高齢者用の高級住宅クーパーズ・チェイスには「木曜殺人クラブ」と呼ばれる集会があり、メンバーたちは過去に迷宮入りとなった未解決事件について、様々な推理や議論を楽しんでいた。
今回のテーマは、約10年前に起こった女性キャスター殺人事件。
地元ニュース番組で大人気だったキャスターが、深夜に車で崖から転落したという事件だ。
メンバーたちはめいめいに推理するが、どうにも不可解な点が多く、調査のために当時の関係者たちに話を聞いてまわることにする。
しかしそんな中、メンバーの一人であるエリザベスが、夫のスティーヴンと一緒に拉致されてしまう。
しかも元KGB大佐のヴィクトルを殺さなければ、仲間のジョイスを殺すと脅迫されて―。
もはや超人レベルのシニアたち
やって来ました、愛すべきシニア探偵たちによる、ドタバタミステリー第三弾!
メンバーたちは齢70をとっくに過ぎたリタイヤ組ですが、『逸れた銃弾』でも相変わらず元気いっぱいで、やはり難事件に首を突っ込んではハチャメチャに暴れまわり、豪快に解決していきます。
もともとパワフルな面々ですが、今作では前作をさらに上回る超人っぷりを拝めますよ。
元諜報員のエリザベスはスパイ大作戦ばりに奮闘しますし、元精神科医のイブラヒムは頭脳がますます冴え渡り、元労働運動家のロンは囮という危険な役で立ち回ります。
そして何より元看護士のジョイスがすごくて、彼女は一見ミーハーで、頭がお花畑のようなフワフワした感じなのに、裏ではえげつなさを炸裂させます。
特に暗殺者に対峙するシーンは、清々しいほどに容赦がなくて、拍手したくなるくらい笑。
このように4人とも「まだまだ若い者には負けないぞ!」という感じでめいいっぱい頑張ります。
その勢いたるや若者でも到底出せないレベルであり、彼らの方がよっぽどエネルギッシュでダイナミックです。
読みながらギョッとしたりハラハラしたりの連続で、年老いた彼らよりも読者の方が心臓が持たないかも?
恋も謎解きもまだまだ現役!
物語としては、約10年前に不審死を遂げた女性キャスターの謎を解くことがメインとなっています。
不審死というか、彼女はVAT詐欺事件という大掛かりな詐欺事件を調査している最中に、夜中に車で海に落ちました。
人気の絶頂にありながら大仕事の最中に亡くなるなんて、自殺や事故と考えるにはあまりに不自然ですよね。
そのため殺人ではないかと推測されていたのですが、捜査が進まず、未解決のまま10年が経過してしまいました。
それを「木曜殺人クラブ」の面々が、改めてほじくり返すわけです。
ところがエリザベスが拉致されてしまい、「ジョイスを殺されたくなかったら大佐を殺せ」と脅迫されます。
さらに例の詐欺事件やマネーロンダリングなどが絡んできて、事態はどんどん複雑に。
ピンチに次ぐピンチで、前作を上回る規模でのすったもんだを楽しませてもらえますよ。
その上、前作までは準レギュラーだったスティーヴンの活躍が増え、新キャラのヴィクトルまで加わるので、賑やかさが一層アップ。
おまけに登場人物たちの多くが恋愛モード(!)に入ってキャッキャッウフフと青春しちゃうものだから、ドタバタ感がものすごい笑。
ベースはミステリーですが、ユーモラスでハートフルなエンターテイメントとしても存分に楽しめます。
迫る老いが切なくも愛おしい
様々な面で前作を凌駕しており、これまでのシリーズを読んできた方であれば、一層楽しめること間違いなしの作品です!
前作までの流れがおおまかに説明されているので、はじめましての方でもスンナリ入っていけますし、わちゃわちゃ感が楽しくて、きっとすぐに大好きになると思います。
ただ今作は、ちょっぴり寂しい部分もあります。
メンバーたちは皆「老いてますます盛ん」な様子ではありますが、その反面、あちこちにガタが来ているようでもあるのです。
たとえばロンは足腰が随分と弱ってきて、スティーヴンは認知症が進み、大好きだったチェスさえもついにできなくなってしまいました。
どれだけ気持ちを若く保ち、溌溂と活動していても、老いは容赦なく襲ってきて、決して逃れることはできないのですよね。
全体的に活発なシーンが目立つからこそ、どうすることもできない現実に、読者は胸を抉られます。
そしてだからこそ、力いっぱい活動しているシーンに一層胸を打たれ、応援したくなるのです。
シニアたちが無茶苦茶に元気で、本来なら笑えるようなシーンでさえも、時にはホロリときてしまうことも。
こういったセンチメンタリズムもまた「木曜殺人クラブ」シリーズの醍醐味ですし、今作ではそれを特に強く感じることができます。
本当に、いつまでもハチャメチャでいてほしいと、読みながら祈らずにはいられなくなりますよ。
シリーズはまだまだ続くようですので、今後も元気な姿を見せてもらえることを期待しましょう。