【自作ショートショート No.30】 『神のきまぐれ』

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それは何の前触れもなく、突如、宇宙空間に現れた。

果てしなくどこまでも広がる宇宙にあって、あまりにも場違いなそれは、当初、帯状の何かに思われた。

広い宇宙にどこまでも伸びた帯状の何か、しかしよくよく観察してみると、それの両端はある地点でぶつりと途切れていた。

そう、それは巨大な、途方もないサイズの『棒』だったのだ。

実際、分かってみるとそれは棒以外の何物でもなかった。では、なぜ宇宙に突然、棒が現れたのだろうか。

最初に気づいたのは、天体観測が趣味の少年だった。

その夜も少年はいつものように、自宅の庭先から天体望遠鏡で星空を観測していた。

そして宇宙空間に浮かぶ棒を見つけたのだ。

これは大発見だと興奮した少年は、すぐに父親を呼んで望遠鏡を覗かせた。

しかし星になどまったく興味のない父親は棒を見ても、大あくびをしただけだった。

どうせ元から宇宙に存在していたものだろうと、少年の言葉を信じようとせず、室内へと戻っていった。

そこで少年は近所に住む、知り合いの天文学者のもとへ走った。

息を切らせながらやって来た少年の話を聞いた天文学者は、最初目の前の少年が自分を担いでいるのではないかと疑った。

が、少年から促され、半信半疑ながらも、自宅屋上に設置してある天体望遠鏡を覗いてみた。

少年のものより何倍も高性能のその望遠鏡から星空を見上げた天文学者は、息を飲んだ。

それから慌てて、政府管轄の宇宙管理局へと連絡を入れたのである。

こうして少年の発見は世界全土へと伝わっていった。

混乱を防ぐため、政府からの正式な発表はなされなかったが、何しろ望遠鏡を覗けば誰にでも棒は見えるのだ。

人から人へと棒の噂は伝わり、政府の配慮は全くの徒労に終わった。

各国首脳陣、そして宇宙の専門家たちは、棒の正体を突き止めようと躍起になった。

ある国の者が暗黒物質だと言えば、別の者が新惑星の発見だという。

またある国では某国の作った兵器じゃないかと、あわや戦争になりかけもした。

他にも宇宙ゴミに人工衛星、宇宙船など様々な説が出たが、どれも仮説の域を出ないまま、半年が過ぎた。

その間、人々はパニックに陥った。あるものは神に祈り、あるものはシェルターに逃げ込み、またあるものは自暴自棄になって犯罪に走った。

一方その頃、最初に棒を発見した少年は、じっと考え込んでいた。その棒が何かに似ていることに気づいたのである。

時を同じくして、各国の首脳陣たちにもどこかで見たことがある、見覚えがあると言い始める者が現れた。

いずれにしろ、その棒が地球を危機に陥れるようなことがあってはならない。

棒の発見当初は戦争を起こしかけた国もあったが、今や世界は一丸となって、その棒を見守り続けた。

しかし何も起こらない。ただその棒はずっと宇宙空間に浮かんでいるだけ。

それにつれて、徐々に人々のパニックも収まっていった。

こうして何も進展がないまま、二年の月日が流れた。

この頃、例の少年はまだ思い出せないでいた。その棒が何に似ているのかを。

そして二年とちょっとが過ぎた日のこと、突然、その棒が動き始めたのである。

固唾を呑んでその様子を見守る人々。

棒は、まず大きく真横にスライドした。次の瞬間にはその反動でか、逆方向へとさらに大きくスライドした。

それはまるで一度引かれて放たれた弓矢のような動きであった。

これから何かが起ころうとしているのだ。世界中の名だたる専門家たちは、地球の危機などそっちのけで、これから起ころうとしているその何事かに興味を持った。

各国首脳陣たちは、地球の危機に右往左往した。

ある国ではやっぱりあれは秘密裏に開発された兵器だったのだと慌て出し、別の国では新型ロケットじゃないかと騒ぎ出す。

そのまま何の対策も打てないまま、棒の動きを見守るほかない各国首脳陣。

やがてスライドした棒は水星に近づいたかと思うと、一瞬のちに棒の先っぽが、なんということか水星を突いたのである。

同時にカーンと澄んだ音が地球全体に鳴り響いた。巨大な棒に突かれた水星は、金星めがけて飛んでいく。

そしてそのまま金星に大きくぶつかってしまった。すると今度は金星がその衝撃で、地球に向かって跳ね飛ばされる。

ここへきてようやくその棒が何に似ているのかを思い出す首脳陣たち。

同様に例の少年も何かに気づいた。

「分かったぞ! あれはビリヤードのキューにそっくりなんだ!」

そう少年が大きく叫ぶ。

一方で宇宙の専門家たちは、それまで頭を悩ませてきたこの現象が、八つの太陽系惑星を玉に見立てたビリヤードであると結論付けた。

でもそれが分かったところで、もうどうにもならない。だって金星は地球に向かって来てるのだから。

人々は地球滅亡までの瞬間を、ただ呆然と見守るしかないのであった。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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