『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』- 紙とプラモデルの専門知識で謎を追うミステリ

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紙の銘柄を鑑定する渡部の事務所に、なぜか浮気調査の依頼が来た。

依頼主の女性はどうやら「紙鑑定」を「神探偵」と間違えたらしい。

話を聞いてみると、浮気を疑っている理由は、彼氏が急にプラモデルに凝り始めたこと。

渡部は小遣い稼ぎのつもりで依頼を受け、彼氏が作ったという作品の写真を、プラモデル造形家・土生井に見せてみた。

土生井は作品の内容から、彼氏がイスラエルの女性と親しくしているのではないかと推測するが―。

紙の専門家と模型の専門家という異色のコンビが繰り広げる、奇想天外な事件簿!

目次

類を見ない謎解き

ミステリでは事件を追うのは探偵または警察が多いですが、本書『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』の主人公は、どちらでもありません。

主人公の渡部の職業は鑑定士、しかも紙専門だったりします。

和紙や洋紙のことはわかっても、事件や捜査には全くの無縁。

さらに相方の土生井はプラモデルの専門家であり、やはり捜査のスキルは皆無です。

この二人がひょんなことから事件に出会い、それぞれの専門分野を生かして解決していく物語が『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』です。

紙の専門家と模型の専門家だなんて異色コンビすぎて、まずはここに興味を惹かれます。

そして読めば読むほど、その興味がどんどん膨らんでいくのです。

探偵的なスキルを持っていない以上、二人は紙や模型における知識を武器に使うしかないわけで。

一枚の紙、あるいはジオラマ作品から、考えうるあらゆる情報を引っ張り出していくのですが、その過程がたまらなく面白い!

「え、こんなところから犯人像が推測できるの?」

など、類を見ない切り口に逐一ビックリしますし、感心させられます。

加えて、紙や模型における蘊蓄が随所に出てきて、これがまた興味深い。

たとえば艦船の模型では、アンテナ線に人の髪の毛を使ったりもするそうです。

こういった、読みながら思わず「へぇ~!」と言ってしまう豆知識が満載なので、ミステリーでありながらトリビア本のように楽しめます。

二件目の依頼が超深刻!

さて、渡部と土生井、二人の専門家は、どのような事件を解決するのでしょうか。

ひとつ目は浮気調査で「彼氏が急にプラモデルにハマり、どうも怪しい。

浮気の疑いがあるので調べてほしい」というもの。

プラモデル関連ということで、渡部は模型の専門家・土生井を訪ねて意見を求めます。

これが二人の出会いであり、以後は一緒に解決を目指すようになります。

つまり最初の事件は、二人のキャラクター紹介や出会いを描いたプロローグ的なものと言えます。

そのためかミステリーとしては軽めで、真相は土生井の洞察によってアッサリと明らかになります。

オチにはちょっとしたひねりがあって、クスッと笑わせてくれます。

そして次の事件は打って変わって深刻で、行方不明になった妹、義父による性的虐待、大量殺人計画、白骨化した遺体など、怖い要素がてんこもり。

しかも依頼主(姉)が家の模型を持っており、これがまた怖い!

家の中には銃器がたくさんあり、2体の人形が1体に突き付けるような構図で作られているのです。

さらに土生井の母親が亡くなったり、土生井自身も病気で吐血して倒れたりと、ヒヤヒヤする展開が続きます。

探偵でも一筋縄では行きそうにない難しい事件ですが、渡部も土生井も互いの専門分野を活用し、真相を暴いていきます。

特に土生井の洞察力は凄まじく、推理をどんどん的中させていく様子はカッコイイの一言!

渡部の方も、トランプ(これも紙の一種!)を巧みに操って攻撃したりと、惚れ惚れするような活躍を見せてくれます。

クライマックスで登場する渡部の元恋人・真理子も、めちゃめちゃカッコイイので注目です!

ランボルギーニからユンボまで乗りこなす、美人なお嬢様ですよ。

彼らによって、難事件がどのように決着するのか、ぜひご自身の目で確かめてみてください。

作者のこだわりが詰まった一冊

『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』の作者・歌田年さんは、大学卒業後から29年間、出版社勤めをされていたそうです。

さらに趣味はプラモデル作りで、プロモデラーとしても活躍されています。

つまり歌田年さんは紙と模型についての専門知識を持っており、そこから渡部と土生井のキャラクターを生み出したわけですね。

そして『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』を執筆し、第18回「このミステリーがすごい!」に応募したところ、見事に大賞を受賞。

念願の作者デビューを果たしました。

実はそれまで19年間も、作家を目指して応募を繰り返していたそうです。

そのため『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』は「今度こそデビューを!」という執念のもと、心血を注ぎ、自らの知識や経験まで注ぎ込んで書き上げた作品と言えます。

これだけこだわりがある作品ですから、装丁もすごい!

なんと約30ページごとに、紙の材質が変化するのです。真っ白だったりくすんでいたり、ツルッとしていたりザラッとしていたり、紙ごとの色合いや感触を楽しめるようになっています。

さらには、作中に出てくる「犯人について記した手書きのメモ」まで、いかにも実物っぽい紙で挟み込んであります。

さすが紙をこよなく愛する紙鑑定士の本ですね。

内容はもちろん装丁からも紙の魅力がたっぷりと伝わってきて、作品をより味わえることま違いなしです!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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