『短くて恐ろしいフィルの時代』- 国民が6人しかいない小国をめぐる奇想天外な物語

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あまりにも小さすぎる国・内ホーナー国と、周辺を取り囲む国・外ホーナー国には、様々な住人が暮らしている。

両国の中でも内ホーナー国にはわずか6人しか住んでおらず、その領土は「国民が1人しか入れないほどの広さ」だという。

自国の領土に入れない残り5人の住民は、外ホーナー国での侵入が許されている「一時滞在ゾーン」での滞在を許されていたが、ある日、内ホーナー国の領土はさらに縮小されてしまうことになる。

その後、領土の縮小がきっかけとなり、着実に領土問題へと発展する両国。

ますます肩身を狭めていく内ホーナー国の国民と、主人公フィルを中心とする外ホーナー国の関係性は、今後どのように変化していくのだろうか…….。

目次

奇妙な世界観と現実問題を絶妙に組み合わせた物語

この作品では、内ホーナー国と外ホーナー国の2国が主な舞台となって登場します。

その中でも、内ホーナー国はあまりにも小さな国であり、冒頭から奇妙な世界観に引き込まれてしまうことでしょう。

また、内ホーナー国と外ホーナー国で暮らす住民は、我々が想像する人類ではなくスクラップで作ったロボットのような「人類でない何者か」を象徴として描かれています。

こうした不気味なキャラクター描写がこまめに盛り込まれているため、まるで「おとぎ話」の世界に入ってしまったかのような感覚で、物語に没入することができます。

さらに、本作で描かれる登場人物は、様々な部品の集まりで構成された存在として解釈できますが、彼らには人間特有のエゴや欲望が宿っています。

その結果として両国の住民達の間には、領土問題や関係性悪化などの様々な問題が生じてしまうのです。

奇妙で不思議な世界観を残しつつも、人類が起こす様々な問題を取り入れている本作の物語は、私達を現実世界へ引き戻し人間の心の弱さや愚かさについて考えさせるきっかけに繋げてくれます。

人類の性質を忠実に再現したストーリー進行

本書の物語では、内ホーナー国の領土縮小がトリガーとなり、両国の領土争いへと発展していくことになりますが、それはあくまで始まりに過ぎません。

領土問題の過程で描かれるグロテスクかつリアリティのある背景描写によって、私達は人類の終わりなき欲深さを思い知らされることになります。

そんな欲望の象徴ともいえる外ホーナー国の独裁者・フィルは、内ホーナー国で暮らす国民の侵入を拒みます。

次第にフィルはエスカレートし、莫大な税金徴収や意思に反する国民の解体といった非道な行動へと移っていきます。

その様は、架空の物語でありながら、現実でも起こってしまうのではないかと錯覚してしまうほどです。

おとぎ話のような世界観に浸りながらも「独裁者がいつ現実世界を支配してもおかしくない」という危機感を肌で感じられるのは、この本の恐ろしいところであり、興味深いところでもあります。

人類が登場しないにもかかわらず、人類の本質をここまで忠実に再現したストーリー進行は、ぜひ注目しておきたい点といえるでしょう。

不思議な物語に感情移入したい方はもちろん、ユーモアに溢れた空間の中で突如現れるリアリティ満載の背景描写をじっくりと味わいたい方もぜひ読んでみてください。

ある国の抗争から描き出される奇想天外の物語

著者であるジョージ氏は1958年にアメリカのテキサス州に生まれ、『リンカーンとさまよえる霊魂たち』や『十二月の十日』など、数々の名作を生み出しています。

普段の何気ない日常を奇妙な世界観へと創り上げている彼の作品は、短編小説集でありながら、短時間で読者を物語へと誘う不思議な魅力を持っています。

現在では日本語に翻訳された作品も登場してきており、日本人の方でも気軽に手に取って読むことができるようになりました。

そんな数々の名作を持つベテラン作家が生み出したおとぎ話『短くて恐ろしいフィルの時代』は、「人類とは異なる生物が暮らす異世界上で、人類の本質を学べる」という、何とも想像しがたいストーリー進行が特徴的です。

現実では到底起こり得ないような世界観や抽象的な容姿をした登場人物の存在は、冒頭から読者を戸惑わせてしまうかもしれません。

しかしそのまま読み進めていくと、想像以上に軽快で理解しやすいストーリー展開に驚かされることでしょう。

というのも、物語の背景には、我々人類が犯しかねない領土侵略や独裁政治実現など、リアリティのある描写が多数盛り込まれており、どこか他人事とは思えない心境で読み進めていけるためです。

非日常的でユーモラスのある世界観を体感しながらも「人間の欲には終わりがない」という恐ろしさを度々痛感させられる本作は、「短時間でもじっくり楽しみたい」という方にぜひおすすめしたい1冊です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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