『8つの完璧な殺人』- 古典ミステリーの手口を模倣したかのような連続殺人事件

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ミステリー専門書店を営むマルコムのもとに、FBIの女性捜査官グウェンがやって来た。

10年前にマルコムがブログで紹介した、巧妙かつ成功確実な殺人を描いた犯罪小説を8作品と、似た手口の連続殺人事件が起こっているという。

グウェンは、犯人がマルコムのブログを参考に殺人を犯しているのかもしれないと考え、事件解決の糸口を掴むために協力を要請しに来たのだ。

マルコムは犯人に心当たりはないものの、何かの役に立てるならと承諾。

しかし実はマルコムには、グウェンにはあえて言わなかった情報があった。

被害者の一人が、かつてマルコムの店に来ては迷惑行為を働いていた常連客だったのだ。

この他にもマルコムには、決して人には言えないような後ろ暗い秘密があり―。

謎の多い語り手がFBIも読者も惑わせる、予測不能なミステリー!

目次

世界的に有名なミステリーのオマージュ

『8つの完璧な殺人』は、ミステリー専門の書店を営むほどのミステリーマニアのマルコムが、連続殺人事件の犯人探しをする物語です。

どうやら犯人は、マルコムがリストアップした8つの犯罪小説をもとに人を殺して回っているらしいのですが、この8作品がまず魅力。

なんと全て実在の作品であり、しかもクリスティ作品を始めとした名作中の名作ミステリーなのです!

『赤い館の秘密』 A・A・ミルン
『殺意』 フランシス・アイルズ
『ABC殺人事件』 アガサ・クリスティ
『殺人保険』 ジェイムズ・M・ケイン
『見知らぬ乗客』 パトリシア・ハイスミス
『溺殺者』 ジョン・D・マクドナルド
『死の罠』 アイラ・レヴィン
『シークレット・ヒストリー』 ドナ・タート

以上の8作品ですが、いずれも世界中のミステリーマニアを魅了してきた大傑作であり、かつ「もっとも利口で巧妙で、成功確実な殺人」が登場する作品でもあります。

マルコムもそこに魅了され、これらをブログで紹介したところ、それを模倣したかのような殺人事件が連続して起こってしまったわけですね。

もうこの設定からして、ミステリー好きをたまらなくワクワクさせてくれます!

世界的に有名なミステリー作品ネタがふんだんに詰まっていることも、「絶対成功する殺人」も、それを模倣する連続殺人事件も、ミステリー好きにとってはまさにご馳走!

加えて、マルコムの絶妙な秘密主義ですよ。

この主人公、FBIには素知らぬ顔で捜査協力をすると言っておきながら、実は脛に大きな傷を持つ身です。

早い話が、やましいことありまくりの、相当なタヌキなのです。

マルコムは一体どんな秘密を隠しているのか、そして8つの傑作ミステリーとの関係は?

全く予測できない展開の連続に、目が釘付けになりっぱなしです。

悲しみと怪しさが表裏一体

『8つの完璧な殺人』は、古典ミステリーのオマージュ的要素の強い作品ですが、その反面、胸を突くヒューマンドラマ的要素もあります。

たとえば主人公マルコムが抱えているのは、やましさだけではありません。

彼は深い傷も抱えており、たとえば数年前に妻を辛すぎる形で亡くしたり、好きだったミステリーもあまり読まなくなったりで、日々孤独に苛まれているのです。

秘密だらけの胡散臭い語り手ではありますが、あまりに寂しげな様子は、読者の同情心を誘います。

またマルコム以外にも、FBIのグウェンや、元警官のマーティ、大学教授のプルイット、作家のブライアンやその妻テスなど、各登場人物が深い悩みや悲しみを背負っています。

それらが少しずつ交差して、思いもよらない形で悲劇を招いていく展開は、非常にドラマチック。

読みながら「なんて悲しい生き方なのだろう」としんみりしてしまうシーンも多いです。

と言っても、マルコムは基本はタヌキな人であり、色々と怪しい行動をとるので(特に中盤からが怪しさフルスロットル!)、読者的には彼も立派な犯人候補となります。

他の人物にもそれぞれに怪しい部分があって、だんだんと犯人に見えてくるのですよね。

皆が皆、心の闇を持っているがゆえに、悲しそうにも怪しくも見えるわけですが、そこに読者は惑わされます。

この犯人候補がゾロゾロいるところも、『8つの完璧な殺人』の見どころですね。

真犯人が見えてくるのは、終盤になってから。

意外すぎて、そのページを二度見や三度見せずにはいられないほどビックリします!

この衝撃、ぜひ味わってください!

毛色が違うからこそ面白い

『8つの完璧な殺人』は、ピーター・スワンソンさんの作品の中ではレアな部類に入ります。

スワンソン作品と言えば、『そしてミランダを殺す』、『ケイトが恐れるすべて』、『だからダスティンは死んだ』などなど、タイトルに人物の名前が入っていることで知られていますが、本書にはありません。

また作風も、過去作では人間の歪みが根本にあることが多かったのですが、本書は古典ミステリーのオマージュ的な印象が強いです。

そのため今までのスワンソン作品を読んでらした方は、本書のタイトルやあらすじを見て、「何だか毛色が違うなあ」と感じるかもしれません。

しかししばらく読み進めると、スワンソン作品らしさがどんどん見えてきます。

そこかしこにスワンソンさんお得意の歪んだ人間性が出てきますし、登場人物がことごとく胡散臭いところもお家芸ですし、読めば読むほどスワンソン作品らしさを味わえるんです。

毛色が違うのは確かですが、だからこそ「らしさ」が見えた時にはとても嬉しい気分にさせてくれる、ファンを裏切らない作品だと思います。

スワンソン作品をご存じない方がまずは軽く雰囲気を味わうためにも、おすすめですね。

ただひとつ注意点があって、作中で紹介されている古典ミステリーで、一部ネタバレが行われています。

特にアガサ・クリスティ著『ABC殺人事件』のネタバレが顕著なので、まだ読んでいない方は、そちらを先に読んだ方が良いかもしれません。

そうすることで本書をより一層楽しめますし、古典ミステリーへの造詣も深まるので、一石二鳥です!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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