矢樹純『撮ってはいけない家』- いわくつきの旧家でホラーを撮影したら、取り返しのつかないことに…

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映像制作会社のディレクター・杉田は、モキュメントホラーの撮影のため、山梨県のとある集落にある旧家へと向かった。

そこは上司の再婚相手・白土紘子の実家で、江戸時代から続いており、古い因習があり、庭には蔵があり…とホラードラマの撮影にはおあつらえ向きだった。

ところが杉田とADの阿南には、気がかりがあった。

白土家には、12歳になる男子は死ぬか行方不明になるという因縁があり、ドラマはその設定をモデルとしていたのだ。

「本当にこの家を撮ってもいいのか―」

二人の懸念をよそに撮影は進み、そして待ち構えていたかのように不気味な現象が起こり始める。

やがて上司の息子・昂太が行方不明になってしまった。

昂太は確かに来月12歳になるが、再婚相手である白土紘子と直接的な血の繋がりはない。

にもかかわらず、なぜ…。

昂太を捜す中、白土家にまつわる恐ろしい過去がみるみる明らかになっていき―。

目次

おかしなことが多すぎる白土家

『撮ってはいけない家』は、いわくつきの旧家で撮影をしたことで、おぞましい因縁や事件に巻き込まれていく杉田たちスタッフを描いたホラー長編です。

撮影中には次々に奇妙な現象が起こるのですが、その一方で殺人事件も絡んでくるため、ホラーでありながらミステリー要素も強い作品となっています。

とはいえベースはホラーなので、冒頭から怖さ炸裂!

集落の旧家というだけでも怖いのに、因縁やら因習やらがあるし、よりによってそんなところでホラーを撮影するしで、読者をゾクゾクさせてくれます。

特に怖いのが、庭の蔵。

二階建てなのですが、天井の隅に四角く切った穴があるだけで、上に行く梯子や階段がないのですよ。

明らかに変なのに撮影を進め(すごい度胸…)、撮った映像を確認してみると、案の定気味の悪いことだらけ。

あるはずのない物音が入っていたり、真っ暗な二階に誰かが立っていたり。

しかもその影のバランスがおかしくて、やけに歪なのです。

その上、因縁通りに子供が行方不明になってしまうものだから、もう冷や汗ダラダラですよ。

「こんな場所で撮影したせいで、ホラーの設定が現実になったのでは!?」と思わずにいられません(泣)

さらに恐ろしいのが、鬼の鏡。

ものすごーく強力なパワーを持つ呪具なのですが、由来や製造の秘話が絶叫レベルの怖さ!

読んでいるこちらまで、残虐すぎて血の気が引いて、本を伏せたくなったくらいです。

こんな恐怖の中で、果たして撮影を進め、昂太を捜すことができるのでしょうか?

怖すぎるのに読まずにいられない

怖さの中にもミステリー要素があって、謎解きもしっかり楽しめるところが、本書の特徴です。

たとえば昂太が小さい頃から見ていた凶夢。

見知らぬ人々に囲まれて、箸で食べられてしまうという、薄気味悪い夢です。

この夢と昂太の失踪は、何か関係があるのでしょうか。

白土家がらみだとすると、父親の再婚相手が白土家の人間というだけで、なぜ昂太に降りかかってくるのか。

また昂太の父親の考えも謎です。

もうすぐ12歳になる昂太がいるのに、なぜよりによって12歳の男子に災いが起こる白土家と縁を結んだのか。

なぜそんな家で、わざわざモキュメンタリーホラーを撮影したのか。

こういった謎のひとつひとつがミステリー仕立てとなっており、読者は恐怖を感じながらも、謎解きをせずにはいられなくなります。

杉田のアシスタントの阿南がオカルト好きで、白土家の胡散臭い部分にどんどん首を突っ込んで、読者に次々にヒントをもたらしてくれるものだから、余計にです。

このヒントがまた怖くて、たとえば昭和時代の嬰児殺害事件。

こんなの明らかにヤバそうでおぞましいのですが、それでも白土家の因縁に関わっているかもしれないと、読者は恐々とページをめくってしまうのですよね。

どうかこの恐怖心と好奇心のせめぎ合いに打ち勝って、最後まで読んでください。

なぜなら本書の一番の見どころは、ラスト1ページだから。

全ての展開を確認した上でここにたどり着いた時こそ、この作品を真の意味で味わえると思います。

かなり怖いので、お覚悟を…。

デビュー10冊目の勝負作

『撮ってはいけない家』は、ミステリー作家・矢樹純さんの初の長編ホラーミステリーです。

デビューから数えてちょうど10冊目の作品だそうで、二重の意味で記念すべき作品と言えますね。

それもあってか、この作品、力の入り具合がすごい!

まず白土家の設定が、すごく深くて重いです。

旧家の因習、失踪や凶夢、蔵や呪具など、不穏な要素が勢ぞろいな上、長年の因縁や殺害事件まで絡んできて、ホラー好きやミステリー好きの心をくすぐります。

恐怖シーンの描写も、ひとつひとつが丁寧で、読み手の頭には常に映像が浮かんでくるくらいです。

特に鬼の鏡のくだりなんて、絶対に想像したくないのに、表現が巧み過ぎて超リアルに想像してしまい、何度も涙目になりました(泣)

なのにどうしても目が離せなくて、物語にどんどん引き込まれてしまうのですよね。

初の長編ホラーミステリーとは思えないくらいの、圧倒的なパワーがある作品です。

さらにキャラクター造形にも深みがあって、特に昂太を助けるために奔走する杉田と、飄々としていながらも頭脳明晰な阿南のバディは、好感が持てましたね。

ミステリーパートの活気や熱気は、この二人があったればこそ!

また、装丁にも力が入っています。

カバーにある蔵の写真だけでも雰囲気ありまくりなのに、ページをめくると唐突に出てくる白黒写真の不気味さといったら!

カバーそのものにも仕掛けがあるので、読み終えたら裏返してみてください。本気で肝が冷えますから!

このように『撮ってはいけない家』は、矢樹さんの勝負作と言わんばかりに気合の入った作品です。

怖すぎる読書体験をしてみたい方は、ぜひ読んでみてください。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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