ユースケは、オカルト好きの小学六年生。
学級新聞でオカルト特集を組みたくて掲示係に立候補したところ、意外なメンバーと一緒に活動することになった。
一人目は、優等生のサツキ。
去年、従姉妹のマリ姉を何者かに殺され、残されたヒント「奥郷町の七不思議」から犯人を見つけるために、オカルト好きのユースケに近付いたのだ。
もう一人は、転校生のミナ。
一見物静かだが、実はかなりのミステリーマニアだった。
さっそく七不思議について調べ始める三人。
まずは噂のSトンネルに行ってみたところ、そこではマリ姉が殺さた前日に死亡事故が起こっていたことがわかった。
しかも亡くなったのは、マリ姉が通っていた大学の教授だったという。
マリ姉の死や七不思議と、何か関係があるのだろうか?
調査を進める三人は、やがてこの事件が町の古い歴史や謎の組織など、もっと深いものに関わりがあることに気付き―。
七不思議なのに六つしかない?
『でぃすぺる』は、ユースケをはじめとする小学六年生の三人組が、マリ姉の死の真相を追究しながら七不思議の謎を解いていくオカルト・ミステリーです。
小学生が主役ということで、一瞬ジュニアノベル的な印象を持ってしまいそうになりますが、実はかなり骨太の本格ミステリー。
怪異の気配を前面に出しつつ、様々な要素を絡ませて、なおかつあちこちに謎を散りばめてあるので、複雑で読み応えバッチリの一冊です!
たとえば、序盤のマリ姉の死の状況からして、不可解で謎だらけ。
マリ姉は町のお祭りの前日、グラウンドの真ん中で殺されていました。
降り積もった雪に足跡はなく、凶器も見当たらず、自殺の可能性もなさそう。
そして彼女がパソコンに遺した「奥郷町の七不思議」も奇妙で、七不思議と言うからには七つの怪談があるはずなのに、なぜか六つしかないのです。
・Sトンネルの同乗者
・永遠の命研究所
・三笹峠の首あり地蔵
・自殺ダムの子ども
・山姥村
・井戸の家
どれもよくある怪談のように見えますが、実は全然そのようなことはありません。
たとえばSトンネルは、マリ姉の亡くなる前日(つまり祭の二日前)に事故で死者が出ており、ただの怪談ではなく現実の死とリンクしており、キナ臭さ満点!
また七不思議以外にも、町の土着信仰や、魔女の家に住む老婆、町を裏から牛耳る組織などなど薄気味の悪い要素がどんどん絡んできて、ページを追うごとに物語はドロドロと深く重くなっていきます。
このように『でぃすぺる』は、ライトに見えて実はヘビーで、怖さと謎解きとを存分に楽しめる作品となっています。
子供ならではの活躍と危機が面白い
『でぃすぺる』は、怪異や謎だけでなく、ユースケたち三人組の関係性も魅力的。
三人ともタイプが全く違っていて、噛み合わない感じなのに、妙に噛み合っているところが面白いのです。
たとえばユースケは、謎をオカルティックに受け止めて推理するのですが、サツキはオカルトを真っ向から否定し、極めて現実的な推理を展開させます。
そしてミナは、二人の推理をミステリーマニアとしての客観的な分析から鋭くジャッジ。
そのディベートのようなやり取りがイキイキしていて楽しく、しかもアプローチが多角的だからこそ真相に着実に近づいていくので、見ていてワクワクが止まりません。
また、三人ともしっかりしているようで年相応なところがまた素敵です。
オカルトや殺人事件に怯えつつも、子供らしい好奇心や正義感の方が勝っているため、危ない橋でも興味津々で渡ろうとするのですよね。
最初は七不思議を追いながらの町探検のようなノリだったのに、徐々に殺人事件の真相に近付き、やがては町の暗部にまで足を踏み入れてしまいます。
このフットワークの軽さは子供ならではであり、読者をハラハラさせたりワクワクさせたりと、めいいっぱい翻弄してきます。
もちろん子供だからこそ、自由に動きづらい部分も多いです。
たとえば夜間の調査をしたいけど、夜遅くの外出は許可されなかったり、聞き込み調査をしたくても、喫茶店や居酒屋には入りにくかったり。
でもユースケたちは逞しくて、知恵を出し合い工夫を重ね、これらの障壁をどんどん突破していきます。
こういった不便さや試行錯誤もまた子供ならではであり、見ていてホッコリするやらハラハラするやら(笑)
このように『でぃすぺる』は、主人公たちが子供だからこそ、より楽しませてもらえる物語です。
彼らの活躍からも危機からも目が離せず、最後の1ページまで「面白い!」と感じながら読めますよ。
多彩な謎に目が釘付けになりっぱなし
『でぃすぺる』の作者・今村 昌弘さんは、一風変わったミステリーで知られる作家さんです。
デビュー作の『屍人荘の殺人』からして斬新で、すぐれた奇想から高く評価されました。
なんとデビュー作にして、このミス、週刊文春、本格ミステリ・ベスト10の第一位を総ナメして、前代未聞の三冠を達成したほど!
その他の作品も、予知能力や超人など様々なオモシロ要素が絡めてあり、いずれも変わり種としてのミステリーを堪能させてくれます。
そして今作『でぃすぺる』は、上でご紹介したように、オカルト要素をたっぷり盛り込んだ本格ミステリーとなっています。
実に今村さんらしいコンセプトなので、それだけでもう今村ワールドを愛するファンにはワクワクせずにはいられない一冊です。
しかも登場する謎が多種多様で、六つしかない七不思議とか、雪密室とか、それぞれに異なる面白味があるので、読みながら退屈することがありません。
そこにさらに、か弱くも逞しい子供たちまで絡んできて、知恵と勇気とを振り絞って健気に進んでいく姿を見せてくれるものだから、読者の目は釘付けになりっぱなし。
ラストもスッキリ爽快で、すこぶる心地よい読後感を味わえます。
ちょっぴり変わったミステリーを読みたい方、とりわけオカルトもミステリーも好きという方には、絶対におすすめです。
子供が活躍するジュブナイルな物語が好きという方も、ぜひ読んでみてください!