気を失った。

次にマリアが気が付いた時、宇宙船はちょうどゼルダ星に降り立ったところだった。

目を開いたマリアを覗き込んでいたのは、異形の姿をした何か。

船内をいくら探してみても、銀髪に青い目をした美しい青年はもうどこにもいない。

その異形の何かに連れられて、宇宙船から降りたマリアを待っていたのは、さらに何十人もの異形の姿をした何かだった。

再び気を失いそうになるマリアに、声だけが青年のままの異形の何かが言う。

「これが僕の家族だよ。そしてこっちが僕らの結婚を知って駆け付けてきてくれた友達」

あまりの恐ろしさにマリアは声も出せなかった。

「いいかい?君が会いたいと言ったんだからね」

もはやマリアには首を横に振ることしかできなかった。

「お腹の子はどっちに似てるだろうね。僕に似てるといいな。君はどう思う?」

言われてマリアは思い出した。

そうだわ、私のお腹の中にはこいつの子がいるんだわ。

とっさに腹に手を当てたマリアの目に映ったのは、今にも腹を突き破って出てこようとしている我が子、いや、異形の姿だった。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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