吉田恭教『四面の阿修羅』- 凌辱、拷問、バラバラ殺人…何が人を阿修羅に変えたのか

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捜査一課の女性刑事・東條有紀は、晴海埠頭の付近で発見されたバラバラ殺人事件について調べていた。

遺体は成人男性のもので、全身が痛めつけられており、両手足と首は胴体から切断。

各部位は積み上げられ、頂上に首が据えられ、そこには「生ゴミ」と書いた張り紙があった。

人間の尊厳をこれ以上ないくらいに踏みにじった、極めて侮蔑的で猟奇的な状態だった。

加えて司法解剖によると、生きたまま切断が行われていたことが判明。

遺体だけでなく、殺し方まで徹底して悪意に満ちていたのだ。

東條は被害者の身元確認を急ぎ、事件の背景を探る。

そんな時、通信社の記者・工藤夏美から、ある有力な情報を得た。

バラバラにされた被害者は、二年前のOL惨殺事件で逮捕された男と関係があるらしい。

さらに、三年前の不幸な交通事故も関係していることがわかり―。

東條と工藤は手を組み、情報を共有しつつ事件の真相を追う。

目次

新キャラ・女性記者の工藤が登場

『四面の阿修羅』は、「槙野・東條シリーズ」の七作目に当たる作品です。

今作は女性刑事・東條がメインの物語となっており、探偵・槙野の出番は少なめ。

代わりに東條の相棒として、新キャラクター・工藤夏美が登場します。

工藤は共実通信に勤める女性記者で、上昇志向の強いタイプ。

他社に気兼ねしながら(他社の情報量とバランスを取りながら)記事を書かねばならないことにウンザリしており、独占スクープを連発したいと考えています。

芯のある強気なところが、「捜一の鉄仮面」と呼ばれる東條と合いそうですよね。

今作では二人が組むことで、過去作とは違った面白味を味わえます。

物語は、文京区で起こった交通事故で、母娘が病院に運び込まれるところから始まります。

母親の方は意識があったのですが、娘は心停止になり、医師の重森らが手を尽くしますが、残念な結果となってしまいます。

その後、都内のあちこちで残忍な殺人事件事件が起こります。

まずは北区、荒川河川敷でのOL惨殺事件。

次に、晴海埠頭でのバラバラ殺人事件。

これらは場所や殺害方法が異なっているため、別件のように思えます。

ところが東條と工藤が調べるにつれて、だんだんと共通点が見えてくるのです。

暴走族やヤクザ、病院関係者、医療ミスなど、いくつもの要素がどんどんシンクロしていくのですよね。

さらに、東條の姉が殺された事件も関わってきます。

これは、シリーズの最初の頃から未解決のままで、読者を長くやきもきさせてきた事件です。

その真相が、いよいよ今作で語られます。

複数の事件が、一体どう繋がっていくのか、ページが進むごとに読む手を止められなくなりますよ!

テーマは肥大した恨み

「槙野・東條シリーズ」と言えば、殺害方法のグロさが特徴のひとつですよね。

今作もかなり猟奇的でグログロで、期待を裏切りません。(苦手な方は要注意です)

たとえば、北区のOL殺害事件。

帰宅途中のOLが殺された事件ですが、単に命を奪われただけではありません。

暴行の末に全身を殴打され、さらに腹が膀胱まで切り裂かれているのです。

しかも司法解剖によると、傷に生体反応がありました。

つまりこのOLは、生きたまま腹を裂かれたわけですね。

その上河川敷に埋められて、たまたまホームレスが掘り返して発見したのが、2週間後。

遺体の状態と異臭…、想像するだけで恐ろしい……。

そして晴海埠頭でのバラバラ死体も、すごい状態です。

切断された胴体、両手足がご丁寧に積み上げられ、てっぺんには首。

その上で、頭に「生ゴミ」と書いた紙が貼ってあったのです。

こんなの、まるで見世物ですよね。

それも、とびっきり悪意に満ちた、悪趣味な……。

そして今作ではさらに、ある男による拷問シーンも描かれています。

これがもう、今までの猟奇殺人を上回るほどの迫力とグロさ!

たとえば、被害者を全裸で固定した状態で、指を一本ずつハンマーで砕いたり。

手足を紐できつく縛り、何ヶ月もかけてジワジワと壊死させたり。

毎日の食事は、被害者の体の部位。

ひとつずつ切り取っては、塩とオリーブオイルで味付けをして、無理やり食べさせるのです。

他にも様々拷問が「生きたまま」続けられ、そのえぐさといったらシリーズ中で最高レベル!

これほど猟奇的な殺し方をする犯人は、一体どんな心境だったのでしょうか。

とてつもなく大きな恨みがあったとしか思えないですよね。

実はこの「恨み」こそが、今作のテーマだったりします。

しかも複数の恨みが複雑に絡み合っており、それこそが今作最大の謎!

一体誰のどんな恨みが交錯しているのか、発端は何だったのか、ぜひ読み解いてみてください。

人は愛ゆえに残酷になる

今作は東條がメインということで、警察小説的な趣が強かったですね。

槙野の出番やオカルト要素は少なかったのですが、その分グロさはいつも以上のパワー!

猟奇的な物語に興味がある方には、かなり刺さる作品だと思います。

オカルト要素については、あえて言うなら「阿修羅」が該当するかもしれません。

タイトルにもある「阿修羅」ですが、仏教の逸話によると、もともとは天界の神だったそうです。

でも愛娘を力づくで奪われて、その恨みで悪鬼神になり、戦うようになったのだとか。

本書『四面の阿修羅』では、ある人物がまさに阿修羅のように恨みを増幅させていき、凶行に及ぶ様子が描かれています。

「人間、愛のためなら、こんなにも狂い、残酷になれるのか」と、読みながら驚愕すると同時にゾクリとしました。

愛って、いろんな意味で人間にとって大きな存在ですね。

そして今作にはもうひとつ、大きな要素があります。

東條の姉が殺された事件です。

これが関わってきたことで東條の心境には少なからず変化が訪れるのですが、それがシリーズの今後にどう影響してくるのか、非常に気になるところ。

節目となる作品ですので、シリーズファンの方はお見逃しなく!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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