自作ショートショート– category –
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【自作ショートショートNo.73】『幸運をもたらす石』
エヌ氏は平凡なサラリーマンだった。 毎日毎日、満員電車に揺られてオフィスにたどり着き、惰性で仕事をする、そんな日々。出世はとうに諦めていた。 特に大きな夢や目標もなく、ただなんとなく日々を過ごしていたのだった。 そんなある日のこと、この日も... -
【自作ショートショートNo.73】『行列のできる男』
タカシは実に冴えない男だった。見た目も地味で、さっぱり印象に残らない。 当然のことながらモテるわけもなく、彼女もいなければ女友達もいない。それどころか同性の友達さえ数少ない。 おまけに何をするにも要領が悪く、仕事でもミスをしてばかり。上... -
【自作ショートショートNo.72】『娯楽依存症』
あるところにとても平和な国があった。 この国は働かなくても暮らしていくことができるくらい豊かだったので、国民たちはみんな毎日を楽しく遊んで暮らしていた。 子供はもちろんのこと、若者も老人もみんな仕事をしていないので、時間だけはたっぷりある... -
【自作ショートショートNo.71】『平和な薬』
「できたぞ!完成だ!」 とある街のはずれにある、モノで溢れた研究所の一室で、白衣を着た男が大きな声をあげた。 「この薬で、たくさんの人が幸せになるぞ。どこにも争いのない、平和な世界の完成だ!」 白衣の男は、長いあいだ人間の心理を研究していた... -
【自作ショートショートNo.70】『幸せの青い鳥』
人魚姫はバカだ、あんなにも美しい声を自ら捨ててしまうだなんて。 まんまと魔女の口車に乗せられ、脚と引き換えに声を失ってしまった哀れな人魚。 おまけにそこまでしても恋い焦がれた王子様は手に入れられず、海の泡となって消えてしまうのだ。こんなバ... -
【自作ショートショートNo.69】『悪魔より』
ソイツは紛れもなく僕の目の前にいる。 体は病人のように瘦せ細り、肌は青白いを通り越して黒と紫色の中間のような毒々しく不健康な色。 その様だけを見ると、まさしく病人のような有様だ。 だが、血走った赤い瞳に、どんなものでも八つ裂きにしてしまいそ... -
【自作ショートショートNo.68】『歪んだ愛』
大通りに面したオフィスビルの自動ドアが開き、女が現れた。 女はガードレールの切れ間で手を挙げた。タクシーが止まり、女を乗せて走り出す。 間違いない。今日で確実に女を仕留められる。俺は物陰から離れて目的地へ急ぐ。 今回の依頼主は冴えない中年の... -
【自作ショートショートNo.67】『犯罪のない国』
幼い頃に事故で両親を亡くしたエル氏は、ずっと孤独に生きてきた。 誰もがエル氏を見ると眉をひそめる。 それは醜い容姿ゆえのことだったが、誰からも相手にされず人を遠ざけているうちに、性格までひねくれてしまっていた。 容姿にも性格にも難があるとな... -
【自作ショートショートNo.66】『のっとる呪文』
冒険家のアドは古びた地図を頼りに森の中を進んでいた。 昼間だというのに、茂った木々に日光を遮られて辺りは薄暗い。 膝辺りまで伸びた草を踏み荒らしながら、ぐんぐん森の奥深くへと進んでいく。 時折、木の根に足を取られながらも、その足取りは力強い... -
【自作ショートショートNo.65】『平等な国』
この小さな国ではすべての国民が、そっくり同じ形の家に暮らしている。 違っているのは扉にでかでかと刻まれた番地だけ。 外観だけでは区別がつかないので、この番地で自分の帰る家を見分けているのだ。 幼い子供たちの間では、番地の数字を頼りに友達の家...