【自作ショートショート No.20】『願いの代償』

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ある男が魔神の出てくるランプを見つけた。

男が早速ランプを擦ると、モクモクと煙が立ち上って魔人が飛び出してきた。

「お前の願いを叶えてやろう」

出て来た魔人は男に向かってそう言った。

「叶えられる願いはいくつだ?」

「いくつでも構わない」

男は魔人の答えに驚いた。

「本当にいくつでもいいのか?」

こう言う場合、叶えられる願いは1つか、3つあれば御の字だからだ。

それなのにまさか、いくつでも構わないと言われるなんて。

信じられなかった男は、今一度魔人に向かって問いかけた。魔人はすぐに頷いた。

「ああ、構わない。時間さえくれれば何でも用意しよう」

だが、男はまだ疑っていた。

きっと何か落とし穴があるに違いないと思い、色々と問い詰めることにした。

「例えば、叶えた後に命を奪われるとか?」

「そんなことはしない」

「例えば、大金を支払わなければならないとか?」

「そんなこともしない」

魔人は首を振った。そして、とても訝しげな顔をして男を見たのだ。

今度は魔人が質問をする番だった。

「お前はランプの魔人の話を聞いたことはないのか?」

「ある」

「その魔人は願いを叶えた代償に、命を奪ったり大金を要求したりしたのか?」

男は首を横に振った。

「いや、何も要求はしなかった」

「ならばどうしてそんなことを聞く?」

「それはあくまで言い伝えや空想の話だ。果たして、現実にそんな都合のいい話があるのか?」

「お前は随分と慎重な男だな。だが、こんなことをしていてはいつまで経っても願いは叶わないぞ?」

確かに魔人の言うとおりであった。

色々なこと聞いたところで、それが真実かどうかは実際に試してみる他はない。

「ならば試しにひとつ、簡単な願いを言ってみよう」

仮に物を要求されるとしても、金を要求されるとしても、小さい願いならばその代償も小さいはずだ。男はそう考えた。

「では、食パンを出してくれ」

「そんな物でいいのか?」

「うむ」

「では少し時間を貰う」

魔人はそう言って姿を消した。そして男が退屈だと思うよりも早くに戻って来た。

「食パンだ」

そう言って差し出されたのは、確かに食パンであった。

「では先に食べてくれ。毒が入っていないとも限らない」

「本当に慎重だな。慎重過ぎて、大事なことを見落としそうな程だ」

「私は何も見落とさない。さぁ、食べてみてくれ」

「分かった」

魔人は自らが持ってきた食パンを躊躇なく食べた。男はじっと見ていたが、その姿に違和感はなかった。

そして、食パンを食べた後の魔人は変化なくそこに立っているだけだった。

「残りはお前のものだ」

「受け取ろう」

男は魔人から食パンを受け取った。それからしばらく、当たりを見回したり、自分の体を触ったりして何かおかしなことがないか確かめた。しかし、何も起こることはなかった。

「どうやら本当のようだ」

男はここで、魔人の言っていることが本当なのだと信じた。

「では、次の願いは何にする?」

「そうだなぁ。やはりまずは、お金だ。一生、食べるのに困らない程のお金を用意してくれ」

「分かった。では、少し時間を貰う」

魔人はまたしてもそう言って消えていった。食パンをとは違い大金ともなると、それなりに時間が掛かるかもしれない。

男はそんな風に思ったが、魔人は先程とさほど変わらない時間で戻ってきた。

「これだけあれば、一生食べるには困らないだろう」

魔人は両手いっぱいに何かを抱えていた。それは眩しい程に光り輝く、金塊であった。

「何と凄い。これだけあれば、食べるに困らないどころか一生遊んで暮らせるぞ」

「全てお前のものだ」

「ありがたく受け取ろう」

男は金塊を受け取った。もはや、何の躊躇もなかった。

「次の願いはどうする?」

「次は家が欲しい。とても豪華な家だ」

「分かった、時間を貰う」

魔人が消える。流石に、家を建てるとなると物を持ってくることは訳が違う。

そこそこの時間が掛かるだろうかと思った男であったが、魔人は男がそんなことを考えている間に戻って来た。

「これが家の鍵、そしてその家の写真だ。お前のものだ」

「受け取ろう」

魔人が差し出した写真には、まるで王様が住む城のような家が写っていた。男はすぐにそれを受け取った。

お金もある、家もある、今後の人生は何不自由なく暮らしていける。

しかも、この魔人がいれはまこれからも望むものは何でも手に入る。

男はこれ以上ない程に歓喜していた。

「では、次に要求する願いだが…」

「もう願いは叶えられない」

男がすぐさま次の願いを言おうしたところで、魔人が言葉を遮った。

「願いはいくつでも構わないと言ったではないか!騙したのか?」

「誰が騙すものか。願いはいくつでも叶えられる」

「ならばどうして、叶えられないのだ!」

男は怒り、声を荒げた。

しかし魔人は至極冷静に、こう述べたのだ。

「だが、お前にはもう時間がない」

男は首を傾げた。

「どういうことだ?」

「私は最初に言った筈だ。願いを叶える為に時間を貰う、と」

確かに魔人はそう言っていた。

そして、願いを叶える度に「時間を貰う」と言い、どこかへ消えていった。だが魔人は、すぐに戻って来た。

それを思い出して、男はハッとした。

「それは、お前の時間を貰うということだ」

「そ、そんな……」

男は途端に真っ青になった。

「お前は慎重すぎて、大事なことを見落としていたな」

魔人はそう言うと、とても嬉しそうな顔をした。

男にはもう、願いを叶える程の時間がなくなってしまった。それはつまり……。

「なんてことだ」

男はその言葉を最後に、息絶えた。

(了)

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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