芦花公園『極楽に至る忌門』何もかもが手遅れ……。「仏」が求める生贄とは?

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大学生の隼人は、友人・匠の帰省に付き添って四国の山村にやって来た。

その村では人々が家族のような距離感で付き合っているそうだが、しかし匠に対しては違っていた。

誰もが匠を無視し、目を合わせようともしないのだ。

また匠の実家でも、奇妙な出来事が続いた。

「仏を近づけた」という、匠の祖母の謎の言葉。

それを聞いて顔色を変え、ふらりと家を出て行く匠。

わらべ歌のような不気味な声が聞こえてくる、不審な電話―。

怖くなった隼人は気分転換に風呂に入るが、風呂から出ると、さらに恐ろしい事が起こった。

匠の祖母が死んでいたのだ。

一体この家では、この村では、何が起こっているのか。

匠はどこに行ってしまったのか。

一人残された隼人は途方に暮れ、やがて村のおぞましい因習に巻き込まれていく。

目次

得体の知れない「仏」

『極楽に至る忌門』は、「仏」にまつわる土着信仰や因習を描いたホラー連作中短編集です。

三つの中編+エピローグという全四章の構成となっており、どれもものすごく恐ろしい!

各章のタイトルからして不気味で、『頷き仏』『泣き仏』『笑い仏』『外れ仏』と「仏」のオンパレードで、人知を超えた得体の知れない怖さがあります。

読み始めると、これまた予想通りというか想像以上というか、とにかく不気味!

タイトルを裏切らず、仏、仏、仏と、どの章も仏だらけで、「人がおいそれと触れてはいけない存在」という感じが凄いのです。

幽霊だったら話が通じなくもなさそうですが、この作品の「仏」は、もうそんな次元ではなく、読んでいるだけで祟られそうな気さえしてくるヤバさ!

しかも、詳しくは後述しますが、本書の仏がらみの因習は、とある「最強の拝み屋」でも止めることができなかったほどのレベルです。

あまりにも闇が深く、ページをめくるたびに気持ち悪さがまとわりついてくるので、読む際にはお覚悟を……。

各話のあらすじと見どころ

『頷き仏』

友人の実家がある村で、古い因習に巻き込まれた大学生の物語。

ただでさえ仏とか村八分とかドロドロした感じの村なのに、自分を連れてきた友人は失踪するし、おばあさんは不気味だしで、序盤から怖さでゾクゾクが止まりません。

しかも絶妙なタイミングで、電話が鳴るのですよ。

古めかしいピンク電話が、それはもうけたたましい音で鳴り続けて、出ると、受話器の向こうからは、不気味な歌が……。

うわぁ~、聞きたくない見たくない、でも読まずにいられないっ!

でもこれはまだまだ序の口で、その後物語はますます恐怖の展開に。

特に怖いのは葬儀で、まさか葬式の最中にあんな惨劇が始まるとは!

極めつけは、指、舌、目玉。

読みながら、これらが自分にはまだちゃんとついているか、心配になってきます……。

『泣き仏』

村を出て東京で働いていた女性が、祖母が亡くなったため村に戻ってきて、奇妙な体験をする物語です。

かつて村で不幸な亡くなり方をした少年の白昼夢を見たり、行方不明になった母が残した日記を見つけたり。

やがて彼女は、村に隠されていた恐ろしい真実を知ることになります。

この物語も古い因習絡みで、独特のドロドロ感がすごいです。

特に猿神信仰がインパクトがあって、不気味さで先を読むのがためらわれてしまったほど。

白昼夢の少年の記憶から真実を探っていくのですが、、なんだか開けてはいけない蓋を開けているようで、ギクギクしまくりでした。

『笑い仏』

先の二作とは雰囲気がガラリと変わって、こちらは小4男子が主人公。

夏休みに両親と祖父の家に行き、古いすごろくで遊んでいたところ、見知らぬ子どもが現れて、助けを求めてくるという物語です。

このすごろくが不気味で、マスには「大飢饉」とか「子捨て」とか不穏なワードばかり。

いかにも何か暗い歴史が隠されていそうですし、昔の村人は一体こんなものを何に使っていたのか、考えるだけで恐ろしくなります。

突然現れた子供も薄気味悪くて、笑顔を浮かべながら「たすけてえ」と叫ぶのですよ。

もう想像しただけで鳥肌モノです。

そしてクライマックスでは、怖さが絶頂になるとともに、ある真実から、悲しみも押し寄せてきます……。

最強の拝み屋でも止められない?

『極楽に至る忌門』は、角川ホラー文庫30周年記念として、作家の芦花公園さんによって書き下ろされた作品です。

芦花さんは、新世代ホラーの旗手として期待されている作家さんで、因習が絡んだおぞましい物語が大得意。

本作もまさにそのど真ん中を行く作品であり、石仏とか猿神とか生贄とか、ザ・因習とでも言うべき要素がてんこ盛りです。

それも、日本の田舎ではるか昔から、誰もが「ダメだ」とわかっていながらも抜け出せなくて、ずっとずっと続けられてきたようなタブーな因習です。

長い年月をかけて、土地にも人にもべったりと絡みついて、もう誰にもどうしようもない状態になってしまっています。

そのため、あの物部斉清でさえも、止めることができませんでした。

物部斉清とは、芦花さんの別作品である「佐々木事務所シリーズ」に登場する、最強の拝み屋。

ある事件で手足をもがれ、車椅子で活動している美形の霊能者で、シリーズ中で特に人気の高いキャラクターです。

『極楽に至る忌門』は「佐々木事務所シリーズ」ではないのですが、後半に彼がゲスト出演するのです。(ファンの方は必見!)

でもその物部斉清でさえ、この土地はどうしようもなくて、人々に「全部諦めて逃げてください」としか言えなかったという……。

さて一体どのような因習なのか、物部斉清はどう対処するのか。

古くて禍々しい雰囲気が好きな方にはたまらない作品だと思いますので、ぜひ読んでみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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