村崎 友『風琴密室』- 二度読み必至。犯人の名が明かされるとき、世界は一変する

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小学校5年生の夏、リョータの楽しかった日々は悲しすぎる終わりを迎えた。

好きになりかけていた女の子・雨ちゃんが転校し、兄・コーちゃんが川で溺死したからだ。

6年後、高校2年生になったリョータは、廃校となった母校で雨ちゃんと再会する。

戸惑いつつも、かつての同級生たちと一緒に再会を喜び、バーベキューで盛り上がるリョータ。

ところが台風と土砂崩れにより、皆で廃校に閉じ込められ、帰れなくなった。

やむなく一晩をそこで過ごすが、翌朝さらに恐ろしいことが起こった。

仲間の一人が、プールで死体になっていたのだ。

ノスタルジーと密室殺人とが交錯する、ミステリの傑作!

目次

輝いていた夏の日々が、急に…

『風琴密室』は、二段構えの密室トリックが描かれた本格ミステリーです。

といっても序盤は明るくて爽やか。

小学校5年生のリョータが、都会から引っ越してきた少女・雨ちゃんと出会い、楽しく過ごす日々が描かれています。

仲間たちと川で遊び、アジトを作り、蛍を追いかけて……という、まぶしくて甘酸っぱい幼少期の青春物語は、読み手をワクワクキュンキュンさせてくれますね。

ノスタルジーな雰囲気が好きな方には、顔が思わずニヤけてしまうくらいの素敵さです。

それが突然、本当に急に、ダークな雰囲気になります。

雨ちゃんがアメリカに引っ越すことになり、さらにリョータの兄コーちゃんが亡くなってしまうのです。

アメリカだなんて遠すぎますし、しかもコーちゃんの死は不可解で、密室状態のアジトから忽然と姿を消した上、なぜか川で死体となって発見されます。

楽しかった日々が一転してドロドロしてくる様子は恐ろしく、手に汗を握ります。

ここで物語は6年後に飛んで、リョータは高校2年生に。

アルバイトで廃校を片付けている時、なんと雨ちゃんと偶然再会。

すっかり綺麗になった雨ちゃんにちょっとドキドキしながら、仲間たちと一緒に盛り上がるリョータですが、ここでまた悲劇が起こります。

台風で土砂崩れが起こり、閉ざされた廃校に皆で閉じ込められ、しかもメンバーの一人がプールで死体となって発見されたのです。

密室状態だった校舎から姿を消した上、プールで死体となって発見される。

そう、兄コーちゃんが亡くなった時と、そっくりな状況ですよね。

偶然の事故なのか、それとも何者かの意志による事件なのか。

序盤が素敵ムードだっただけにショックが大きく、胸のザワザワが止まりません……!

巧みな罠に、二度読み必至

6年前と違い、成長したリョータは勇猛果敢に密室事件に挑み、謎を解こうとします。

しかしいくら廃校内を調べても、ヒントは出てきません。

それは読者も同じで、巻頭の校舎見取り図とにらめっこしながらウンウン推理しても、なかなか真相が見えてこない。

むしろ考えれば考えるほど、矛盾が出てくる感じです。

なぜかというと。

理由:強力なトリックがあるから。

盲点を突くトリックが、作者によって最初から用意されているのです。

そこに気付けていれば、謎解きの効率は全然違ったはずですが、気付けないので、ドツボにハマってウンウン唸り続けてしまうのですね。

そのくらい巧みな目くらましですし、だからこそタネ明かしのパートでは驚愕!

頑張って推理した分だけ見破れなかったことが悔しくなりますし、同時に「作者、やるなぁ!」と天晴れなトリックに拍手したくなります。

そして謎が解けた後は、きっと誰もがもう一度読み直したくなると思います。

真相を知った状態だと全貌がどのように見えるのか、確かめたくなるのです。

『風琴密室』は書店サイトの紹介文で「二度読み必至」と書かれていることが多いですが、本当にその通り。

読み返すことで真相がいかに巧妙に隠されていたかがわかり、それがこの物語の真の魅力を味わわせてくれます。

斬新な密室が推理へといざなう

『風琴密室』の作者・村崎 友さんは、密室トリックにこだわりのあるミステリー作家です。

過去にも『風の歌、星の口笛』や『夕暮れ密室』などの作品で様々なタイプの密室が登場しており、いずれもシチュエーションやトリックが目新しいです。

本書に出てくる二つの密室も、ひとつは田舎町の子供のアジト、もうひとつは土砂崩れで閉ざされた廃校と、やはり独特な場所やシチュエーションであり、読者はまずはここに心を惹きつけられます。

前者は、子供時代を思い出させるノスタルジックな雰囲気の中でいきなり密室事件が起こるので、ビックリさせられますし、後者は深夜の廃校で人が消えるというホラーよろしくの展開で、これまた心臓バクバク。

そして緊張感が高まりまくった状態で、密室の謎解きが始まるという流れになっています。

いやー、なんともニクい構成ですね!

読者は物語に没頭している以上後には引けず、結末を知りたいという欲求から、必死でトリックを暴こうと頑張ってしまいます。

ということで村崎 友さんは、読者を推理の世界にいざなうことに長けた作家であり、『風琴密室』は、読めば推理せずにはいられない吸引力抜群の作品と言えます。

また『風琴密室』には、密室トリックだけでなく、盗賊が使っていたという暗号も出てきて、これがまた面白い!

一文字一文字の間にラ行の音を入れるという暗号で、たとえば「犯人」なら「はらんにりん」、「密室」なら「みりっしりつる」となります。

6年前に死んだコーちゃんが多用しているのですが、これが事件を一層複雑化させるとともに、大きなヒントになっています。

これから読む方はぜひ注目してくださいね!

終盤にも大きなサプライズがあるので、そこでもぜひ作者の罠にはまって、盛大にギョッとしてください。

驚きこそがミステリーの醍醐味なんだと改めて思わさせてくれます。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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