【自作ショートショート No.44】 『見習い天使の失敗』

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エンゼはこれまでニ度の天使昇格試験に失敗した、落ちこぼれの見習い天使だ。

そして今回が三度目となる試験である。

次こそは絶対に合格してやると、勢い勇んではるばる人間たちの暮らす下界へとやってきたのだが——

「久しぶりの下界だなぁ。前に来たのはえっと、確か50年前だっけ?」

エンゼは懐かしそうに目を細めて人々を眺めた。

「相変わらず人間たちはみんな忙しそうだなぁ」

街を行き交う人々は、あっという間にエンゼの前を通り過ぎていく。

「うーん、誰にしようかな」

昇格試験に合格するには、一人の人間を選んで幸せにしなければならない。

そのためには大勢いる人間の中から、あまり幸せでない者を選ぶ必要がある。

前回エンゼは選ぶ人間を間違えて試験に落ちてしまったのだから。

「よーし、思いっきり不幸な人間を選んで幸せにしてやるぞ」

エンゼは人間たちの顔を注意深く観察していく。

「笑っているより泣いている方がいい。でも子供は選んじゃダメなんだ。だって子供はみんな泣き虫なんだもん」

かといって、表立って泣いている大人などそうそう見つかるものではない。

焦らず慎重に選ばなくちゃと自身に言い聞かせるエンゼ。

さっきよりさらに注意深く人間たちを見定めていく。

と、その時エンゼは先輩天使から聞いたある話を思い出した。

「確かお葬式って言ってたな。そこへ行けば泣いてる人間がいっぱいいるって話だ。よし行ってみよう」

こうしてエンゼは、街の一角で行われている葬儀会場へとやってきた。

「ほーう、こりゃ先輩の言った通りみんな暗い顔してるなぁ」

葬儀会場に天使とは縁起が良いのか悪いのか。

いずれにしても人間にエンゼの姿は見えないのだからまったくもって問題ない。

まさかこの場に天使がいるとは考えもしないだろう。

「おや、あそこに人一倍泣いてる人間がいるぞ」

エンゼが興味を持ったのは、喪主の青年だった。彼は人目もはばからずに号泣している。

「ちくしょう、父さんどうして死んじまったんだよ」

「ふーん、お父さんを亡くしちゃったのかぁ。寂しいだろうな、かわいそうに」

エンゼも釣られて涙ぐんでしまう。

「おっと、泣いてる場合じゃないや。もう少しあの青年を観察してみよう」

ニ度も試験に落ちたので、落ちこぼれのエンゼもさすがに慎重だ。

「突然事故で死んじまうなんてあんまりじゃないか。ううっ、父さんを返してくれよぅ」

青年のあまりの嘆き悲しみように、心を打たれるエンゼ。

「父さん、もう一度、生き返ってくれよぅ、ううっ」

「なんて親思いなんだ。ここで助けなきゃ天使の名がすたる。よし決めた、この青年を幸せにしてやろう」

その日の夜、青年が一人になるのを見計らってエンゼはこっそりと部屋に忍び込む。

「あぁ、父さんが死ぬ前に戻れたらなぁ。神様、もう一度お父さん生き返らせてくれよぉ」

一人になってもまだ悲しみに暮れる青年に、エンゼはゆっくりと姿を現した。

「ううっ……おわぁっ!な、なんだ」

「驚かないでください、私は天使です」

全身が光に包まれたその姿は神々しく、落ちこぼれとはいえさすが天使だ。

「天使だって?!」

青年は泣き腫らした顔でエンゼを見上げる。

「はい。信じられないかもしれませんが私は天使です。あなたの親を思う姿に心を打たれました。先ほどお父様が亡くなる前に戻りたいと言いましたね?」

「ああ、た、確かに言った」

「お父様が死ぬ前に時間を戻りたいのですか?」

「え?戻してくれるんですか?」

「はい。天使は嘘をつきません」

そう言ってエンゼは優しく微笑んだ。その微笑みに釣られたかのように青年の沈んだ表情も穏やかになる。

「ではお父様が亡くなる前まで時間を戻しましょう」

「本当ですか?本当に父は生き返るのですか?」

「もちろんですとも」

「や、やったー!これで父を……」

「頑張ってくださいね。未来は変えられますから」

エンゼは、父の事故を未然に防いだ青年が幸せになるであろう未来を思い描く。

「本当に未来は変えられるのですね?」

そう念を押す青年に、エンゼはもう一度優しく微笑んだ。

「明日の朝、あなたが目覚めた時には時間が戻っています。今日はゆっくり休んでください。それではあなたに幸せが訪れますように」

一人の青年を幸せにしたエンゼは、これで昇格試験は合格間違いなしだと、胸を張って天界へ戻った。

そして翌日、事故を防ぐために奮闘しているであろう青年の様子を見ようと、下界を見下ろした。

青年は何やら慌ただしく、1時間ごとに違う相手と会っては難しそうな書類に判を押している。

何をしてるんだろうと不思議に思ったエンゼは、その直後「あっ」と声をあげた。

「嘘っ?!」

そこには父親に多額の生命保険を掛ける青年の姿があった。

「あの青年、お父さんを助ける気ない……んだ……」

青年が時間を戻したかった本当の理由を知ったエンゼは、がっくりと肩を落とした。

そこに神様の声が響く。

『エンゼよ、昇格試験は不合格だ』

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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