鏡探偵事務所の若き調査員・早瀬未央が失踪した。
早瀬の母親から捜索を依頼された探偵の槙野は、彼女に関する恐るべき事実を聞かされる。
それによると早瀬は、19年前に日野市で起こった一家惨殺事件の生き残りらしい。
その後伯母に引き取られて成長し、研修医になったが、3年前に八王子で一家惨殺事件の犯人と思われる白骨死体が発見されたことをきっかけに、鏡探偵事務所で働き始めたそうだ。
彼女は事件について調べるために、探偵の世界に足を踏み入れたのだろうか。
だとすると今回の失踪も、彼女の凄惨な過去に関係しているのかもしれない。
槙野はさっそく捜索を開始し、まずは白骨死体が出たという民家の所有者である坂崎家を訪ねてみた。
ところがその矢先、坂崎家の主が何者かに毒殺されてしまう。
一体なぜ、このタイミングで…?
槙野は弁護士の高坂や捜査一課の東條と連携し、過去の事件を洗い直しつつ、早瀬の行方を追うが―。
ついに判明する早瀬の謎
『龍のはらわた』は、「槙野・東條シリーズ」の第八弾です。
ファンの方はお待ちかね、今回はついに早瀬絡みの物語!
早瀬と言えば、鏡探偵事務所の新入りで、槙野の相棒として頼もしく成長してきたものの、突如辞めてしまった謎多き美女。
シリーズ第六弾『MEMORY――螺旋の記憶』では、ラストで彼女が何やらヤバそうな状況に陥ったところで物語が終わってしまいました。
読者としては先が気になってしょうがなかったのですが、続く第七弾『四面の阿修羅』では残念ながら詳細が語られず。
それがいよいよ、今作で明らかになるのです。
内容はかなり濃密で、とことんドス黒くて、事件としての規模もシリーズ最高レベル!
待たされていた分だけ、大満足できる一冊となっています。
物語は、早瀬の幼少期から始まります。
小学三年生だった早瀬は、夜中に雷の音で目が覚めた時、家に侵入してきた複数の人間によって、両親と兄が殺されるところを目撃します。
咄嗟にクローゼットに隠れたおかげで助かったものの、この事件が彼女の人生に大きな影を落としたことは間違いありません。
その早瀬が、鏡探偵事務所を辞めた8ヶ月後、行方不明になってしまいます。
そこで、かつての相棒だった槙野と、早瀬に惚れ込んでいる弁護士の高坂、そして女刑事の東條とが捜索するというのが、今回の物語の大筋です。
早瀬はなぜ失踪したのか。どこへ行ったのか。無事でいるのか。
19年前の一家惨殺事件の犯人と目的は何なのか。
なぜ犯人らしき人物の白骨が、3年前に八王子の民家で発見されたのか。
その民家の持ち主が毒殺されたのはなぜなのか。
数々の謎が渦巻く中、物語は異様なおぞましさと胸糞の悪さを滲ませながら、予想外の方向へと広がっていきます。
潜む巨悪と、現れる神秘
今作で一番の見どころとなっているのは、一家惨殺事件に関わった不気味な一族です。
この一族は、特殊なドラッグの材料を集めるために暗躍しています。
そこから抽出されるのは最高の麻薬であり、若返り効果もあり、材料そのものを食らうことも可能です。
そしてその材料というのが、実は…。
ここはさすがにネタバレになるので伏せますが、もうとんでもなく恐ろしい事実が隠されています。
身震い必至、吐き気がもよおされるくらい、最低最悪のグログロな恐ろしさ!
そしてさらに恐ろしいことに、その一族が次々に殺されていきます。
序盤からゴロゴロと死んでいくのですが、物語が進むと、それがどうやら口封じらしいことがわかってきます。
つまり、この一族の上には黒幕がいるということですね。
これがまたかなり巨大な存在で、規模としては国際レベル。
失踪した早瀬を追っていたら、これほど大きな話になるなんて、ホントびっくりです。
このスケールの大きさも、今作の魅力ですね。
さらに終盤には、読者をもっと驚かせる展開が待っています。
シリーズの特徴のひとつであるオカルト要素が、終盤になってようやく出てくるのです。
それこそが、タイトルにもなっている「龍」です。
龍が一体どういう存在なのか、物語にどう絡んでくるのか、驚天動地のクライマックスを、ぜひお楽しみください!
いよいよ佳境か?ますます盛り上がる第八弾
吉田恭教さんの「槙野・東條シリーズ」は、今作『龍のはらわた』で8作目!
ここまで長く続いてきたことで、物語はいよいよ佳境に入ってきたような気がします。
その兆候が見られたのは前作『四面の阿修羅』からで、そちらでは東條の姉が殺された事件について、解決に向けて大きく一歩前進しました。
そして今作では、早瀬の謎が色々と判明しました。
医学生として頑張っていたはずの早瀬が、なぜ鏡探偵事務所に入ったのか。
せっかく実力がついてきたのに、なぜ急に辞めたのか。
彼女自身の生い立ちを含めた様々な部分が語られ、読者としては長年の謎が解けてスッキリできた部分が大きいと思います。
でも決して問題が解決したわけではないです。
今作存在が明るみになった巨大な組織を始め、真の闇がいよいよ見え始めた感じですね。
きっと物語は、ここから大きく盛り上がってくると思います。
次回作が、ますます楽しみになりますね!
盛り上がると言えば、今作では弁護士の高坂の活躍もすごいです。
もともと高坂は、貧乏な弁護士という面白味のあるキャラクターだったのですが、今作では早瀬への恋心も相まって、かなり目立った活躍をしていました。
もはや神がかっていると言えるレベル!恋って偉大ですね〜。
次回以降、高坂の思いがもっと報われてくれたらいいなと、こちらにも期待大です。
ということで、今作『龍のはらわた』は、いろんな部分で見どころの多い一冊でした。
シリーズファンの方は必読ですし、まだ読んだことのない方は、ぜひ1作目からチャレンジしてみてください。
ちょっぴりオカルトを含んだミステリーがお好きな方には、特におすすめです。