U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生し、犯人グループが逃走。
マリア・ソールズベリー警部と部下の九条漣は、犯人確保の応援のため州都フェニックス市に駆け付けた。
しかし真の目的は全く別で、連続殺人鬼・通称「ヴァンプドッグ」を追うことだった。
ヴァンプドッグは20年前、人を殺しては遺体の血液を吸うという凄惨な事件を繰り返し、世間を震撼させた。
その原因はどうやらある感染症の変異ウイルスにあるらしく、逮捕後は国立衛生研究所が身柄を拘束していたが、彼はまんまと脱走。
マリアと漣は、再度の悲劇を防ぐべく、秘密裏にヴァンプドッグを捕えに来たのだ。
ところがフェニックス市では、かつてと同じ形で次々に人が殺されていく。
さらには、現金輸送車を襲撃した犯人グループまで、潜伏していた隠れ家で殺害される。
これらは全てヴァンプドッグの仕業なのか、そしてこの異様な事件にマリアと漣はどう対峙するのか。
「マリア&連」シリーズ、待望の長編!
SFとサスペンスを混ぜ込んだ面白さ
『ヴァンプドッグは叫ばない』は、「マリア&連」シリーズの第五弾であり、長編としてはなんと5年ぶりの登場となります。
前作『ボーンヤードは語らない』は短編集でしたから、長編を待ちかねていたファンも多いのではないでしょうか。
久々の長編ということで、今作は物語のスケールも深みも格段にアップしています。
まず時間軸の幅が広く、20年前に事件を起こした殺人鬼ヴァンプドッグを追いつつ、現在の事件も調査していきます。
しかも原因と思われるのは未知の変異体ウイルスであり、SF的で得体の知れないところがまた面白い!
未知といっても、ベースとなっているウイルスは現実の世界にも存在する(むしろよく知られている)感染症のものなので、リアリティがあり興味をそそられます。
さらに被害者である現金輸送車襲撃の犯人グループは、隠れ家に潜伏している時、つまり外部との出入りのない密室状態の時に殺されます。
まずはリーダーが首元を抉られて死んでいるところを部下が発見し、「ヴァンプドッグの仕業か?」と怯えていたら次々に同じように殺されるのですが、これだけのことが密室内で短時間で起きているところが謎めいていますよね。
また、影からつけ狙われる恐怖はサスペンス的でもあり、ハラハラさせてくれます。
このように『ヴァンプドッグは叫ばない』は、SF要素とサスペンス要素とを含んだ豪華な本格ミステリーです。
そもそも「ヴァンプドッグ」という通称が良き!
「ヴァンパイア=吸血鬼」と「ドッグ=犬」とを組み合わせてあるところが不気味で、好奇心をくすぐります。
しかも感染症のウイルスが原因ですから、当然のごとく感染拡大の危険があるわけで。
ということは、「ヴァンプドッグが街中に増殖!」という可能性も考えられるのですよ。
コロナ禍で苦しんでいる我々にとっては決して絵空事ではなく、その危機感がさらなるスリルを生み出し、物語を一層ハラハラドキドキと読ませてくれます。
毎度のすったもんだも健在
設定があまりに面白くて、そこばかりご紹介してしまいましたが、『ヴァンプドッグは叫ばない』は、キャラクターたちの活躍や関係性も絶品です。
中でも特筆すべきは、やはり主人公のマリアと漣!
もともと「マリア&連」シリーズでは、この二人の掛け合いは面白味バツグンで、もはや名物と言えるほど。
ズボラだけど超絶美人の天才肌で、キレッキレの推理を披露してくれるマリアと、冷静沈着だけど皮肉屋で、いつもクールな上から目線で嫌味を言ってくる漣との絡みは、もうそれだけでファンを魅了し虜にするパワーがあります。
今作でも、やはりマリアがトンデモ推理をぶちかまし、漣が見下し気味にこっぴどく否定して、マリアがドカーンとキレてすったもんだ、という展開を楽しめますよ。
しかもこのすったもんだがあるからこそ、真相にどんどん近づいていけるという過程がまたたまらない!
「もうお腹いっぱい!」というくらい二人のいつもの調子を味わえますので、乞うご期待です。
さらに今作では、前作までのキャラクターも数多く登場します。
そのためちょっと人間関係が複雑な感じになっていますが、だからこそオールスターズ的な味わいがあり、読み応えが普段以上にアップ。
物語的にも、過去の四作全てが何らかの形で繋がっているので、一作目から読んできた方には懐かしいやら感慨深いやらで、より一層楽しんで読めると思います。
さらに、なんとなんと、マリアの過去に深く関わりがありそうな人物も登場します。
あけっぴろげなようでいて謎の多いマリアの過去を、垣間見ることができるかも!?
気になりすぎる終わり方
シリーズ第五弾となる『ヴァンプドッグは叫ばない』、いや~今回も実にワクワクさせてくれる作品でした。
変異ウイルスに冒された連続殺人鬼、感染拡大の危機など、めちゃめちゃ興味をそそられる設定に加え、サスペンスフルでスリル満点の密室殺人。
そして個性豊かなキャラクターたちと、読者が知りたくてたまらない事実を知っていそうな新キャラクターの登場。
どこをとっても興味津々で読める、とても魅力的な作品だと思います。
しかもラストの「引き」がまたすごくて、「え、ここで終わってしまうの?続きが気になりすぎるんだけど!」という終わり方なのですよ。
5年ぶりにようやく長編を読めたと思ったら、読了するや否や、もう次回作が読みたくてたまらなくなるという(笑)
ここからまた何年も待ちぼうけになるのは辛いので、作者の市川 憂人さんには、ぜひ全力投球で頑張っていただきたいです!
それまでは今作『ヴァンプドッグは叫ばない』を堪能し、ついでに前作までの四作も楽しみましょう。
今作のあちこちで過去四作のネタが出てくるので、必然的に読み返したくなると思います。
そして予備知識を十分に頭に入れた上で、次回作を待ちましょうね。
心より応援しております、市川憂人先生!