料理好きの葉月が包丁を研いでいるところに、元カレが訪ねてきた。
元カレは数年前に葉月の友人・加奈に手を出し、そのせいで別れることになったのだが、にもかかかわらず今更ヨリを戻したいと言ってきたのだ。
ところがそれは口実で、実は元カレはお金に困っており、葉月の財布を盗もうとしていたことが発覚。
葉月は怒りから、咄嗟にシチューボウルで元カレの頭を殴ってしまい……。
その後、包丁を新しく買ってきた葉月のもとに、今度は加奈が訪ねてくる。
加奈の図々しさに押され、やむなく泊めることになったが、葉月はある事情から、加奈がバスルームに入ることだけは決して許さなかった。
さらにその翌日、葉月のもとに警察官がやって来て―。
真相は最後のページだけが知っている。
どんでん返しが豪快にキマる、ミステリー短編集全5編!
ここまで凄いどんでん返しは見たことがない
『最後のページをめくるまで』は、タイトル通り最後の1ページになるまでオチがわからないというミステリー短編集です。
言い換えれば、それまで信じていたことが、最後の最後になって突然ひっくり返されるということ。
いわゆる「どんでん返し」ですが、『最後のページをめくるまで』では、これがものすごく見事にキマるのです。
読者は読みながら「この人が怪しいな」「こういうトリックだろうな」など推測するのですが、ラストでそれらが木っ端みじんに打ち砕かれ、グゥの音も出ない完璧な真相を突き付けられます。
「うわ、マジで!?」と、つい目を疑ってしまうのですが、思い返してみると伏線となっていた部分がいくつもあって、脱帽するしかなくなります。
これほどまでに切れ味バツグンのどんでん返しは、他にお目にかかったことがないくらい!
『最後のページをめくるまで』には、このクオリティの短編が全5編収録されています。
いずれも最後に度肝を抜かれ、「やられた~!」という心地よい敗北感で読み終えることができます。
◎各話のあらすじと見どころ
『使い勝手のいい女』
他人に便利に使われてしまう女性・葉月のもとに、お金目当ての元カレと、元カレを奪った友人とが訪ねてきます。
彼らの図々しさに押されて、なんだかんだと言いなりになってしまう葉月。
でも実は彼らに対して、とんでもない報復をたくらんでいるのかも……?
途中から葉月が明らかに挙動不審になって、何かを隠している様子なので、読んでいる読者までハラハラ!
さて、その真相は……?
『骨になったら』
妻を亡くした公人は、妻の亡骸が骨になることを心待ちにしていました。
妻に骨になってほしいだなんて相当異常な考えなので、まずはそこにドキドキさせられます。
一体どんな事情があるのでしょう?
でももっとドキッとさせられるのは、葬儀が終わり、妻が骨になってから。
予想もしなかった展開が待ち構えています。
『わずかばかりの犠牲』
学費を稼ぐために、詐欺グループの手伝いをしていた涼。
老人を騙してお金を巻き上げることに罪悪感を感じていた時、まさに詐欺に遭いそうになっていた老人・筒井を助けてしまいます。
これにより涼は、詐欺グループから命を狙われることになるのですが……。
二転三転する目まぐるしい展開が面白い!
タイトルの意味が最後にわかり、納得すると同時に戦慄します。
『監督不行き届き』
夫婦円満だと思っていたら、夫が不倫していたことが発覚。
妻である満智は、不倫相手から「あなたの旦那さんと結婚します」と宣言されるのですが、その矢先に夫が行方不明に。
不倫相手も行き先を知らないみたいで……?
これも、最後の最後でタイトルの意味が分かります。
さて、誰に対する監督が行き届いていなかったのでしょうか?
『復讐は神に任せよ』
轢き逃げによって息子を亡くした新里。
捕まった犯人が、資産家の家で働く使用人だったため、「もしやその資産家こそが犯人で、使用人は身代わりなのでは?」と思い、独自に調べ始めます。
やがて真の犯人を突き止めた新里は……。
終盤、新里がいよいよ真犯人に復讐する時になって、物語は一気に反転!
真犯人に手を下すのは誰なのか、そもそも誰が誰に復讐をするのか、全てがひっくり返されます。
個人的には5編の中で最も驚愕したラストでした。
青天の霹靂的どんでん返し
『最後のページをめくるまで』の作者・水生 大海さんは、もともとは漫画家としてデビューしていたミステリー作家です。
さすが元漫画家、インパクトある見せ方が抜群に上手で、丁寧な描写によるストーリー展開で読者をしっかり引き込み、たっぷりとハラハラドキドキさせておいてから、いきなりドカンッ、とオチを持ってきます。
しかも事前に、読者の思考をオチとは全く違う方向へと巧みに誘導しておくものだから、突然すぎる想定外のオチに、読者は青天の霹靂的にビックリ!
たとえるなら、漫画の次のページに、突然見開きでバーンと衝撃的な絵が出てきたような感じです。
それでいて、とってつけたようなオチではなく、完璧な説明がつくところが、また凄い。
まさに漫画家とミステリー作家としてのスキルをふんだんに使った力作だと思いました。
加えて『最後のページをめくるまで』は、短編集ではありますが、それぞれの物語にボリューム感があります。
ページ数としては各話数十ページなのですが、舞台設定や人物の背景がしっかりしているため、ドラマとして深みがあり、中編かそれ以上の読み応えがあるのです。
面白いので、どの話も一気に読んでしまうものの、読了後にはミステリーの中編か長編をガッツリと読んだ時のような満足感が得られますよ。
それを5編も楽しめるのですから、とってもお得な一冊と言えます。
どんでん返しが好きな方、サラッと読みながらも濃厚なミステリーを楽しみたい方には、特におすすめです!